ポスト大統領選のサバイバルガイド

11月9日の朝、起きて目にした光景は本当に6月24日を再生しているかのようでした。
大外れだった事前予想も、不安が悲鳴に変わっていくFBフィードも、確定後に起きた、訳知り顔の評論家の解説も、若者たちの反トランプデモも、米各地で起きたヘイトクライムも・・・

BBCで”US Election 2016: A survivor’s guide to unexpected voting results”(2016年米大統領選:予期しなかった選挙結果に対する生存者のガイド)という記事がありました。 今回の選挙結果に大変ショックを受けているアメリカの市民に対し6月の英国でのEU残留・離脱を問う国民投票の結果に同様にショックを受けた先人(survivor)からアドバイスする、という内容です。
その中で、予期せぬ選挙結果から受けるショックとそのショックから立ち直るプロセスに、身近な人の死の”grieving process”(喪失による悲嘆のプロセス)が例えとして使われていますが、私もBrexitでは同じような喪失感を感じました。 自分が住む慣れ親しんだ場所 ー 自由で進歩的で多様性があって寛容で未来志向で外に開いた場所 ー と信じていた場所が、自分の周りの小さな世界だけで、自分の狭いサークルから外に出るとそうではない、という事実を知ることは、自分が信じていたその国の価値観(*1)を根底から疑わせるものであり、人によっては自分がその国をホームと呼ぶことに決めた自分自身の決断の是非まで疑わせるものです。
*1・・・参照:『国の価値観と個人の価値観』

悲嘆のプロセスは次の5段階を経ると言われています。
1. 拒絶:こんなことが起こるなんてあり得ない
2. 怒り:どうしてこんなことが起こったんだ? いったい誰のせいなんだ?
3. 交渉:なかったことにしてほしい、そうしてくれればXXするのに。
4. 鬱:悲しすぎて何も手につかない
5. 受容:起こったことを受け入れられる

私もBrexit決定直後は1.拒絶と2.怒りの思いでいっぱいでした(*2)。 今は5.受容の段階に入ったか、入ってないのか、というところです(それについては後日改めて)。
*2・・・参照:『Brexitというパンドラの箱』

まず、ショックを受けたのならばショックを受けたと認めていいと思います。 動揺をしていないフリ、「これよりひどいことは過去にもあった」と大人のフリをする必要はないです。
ひどいショックを受けたのであれば、同じ体験を共有していない全くの部外者からの「都市部エリートが一般庶民の鬱積した怒りを無視し続けた結果だ、ざまあみろ」的なコメントもひとまずスルーしていいと思います。 その人たちは、「私たちの家族は国外追放されるのだろうか?」、「母国での同性愛者迫害から逃げるためにここに来たのに、地球上に行くところはないのか?」と言う、私の周りにもあなたの周りにもいるマイノリティーが真に感じている不安・恐れなど人ごとだからです。 

私の周りには小さい子どもがいる家庭が多いので、「自分もショックだけど、子どもがすごくショックを受けている。 子どもにどう説明すればいいのか?」という悩みが多く、子どもにどう伝えればいいのか?を指南した記事をシェアしている人も多くいました。
The Guardian: How to tell the children about Trump? After all, they deserve the truth.
The Telegrah: Mum, am I like Donald Trump?’ – How parents should tell their children about the new US President
選挙前に大人たちがトランプについて「偏見にまみれ人種差別主義者で女性蔑視で、あんな人が大統領にはなってはいけない」と聞くのを耳にしていた子どもたちが、そんな人物が世界一、影響力が大きい国のリーダーに選ばれたという事実だけで十分ショックです。 その上、その選挙戦中のひどい言動をなかったものにしたり(「選挙に勝つために煽っただけだ」)、微妙に論点をすりかえたり(「大統領になっても何でもしたいことをできるわけじゃないんだよ」)、子どもにはわからないことだとしてしまったり(「歴史っていうのは前に進んだり後ろに下がったりするもんだよ」)したらどう思うでしょう? 子どもたちに対して自分もショックであることや起こった事実を誠実に正直に伝え、でも世の中で悪いことは悪いこと、と教える方が誠実ではないでしょうか?

