Category Archives: 文化・アイデンティティー

「コンプレックス」と「多様性」のあいまいな関係

だって私、背が高い金髪のイギリス人じゃないもの。

去年の暮れ、聞いたこの言葉に耳を疑った。
言葉の主は、イギリスのインテリアデザイン業界の重鎮・・・と言っては失礼だが、業界団体会長を務め、雑誌記事の執筆・展示会のトークゲスト、など引く手あまた、ロンドンで最も成功しているインテリアデザイナーのひとりAのセリフである。 オーストラリア出身で小柄なブルネット(茶髪)のおかっぱ頭、50代後半(?)でミニスカートを履きこなし、いつも明るく朗らかで誰とも分け隔てなくフレンドリーに接する彼女のファンは多く、私もそのファンのひとりだ。 あるディナーで彼女の席の隣になった時に、若くしてロンドンにやってきて業界経験なしにデザインビジネスを始めた当初は苦労したことを語ってくれた。 その時に出てきたのが冒頭のセリフで、その後こう続けた。

オーストラリアから出てきたカントリーガールだし。

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キミたちはいつ日本人になるチャンスを失うのだろうか?

辻仁成さんの「息子よ」で始まるツイートにはまっています(@TsujiHitonari)。 いつも美味しそうな手料理と共に息子さんへの愛がドーバー海峡の向こうから伝わってきて、「ああ、親業って大変だけど、どの親も精一杯に親やってるんだなー」とほっこりします。

(「残り物」のクオリティが高すぎ!)
少し前にYahooニュースでこの記事を読んで、思わず「やっぱり!」と叫びそうになりました。
AERA.net:「僕は正直言って帰りたいんです」パリ在住の辻仁成、本音がポロリ?
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「どこ」で「誰」と「どのように」生きるのか

最近、30代前半の女性とお話する機会がたて続けにありました。 いずれも日本企業からの駐在員、MBA社費派遣、米企業の日本法人社長などバリバリのキャリア女性たちです。 彼女たちの悩みは、海外キャリア・結婚・出産など・・・ 過去の自分を見ているようです。 この世代の悩みって変わらないものですね・・・

私にとって30代は激動の10年でした。 結婚→シンガポール移住→ロンドン移住→第一子誕生→キャリアチェンジ→第二子誕生→第三子誕生・・・と息つく暇もなかったような。
今年夏に末っ子が3歳になり、ふっと体中にぶら下げてていたダンベルが落ちたようにラクになりました。 なぜラクになったのかは別の記事として書くとして、東京でキャリアウーマンとして30代を迎えた私が、ロンドンで3児のママとデザイナー業をジャグリングしながら40代を迎えることになったのかまとめておきます。 あまり参考にはならないと思いますが(苦笑)。
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伊藤詩織さんと全ての声をあげた人たちへ

私には、3人子どもがいて上から男、男、女である。

それを知った人からは100%、「3人目が女の子でよかったねー」、「男の子2人産んだ後にまだ3人目って勇気あるねー(「この2人でしょ?」と上の2人を見ながらあからさまなニュアンス) もう1人男の子が産まれたらどうしよう?って思わなかった?」と言われる。 
「全員男の子だったらよかったのに、残念!」と言われたことは1回もない。
1回もないのだけれど、実は男でも女でもどっちでもよかった。 男の子3人でも全然よかった、むしろ「3兄弟の母なんて男前っ!」とさえ思っていた。

実際、女の子が産まれてみて、もちろん末っ子である娘は本当に可愛い。 けれど上2人だけだった時には抱いたこともなかった、封印していた記憶が甦ってきた。 メディアでセクハラや性暴力のニュースに接するたびに、ひとつ、またひとつと記憶が甦ってくるのだ。 何年も十数年も忘れていた、と思っていた、当時は誰にも言わなかった、言えなかった、その後封印したので結局誰にも言わなかった記憶が。
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専業ママになる前に知っておきたかった9つのこと

