MBAの10年後

以前、『MBAの同窓会』『5年目の同窓会』というエントリーでINSEAD卒業後、5年目の同窓会の話を書きました。 これを書いた時からさらに4年経ちました。 ・・・ということは来年は卒業10周年なんですね。 月日が経つのは早い・・・

日本でのMBA論と言えば東洋経済オンラインで『超一流MBA校で戦う日本人』という勇ましい連載がありましたが、とうの昔に卒業し、MBAキャリアからは程遠い道を歩んでいる私にとっては、MBAは終着駅でも人生最大のイベントでもなく新しい旅路の始まりです。 今でもMBA生活を一緒に過ごした友人たちの動向を知るたびに懐かしい気持ちになり励みになります。

そんな折、私が行ったINSEADでOB(Organizational Behavior、組織行動論)の教授が”Memoirs of Life and Work a Decade after an MBA”(MBAの10年後のメモワール)と題したケースを執筆したそうで“Is There Life After an MBA?”(MBA後に人生はあるの?)という記事がINSEAD友人たちの間でシェアされていました。 ちょっとおセンチになってる感はありますが、なかなか良かったので訳して紹介しておきます。
自身もINSEADでMBAを取得したこの教授Jennifer PetriglieriはClass of 2002(2002年卒業生)19人にMBA後の10年間の生活を振り返ってもらいそれをまとめたそうです。

MBA卒業生のステレオタイプはこんな感じだろう – イタリア製のオーダーメイドのスーツを着たビジネスマン、Excelに埋没して寝不足、戦略コンサル(もしくは多国籍企業か銀行)の出世階段を昇るためにいつも空港から空港へと飛び回りマイルは貯まる一方。 たんまりもらう給料と引き換えにプライベートはほとんどない、次から次へと大型ディールを扱うことに喜びを感じる。

ところがインタビューの結果、MBA後10年の人生ストーリーはこんな紋きり型には納まりきらず、もっとバラエティに富んでいた。

MBA後に夢のキャリア、グローバル企業のCFOへの道を邁進し始めたChloeは、友人と始めた小さなウェルネスビジネスのマーケティングの仕事に進み、さらに妊娠中に、遠距離婚だった夫と同じ都市に住むために転職した。

家族のためにワークライフバランスが取れるマドリッドに越したDavidは会社の株主と経営者の板挟みになって失職し、自分にとって意味のある仕事、ボルボ・オーシャンレースを主催する仕事、を見つけた。

Eddyは多国籍企業内で何度も海外転勤を繰り返したが、今は子どもたちが良い教育を受けられ、年老いた両親の近くにいられるワークライフバランスが取れる街に落ち着くことにした。

戦略コンサルティングファームに勤務中、パリの空港で心臓発作で倒れたGeorgesはコンサルを辞め、ワークライフバランスが取れるエネルギー企業で、もっと意味がある仕事、地球温暖化の課題に取り組むことにした。

このインタビューを通して見えてきたことは、彼らの話から名前を隠してしまうと、ほとんど男性なのか女性なのかわからないことである。 ともすれば人は男女は違うキャリア志向を持ち、違うジレンマを持ち違うキャリアを選ぶように思いがちだ。 でもこの19人を見ていると、彼らは同じようなジレンマを抱えている、ひとつは自分の仕事が意味のある仕事なのか、というジレンマ、もうひとつはワークとライフのバランスを取るというジレンマである。

この2つのジレンマについては本当に思い当たる節があります。
授業ではこのケースを読み、10年後の自分が書くであろうストーリーを書くそうです。 冒頭に出てくるステレオタイプのライフスタイル、長く続けられるもんじゃないんですよねー、私もこういう生活してましたが。

ところで、MBAについては古賀洋吉さんの『MBAとはどういう教育なのか』というエントリーがいいです。 私は今まで「MBAで得たものは何ですか?」と聞かれてもうまく答えられず「一生の友達」とか「夫」とか答えてました。 「高校のバスケ部で得たものは?」「腰掛け入社の会社で得たものは?」と質問を変えても使えるような答え。 今度からは「決断の訓練をした」と答えようっと。

