豚インフルエンザ(*1)が猛威を奮っています。 私の周囲でも弟がメキシコ旅行をキャンセルしたり、Mさんの来週に迫った結婚式にアメリカから来るはずのゲストが出席をキャンセルしたり、余波が広がっています。
*1・・・インフルエンザA型に名前が改められたらしい。
REUTERS :豚インフルを「インフルエンザA型」に変更、食肉産業に配慮=WHO
そして思い出したのが、以前読んだ『The Wisdom of Crowds』(日本語訳:『「みんなの意見」は案外正しい』
)。
この本は、一握りの天才や、専門家たちが下す判断よりも、普通の人の普通の集団の判断の方が正しい、という爽やかな内容なのですが、一番面白かったのが、情報技術の発達により情報が即座にシェアできるようになり、SARS撲滅のために世界中の科学者が協力して以前の伝染病発生時には考えられなかったようなスピードでウイルス発見できた、という話。
SARSウイルスの発見は、WHOの主導でフランス、ドイツ、オランダ、日本、アメリカ、香港、シンガポール、カナダ、イギリス、中国の各国にある研究所に、ウイルスの発見、分析に協力するよう求めたことがきっかけとなり、国際プロジェクトが発足。 文字通りround the clock(24時間体制で)で研究した結果(1日が終わると研究者はその日の結果をシェアし、起きているタイムゾーンにいる研究者がその結果を利用しながら続ける)、その1ヵ月後には、コロナウイルスがSARSの原因であることが解明されたそう。
今も全く同じことが世界の伝染病研究者の間で行われているのだと推測します。 ウイルスの撲滅は彼らの手にかかっている。
もちろん被害にあった人は大変お気の毒なのですが、私は伝染病研究には何の知識もネットワークもないけど、「もうすぐ発見されるからね!」と勝手に思っている。 どうなんだろう?
この群衆の叡智の話はオープンソースの流れとかと一致するのですが、最近の面白いケース。
梅田望夫さんが「新著『シリコンバレーから将棋を観る』を何語に翻訳してウェブにアップすることも自由、とします。」とご自身のブログで書いたところ、早速ウェブ上でみんなで訳そうという英訳プロジェクトとフランス語訳プロジェクトが発足した模様。 早い!
なお、本の中では群衆の叡智が機能するための条件も述べられており、この条件が満たされず全く逆に振れてしまう = 群衆の狂気(e.g.ナチス)、という点も面白かったです。
- 多様性:それが既知の事実のかなり突拍子もない解釈だとしても、各人が独自の私的情報を多少なりとも持っている
- 独立性:他者の考えに左右されない
- 分散性:身近な情報に特化し、それを利用できる
- 集約性:個々人の判断を集計して1つの判断に集約するメカニズムの存在
これを読んで、なぜ多様性が重要か、ということの納得がいきました。 個人が多様で自立していると、多様な情報が足され間違いが正され極端に振れることがないのでしょう。
この記事も面白いです。
NBOnline : 今注目される「クラウドソーシング」ならばできること
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指摘頂き「集団の叡智」を「群衆の叡智」という表現に変えました。
May 11th, 2009 at 5:45 am
興味深い記事をありがとうございます。
スロウィッキーの同書籍から、「群衆の叡智サミット」をやっています。
一点、細かいことかもしれませんが、Wisdom of crowdsを考える場合に、表現として「集団」と「群衆」は区別して考えるほうがわかりやすいように思います。「集団」は同質性の高さ、意図やコントロールによって”group”を形成しているという意味合いの強い言葉です。他方”crowds”はもっと拡散的で、個の意思は拡散的な、「群衆」のほうが近いです。
May 11th, 2009 at 9:43 am
>okdtさん
>Wisdom of crowdsを考える場合に、表現として「集団」と「群衆」は区別して考えるほうがわかりやすいように思います。
ご指摘ありがとうございます! そんな区別があるなんて知りませんでした。 訂正しました。