ロー・コンテクスト社会の育児中の働き方

日経ビジネスオンラインで久しぶりに1ページに10回くらいうなずいてしまうこのコラム、『英語の公用化って何?』。 著者の河合江理子さんはINSEADの大先輩です、面識はありませんが。
特に全部蛍光マーカー引きたいくらいだった『英語ができても、意思が通じるとは限らない』から抜粋。

私が今でも意識しているのは、アメリカの文化人類学者であるエドワード・T・ホール氏による「『ハイ・コンテクスト文化』と『ロー・コンテクスト文化』についての概念」である。 コンテクストとは、ざっくりと言えば、状況や背景(バックグラウンド)を指す。
ハイ・コンテクスト文化圏としては、フランスなどのラテン系やアジアなどが当たる。 こうした地域では共通の価値観が長い間かけて作られているため、「いちいち言葉で伝えなくても、お互いに相手の意図を察し合うことでコミュニケーションが成り立つ」というのがホール氏の解釈だった。
一方、アメリカやドイツなどは、ロー・コンテクスト文化圏に属する。 こうした国々の人とは、理論的に説明しないと意思疎通できない。 移民国家は、たいていロー・コンテクスト文化である。
ちなみに、日本は「典型的なハイ・コンテクストの国」とホール氏は指摘していた。 実際、日本には「阿吽(あうん)の呼吸」や「空気を読む」といった独特の表現がある。 言葉を使わずに相手の言いたいことを理解するのは、高いレベルのコミュニケーションスキルと言える。


私にとっても直近の課題として「子どもが小さい場合の働き方」があるのですが、日本では「小さい子どもがいる女性は残業も出張もできない、子どもが病気になると家で面倒みるために治るまで休む可能性があるので責任ある仕事は任せられない」と親切に「配慮」してくれるらしいですが、どういう働き方したいかって人によりますからねー、先回りして空気を読んだりせずに聞けばいいんですよ、本人に。
「育児中の女性」とひと言で言っても、家事・育児全面的に住み込みのナニーに任せて平日は朝7時から夜10時まで働き(子どもを見るのは寝顔だけ)、週末は家事がない分たっぷり家族で過ごす投資銀行勤務の中国人Y(→こちらこちら)、娘の誕生を機に父親が専業主夫になったロー・ファームでパートナー(共同経営者)を目指すイギリス人L(→こちら)のようなハード・コア系もいます。
ここで「住み込みナニーや専業主夫がいなきゃ無理でしょ」と(本人に聞かずに)気を回すなかれ。 子どもが生後6ヵ月の時に10日間の出張が入ったため、その間日本から母親を呼び寄せたシンガポール在住日本人Sのようなケースもあります。 責任ある仕事をする代りに高給を得ている彼女たちは親を呼び寄せるチケット代なんて家庭を切り盛りするための必要経費なのです。
そこまでいかなくても実家の近くに移り住んだり、近所にいざと言うときに緊急でも頼れるママ友やベビーシッターを確保したり、みんなたくさん工夫してます。
一方で、「フルタイムではなく週3日働きたい」「朝は夫が子どもを保育園に送るので8時から働けるけど夕方はお迎えがあるので4時で退社したい」、個人によってニーズは異なります。
私のイギリス人ママ友達も続々と職場復帰し始めました。 イギリスでは16歳以下の子どもを持つ親は”flexible working”を雇用主にリクエストする権利があります(→Direct.gov: Who can request flexible working?)。 よって彼女たちは育休中も数回会社に行って上司(+人事)と面談をし復帰後の働き方を話し合っていました。 結果、メディア企業でアカウント・マネジャーをするAは週5日のうち2日は時短勤務をすることになり、プライベート・バンカーのSは「週5日勤務と変わらない結果を出すから」とネゴした結果、給料減なしの週4日勤務(金曜は休み)になっています。
イギリス人は子どもが小さい頃は週3日、4日勤務にスローダウンさせることが多いので、来週から息子が通うナーサリー(保育園)は月曜と金曜が空いています(『ロンドン保育事情』に書いた通り3歳以下の公的保育がなく私立保育は高額なので「キャリアをキープするために働くけど、どうせ給料のほとんどがチャイルドケア代に消えるならトーンダウンしたい」という人が多いためと思われる)。 なお、週3日勤務になっても同一価値労働であれば比例で減るだけです。
ダイヤモンドオンライン:正社員と非正規社員の差別がなくなると何がどう変わるのか – – イギリスの労働者視線で見た「同一価値労働同一賃金」の恩恵と日本への教訓
なお、なぜ育児中の「女性」に限るのかも疑問で、育児中の「男性」もできるだけ子どもと長く時間を過ごしたい気持ちに変わりはないはずです。 例えば、うちの息子は(予定では)朝7:30に起きて夜7:30に寝るので、この時間帯を逃さないために、夫は(以前は出張が多いプロジェクトをしていましたが)出張のないプロジェクトを選び、ミーティングのない限り早めに帰って息子と遊んだ後、家でまた仕事したりしています(このレベルだと上記”flexible working”ではなく個人の裁量に任されている)。
なので、空気を読んだり先回りして配慮したりせずにイギリスの会社みたいに聞いてみてください。 意外といろいろなオプションありますから。
それでも「子どもの病気などの可能性があること自体がリスク」なのかもしれませんが、そこまでいくと『羮(あつもの)に懲りて膾(なます)を吹く』世界で、結局全体としての生産性を下げているだけなような。 そもそも「小さい子どもを持つ可能性」なんて(男性も女性も含めると)少子化と言えどまだまだ人口のマジョリティーのはず(あ、だから少子化なのか、鶏と卵?)
ハイ・コンテクスト文化とロー・コンテクスト文化の話はこちらも→『個人社会と家族社会』