去年の記事だけれど、読んでものすごく感じるところがあったのでシェアします。
“9 things I wish I’d known before I became a stay-at-home mom”(専業ママになる前に知っておきたかった9つのこと)
著者は米系銀行ロンドン支店でのバンカーのキャリアをあきらめ家庭に入った3人の男の子のママ。 2人の男の子を産んだ後もフルタイムでキャリアウーマンを続けていたが、3人目が産まれた時にもう続けるのは無理とキャリアをあきらめ専業ママに。 その決断を時が経ってから振り返ったもの。 努力次第で何にでもなれると男女平等に教育を受けて育ち、仕事を始めてからも男性と同様に仕事をこなし、同じ業界の人と結婚。 そんなに時間とお金をかけて受けた教育や築いたキャリアを簡単にあきらめるものではない、と教えられてきたけどあきらめた・・・ ぜひ全文(→こちら)を読んで欲しいですが、以下要約です(と言いつつ、ほとんど訳してしまいました)。

1) 私の自信は粉々になった
自己に対する自信とは子ども時代と青少年期を経て築かれるもので、大学を卒業する頃には自信は確固たるものになるのだと思っていた。 社会的な自信はついても、職業人(professional)としての自信は全く別物。 職業人としての自信は貪欲な獣みたいなもので、定期的な「職業上の成功」を餌として与えなければすぐに縮んでしまうものだと知った。
私の自信はあらゆる方向からダメージを受けた。 外の世界は進んでおり、自分は時代遅れになったと感じた。 誰も職業欄に「母」としか書けない人のことは相手にしないのではないかと思った。 数年経ってから職場復帰した時に私の周りは一気に若返っていて、仕事を辞めずに残っていた人たちは遥か上に昇進していた。
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「コト」に向かってます。

お久しぶりです。

BCの時代(BC = Before Children)は、週6日くらいブログを書いていた私ですが、最近は密かに月1回更新が目標になっていて、おたおたしていたら年を越してしまいそうな勢いなので、年を越す前に近況報告を。
10月以降、引っ越して(そう、せっかく改装した家から引っ越しました・・・)、家族5人全員が順番に嘔吐風邪にかかって、私はついでに乳腺炎になって、長女(1歳3ヵ月)が2度目の嘔吐風邪にかかって、その間に夫が2度海外出張に行って、3人の子どもの育児と家事をしながら私は自分のデザインビジネスを立ち上げていました。
つまり、ひと言で表現すると「忙しかった」のですが、物理的にはずっと忙しいので、忙しいのは今に始まったことではありません。 今が以前と違うのは、私は今人生の中でも大きな「フロー」状態にあり、「コトに向かっている」から、他のことに向けるエネルギーが湧かないのです。

「コトに向かう」というのは、DeNAの南場さんの講演の中で出てきた言葉です。 これは講演当時、ソーシャルメディアでバズっていたので読んだ(観た)方もいらっしゃると思いますが、長くないのでぜひ全文読んでみてください。
NAVERまとめ:DeNA南場智子さんの講演「ことに向かう力」がいい話だった
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コスパで人生を測るな。

最近、日本のメディアで立て続けに「結婚や育児はコスパが悪いと避ける人が増えている」という趣旨の記事を読みました(AERA: 結婚はコスパが悪い ひとりの寂しささえも代替可能)。
これを読んだ時、ほとんどの子持ちは「そりゃ子どもはコスパ悪いよ(むしろ経済的には大幅マイナス→『子供ひとりを育てるのにかかる費用』)。 だけど、それがどうした?」と感じたんじゃないかと思いますが、これって論理を組み立てる前提が理解できないため、理解できない結論が導かれてるんじゃないでしょうか?
<前提 1>育児はコスパが悪い。
<前提 2>ボクの意思決定にコスパは重要な判断基準である。
<結論> だから結婚・子育てはしない方がよい。

ここで問題となるのが<前提 2>、この前提を持つ人たちは死ぬ時、「ああ、コスパのいい幸せな人生だったなー」と思って死ぬのが理想なんでしょうか? 以前『人生をどうやって測るのか?』というエントリーでは、癌の告知を受けたクリステンセンHBS教授の言葉を紹介しました。

God will assess my life isn’t the dollars but the individual people whose lives I’ve touched.”
神が私の人生を測る計測は稼いだお金ではなく、私が触れた個々の人間である。

前回のエントリー『記憶に残るのはどんな感情を抱いたか』では、壮絶な人生を生きたアメリカの黒人活動家・詩人・女優であるマヤ・アンジェロウの言葉を紹介しました。

People will forget what you said, people will forget what you did, but people will never forget how you made them feel.
みんなはあなたが言ったことを忘れてしまう。 あなたがしたことを忘れてしまう。 だけどあなたに対して抱いた感情を忘れることはないでしょう。

