Category Archives: 7. 心・精神

「コンプレックス」と「多様性」のあいまいな関係

だって私、背が高い金髪のイギリス人じゃないもの。

去年の暮れ、聞いたこの言葉に耳を疑った。
言葉の主は、イギリスのインテリアデザイン業界の重鎮・・・と言っては失礼だが、業界団体会長を務め、雑誌記事の執筆・展示会のトークゲスト、など引く手あまた、ロンドンで最も成功しているインテリアデザイナーのひとりAのセリフである。 オーストラリア出身で小柄なブルネット(茶髪)のおかっぱ頭、50代後半(?)でミニスカートを履きこなし、いつも明るく朗らかで誰とも分け隔てなくフレンドリーに接する彼女のファンは多く、私もそのファンのひとりだ。 あるディナーで彼女の席の隣になった時に、若くしてロンドンにやってきて業界経験なしにデザインビジネスを始めた当初は苦労したことを語ってくれた。 その時に出てきたのが冒頭のセリフで、その後こう続けた。

オーストラリアから出てきたカントリーガールだし。

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会ってすぐ鬼ごっこをする、という交流の仕方

年末年始と日本で古い友人とキャッチアップしました。 みんな子どもが幼稚園から小学校高学年くらいの年になったので、子ども同士がわちゃわちゃと遊ぶ様子を、二十年来の友人と笑いながら眺めるというのが何よりも楽しかったです。

大学の同級生たちと京都でお昼に集まった時、貸し切りレストランで小学生男子4人をひとつのテーブルに集めてみました。 ところが、小学生男子って初対面だと(一年半前にも会っているので初対面ではないけど本人たちの感覚だと初対面に近い)、同じテーブルに座っても、
「はじめまして。 僕は○○に住んでいる□年生の△△ XXです。」
とひと通り自己紹介して、
「君の好きな電車は何?」
と当たり障りのない世間話を始めたりはしないんですね・・・
全員、持参した漫画や本を読みふけって沈黙。 同じテーブルの相手を意識はしているんだろうけど、交流は皆無。 もう少し大人っぽく振る舞おうよーーー

ランチを終えて外に出て、サッカーや鬼ごっこを始める。 するとようやく会話を始め(「ジャンケンポン!」とかなので会話に入らないか・・・)、笑顔が出る。 ケイドロやダルマさんが転んだ、など弟や妹もできる遊びを1時間して帰る頃にはすっかり仲良くなっていました。 でもたぶんお互いの名前はよく把握していない、大事なのは名前や肩書きじゃなくて、「こいつは遊べるやつかどうか」のみ。
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キミたちはいつ日本人になるチャンスを失うのだろうか?

辻仁成さんの「息子よ」で始まるツイートにはまっています(@TsujiHitonari)。 いつも美味しそうな手料理と共に息子さんへの愛がドーバー海峡の向こうから伝わってきて、「ああ、親業って大変だけど、どの親も精一杯に親やってるんだなー」とほっこりします。

(「残り物」のクオリティが高すぎ!)
少し前にYahooニュースでこの記事を読んで、思わず「やっぱり!」と叫びそうになりました。
AERA.net:「僕は正直言って帰りたいんです」パリ在住の辻仁成、本音がポロリ?
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「絶え間ない幸せの泉」と「自分の周り」

橘玲さんが『言ってはいけない 残酷すぎる真実』で取り上げていた本『子育ての大誤解〔新版〕上』『子育ての大誤解〔新版〕下』が気になったので原著『The Nurture Assumption: Why Children Turn Out the Way They Do』を読みました。 初めに書いておきますが、邦題の副題「重要なのは親じゃない」はミスリーディングです。 原著の副題「Why Children Turn Out the Way They Do」(どうして子どもはこういう人間になるのか)の方が良いニュアンスです。
1998年という、もう20年も前に書かれた原著の原題は、人間がどういう人間になるのかを決定すると考えられる2つの論派のうちのひとつ、Nature Assumption(遺伝がほぼ全てを決定するという考え方)に対するNurture Assumption(環境がほぼ全てを決定するという考え方)です。 ところが、当時のNurture Assumption派は「環境=親の育て方」の一辺倒だったのですが、これに対し、環境は親だけが与えるものではない、むしろ子どもが育つ同姓・同年代グループの影響が多大、というのがおおざっぱな骨子。 長いですが、興味深い箇所がたくさんありました。

