赤ちゃん連れの飛行機 – イギリス編

2週間くらい前に全国の赤ちゃん連れを震え上がらせたこの記事(→『再生JALの心意気』)、「飛行機に乗ったら赤ちゃんの泣き声がひどくてブチ切れたのでJALにクレームを入れた」という漫画家さかもと未明さんの記事です。
2周くらい周回遅れだけど気になっていたのでイギリスの話。

なぜイギリスの話を出すかというと、別にイギリス賛美をしているわけではなく、社会が非常にロジカルに構成されているから。 社会が阿吽の呼吸で動いているのではなくロジック(論理)で動いているため納得感があるし説明がしやすいのです(ロー・コンテクスト文化については以前もこちらに書いています)。
Public Choice Matrix『当事者性と専門性』に引き続き2 x 2マトリックス登場。
社会はこのような場によって形成されていると思います。 縦軸はその場がパブリックであるかプライベートであるか。 横軸は赤ちゃん(or 幼児)連れにとって、その場に行かない(もしくは人に預けて出かける)という選択肢があるかないか。

①はパブリックな場であるが、赤ちゃん連れにとって他の選択肢がある場合。
②はパブリックな場で、かつ他の選択肢がない場合。

例えば、乳幼児お断りのレストラン・ホテルなどが①。
イギリスの宿泊施設には「12歳以下お断り」など明記してある場合が多く、レストランはバー(お酒を提供する場)としての営業ライセンスしか取得していない場合は、夕方6時以降は子供は入れません。
明示してくれると親としては非常〜にラク。 もちろん静かな環境を楽しみたい他の宿泊客やレストラン客の邪魔をする気は毛頭ないし、他にChild friendlyな施設がたくさんあるからです。

②の代表的なものが公共交通機関、これは飛行機も含みます。
赤ちゃんに限らず特定のグループの使用を拒むことは、社会の構成員の一部を差別することに等しいため、誰でも利用できるようになっています。 世界で一番古い地下鉄であるロンドン地下鉄駅は車椅子やベビーカーの利用を想定してつくられなかったため、それはそれは階段だらけのバリアフル。 中には乗り換えに螺旋階段しかない、というようなひどい駅(Bankのことですが)もあります。 そこはインフラの不足は人力で補います。 ベビーカーで駅の階段を利用しようとすると”Do you want a hand?”(文字通り「手いる?」)と声をかけられて四方八方から手がのびてきます。
他のイギリスと子どものエントリー:『助けてほしいときは頼めばいい(?!)』『Art of Parenting – 日本人 vs イギリス人』『フォーク並びを活かした社会』『犬と子どもとイギリス人』

③はプライベートな集まりで赤ちゃん連れにとって他の選択肢がある場合。
日本の結婚式は招待状の宛先の個人のみが招待されますが、西洋の結婚式は基本的にパートナーは誰であってもウェルカム(配偶者、婚約者だけでなく、ゲイ・レズビアンのパートナーや場合によっては異性の友達でも)、子どもも基本的にはウェルカムです。
ただし、たまに「子どもお断り」の結婚式があります(私は子どもお断りの結婚式に招待されたことはありませんが、招待された友人が預け先に悩んでいるケースがよくあります)。 個人的には「冷たいなあ」と思いますが、一生に一度の晴れ舞台を子どもの泣き声にかき回されたくない、子ども用のメニューなど設備を準備するのが面倒、という人がいることも理解できます。 このような場に招待された場合、(コストはかかりますが)子どもを預ける、または出席を辞退するという選択肢があります。

④はプライベートな場で他の選択肢がない場合。
オフィス(仕事場)くらいしか思いつきませんが、子どもを連れていけず預け先もない場合。 そのような場に出かけること自体をあきらめるしかありませんが、公共性が低く、部外者禁止の必然性があるため②ほど問題とはなりません(預け先がないのは、それはそれで社会問題ですが)。

