米金融、未曾有の危機

昨日から今日にかけて米金融業界は米証券4位のリーマン・ブラザーズが破産法適用申請、同3位のメリルリンチがバンカメに救済合併され、保険大手のAIGも資産売却を余儀なくされるという未曾有の出来事が続発しています。
REUTERS:米リーマンHD、連邦破産法第11条の適用を申請
REUTERS:米バンカメがメリル買収を発表、500億ドル相当の株式交換で
投資銀行/証券会社はMBA後の人気就職先なのでそれぞれの会社にもれなく友達がいます。 リーマンとメリルリンチにもそれぞれ1人ずつ仲のいい友人がいるのですが、さすがにこういうときに電話はできないですね。 頃合いを見て様子を聞いてみようと思っています。
日本は1997年に証券4位の山一証券と地銀大手の北海道拓殖銀行が破綻していますが、米国では6ヵ月の間に証券3位から5位までが一斉に破綻・救済合併されるという状況のため衝撃の大きさが知れるというもの。
このニュースを朝からおろおろと見ながら思い出すのは新卒で入った会社のこと。
私は1998年4月に新卒入社という、山一証券に就職内定していた同期が内定を取り消されたのを間近に見ている世代です。 この就職氷河期時代に何を考えていたのか総合商社とマスコミしか受けないという無謀な就職活動の結果(強くお勧めしません、笑)、当時9社あると言われていた総合商社のうち下位にいる商社に就職しました。
その新卒就職先であった商社は不採算部門の売却などを経た後、同じく下位にいた総合商社と経営統合し現在に至ります。


私の入った部門は「不採算部門」だったので、入社2年を過ぎたあたりからリストラが始まりました。 沈みゆく船の中がどんな様子なのか、というのは経験した人にしかわからないかもしれません。 業務時間が終わった後、職場ごとの組合集会が開かれ経営陣が提示したボーナスカット、賃金抑制などの施策を飲むとか飲まないとか議論する毎日。
その上、部門全体ではなく一部の課だけが課ごと全人員が子会社に転籍を命じられ、同じ部で仲良くやってきた隣の課の人との人間関係まで影響を及ぼすようになりました。
この時点で当然「沈みゆく船から逃げよう」と考えたのですが、私がびっくりしたのはそのような危機的状況になっても「最近、子どもが産まれて家を買ってローンを組んだばかりなので転職できない。 奥さんは子育て中なので一瞬たりとも収入がなくなると困る。」という先輩が複数いたということ。
会社の存続の雲行きが怪しくなったのは、昨日・今日の話ではありません。
新入社員の私でさえ危機を感じたというのに、入社5-10年も経った人がなぜわからない? そういう状況でなぜ家を買ってローンを組むのか、なぜ奥さんに意地でも会社を辞めずに出産前の仕事を続けてもらわなかったのか?
またこの時強く感じたことは「会社は自分を守ってくれない、自分を守るのは自分しかいない。 そのためには、どのような状況になっても稼げる自分を作るしかない」ということ。
調べたところ「ビジネスで生きていくためにはMBAがよさそうだ」、ということになり、MBAは最低2年(準備から合格通知まで1年半、合格から入学まで半年)かかるので、まず転職し、その後きっちり2年後MBA留学しました。
INSEADで過ごした1年は私の人生を大きく変えたので、今では新卒で就職した先が沈みゆく船だったことに感謝しているくらいです。 そうでなければMBA留学など考えなかったかもしれないので。
そして、会社の存続が危ないのに家のローンを組んだ先輩と沈みゆく船からいち早く逃げ出した人々(もちろんたくさんいました)の違いを理解するために、『チーズはどこへ消えた?』という本をお薦めします。
寓話でイラストもふんだんに入っているので、普段ビジネス書を読み慣れている人はぱっと見物足りないと感じるかもしれませんが、変化を味方につける普遍のヒントが盛り込まれていると思います。
今は不遇の時代だと感じているリーマン社員も、この危機をうまく乗り越えて変化を起こしてくれたきっかけに感謝する日がくることを祈ってます。