その中で’Relationship’と’Groupness’という言葉が盛んに出てきました。 人間関係を考える上で非常にわかりやすいフレームワークなので今日は’Relationship’と’Groupness’の話です。 邦訳でどう訳されているのかわからないのですが、「関係性」と「集団性」と訳しておきます。
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「どこ」で「誰」と「どのように」生きるのか

最近、30代前半の女性とお話する機会がたて続けにありました。 いずれも日本企業からの駐在員、MBA社費派遣、米企業の日本法人社長などバリバリのキャリア女性たちです。 彼女たちの悩みは、海外キャリア・結婚・出産など・・・ 過去の自分を見ているようです。 この世代の悩みって変わらないものですね・・・

私にとって30代は激動の10年でした。 結婚→シンガポール移住→ロンドン移住→第一子誕生→キャリアチェンジ→第二子誕生→第三子誕生・・・と息つく暇もなかったような。
今年夏に末っ子が3歳になり、ふっと体中にぶら下げてていたダンベルが落ちたようにラクになりました。 なぜラクになったのかは別の記事として書くとして、東京でキャリアウーマンとして30代を迎えた私が、ロンドンで3児のママとデザイナー業をジャグリングしながら40代を迎えることになったのかまとめておきます。 あまり参考にはならないと思いますが(苦笑)。
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伊藤詩織さんと全ての声をあげた人たちへ

私には、3人子どもがいて上から男、男、女である。

それを知った人からは100%、「3人目が女の子でよかったねー」、「男の子2人産んだ後にまだ3人目って勇気あるねー(「この2人でしょ?」と上の2人を見ながらあからさまなニュアンス) もう1人男の子が産まれたらどうしよう?って思わなかった?」と言われる。 
「全員男の子だったらよかったのに、残念!」と言われたことは1回もない。
1回もないのだけれど、実は男でも女でもどっちでもよかった。 男の子3人でも全然よかった、むしろ「3兄弟の母なんて男前っ!」とさえ思っていた。

実際、女の子が産まれてみて、もちろん末っ子である娘は本当に可愛い。 けれど上2人だけだった時には抱いたこともなかった、封印していた記憶が甦ってきた。 メディアでセクハラや性暴力のニュースに接するたびに、ひとつ、またひとつと記憶が甦ってくるのだ。 何年も十数年も忘れていた、と思っていた、当時は誰にも言わなかった、言えなかった、その後封印したので結局誰にも言わなかった記憶が。
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専業ママになる前に知っておきたかった9つのこと

去年の記事だけれど、読んでものすごく感じるところがあったのでシェアします。
“9 things I wish I’d known before I became a stay-at-home mom”(専業ママになる前に知っておきたかった9つのこと)
著者は米系銀行ロンドン支店でのバンカーのキャリアをあきらめ家庭に入った3人の男の子のママ。 2人の男の子を産んだ後もフルタイムでキャリアウーマンを続けていたが、3人目が産まれた時にもう続けるのは無理とキャリアをあきらめ専業ママに。 その決断を時が経ってから振り返ったもの。 努力次第で何にでもなれると男女平等に教育を受けて育ち、仕事を始めてからも男性と同様に仕事をこなし、同じ業界の人と結婚。 そんなに時間とお金をかけて受けた教育や築いたキャリアを簡単にあきらめるものではない、と教えられてきたけどあきらめた・・・ ぜひ全文(→こちら)を読んで欲しいですが、以下要約です(と言いつつ、ほとんど訳してしまいました)。

1) 私の自信は粉々になった
自己に対する自信とは子ども時代と青少年期を経て築かれるもので、大学を卒業する頃には自信は確固たるものになるのだと思っていた。 社会的な自信はついても、職業人(professional)としての自信は全く別物。 職業人としての自信は貪欲な獣みたいなもので、定期的な「職業上の成功」を餌として与えなければすぐに縮んでしまうものだと知った。
私の自信はあらゆる方向からダメージを受けた。 外の世界は進んでおり、自分は時代遅れになったと感じた。 誰も職業欄に「母」としか書けない人のことは相手にしないのではないかと思った。 数年経ってから職場復帰した時に私の周りは一気に若返っていて、仕事を辞めずに残っていた人たちは遥か上に昇進していた。
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「コト」に向かってます。