もうひとつ以前、『MBA女性の10年後』『MBA女性の10年後 – 王道対策編』という類似エントリーも書いています。 こちらは男性と女性の持つジレンマはやっぱり違う、という話ですが。


5 responses to “MBAの10年後

  • Kayo Yoshida

    クローデン様

    初めまして、INSEAD在学中の吉田佳世と申します。いつもブログを楽しく拝読しております。

    突然ですが、実は私もこのJenniferの授業に参加した一人です。このケースが学生側からどの様に捉えられたのか、私個人の感想も是非この場でシェアさせて戴ければと思い、コメントさせて頂いております。

    原文の記事でも触れられていましたが、このケースの特徴は、編集者の手が加えられておらず、19人の卒業生それぞれの文体がそのまま残っている事だと思います。その為、彼らのキャリアやライフスタイル以上に、その文章から溢れ出る人柄が印象深く、彼らがどんな人物なのか、様々な想像を掻き立てられました。クラスディスカッションでも、「この人は今の仕事にやりがいを感じると書いているけど、実際は自分でもまだ悩んでる気がする」、「この人はこの選択をまだ後悔してるんじゃないのかな」、「この人はこれを書いているときどんな気持ちだったんだろう」など、行間を読むディスカッションが多かったです。その為、10年も先輩である書き手の方々がとても身近に感じられ、その後自分たち自身の10年後を見つめる際には、「MBAを卒業したらかくあるべき」という思い込みの呪縛から逃れ、より現実的な人生計画を立てる事が可能になったと感じます。結果、卒業を2ヶ月後に控え就職活動が一番ヒートアップしている時期に、一度立ち止まって自身の将来を考えるとても良い機会となり、この1年間で一番心に残る授業となりました。

    以上、突然の長文コメント失礼致しました。今後もブログを楽しみにしております!

    • la dolce vita

      吉田さん
      現役生からのコメントありがとうございます。

      >一度立ち止まって自身の将来を考えるとても良い機会となり、この1年間で一番心に残る授業となりました。
      面白いですね、私の20代後半なんて10年後のことを考えても、自分がどこにいるのか、誰といるのか、何をしているのか、想像もできなかった頃でした。

      >「MBAを卒業したらかくあるべき」という思い込みの呪縛から逃れ
      周りを見ているとひとつ言えるのは、いわゆるMBA jobではなくMBAに来る前からずっと「これやるんだ」とバカのひとつ覚えのように言い続けていた人が10年近く経った今もそれをやっている(そしてハッピー)、ということです。 Nickとか↓

      友人の成功


      それが見つからないから彷徨うわけですが。

      もうすぐ卒業ですか? これからいろいろ楽しみですね。

  • Snowbird

    初めまして。今年始めに偶然シンガポール関連のキーワードでこちらのブログを知ってから半年、過去のエントリーからずっと順に読んできて、やっと現在に追いつきました。リンク先の記事やブログも殆ど読んだのでずいぶん時間がかかりましたが、こちらのブログをまとめて読める週末が待ち遠しかったものです。こんなに内容の濃い文章を書き続けられて来られたla dolce vita さんに深い深い尊敬の念を抱かずにはいられません。