悲嘆のプロセスを行き来する中で、元BBCの記事の中では、「受容」のステージに至るまでにできることのアドバイスとしてこう書かれています。
– なぜ他の人たちが自分と違う選挙結果を選んだのかいろいろ読んでみる
– どれだけ自分の友人や家族を愛しているかに集中する
– よく働く、旅行する
– 「エコーチャンバー(共鳴室)」を脱し、異なった意見を持つ人と意見交換してみる
– 自分の意見に疑問を投げかけ、自分が最善を知っているわけではないかもしれないと受け止める
– 今回起きたことは自分のコントロール外だと認める
– リラックスできることを知る

受容に至るまでの道は人それぞれで何をしてもいいと思いますが、今回の大統領選で最も美しいと思ったスピーチの一部を記録しておきます。 情報過多な世の中で、人々が「いいね」した2分後には内容を忘れる世界で記憶に値する言葉です。 悲嘆のプロセスを経て受容できた暁には、前に進むしかないのだから。

ひとつめ:ヒラリー・クリントンの敗北受諾スピーチ
CNN: Hillary Clinton’s concession speech (full text)ビデオ

This loss hurts, but please never stop believing that fighting for what’s right is worth it.
It is worth it.
And so we need — we need you to keep up these fights now and for the rest of your lives.
And to all the women, and especially the young women, who put their faith in this campaign and in me, I want you to know that nothing has made me prouder than to be your champion.
Now, I — I know — I know we have still not shattered that highest and hardest glass ceiling, but some day someone will and hopefully sooner than we might think right now.
And — and to all the little girls who are watching this, never doubt that you are valuable and powerful and deserving of every chance and opportunity in the world to pursue and achieve your own dreams.

今回の挫折は痛手です。 でも正しいと信じるもののために戦うことは、充分にその価値があると信じることをやめないでください。
本当に価値があるのです。
私たちには、みなさんにこの戦いを、今もこれからも、一生続けていただく必要があります。
そして女性のみなさん。 とくにこの選挙活動と私に対して、信頼を寄せてくださった、若い女性のみなさん、みなさんのチャンピオンになれたこと以上に名誉だったことはいまだかつてありません。
そして、最も高い所にある最も固いガラスの天井はまだ破られていない、ことはわかっています。 でも、いつか誰かが、私たちが今考えているよりもずっと早く破ってくれることを期待しています。
そして、これを見ている少女たちに伝えたいことがあります。 あなたには価値があって力があること、世界中で自分自身の夢を追い求め、かなえるチャンスと機会に値することを、決して疑わないでください。

ふたつめ:ミシェル・オバマのヒラリー応援演説(2016年10月13日)
NPR: TRANSCRIPT – Michelle Obama’s Speech On Donald Trump’s Alleged Treatment Of Womenビデオ
邦訳:ミシェル・オバマ大統領夫人スピーチ(2016.10.13)全訳(渡辺葉さん)、ミシェル・オバマ大統領夫人のスピーチ(篠田真貴子さん)

The fact is that in this election, we have a candidate for President of the United States who, over the course of his lifetime and the course of this campaign, has said things about women that are so shocking, so demeaning that I simply will not repeat anything here today. And last week, we saw this candidate actually bragging about sexually assaulting women. And I can’t believe that I’m saying that a candidate for President of the United States has bragged about sexually assaulting women.

And I have to tell you that I can’t stop thinking about this. It has shaken me to my core in a way that I couldn’t have predicted. So while I’d love nothing more than to pretend like this isn’t happening, and to come out here and do my normal campaign speech, it would be dishonest and disingenuous to me to just move on to the next thing like this was all just a bad dream.

It’s that feeling of terror and violation that too many women have felt when someone has grabbed them, or forced himself on them and they’ve said no but he didn’t listen — something that we know happens on college campuses and countless other places every single day. It reminds us of stories we heard from our mothers and grandmothers about how, back in their day, the boss could say and do whatever he pleased to the women in the office, and even though they worked so hard, jumped over every hurdle to prove themselves, it was never enough.