お久しぶりです。

BCの時代(BC = Before Children)は、週6日くらいブログを書いていた私ですが、最近は密かに月1回更新が目標になっていて、おたおたしていたら年を越してしまいそうな勢いなので、年を越す前に近況報告を。
10月以降、引っ越して(そう、せっかく改装した家から引っ越しました・・・)、家族5人全員が順番に嘔吐風邪にかかって、私はついでに乳腺炎になって、長女(1歳3ヵ月)が2度目の嘔吐風邪にかかって、その間に夫が2度海外出張に行って、3人の子どもの育児と家事をしながら私は自分のデザインビジネスを立ち上げていました。
つまり、ひと言で表現すると「忙しかった」のですが、物理的にはずっと忙しいので、忙しいのは今に始まったことではありません。 今が以前と違うのは、私は今人生の中でも大きな「フロー」状態にあり、「コトに向かっている」から、他のことに向けるエネルギーが湧かないのです。

「コトに向かう」というのは、DeNAの南場さんの講演の中で出てきた言葉です。 これは講演当時、ソーシャルメディアでバズっていたので読んだ(観た)方もいらっしゃると思いますが、長くないのでぜひ全文読んでみてください。
NAVERまとめ:DeNA南場智子さんの講演「ことに向かう力」がいい話だった
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コスパで人生を測るな。

最近、日本のメディアで立て続けに「結婚や育児はコスパが悪いと避ける人が増えている」という趣旨の記事を読みました(AERA: 結婚はコスパが悪い ひとりの寂しささえも代替可能)。
これを読んだ時、ほとんどの子持ちは「そりゃ子どもはコスパ悪いよ(むしろ経済的には大幅マイナス→『子供ひとりを育てるのにかかる費用』)。 だけど、それがどうした?」と感じたんじゃないかと思いますが、これって論理を組み立てる前提が理解できないため、理解できない結論が導かれてるんじゃないでしょうか?
<前提 1>育児はコスパが悪い。
<前提 2>ボクの意思決定にコスパは重要な判断基準である。
<結論> だから結婚・子育てはしない方がよい。

ここで問題となるのが<前提 2>、この前提を持つ人たちは死ぬ時、「ああ、コスパのいい幸せな人生だったなー」と思って死ぬのが理想なんでしょうか? 以前『人生をどうやって測るのか?』というエントリーでは、癌の告知を受けたクリステンセンHBS教授の言葉を紹介しました。

God will assess my life isn’t the dollars but the individual people whose lives I’ve touched.”
神が私の人生を測る計測は稼いだお金ではなく、私が触れた個々の人間である。

前回のエントリー『記憶に残るのはどんな感情を抱いたか』では、壮絶な人生を生きたアメリカの黒人活動家・詩人・女優であるマヤ・アンジェロウの言葉を紹介しました。

People will forget what you said, people will forget what you did, but people will never forget how you made them feel.
みんなはあなたが言ったことを忘れてしまう。 あなたがしたことを忘れてしまう。 だけどあなたに対して抱いた感情を忘れることはないでしょう。

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記憶に残るのはどんな感情を抱いたか

People will forget what you said,
people will forget what you did,
but people will never forget how you made them feel.
– Maya Angelou
みんなはあなたが言ったことを忘れてしまう。
あなたがしたことを忘れてしまう。
だけどあなたに対して抱いた感情を忘れることはないでしょう(マヤ・アンジェロウ)。

この言葉を聞いたとき、だから私は空間をデザインする職を選んだんだ、と深くうなづきました。
日本にいた頃、といってももう8年以上も前ですが、『キャリアの下り方 – 1』に書いたような生活を送っていました。

30歳になる前に年収は大台に乗り、毎月海外出張して泊まるのは5つ星ホテル、出張先の移動はタクシー、食事はレストラン。 お給料が増えても出張中はほとんど経費が出るので使う暇がなく、出ていくのはほとんどいない東京のアパートの家賃くらい。 空港とホテルと客先のトライアングル移動する生活を複数都市で続けると時差ボケと運動不足でいつも疲れているので、移動中のタクシーの中から行きつけのマッサージの予約ばかりしていた気がします。 ちょっと時間ができてもホテルのラウンジでメールチェック。

ひたすら移動ばかりの生活でしたが、ここで多大な時間を過ごした場所が、無難で人間味がなく創造性が全くなかったこと、無機質な空間がいかに私の感情にネガティブに影響するか、ということに気づいたことが、ひとつのきっかけとなっています。
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