最近、日本のメディアで立て続けに「結婚や育児はコスパが悪いと避ける人が増えている」という趣旨の記事を読みました(AERA: 結婚はコスパが悪い ひとりの寂しささえも代替可能)。
これを読んだ時、ほとんどの子持ちは「そりゃ子どもはコスパ悪いよ(むしろ経済的には大幅マイナス→『子供ひとりを育てるのにかかる費用』)。 だけど、それがどうした?」と感じたんじゃないかと思いますが、これって論理を組み立てる前提が理解できないため、理解できない結論が導かれてるんじゃないでしょうか?
<前提 1>育児はコスパが悪い。
<前提 2>ボクの意思決定にコスパは重要な判断基準である。
<結論> だから結婚・子育てはしない方がよい。
ここで問題となるのが<前提 2>、この前提を持つ人たちは死ぬ時、「ああ、コスパのいい幸せな人生だったなー」と思って死ぬのが理想なんでしょうか? 以前『人生をどうやって測るのか?』というエントリーでは、癌の告知を受けたクリステンセンHBS教授の言葉を紹介しました。
God will assess my life isn’t the dollars but the individual people whose lives I’ve touched.”
神が私の人生を測る計測は稼いだお金ではなく、私が触れた個々の人間である。
前回のエントリー『記憶に残るのはどんな感情を抱いたか』では、壮絶な人生を生きたアメリカの黒人活動家・詩人・女優であるマヤ・アンジェロウの言葉を紹介しました。
People will forget what you said, people will forget what you did, but people will never forget how you made them feel.
みんなはあなたが言ったことを忘れてしまう。 あなたがしたことを忘れてしまう。 だけどあなたに対して抱いた感情を忘れることはないでしょう。
死ぬ時に思い出すのが、濃密な人間関係、強く心を揺すぶられた感情であるならば、育児でできる経験はすごいですよー、他に類を見ないレベルです。
今までの人生で経験したこともない衝撃、体中の血液が逆流するような怒り、涙腺が決壊したかと思うほどの悲しみ、その思い出だけで生きていける気がするほどの喜び、など、感情のジェットコースターのような日々が待っています。
ちょっと想像してみてください。
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お腹に宿ったばかりの命に「重大な障害があるリスクがある」と告げられて、自分の体の一部がもがれたような衝撃を受けたことがありますか?
誰かの汚物が口からこみあげているのを見て全身でその汚物を受け止めたことがありますか? その手が間に合ったおかげで、大事なその人が汚れなくて済んだと安堵したことがありますか?
家の1階にいたら天井から水が漏れてきて、慌てて2階に行ったら、トイレットペーパーの使いすぎでトイレを詰まらせて床中を水浸しにした人が突っ立っていたことがありますか? その汚水を家中のタオルを使って自分の手で掃除したことがありますか?
知り合いの、ニュースの、映画の中の、誰かが子どもを失ったニュースに、涙腺を止める栓が決壊したかと思うほど、自分が壊れたかと思うほど泣いたことがありますか?
娘を学校に送っていく途中にマフィアに襲われ、娘の命乞いをする代わりに自らマフィアの車に乗り込み殺された女性メキシコ市長の話(→The Telegraph)、13歳の娘のレイプ犯が出所して笑っているのを見てその男に灯油をかけて火をつけたスペインの母親の話(→The Telegraph)他、類似の話を読むたびに血が煮えたぎるような思いにかられたことがありますか?
夜中に何度も起こされる日が何日も、何ヶ月も、何年も続いているのに、夜中に抱く小さな生き物の温かみに愛が堰を切ったように溢れてきて、数年に渡る寝不足にも意味があるように思えたことがありますか?
“君を守るために そのために生まれてきたんだ〜♪”とか”君だけに めぐり逢うために ボクはこの惑星に さびしさを抱いて生れて来たよ〜♪”とかジャニーズの歌詞のような気持ちに本気でなったことがありますか?
「愛されるよりも愛する方が幸せ」という少女漫画の中かダライ・ラマだけが言うようなセリフが自然と自分の中にも沸いてきたことがありますか?
「ママ、銀河系の一番遠くよりもママが好き」と言われて、残りの人生、それを思い出すだけで生きていけるような気がしたことがありますか?
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最近、第三子が生まれた友人がFacebookにこう書いていました。
Sometimes, the smallest things take up the most room in your heart…
時には、一番小さなものが心の中の一番大きな位置を占める。
コスパは悪いです。 でも「1平方cmあたりが生み出す感情の大きさ」、すなわち感情パフォーマンスなら赤ちゃんに勝るものはありません。
コスパで人生を測るな。
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