We thought all of that was ancient history, didn’t we? And so many have worked for so many years to end this kind of violence and abuse and disrespect, but here we are in 2016 and we’re hearing these exact same things every day on the campaign trail. We are drowning in it. And all of us are doing what women have always done: We’re trying to keep our heads above water, just trying to get through it, trying to pretend like this doesn’t really bother us maybe because we think that admitting how much it hurts makes us as women look weak.

Maybe we’re afraid to be that vulnerable. Maybe we’ve grown accustomed to swallowing these emotions and staying quiet, because we’ve seen that people often won’t take our word over his. Or maybe we don’t want to believe that there are still people out there who think so little of us as women. Too many are treating this as just another day’s headline, as if our outrage is overblown or unwarranted, as if this is normal, just politics as usual.

But, New Hampshire, be clear: This is not normal. This is not politics as usual. This is disgraceful. It is intolerable. And it doesn’t matter what party you belong to — Democrat, Republican, independent — no woman deserves to be treated this way. None of us deserves this kind of abuse.

実際この選挙では、合衆国大統領の候補者に、この選挙戦だけでなくこれまでの生涯ずっと女性に対して蔑みに満ちた言葉を投げ続けて来た人物がいます。 その言葉はあまりに酷くあまりに蔑みに満ちているので、ここでは繰り返しません。 そして先週、わたしたちは、この候補者が女性に性的暴行をしたと自慢している姿を目撃しました。 自分がここでこんな言葉を発していることじたい信じられませんが、合衆国の大統領候補者が、女性を性的に襲ったと、自慢していたのです。

このことが頭から離れません。 自分がこんなに芯から動揺してしまうなんて、思いもしませんでした。 こんなことはなかったことにして、いつもの応援演説ができればよいのですが。 あれは悪い夢だった、はい次、といければよいのですが、それでは不正直だし、不誠実です。
(中略)
誰かに身体を掴まれる。 無理やり迫られていやだと言っても聞いてくれない。 そのときの蹂躙される恐怖を知っている女性が、あまりにも多くいます。 大学のキャンパスで、ほかのいろんな場所で、毎日そういうことが起きている。

わたしたちは、祖母の世代、母の世代から聞いています。 昔は、男性上司が職場の女性に対してどんなことを言っても、どんなことをやっても、咎められなかった。 女性たちがどんなに一生懸命仕事をし、どんなに厳しい壁を乗り越えて成果を示しても、十分でないと思われていた。 そんなの、過去の歴史だと思っていましたよね。 どれだけ多くの人々が、どれだけの年月をかけて、そんな暴力や虐待や、女性の尊厳を無視するような態度をやめるよう、努力してきたことか。

それなのに、2016年にもなったいま、昔とまったく変わらない話を、選挙戦で毎日聞かされています。 そんな話で、おぼれそうです。 それに対して私たちは、これまでずっと女性がしてきたように、とにかく水面から頭を出して、この状況をしのごうとしています。 気にしてないふりをしようとしています。 もしかしたら、傷ついていることを認めたら、私たち女性が弱くみられると感じているのかもしれません。

もしかしたら私たちは、傷つきやすい状態になるのを恐れているのかもしれない。 もしかしたら私たちは、感情を飲み込んで黙っていることに慣れてしまったのかもしれない。 他の人がいつも、女性の言葉よりも男性の言葉を信じるのを見てきたから。 もしかしたら私たちは、未だに女性をこんなにバカにするひとがいるなんて信じたくないのかもしれない。 あまりにも多くのひとが、これは単なる今日のニュースにすぎないじゃないかと、わたしたちの怒りが誇張された、根拠のないものだと退けようとしています。 まるでこれが普通の、いつもの政治ってものなのだとでもいうふうに。 でもみなさん、はっきりさせましょう。 これは、普通ではありません。 これは、いつもの政治ってものなんかではありません。 これは、恥ずべきことです。 許すことのできないことです。 民主党、共和党、独立勢力、どの党に属していようと、こんな扱いを受けていい女性なんて、ひとりもいません。 こんな虐待を受けていい女性なんて、ひとりもいません。


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