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「ソニー VS.サムスン」に思う

週末読んだ本2冊目。 こちらの方が読む人を選ぶ気がするけど、池田信夫 blogで知り、(もう辞めて6年も経つので公開するが)ソニーは私の古巣なので読んだ『ソニー VS.サムスン』
私がいたのは、2001年から2003年という短い期間。 新卒入社した商社が経営危機に陥ったのでソニーに転職し(→こちらに書いた)、ソニーはMBA留学という私事都合による長期休職を認めていなかったので、(長期的にはMBA留学の方が重要だったため)辞めたくなかったが辞めた、という超個人的な経緯であり、その頃は電機業界やソニーという会社としての長期トレンドなど考えていませんでした。 が、マクロで見ると、2000年に時価総額ピークを迎えた後、2003年4月に巨大営業赤字を発表した途端、株価が暴落した「ソニー・ショック」までの下り坂の中にいたようです(中にいるとそんなことはあまりわからないものです、しかもヒラ社員には)。
世には数々のソニー本、サムスン本が出ていますが、学者である著者の緻密な分析が光り、組織や企業文化にまで踏み込んだオールラウンドでバランスの取れた良書(かなり細かいので電機業界に詳しくないと読むのが辛いかもしれない)。 個別の企業の分析としても優れているし、こちらで紹介した『ガラパゴス化する日本の製造業』的な読み方もできます。

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「しがみつかない生き方」ねえ・・・

日本は5連休だったようですが、シンガポールは3連休で、本が3冊読めて満足な週末。
1冊目は精神科医 香山リカさんの『しがみつかない生き方』。 『勝間和代を目指さない』という帯に飛びついた人が多いらしいですが、ちょっと前に読んだ『ぷちナショナリズム症候群』が興味深かったので読んでみました(それにしても、『しがみつかない生き方』が、中で批判していた勝間和代さんの『断る力』の横に平積みされていたのは紀伊国屋シンガポール店が気をきかせたのだろうか?)。
彼女の持論は精神科医という自らの経験に根ざしたものが多く、そのちょっと厭世的な考え方のすべてに賛成できるという訳ではないのですが、昨日書いたイギリス人医師の話もそうであるように、とにかく違うところを見ている人の話は面白い。
個人的にタイムリーだったのが、

同時多発テロと小泉改革以降「人間の狭量化」が進んだ。

として、イラクで人質になった若者を「自己責任」とバッシングする風潮を

寛容さを失い狭い範囲でしか物事を考えられなくなってきている。 自分とは少しでも違う行動をする人たちの心を想像し理解することができなくなっているのではないか?

としている箇所。

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ホームシックが悪化する本、"LIFE"

大学卒業して実家を出て以来、毎年お盆になるとホームシックになります。
ホームシックの一番の解決法は「家に帰っちゃうこと」なんですが、夏休みはいつ取ってもいい会社に勤めていたため、お盆の旅費の高さと移動人口の多さにめげて一回も帰ったことはありません。 いつもより静かなオフィス、空いている電車でお盆を感じながら、会社でパソコン画面を見ながらうじうじとホームシックになる、というのが毎年のパターン。
今年もパソコンの画面を見ながらうじうじしていたのは一緒だったのですが、ホームシックを悪化させる究極のレシピ本を紀伊国屋で発見、『LIFE なんでもない日、おめでとう!のごはん。』。 この本、罪です・・・
kamome_breakfast.jpg『かもめ食堂』という一部のファンの間でカルト的人気を保つ映画に出てくるあまりにも美味しそうなご飯を作っていたフードスタイリストの飯島奈美さんが出した本。
(←)こんな悩殺ものの朝ご飯作る人です(『ほぼ日刊イトイ新聞』より)。
「おとうさんのナポリタン」、「うんどうかいの、おべんとう」、「ちいさなお祝いの日の、ちらしずし」などネーミングが秀逸で、見るだけで昔むかしにタイムトリップしたような錯覚を起こす、ノスタルジーを掻き立てる写真が並んでいます(この写真も罪)。
必ずしも全部のレシピが家で食べてた味ってわけでもないのに不思議だなー・・・

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夫婦喧嘩しても読むべき(?)"Skinny Bitch"

アメリカでベストセラーになっていた時からその存在は知っていたのですが、私がよく読むブロガーが続けて2人書いていたので(こちらこちら)、ついに手を出してみた、『スキニービッチ 世界最新最強! オーガニックダイエット』(夫が読むことを期待して原書を買いました)。
ダイエット本というより、Vegan(動物の肉(鳥肉・魚肉・その他の魚介類)と卵・乳製品を食べない人)の強烈なお勧め(脅迫)本。
私は、日本にマクロビオティックがあまり知られていなかった頃からクロワッサンという地味な雑誌(笑)のマクロビオティックレシピを見ながら自炊してたこともあるので、その内容のほとんどは特別耳新しいことはありませんでした(その類の本を読んだことがない人は一読お勧めします、全然知らない人には結構な衝撃の内容かと)。 が、記憶がリフレッシュされビッチの語り口に軽く(かなり)影響された私が、週末の朝、本の内容について夫に話してみたところ、「あんたはやっぱりミルク飲み過ぎだ」「いや、ミルクほどカルシウムが取れる食品はないんだ」と軽い口論になった・・・ うーむ、やっぱり・・・
私の過去10年は住む場所がころころ変わりそのたびに手に入る食材も変わり、自分の気(ポリシー)も変わり、”You are what you eat”を体を張って実践してきた10年でした。

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『そんな彼なら捨てちゃえば?』?

