ブラック・スワンとレバノン

久しぶりに、うなりながら読む本に出会いました、『銃・病原菌・鉄』以来かもしれない。
2007年以降の金融危機を予言したとして有名になったので、聞いたことある方は多いと思いますが、ナシーム・タレブ著『ブラック・スワン』(本をじっくり読めばわかりますが、著者は金融危機の予言はしていません)。 大ベストセラーとなった前の著作『Fooled by Randomness』(日本語訳:『まぐれ』)も良かったけど(ブログではこちらこちらで紹介)、私は『ブラック・スワン』の方が好きです。
この著者のキャラクターが強烈で本では彼のユーモアが炸裂しているのでプロフィールを引用。

ナシーム・ニコラス・タレブ
文芸評論家、実証主義者にして、非情のデリバティブ・トレーダー。 レバノンでギリシャ正教の一家に生まれる。 ウォートン・スクールMBA修了。博士号はパリ大学で取得。 トレーディングを行うかたわら、ニューヨーク大学クーラン数理科学研究所で7年にわたり確率論のリスク管理への応用を(客員教授の立場で)教えた。 現在はマサチューセッツ大学アマースト校で学長選任教授として不確実性科学を研究している。 前著『まぐれ』は世界30ヵ国語に翻訳されたベストセラーである。 主にニューヨーク在住。

まだ全部読み終わっていないので全体的な感想はまたの機会にして、今日は私が特に興味を持った著者の出身地レバノンについて。
「レバノンってどこ?」って人も多いと思いますが、私も留学中にレバノン人に出会うまでほとんど知りませんでした。 中東の一国で何やら複雑な歴史を持つ紛争地帯のイメージ。


map_of_lebanon.jpgInsead同級生のレバノン人は全員アラビア語、英語、フランス語のトライリンガル。 さらにもう1, 2ヵ国語を話せる人も多いです(ゴーンさんもそうですね)。 外見はアラブ人というよりギリシャ人(ヨーロッパ人)に似ている人が多く、一見しただけでは、どこの出身か全くわからない(文明の十字路のあのあたりは本当にわからない人が多い)。 留学後は全員レバノンに帰るのではなく他国での就職を希望していて、複雑な事情があるのだなー、と密かに思っていました。
今回『ブラック・スワン』の中でナシームのレバノンに対する思いを読んで、非常に感じるところがあったのでランダムに要約しました。

  • ナシーム自身は自分のことを「レバノン人」ではなく「レヴァント人」だと思っている(レヴァント:東部地中海沿岸地方の歴史的名称)。
  • 首都ベイルートは東方貿易の中心地として発達し、13世紀に渡り異なる文化・宗教・民族の住民が仲良く暮らす平和の楽園でありこの世の天国であった。 ある日を境に全てが変わってしまった。 すぐ終わるだろうと思われた内戦は一向に終わらない。 人は過去を振り返り後付けの原因をつけるのは得意だが、最中にいる人はこれからどうなるかなど誰もわからない。
  • 1975年まではレバノンは地政学的な分類では「地中海沿岸」であったが、1975年の内戦勃発以来「中東」に分類されるようになった。 彼の故郷の村から60マイルしか離れていないキプロスでは全く同じものを食べ同じ習慣を持つのに、キプロスは「ヨーロッパ」であり、彼の故郷は「中東」である。 物事を単純化する「分類」は必要だが、これを絶対と考えるようになると終わりである。
  • 「国民性」などというものにある人が起こした行動の原因を求めるのは間違っている(マスコミは大好きだが)。 国籍よりも性別、社会階級、職業の方が行動を予測できる要因である。 ナシームの本を読んでレバノン人であることに起因を求める人がいるが、レバノン出身のウォールストリートのトレーダーで彼のような懐疑的実証主義者になった人は26人中ひとりもいない。

以下、所感。

  1. 私も物事をわかりやすく説明する「分類」「統計」「フレームワーク」は多用していますが(この所感も箇条書きだし)、この便利な道具を絶対視すると分類しきれない重要な事実を見逃すことが多々あるのだ、と自戒しようと思いました。
  2. 出身国 = 国民アイデンティティーではない人が世界にはたくさんいるのだなー、という事実の再認識。 『国家は人を容れる器でしかない?』で書いたような華僑のメンタリティーもその一例。 『国籍と人種と民族と・・・』で書いたように大多数の国民の国籍、人種、民族、使用言語が単一である希有な国である日本では、これらを混同したり配慮のない表現をよく見かけます。
  3. 以前こちらでも書いたように「国籍よりも性別、社会階級、職業の方が行動を予測できる要因」には全く同感。 よって私は人を説明するとき、国籍プラス職業や学歴を付記しています。 同じ理由で、(最近も聞かれたけど)私が「この質問、ハズしてるなー」と思うのが「国際結婚で大変なことは何ですか?」。 そんなこと聞かれても同じ物を食べ、同じ雑誌・本を読み、同じ学校を卒業し、友人まで共通なのでないんですよねー、お互いの実家が遠いことが一番大変(帰るのに時間とお金がかかるので)。 そういや、この質問はシンガポール人にはされたことないです。

その他、本当にたくさん考えさせられることの多い本なので、続きはまた近いうちに。
レバノンのドキュメンタリービデオを発見。

CBSドキュメント The New Beirut (レバノン情勢) Part 2


6 responses to “ブラック・スワンとレバノン

  • haustin

    ブラックスワン、日本語が出たんですよね。英語だとかなり苦労しそうだったので、私も読んでみます!
    >「国際結婚で大変なことは何ですか?」
    ははは。確かにこれは、アメリカ人には聞かれたことないです。在住日本人の駐在の奥さんや日本に帰ったときには聞かれます、というか、大変でしょう。といわれる。
    日本人同士で結婚してても、人間同士なんだからいろいろと大変だと思うけど・・・?