こうやって見ると、イギリスでは②の場合、人々はとても寛容です、社会の構成員全員がパブリックの場を利用できるのは当たり前のことだからです。 車椅子の人が車椅子なしでは移動できないのが当たり前であるように、まだ歩けない乳幼児がベビーカーを利用するのは当たり前で、泣き声がうるさくても表立って「乗せるな」という人はあまりいません。 うるさいと思っても「乗るな」とは言わないのは、弱い構成員をみんなで受け入れるのが大人ってもんだから。

この記事が恐ろしかったのは、社会にとってマジョリティであるもの・強いものが優先され、マイノリティ・弱いものを排除しているように感じたからなのでした(→『’different’と’wrong’』)。


6 responses to “赤ちゃん連れの飛行機 – イギリス編

  • NWtyger

    さかもと未明さんのコメントを読んで、自分の自己中性と非常識を公表することは漫画家としてPRになるのかな、と深読みしてしました笑。これだけ公共性の理解に欠けているんだぞ、と世間さまに大声で言うのは度胸がいる?

  • NWtyger

    Ooops! ”深読みしてしまいました”

  • Miffy

    欧州MBAを修了した後、つい半年前に日本で出産した者ですが、住居最寄りの地下鉄広尾駅にはエレベーターがなく、ベビーカーを持ち上げて階段を昇降して地下鉄を利用しています。原則日本人の男性は見て見ぬ振り(or気付かない?)でたまに手伝いましょうかと声をかけてくるのはみな外国人です。また妊娠中も公共交通機関で席を譲ってくれるのは決まって女性で、男性に声をかけられた事は一度もありませんでした。最近は地下鉄でベビーカーのまま乗る事に対する批判もニュースで取り上げられるなど、日本(特に男性の意識として)ってつくづく弱者排斥の国だなあと実感する毎日です。

    • la dolce vita

      生後6ヵ月はかわいい時期ですね〜 おめでとうございます!

      >住居最寄りの地下鉄広尾駅にはエレベーターがなく
      私も妊娠中に帰国したとき、最終日に大きなお腹でスーツケース持って成田に行かなければならなかったのですが、エレベーターがない駅でスーツケースを運んでたら白人ビジネスマンが運んでくれました。 その人、明らかにものすごく急いでましたが。

      >妊娠中も公共交通機関で席を譲ってくれるのは決まって女性で、男性に声をかけられた事は一度もありませんでした。
      これはロンドンもそうなんです。 男性は気づいたらすぐ譲ってくれますが、気づくことが少なく(特に妊婦バッジみたいな小さいもの全然見てない)、女性の方が圧倒的に気づいて譲ってもらえることが多かったです。 このへんは当事者と非当事者の違いでしょうか、お腹が少々大きくても想像力が及ばないというか。

      • Miffy

        コメントをいただきありがとうございました。この記事でご指摘のイギリスの例と比べて、またこの漫画家さんの記事から思うに、日本って社会の根底に流れるメンタリティーが比較的子供だなと思いました。ちょっとお話が飛躍して申し訳ないのですが、この子供じみたメンタリティーを思うと少し前の日経新聞の記事を思い出しました。内容は、某都銀が、育児休暇中の女性社員を対象に、産休育休を濫用しないように、「甘えるな」、とカツを入れたという内容です。
        http://www.nikkei.com/article/DGXBZO48367160T11C12A1WZ8000/
        この記事には様々な意見がありますが、私の第一印象として、社員を1人の大人として扱っておらず上から目線でものを言うなあ、というのと、外資系企業なら、せっかく苦労して採用した能力の高い女性をつなぎ止めたいというタレントエクイジョンの一環として手厚い育児支援制度を設けるところが多いのですが、この日本企業の場合は社員=コスト、子供であって上から目線の規則で言い聞かせるものというニオイがしてなりません。やはりここでもメンタリティーが子供だなあと。長文失礼しました。

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