7 responses to “米金融、未曾有の危機

  • オレンジ

     僕も親に何かと言われる職業なので、la dolce vitaさんが言いたいことはわかります。親は最後まで面倒見てくれるわけでもないですからね。
     ところで、前に紹介していただいた「会社でチャンスをつかむ人が実行している本当のルール」を、まだ途中までですが、よみましたよ。目から鱗の情報が満載で面白いです。いい本を紹介してくださってありがとうございます。
     la dolce vitaさんがお勧めしている「チーズはどこへ消えた?」も読んでみようと思います。

  • la dolce vita

    >オレンジさん
    >前に紹介していただいた「会社でチャンスをつかむ人が実行している本当のルール」を、まだ途中までですが、よみましたよ。目から鱗の情報が満載で面白いです。
    ありがとうございます。 そう言って頂けると紹介した甲斐があります。
    「チーズはどこへ消えた?」は寓話なので簡単ですが、いろいろな読み方ができると思います。 本に出てくる小人やネズミを周囲の人に当てはめたりするといいかもしれません。

  • la dolce vita

    (過去のコメントは以下)
    PALCOM September 16, 2008 8:02 PM
    新入社員の私でさえ危機を感じたというのに、入社5-10年も経った人がなぜわからない? そういう状況でなぜ家を買ってローンを組むのか、なぜ奥さんに意地でも会社を辞めずに出産前の仕事を続けてもらわなかったのか?
    →同感です。むしろ、会社への在籍期間が長くなるほど、危機感が鈍磨するのでしょうか。
    今回のアメリカの金融危機も対岸の火事として捉えている人がほとんどではないでしょうか?しかし、ひとたび事態が進行し始めると、アメリカの金融危機→自社の危機への道のりは案外短いのかもしれません。
    la dolce vita September 16, 2008 10:06 PM
    >PALCOMさん
    コメントありがとうございます。
    >同感です。むしろ、会社への在籍期間が長くなるほど、危機感が鈍磨するのでしょうか。
    どうなんでしょう? まさにだんだん熱くなるお湯に気づけない「ゆでがえる」現象ですよね。
    >今回のアメリカの金融危機も対岸の火事として捉えている人がほとんどではないでしょうか?
    >しかし、ひとたび事態が進行し始めると、アメリカの金融危機→自社の危機への道のりは案外短いのかもしれません。
    今回のニュースは911以来の衝撃でした。 多くの人が、なぜ自分自身の危機として捉えられないのか、考えてみます。
    外国語大好きおじさん September 19, 2008 9:56 PM
    La dolce vitaさん、
    はじめまして!
    ペンネーム「外国語大好きおじさん」です。
    実は僕もla dolce vitaさんと同じシンガポールに住んでいるのですが、いつもブログを楽しく読ませていただいています!
    それにしても、今回のリーマンの事件は、本当に衝撃的ですね!
    アメリカの名門投資銀行が、まさか経営破綻にまで追い込まれることになろうとは、僕には想像さえつきませんでした。
    いろいろ考えさせられる事件ですが、アメリカの金融機関は、日本の銀行がバブルの時の不良債権処理に喘いでいるのを見て、何も学ばなかったのでしょうか?
    やっぱり歴史はしっかり学んで、過去の教訓を汲み取らないといけないな、と改めて痛感しました。
    また、記事でご紹介のあった『チーズはどこへ消えた?』は、僕も以前読んだことがあります。
    本当に示唆に満ちた、素晴らしい本ですよね!こういうご時世なので、この本のことを思い出して、気を引き締めようと思います。
    これからもla dolce vitaさんのブログを拝読するのを、楽しみにしております!
    今後もよろしくお願いします!!!
    la dolce vita September 21, 2008 12:45 PM
    >「外国語大好きおじさん」さん(←こういう場合「さん」は2回必要なんでしょうか?)
    はじめまして、コメントありがとうございます。
    ブログも拝見しました、3ヵ国語とはすごいですね。
    私もフランス語は以前だいぶ勉強しましたが、しばらくアジアに根付きそうなのでもういいかな、と思っておりますが、中国語はできた方がいいような気がしています。
    ぜひ、また遊びに来てください。
    snowbees September 25, 2008 11:03 AM
    >その新卒就職先であった商社は不採算部門の売却などを経た後、同じく下位にいた総合商社と経営統合し現在に至ります。
    +現在の双日(旧・日商岩井+ニチメン)ですね。私は、70-90年代に、中堅の機械メーカーの輸出責任者として、アジア、中東、アフリカなどで同社の多数の「戦友」と戦績をつくったので、いい思い出です。
    la dolce vita September 25, 2008 7:00 PM
    >snowbeesさん
    70-90年代にご活躍とは楽しそうですね。 日本で待っていても同じ時代がやってきそうもないので、アジアで成長体験しようかと思っています。
    snowbees September 26, 2008 3:51 PM
    <農業情報のブログ>エネルギーと並んで、食糧やバイオ燃料などはグローバルな関心事です。このブログは、ほぼ毎日、更新されており、有益です:
    http://www.juno.dti.ne.jp/~tkitaba/index.html
    cpainvestor September 26, 2008 7:28 PM
    la dolce vita 様
    一読させて頂き、la dolce vitaさんの危機意識が醸成されていく過程がよくわかりました。
    やはり同世代としてその意識に共感を覚えます。
    私の場合、実際に会社が消滅してしまい、その時、個々人がどう動くのかを、間近でみてしまったので、「組織」というものをもっと冷めた目で見ているかもしれません。
    お互い、「生き強さ」を磨かなくてはなりませんね。
    la dolce vita September 26, 2008 11:51 PM
    >snowbeesさん
    多くの有益な情報ありがとうございます。 参考にさせて頂きます!
    >cpainvestorさん
    >一読させて頂き、la dolce vitaさんの危機意識が醸成されていく過程がよくわかりました。
    >やはり同世代としてその意識に共感を覚えます。
    コメントありがとうございます。 私は今では氷河期世代でよかったと思っています。
    どんどん自分の仕事がインド人に取られていることにすら気づいていない人々を見ると、思わず大きなお世話ながら「大丈夫〜?」と聞きたくなります。
    >お互い、「生き強さ」を磨かなくてはなりませんね。
    cpainvestor様はすでに十分強いと思いますが(笑)、私は「ドルが暴落してアメリカ政府がつぶれたら、その時は世界中が運命共同体だから、一文無しになってもまたやり直せばいいよね」くらいに開き直っています。
    snowbees October 18, 2008 4:50 PM
    <ウォール街を救う方法>
    マイケル・ムーア=「お騒がせ男」の提言だが、賛成できる部分もある:
    http://blog.goo.ne.jp/harumi-s_2005/e/62766010f2311eff6f9a760fbd325eba

