ついにNickが・・・と目頭を熱くしたのは、私だけじゃなかったと思う。
INSEADで出会ったNickはシドニー出身、MBA留学前は戦略コンサルタントで出張・残業が続く激務をこなしていました。 とてもチャーミングでおおらか、誰にでも愛される性格で、彼の周りにはいつも笑いが絶えませんでした。
MBAではMBA学生を卒業後に採用したい企業が卒業前にキャンパスに来て面接をし、採用通知を出していきます(オンキャンパスリクルーティングという)。 リクルートスーツを着た友人がキャンパス内を闊歩し、戦略コンサル・投資銀行を初めとする常時MBA採用している企業から留学前の2倍近い給料とボーナスをオファーされているのを見ると誰でも落ち着かなくなります(今のINSEAD後のキャリア・データはこちら。 卒業後の給料は平均€86,200、サインオンボーナスは€17,000。)。 多くの学生は多額の学費をローンで賄って来ているので、「3年だけ」、「自分が何がやりたいかわからないからとりあえず」と言って目の前に出されたオファーに目がくらみ就職していきます。 基本的に、ambitious(野心的)なhigh achiever(成績優秀者)ばかりなので、競争意識も働くのでしょう(→『MBAの同窓会』)。
そんな中、Nickはオンキャンパスリクルーティングにも行かず、「何かわからないけど、何か自分でビジネスをするんだー」とずーっと言っていました。 そして卒業後はロンドンのサンドイッチ屋でバイトを始めました。 私たちが卒業したのは2004年、2007年にバブルがピークに達するまで投資銀行がこの世の春を謳歌し、ヘッジファンドに就職した同級生は1億を超える年収を稼いでいました(こんな時代があったんです→『外資系戦略コンサル vs. 投資銀行』)。
そんな中、彼は弟・妹・妹のボーイフレンドの4人でフラットをシェアしながら、サンドイッチ屋でバイトし飲食店の経営を研究しながら事業計画を練っていました(途中でサンドイッチ屋からコーヒー屋に計画変更)。 生活費はもちろん超節約。 この頃会ったときのことを覚えています。
2008年当時シンガポールに住んでいた私たちがロンドンから遊びに行ったとき、たまたま同級生10人くらいが集まってディナーをするというので私たちも参加、メンツのほとんどがインベストメントバンカー。 場所は高級住宅地サウスケンジントンのワインバー、バブル崩壊後だというのに1人が高いワインをバンバン注文し、私たち夫婦は「お会計はいくらになるのか?」と青ざめていました。 友人が多いので、こういう集まり事には必ず呼ばれるNick、「ボクは食べてきたからビールだけにしておくよ」とひとりビールを注文、スマートに別払いしていました。 まだ起業したばかりで事業が軌道にのっていなかった彼には、同級生と付き合っているとこういうことばっかり起こるんだろうなー、と思ったことを鮮明に覚えています(この集まりの前に書いたブログ→『すべては一杯のコーヒーから』)。
初期投資を押さえるためにフードコートの一角を間借りする形で始めた彼のコーヒーショップTaylor St Baristasはロンドンにやってきたオージーコーヒーブームの先駆者のひとつとなり、初めはゆっくりと、そして次第に早いスピードで店舗は増えていきました(2009年→『オージーコーヒー、ロンドンを席巻(間近か?)』)、2010年→『コーヒードリーム花開く』)。
そして、ついに去年(2012年)、Nickが経営するTaylor St Baristasがマジョリティー、イギリス最大のスーパーTESCOがマイノリティー出資する形で、新たにHarris + Hooleというコーヒーショップを立ち上げたのです。 巨大資本のバックアップを受けたHarris + Hooleは急速にハイストリート展開を進め、立ち上げから半年ですでに10店舗オープンしています。
Nickの顔をテレビや新聞などマスメディアで見ることも多くなりました。 「マスマーケット対象である巨大ブランドTESCOが自らの名前を隠して’artisan’(アルティザン)コーヒーショップを所有している」、というネガティブ・パブリシティに晒されているからです。
The Guardian : Tesco’s coffee shop chain to go under Harris and Hoole banner
BBC : Tesco effect: How big firms quietly own little brands
London Evening Standard : We had to take Tesco’s cash to launch our coffee shops but the values are down to us
昔、(たしか成功本で有名な神田昌典さんの)本で成功曲線を見たことがあります。 記憶が朧げですが・・・ 初めは地面を這いつくばるような曲線(というかほぼ直線)で、苦労してもなかなか芽が出ません。 でもそれでも続けていると、途中から突然カーブが上向きに急にになり、メディアに出るようになり、成功が成功を呼ぶようになります。 他人はカーブが上がり出してからしか見えていないので、「突然成功した」、「運がよかった」などと好き勝手なことを言うけれど、実は長い長い芽が出ない期間がとても重要だ、という話。
私たちがINSEADを卒業してから今年で9年(!)。 「何かわからないけど自分で何か事業をやりたい」から始まって、自分を信じて貫き通して、折れそうになりながら、それでも信じて貫き通したNick。 「すごいなー」なんて人ごとのように言ってないで、私もこれからの這いつくばり期間がんばります。
今までブログにはNとイニシャルで書いていましたが、Harris + Hooleを立ち上げてから表に出るようになったので、Nickと本名で書きました。 ここ、4人兄弟のうちの上3人で立ち上げてるんです(Nickが長男、シドニーに残っているのは一番末っ子の妹だけ)、本当に仲がいい素敵な兄弟です。
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