こう見えても私、ラブコメ好きです。
しかーし、この邦題では一瞬同じ映画だとはわからなかった、『そんな彼なら捨てちゃえば?』
原題は”He’s just not that into you”です。 つまり直訳は「彼はあなたに気がないだけ」。
30も過ぎると誰にでも「あれは私が○○したから嫌がられちゃったのかな?」「私が○○なんてしなければ・・・」と昔思い悩んでいたことが、実は「単に相手にそんなに気がなかっただけ」という極めて単純明快な事実以外の何者でもなかったという過去が1つや2つ、3つや4つ・・・あるでしょう。
“He’s just not that into you.”というのは、そんな無意味な悩みに明快で現実的な(しかも真実の)答えを与えている素晴らしいアドバイスなのに(そして一般的にこういう冷静なアドバイスをくれるのは男友達である)、なぜ日本語になると「そんな彼」とまるで「悪いのは彼」みたいな表現になってるのか???
そんなに若き女子を甘やかしていいのか、日本の映画界?(いや、たぶん原作の本の邦訳が出たのが先だから、日本の出版界か?)
でも映画そのものは、なかなか上出来のラブコメでしたよ(くれぐれもラブコメ嫌いは見ないでください、笑)。 こちら予告編(↓)。

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「果ての国」に生きる – 2

昨日の続き。
ブラック・スワン(= ほとんどありえない事象、誰も予想しなかった事象)が現れやすくなったこれからの時代の身の振り方を考えます。
昨日は1.家計の資産形成、しか書けなかったので、今日は他の側面も考えてみることにトライ。
2. 個人のキャリア
本書では「月並みの国」の住人と「果ての国」の住人の例を以下のようにあげています。

月並みの国・・・歯医者、コンサルタント、マッサージ師、など。 一定の時間で面倒を見られる患者やお客の数は限られるため、稼ぎが何倍にもなったりはしない。
果ての国・・・アイデア人間。 作家、起業家、など。 本を100冊売るのも、1,000万部売るのも、書くことにかける労力は変わらない。 うまくいけば(= 良いブラック・スワン)自由時間がたっぷり取れるが、「果ての国」の性質上、一握りの人間がすべてを得る(Winner takes all)。

『金持ち父さんのキャッシュフロー・クワドラント』的に言うと、「月並みの国」の住人がE(employee = 従業員)やS(self-employed = 自営業者)であり、「果ての国」の住人がB(business owner = ビジネスオーナー)やI (investor = 投資家)でしょうか。
ただ、この点については、キャッシュフロー・クワドラントのことを書いた頃から私の考えも変わり、自分の好きなことをするのが結局一番幸せなのかな、と思います。 結果、それがE(employee = 従業員)やS(self-employed = 自営業者)であっても、夫婦という単位や資産運用など別のところでリスク分散すればいいかと。

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「果ての国」に生きる – 1

『ブラック・スワンとレバノン』で書いたとおり、『ブラック・スワン』を読み終わったので感想です。 久しぶりにビシビシと読み応えのある本でした。
ブラック・スワンとは以下のような特徴を持つ事象のこと。

一つは予測できないこと。
二つ目は非常に強いインパクトをもたらすこと。
そして三つ目は、いったん起きてしまうと、いかにもそれらしい説明がなされ、実際よりも偶然には見えなくなったり、最初からわかっていたような気にさせられたりすること。

例として、1987年のブラック・マンデー、1998年のロシア金融危機を緒とした米LTCMの破綻、2001年の9・11、そして2007年から始まったサブプライム問題を契機とした世界金融危機など(本書はサブプライム問題顕在化の数ヶ月前に発売されている)。
ブラック・スワンが起こる世界を説明する比喩が秀逸。

月並みの世界・・・ベル型カーブに従って分布し、特定の事象が単独で全体の大きな部分を占めることはない。 アウトライヤーは無視できるほどインパクトの小さいもの。
例:身長、体重、カロリー摂取。 100人の中にひとりだけすごく太った人がいても平均体重などの統計には微々たる影響。
果ての世界・・・データ1つが全体に圧倒的な影響を及ぼす。
例:財産、本の売上、社会的事件、都市の人口。 100人の中にビル・ゲイツのような大金持ちがいれば、あとの99人はいてもいなくても統計的には同じ。