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7年ごとの成長記録

こんなにも面白いドキュメンタリーがあるのかと思った・・・
・・・けど、NHK制作の日本バージョンが去年放送されていたそうなので日本の方が知ってるかもしれません。

イギリスに住む階級・環境が異なる7歳の子どもたちをインタビューし、7年ごとに同じ出演者にインタビューを繰り返す長期ドキュメンタリー。 1964年に英グラナダテレビが制作したドキュメンタリー『Seven Up』が元祖でその後、旧ソ連・アメリカ・南アフリカ・日本などでも制作・放映されているそう。
Wikipedia: UPシリーズ

元祖のUpシリーズ(出演者が56歳になった”56 Up”まで放送済)は普通の個人の人生を長期に渡って追うと同時にその間に起こったイギリスの社会の変化を映し出すという世界に前例を見ない人間の成長の歴史として伝説的なドキュメンタリーとなりました。
私が見たのは今イギリスBBCで放送中の『7 Up New Generation』、2005年から7歳を追った新シリーズで現在は出演者たちは21歳になっています。
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なれたかもしれない私にならなかった私

5月、6月はほとんどブログを更新できずに終わってしまいそうです。 今週から妊娠9ヵ月(何と3人目!)なのですが、その体で改装終了間近の家に引っ越して、フランス行って、東京行って、また帰ってきてから工事終わらせていたので、死にそうな生活を送っていました。 いやー、産まれる前に工事終わってよかったです、ほんと。

東京では時差ボケ&梅雨入りしたばかりで体調不良でしたが、無事に弟の人生の門出も祝えたし(←メインイベント)、昔の友達やオフ会の皆さんにも会えました。
そんな中、私が卒業した仏ビジネススクールINSEADの同級生と飲んだ時のことを。
東京行く前の週にフランスで同窓会があったのですが(→『10年目の同窓会』)、東京に住んでるみんなは忙しくて来れなかったので会うのは久しぶり、近況報告に花が咲きました。 メンツは男3人、女2人(私含め)。 全員留学前から転職していて、PE(プライベートエクイティ)、VC(ベンチャーキャピタル)、Google、某欧州高級ジュエリーブランド・・・と「ザ・ポストMBA」って感じ、当然稼いでる。 住んでいるのは麻布・汐留など都心のタワーマンション。 全員結婚しており子どもは0 – 2人。 東京のオシャレな店も美味しい店もたくさん知ってて、「あー、私があの時、仕事辞めずに東京残ってたらこんな生活だったのかなー?」という感慨がありました。
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「世界級」の次にあるもの

家で仕事をしているので平日はほとんど外出せず、週末も幼児2人を連れて移動するのが億劫で近所で過ごしてるため、ブログのタイトルが恥ずかしい近頃です。
このブログの背景はABOUTページに書いていますが、2008年に生活の拠点を東京からシンガポールに移した時点で始めました。

社会人になってから10年弱、海外出張ばかりしていました。 特にシンガポールに移る前の4年間は、一応東京に拠点はあるものの荷物置き場と化し、空港⇆ホテル(or サービスアパート)⇄客先の3点移動をタクシーで繰り返す生活でした。 ビジネススクール同級生の生活も似たようなものでした。 その頃もう英語圏ではFacebookが流行っていたので、「明日からシンガポール出張」と書くとすぐ「僕も〜、時間合ったら会おうよ」、「惜しい! 先週までいたのに」と誰かからレスが返ってきました。 地球の裏側まで友人の結婚式のため飛んで1泊で帰ってくるなんて普通でした(マイルが余りまくってるため。 夫はシンガポールからLAの友人の結婚式に1泊3日で行ってました)。

そんな生活スタイルが似た友人との会話は「今どこ住んでるの?」、「今後どこ住むの?」でした。 グローバル根なし草だった20代後半〜30代前半の私たちは、世界中の美しい場所を見て、世界中の美味しいものを食べて、得意面と一種の刹那感を同時にまとっていた、と思います(→『旅とデジャヴ』『Home Sweet Home』)。 同じ生活スタイルを持つ彼らとは、高校・大学の同級生や会社の同期よりもずっと似た悩みを共有していました。
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