6 responses to “ロー・コンテクスト社会の育児中の働き方

  • SManagement

    こんにちは。 ようこさんのブログこそ、毎回10回くらいうなずきながら読ませていただいております。 
    ”あつものに懲りてなますを吹く” の例、現在子供をアメリカの現地校と日本の補習校に通わせておりますので、笑ってしまうほどよく違いがわかります。 例えば、アメリカの現地校は連絡事項は全て電子メール、受け取れなくて困る人が少数いてもその人の問題、大多数の人の利益を優先しましょう、というスタンスです。
    一方、日本の補習校では、自分のメールアドレスが他人に知られるのがいやだという苦情が数年前に一件あったり、電子メールだと見ない人がいるからという理由で、連絡事項は未だに電話での伝言ゲームだったりします。 これって、少数の困る人や、苦情に合わせて全体の生産性を落としていませんか?と思うのですが、意義を唱えてはいけないという ”ハイコンテクスト” な雰囲気。。  連絡事項はしっかり保護者に徹底している印象はあります。 アメリカの学校の場合は、わかってない人は全然学校で何が起こっているかわかっていない。

  • globetrotter

    よーこさん、リクエストに応えて頂きありがとうございます。
    私がビジネススクールに行く前に働いていた米系の会社でよく目にしたのは、30代半ば~後半でExecutive Directorレベルになってから出産し、復帰。産休前にすでに結構なポジションにいたので、社内でもレバレッジがあり、復帰後もある程度個人の裁量で育児と両立しながら仕事ができる、というものでした。上記のブログで書かれていたお友達のケースも大体こんな感じだったんでしょうか?
    逆に20代後半で産休に入ってしまうと、まだまだジュニアなので、復帰しても、社内でのレバレッジが無く、両立が難しいため、数ヶ月でギブアップして、育児を優先するために会社を辞める、というケースがとても多かったです。
    出産前に仕事を辞める、または、復帰後すぐに辞めて、しばらくしてからの就職活動ってどんな状況なんでしょう?そのあたりのサンプルはありますか?私が知っているいくつかのケースでは、金融→MS in Finance→金融→育児→一時復帰→不動産エージェントとか、MBA→育児→GMATのオンライン講師とかありましたが、以前と同じような職種で一線で働くようなケースって、MBA女性にはどれだけ現実的なんでしょうか・・・?

  • Sunshine

    10月18日の日経新聞夕刊「キャリアの軌跡」という欄に津坂美樹さんが載っておられました。
    彼女のような方に、キャリアと子育てをどのように両立したのか
    ご主人を含めて、子育てのフォローはどうされたのか?
    又、三人のお子さん達は母をどう見ているのか?
    などどいう話が伺えれば
    これから、家族とキャリアを両立したい優秀な女性にとって
    バイブルとなりそうですね。

  • mignon1117

    毎回、内容の深いエントリーに、こちらも何度も頷きながら読んでいます。
    日本においても、一部の外資系企業(金融やコンサルなど実力主義が徹底している所)では、ハード・コアなワーキングマザーが結構いると思います。コンサル時代の私の上司も、そうでした。もっとも、彼女の場合は、NY帰りという背景がありますが。。
    おっしゃる通り、小さな子供がいようが、どう働きたいかはその人次第だし、周囲にこれまでの実力を認められている人の意思も意外と通りやすいと思います。日本の労働環境は、形式や前例の有無を気にしすぎることが、かえって出産後も働きたいと思う女性の労働意欲を殺いでいるように個人的に思います。
    職務の内容にもよりますが、別に働く場所はオフィスで顔が見えやすい場所でなくても良いと思いますし、「結果を出していれば、どこでいつ何をしていようがあまり関係なし」といつも思っていました。

  • la dolce vita

    >SManagementさん
    コメントありがとうございます!
    「カリフォルニアとチェコプラハを拠点」とは素敵ですねー 私もいつか複数地を拠点にしたいです、移動が大変でしょうが。
    >”あつものに懲りてなますを吹く” の例、現在子供をアメリカの現地校と日本の補習校に通わせておりますので、笑ってしまうほどよく違いがわかります。
    例をありがとうございます。 すごくよくわかります。
    日本のプレイグループに通っているのですが、すごくオーガナイズされていて毎回お当番が決まっていてしかもみんなそれを守っているのです! 一方、現地のプレイグループは数名のボランティアに頼りっきり。 ボランティアがちゃんと出るところはエラいのですがお当番なんか決めてもカオスになるだけだろうなー
    >globetrotterさん
    今月末にハロウィーンでロンドン在住INSEAD + Babiesで集まるので、その時にもっとサンプル集まると思うのですが、その前に書いちゃいますねー(・・・と言い続けて数週間。 ごめん、めちゃ忙しくて) ちょっとお待ちを。
    >sunshineさん
    permanentに日本に戻られたのでしょうか?(一時帰国かと思ってました)
    >10月18日の日経新聞夕刊「キャリアの軌跡」という欄に津坂美樹さんが載っておられました。
    教えて頂きありがとうございます。 それはぜひ読みたいですね、ご本人にも連絡を取ってみようかと思っています。

  • la dolce vita

    >mignon1117さん
    >日本の労働環境は、形式や前例の有無を気にしすぎる
    そうですねー 私は日本の大企業に長くいたので「前例がないから○○しない」ばっかりでしたねー 「前例がないから投資しない」とか(笑)。
    日本みたいに「お付き合い出資」「横並び出資」が多い国ってあるのかなー? 誰も見つけていない原石を真っ先に見つけることに喜びがあるんじゃないか?といつも投資ポリシーの根本を疑っていたことを思い出しました。

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