そして、世界に衝撃を与え、予測不可能なリスクを与えるブラック・スワンは「果ての国」で起きる。

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ブラック・スワンとレバノン

久しぶりに、うなりながら読む本に出会いました、『銃・病原菌・鉄』以来かもしれない。
2007年以降の金融危機を予言したとして有名になったので、聞いたことある方は多いと思いますが、ナシーム・タレブ著『ブラック・スワン』(本をじっくり読めばわかりますが、著者は金融危機の予言はしていません)。 大ベストセラーとなった前の著作『Fooled by Randomness』(日本語訳:『まぐれ』)も良かったけど(ブログではこちらこちらで紹介)、私は『ブラック・スワン』の方が好きです。
この著者のキャラクターが強烈で本では彼のユーモアが炸裂しているのでプロフィールを引用。

ナシーム・ニコラス・タレブ
文芸評論家、実証主義者にして、非情のデリバティブ・トレーダー。 レバノンでギリシャ正教の一家に生まれる。 ウォートン・スクールMBA修了。博士号はパリ大学で取得。 トレーディングを行うかたわら、ニューヨーク大学クーラン数理科学研究所で7年にわたり確率論のリスク管理への応用を(客員教授の立場で)教えた。 現在はマサチューセッツ大学アマースト校で学長選任教授として不確実性科学を研究している。 前著『まぐれ』は世界30ヵ国語に翻訳されたベストセラーである。 主にニューヨーク在住。

まだ全部読み終わっていないので全体的な感想はまたの機会にして、今日は私が特に興味を持った著者の出身地レバノンについて。
「レバノンってどこ?」って人も多いと思いますが、私も留学中にレバノン人に出会うまでほとんど知りませんでした。 中東の一国で何やら複雑な歴史を持つ紛争地帯のイメージ。

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幸せって何だろう?

私は本屋をぶらぶらするのが大好きなのですが、昨日ぶらぶらしていると、どこかで聞いたことがあるフレーズがタイトルになっている本が・・・”Dance with Chance”。
どこだっけなー?と思いながら本を開いてみると、著者に見覚えあり。
去年行ったINSEAD卒業生対象のイベント”Meeting in Asia 2008″で語ったINSEADの統計学教授3人が著者で、そのプレゼンのタイトルが”Dance with Chance”でした。 同名の本『Dance With Chance』が先月出版されたよう(専用Websiteまでできていた)。
去年のプレゼンは面白く、ざっくり以下のような内容でしたが(→『INSEAD誘致失敗で失ったもの』)、

「昨今の金融危機で露呈されたように、人間は自らの力を過信し実際以上に現実をコントロールできると思いがちである。 この”コントロールできるという幻想”がさまざまな局面で「幻想」に過ぎないことを示し(例:5年後のダウ・ジョーンズ予想)、コントロール不能な現実が多くあることを自覚することによって、自分の人生を取り戻そう」というもの。

プレゼンに出てきた幾多の例はそのままに(*1)、本の後半ではさらに「では、自分の人生を取り戻すにはどうすればよいのか?」というところまで踏み込んでいます。
*1・・・現実を”コントロールできるという幻想”の例で私が好きなのが、「911後、航空旅客は急減し車に切り替える人が急増したが、航空事故の死亡者数は自動車事故の死亡者数よりはるかに少ない(2002年と2003年は米国での航空事故死亡者数ゼロ)。 「車のハンドルを握れば自分が生死をコントロールできる」と思うのは幻想である」、というもの。
私はこれが大きな理由で日常生活では車に乗らなくて済むところに住もうと決めています。 Not worth the risk…

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豚インフルと群衆の叡智

豚インフルエンザ(*1)が猛威を奮っています。 私の周囲でも弟がメキシコ旅行をキャンセルしたり、Mさんの来週に迫った結婚式にアメリカから来るはずのゲストが出席をキャンセルしたり、余波が広がっています。
*1・・・インフルエンザA型に名前が改められたらしい。
REUTERS :豚インフルを「インフルエンザA型」に変更、食肉産業に配慮=WHO
そして思い出したのが、以前読んだ『The Wisdom of Crowds』(日本語訳:『「みんなの意見」は案外正しい』)。
この本は、一握りの天才や、専門家たちが下す判断よりも、普通の人の普通の集団の判断の方が正しい、という爽やかな内容なのですが、一番面白かったのが、情報技術の発達により情報が即座にシェアできるようになり、SARS撲滅のために世界中の科学者が協力して以前の伝染病発生時には考えられなかったようなスピードでウイルス発見できた、という話。
SARSウイルスの発見は、WHOの主導でフランス、ドイツ、オランダ、日本、アメリカ、香港、シンガポール、カナダ、イギリス、中国の各国にある研究所に、ウイルスの発見、分析に協力するよう求めたことがきっかけとなり、国際プロジェクトが発足。 文字通りround the clock(24時間体制で)で研究した結果(1日が終わると研究者はその日の結果をシェアし、起きているタイムゾーンにいる研究者がその結果を利用しながら続ける)、その1ヵ月後には、コロナウイルスがSARSの原因であることが解明されたそう。
今も全く同じことが世界の伝染病研究者の間で行われているのだと推測します。 ウイルスの撲滅は彼らの手にかかっている。
もちろん被害にあった人は大変お気の毒なのですが、私は伝染病研究には何の知識もネットワークもないけど、「もうすぐ発見されるからね!」と勝手に思っている。 どうなんだろう?

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