夢さえ追えない時代

結婚5周年に夫とミュージカル“A Chorus Line”(コーラスライン)を見に行ってきました(今日のブログのBGMはこちら)。
ミュージカル好きの母の影響で私は幼少の頃から舞台や映画でミュージカルを観ていました(ブログにもちょこっと書いてます→“CATS”“Mamma Mia!”“Dirty Dancing”)。 ”A Chorus Line”は大好きなミュージカルのひとつで映画でしか観たことがなかったのですが、ロンドン公演がリバイバルしたのです!
水曜のマチネという時間帯ゆえ(乳幼児を抱えた私たちは夜や週末の公演は断念)、アニバーサリーだというのにリタイアしたベビーブーマー達(日本的に言うと「団塊の世代」)と観光客に囲まれての鑑賞。 期待していたダンスはもちろん良かったんだけど、ストーリーに・・・泣いた。

舞台は1970年代のニューヨーク、ブロードウェイ。 コーラスダンサーを選ぶオーディション最終選考に残った17人の若者が、演出家ザックにうながされて、ひとりひとりのライフストーリーを語り始める、というシンプルな筋書き。 スターダンサーの後ろで踊るコーラスダンサーは無名の存在、明日どうなるかわからない不安と戦いながらオーディションに自分の夢を賭けるダンサーたち。 ショービジネスの熾烈な競争の中で夢を追いかけるひとりひとりにスポットライトを当てながら最後には選ばれる者と落とされる者に分かれ、選ばれた個性溢れる彼らが演じるのは個性なきコーラスダンサー。 ・・・という実にビタースウィート(ほろ苦い)な展開。

A Chorus Line at London Palladium初めて観たときは10代でこのほろ苦さは分からなかったなー、このほろ苦さが分かるようになった今は17人のダンサー全員の年を越えてるんだけど・・・(ダンサーの中で、2児の父でダンサーの夢を追いかけている人がいます)。

スティーブ・ジョブスが

You’ve got to find what you love. やりたいことを見つけろ

と説きます(→彼が遺した歴史に残るスピーチ:Steve Jobs Stanford Commencement Speech 2005)。
一方で、元芸人が「夢を諦める才能」を語ります(→日経ビジネスオンライン:夢を諦める才能とは?『芸人交換日記』)。
私が『「好き」を仕事にしない理由』というエントリーを書いたときもTwitterで

ほとんどの人にとって仕事はお金を稼ぐ手段

というコメントが相次ぎました。

私が去年夏に卒業したデザインスクールには15人のクラスメイトがいました(→『The Interior Design School』)。 卒業から9ヵ月経った今、インテリアデザイン業界に職を見つけることができず前の仕事に戻ったクラスメイトが少なくありません。 1年間の授業料£23,000(約330万円)というのは、前職がパワーキャリアではなかった人にとっては相当な投資金額のはずですが、お金と時間の投資にも関わらず好きなことを貫けなかったのは単純に「生活できない」から。 今でも初心貫徹しているのは、ラッキーにも職を見つけることができた人と、夫の収入に月々の生活費を頼ることができる既婚者だけ。

日本でも世代間格差が言われて久しいですが、イギリスでも随分問題になっています(→『イギリスの世代間格差』)。 アングロサクソン系は「18歳を過ぎたら家を出る」などと言われたのも今は昔、ロンドンでは大学を卒業不動産価格の高騰で賃貸すらできず親元から離れられない若者が急増、一方で資産リッチな富裕外国人やベビーブーマーがどんどんキャッシュで不動産を買い上げ、さらに価格が上がるという循環。
自分のデザイナーとしてのキャリアもさることながら、こういう時代の子育てはどうすればいいのか、と答えのない問いに悩みます(→関連エントリー:『20年後に活きるクリエイティビティー』)。

夢が追えた時代のニューヨークの若者たちのダンスと歌に心酔しながら「ひょっとして夢さえ追えない時代になってしまったのか」と完全に移入できなかったビタースウィートな記念日でした。


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