  • la dolce vita

    >haustinさん
    >ブラックスワン、日本語が出たんですよね。英語だとかなり苦労しそうだったので、私も読んでみます!
    私もFooled by Randomnessは英語で難しかったので、ブラックスワンは日本語版を待ちました。
    >確かにこれは、アメリカ人には聞かれたことないです。
    そりゃー、アメリカ人は聞かないでしょう(笑)。
    「大変」かどうか、って感覚的・主観的なものなので、ものすごく大変そうだったら初めから結婚しないよ、って思うんですけどね。

  • ろちょーる

    レバノンは興味がつきないですよね。世界級ライフスタイルという点ではレバノン人に勝る人種はいないと思います。中東でありながらカソリック(オルソドックスも多い)、砂漠のイメージでありながらスキーリゾートもある、碧眼金髪からダークスキン、のっぽからチビまで。彼らフェニキア人の子孫は世界で一番世渡りがうまいのでは?危機管理がDNAレベルでしみこんでる。
    私の場合は”○○人と結婚してどうですか?大変じゃないですか?”の質問が多いです。国際結婚よりも偏見が入ってる感じで(笑)
    ”性別、社会階級、職業の方が行動を予測できる要因”には同意です。あとは両親の関係(母親は専業主婦か否か、または両者の力関係)でほぼ予測がつきます。

  • デレク

    私が毎日読んでいるブログの方も、こちらの本大絶賛しておりました。
    でも、金融方面の本は難しいんだよな~とちょっと逃げ腰になっていました。
    「まぐれ」も含めて改めて読んでみようかと思います。
    因みに、こちらのブログに、日本語訳された望月さんとのやりとりがちょっと触れられてました。
    http://ameblo.jp/993c4s/entry-10263458721.html
    http://ameblo.jp/993c4s/entry-10278684349.html
    でも、まずは「まぐれ」を読まないと!

  • ドイツ特派員

    la dolce vitaさん、
    以前、森巣博というオーストラリア在住の博打打ちが、あるカジノで「貴方は日本人ですか?」と聞かれ、「はて、日本人とは何ですかな?」とその男と問答を繰り返す話を入れた本(「無境界の人」)を出していました。自分で色々と問答すると、「私は何?」ということを考えるいい機会になるような気がします。
    >同じ理由で、(最近も聞かれたけど)私が「この質問、ハズしてるなー」と思うのが「国際結婚で大変なことは何ですか?」。
    これは田舎では特にそうだと思いますし、仕方ないかな?と思います。日本では国際結婚なんて殆ど無いわけですから、まあ許してあげてください(笑)。私がドイツに行く時なんて、義母に、「ドイツなんか行って拳銃で撃たれたりしないんですか?」と本当に涙目で言われましたから。「いや、拳銃なら歌舞伎町でも撃ち合いしてますし、ドイツでも大半の人はちゃんと生きてますから」と説明しましたが、帰国してもやはり、「人は殺されないんですか?」と。まあそれこそ韓国人あたりに、「何でお前は朝からキムチを食べないんだ?」とか言われて答えに窮するようなものかと(実際朝から食べてます)。
    で、丁寧に説明したりすると、「こいつ外国かぶれだよな」とか言われて、どうして良いか分からなくなるんですね。

  • la dolce vita

    >るちょーるさん
    レバノンは興味がつきないですよね。世界級ライフスタイルという点ではレバノン人に勝る人種はいないと思います。
    レバノンはまだまだ全然知らないところですが興味はつきないです。 ベイルート行ってみたいなー
    >あとは両親の関係(母親は専業主婦か否か、または両者の力関係)でほぼ予測がつきます。
    その通りです! うちは初めて会ったときから、金銭感覚・モラルの感覚・食べることに関する感覚、etc.が似てるなー、と思っていたら、母親の職業と教育方針が一緒でした(ビックリ)。
    >デレクさん
    >でも、金融方面の本は難しいんだよな~とちょっと逃げ腰になっていました。
    正直、この本、難しいです(金融だからではなく、著者のスタイルでしょうね)。 でも、めげずに読んでみてください〜 金融というより統計の本ですが、人生のいろいろな側面に当てはめて読めますよ!
    >ドイツ特派員さん
    >日本では国際結婚なんて殆ど無いわけですから、まあ許してあげてください(笑)。
    いや、ここシンガポールでこういう質問されるわけです。 もちろん日本の田舎のおばあさんに聞かれたら、許してあげますよ(笑)。
    日本でされる質問はもっと強烈です。 私のカタカナ姓を見て「ハーフですか?」って聞いてくる宅急便配達に来たお兄さんとか(たぶん10歳以上下)、同じく私のカタカナ姓を見て「国際結婚ですか? うらやましいです!」って話しかけてくる某都銀の窓口のお姉さんとか(こちらも10歳くらい下)。

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