    さて、私も欧州のMBAを卒業したのですが、昨年卒業十周年を迎えました。ちょうど一年前の同窓会に出席した記憶も新たな上、夫がla dolce vitaさんと同じビジネススクール卒で、つい一ヶ月前に Fontainebleauでの同窓会に同伴参加してきたのもあり(シャトーでのパーティは現役生の若さが炸裂していて、そのエネルギーが眩しかったです…一番時の流れを感じたかも  笑)とてもタイムリーな記事でした。
    おっしゃる通り、MBA卒業10年後のキャリアは千差万別。
    コーポレートキャリアを邁進してインベストメントバンクのマネージングディレクターや大手戦略コンサルティングのパートナーになった人も、いることにはいますがごく一握り。中小企業のマネジメントや大会社のディレクタークラスが一番のボリュームゾーン。MBA以前のキャリアに縁の深い分野で活躍している人が目立ったのが印象深かったです。その他には、起業した人 、NGOを立ち上げた人、レストランオーナー、フリーランサー 、家業を継いだ人、専業主婦/主夫(La dolce vitaさんが前に書かれていた通り、国をまたぐ旦那さんの仕事の都合かつ経済的余裕&子沢山なのもあり、 full time mumは意外に多い)、学者、公的機関勤務 (金融庁等の規制当局勤務も数人)等、勤務先も形態もバラエティに富んでいますが、卒業後年数を追う毎に、出身国に戻る傾向はあるようです。(子供の教育という側面が大きいのかもしれません)。そして残念ながら、自ら、もしくは家族が重い病気を患いスローダウンしている人も数人いるようです。まあMBAだろうと何だろうと人生色々あるのはどこも同じですね。

    そして私の代に数人いた日本からの企業派遣の同級生は、全員未だに同じ会社に勤務し、国際的に活躍しています。拘束期間はとっくの昔に切れているので、会社としてはいい投資だったのでしょうね。彼らもそれぞれ思い悩んだ時期があるのを知っているので、今の充実ぶりは嬉しい限り。

    MBAを期間と費用の投資として見たときに、元が取れているか言う問いにはどうでしょう… 全体で見るとギリギリプラスなのか。ただ、私も含め、そういう観点でMBAの経験を評価している人はごく少数のような気がします。卒業時は、911の後で就職が厳しかったとはいえ、インベストメントバンク、コンサルティングが花形の人気就職先で、さあ学費を取り返すぞーと、 卒業と同時に鼻息荒く飛び立って行く人が大勢いました。少々荒っぽいですが、MBAの十年後を総括すると、それぞれの持ち場で責任ある仕事を持ち、 地に足の着いた生活をしている人が多い…といった感じです。もちろん例外もあり、未だにエネルギッシュに弾けている人たちもいますが。10年後はどうでしょう?

    面白かったのは「10年前と全然変わらないねー!」とお互い言い合いつつも、集合写真をみると、しっかり40歳前後のボリューミーな集団でした。(笑

    • la dolce vita

      >Snowbirdさん
      初めまして、全部読まれたのですか? すごいですね、ありがとうございます。

      INSEADの10周年同窓会に行かれたのですね、私たちも来年10年なので書かれていること全部、私の周りにも当てはまります。 家庭持ちはやっぱり子どもの学校の関係で落ち着いてきてますね、まだシングルで世界を飛び回ってる人もいますが。

      >「10年前と全然変わらないねー!」とお互い言い合いつつも、集合写真をみると、しっかり40歳前後のボリューミーな集団でした。(笑

      わかります(笑) 参加率はどのくらいだったんでしょう? 年を経るごとに減るらしいですが。 5周年はたしか50%超えてたと思います(遠いほどやはり参加率が減る)。
      いずれにせよ、こういう経験を共有した仲間たちが世界各地にいることは素晴らしいことだと思います。

  • Snowbird

    la dolce vita 様
    コメントありがとうございます。参加率は忘れてしまいましたが、5年目組とは盛り上がりも人数も大きく違い、5年前に参加した夫の同級生は、「俺たちも5年前はああいう感じだったんだよ」と半ばうらやましそうに言ってました。確か15年目以降の同窓会からは、5年目組と10年目組とは別の日程らしいですね。たしかに若さ爆発の現役生のパーティに参加するのがつらくなってくるかもしれません。(笑)
    おっしゃる通り長い人生の中のごく短い期間ではありますが、とても濃い時間を共有した友人たちが世界のあちらこちらにいるのは何ものにも代え難い財産です。

Leave a comment