  • ysd

    最近よく読ませていただいてます。
    このエントリーと同じ状況で同じことをla dolce vitaさんが上手く言葉にしてくれてすっきりしました。
    ブログに引用させていただきました。問題あれば削除しますのでお知らせください。

  • la dolce vita

    >ysdさん
    ありがとうございます。
    ほんとだ、状況似てますね。 私はこの経験に感謝しています。
    がんばってください!

  • tkyk

    はじめまして。
    20代社会人三年目@東京のものです。
    入社した年にリーマンショックがありその影響で同期の1/5くらいがリストラになりました。
    自分も不採算部門に配属され、そのあおりで強制的に職種変更を余儀なくされました。
    #職種変更しないと解雇といわれたので、、、
    いまでも再び出向しろと言われるように言われていたりと不安定の中、この記事を通して改めて現状や自分がしたいことについて考えさせられました。
    今後とも何卒よろしくお願いいたします。

  • la dolce vita

    >tkykさん
    >いまでも再び出向しろと言われるように言われていたりと不安定の中、この記事を通して改めて現状や自分がしたいことについて考えさせられました。
    私のブログでは不特定少数の「まるで自分のことを言われているような気になった」人向けに書いています。 tkykさんのような人のお役に立てるととても嬉しいです。 後から振り返って「入社早々、荒波だったからこそ今の自分があるんだな」と思えるようになりますよ。

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