空間が持つパワー

学校が始まりました。 カリキュラムはほぼすべてプロジェクトからなり、初日からプロジェクトが始まっています(しかも締め切りは金曜)。 いつでもお茶の休憩取っていいのに、昨日も今日もお昼の休憩しか取らなかったなー・・・
建築インテリアデザインをキャリアにしようと思ったきっかけの話を。
・・・といってもいくつもの小さな経験・普段の生活が積み重なっています。 あえて立ち止まって気づこうとする時間が一番必要なのかも。
1. 原点
奈良・京都という世界に誇る歴史建造物がすぐそこにある環境で生まれ育ったこと。
とはいえ、実家はベッドタウンにあり周りと同じような一戸建てだし、家族に建築家やデザイナーがいるわけでもありません。 「ディズニーランドみたいなつくりもの(偽物)が嫌い」という可愛くない子どもでした。
大学では空き時間があるとよく大好きなお寺、永観堂の庭に昼寝をしに行っていました。 当時は庭は入場無料。 木漏れ日・かすかに聞こえる川のせせらぎ・時を経て佇む本殿の息づかい・すぐそこに迫る東山・・・を感じながら昼寝をする時間は至福の時間でした。 この幸せの感覚は以降、何度もフラッシュバックします。


2. アメリカ時代
仕事でアメリカに頻繁に行くようになると、アメリカの郊外型モールが嫌い、ディベロッパーがコスト重視でつくったサービスアパートが嫌い・・・好みがどんどんはっきりしてきます。 とりわけ展示会で行ったラスベガスで泊まったホテルのThe Venetian、ホテル内につくられた張りボテ運河(天井には空の絵)のゴンドラ順番待ちをしていた観光客が「これでベネチアに行かなくてもいいね!」と本気っぽく言っていたのに仰天(あれは本気で言ってたのだろうか?)。
この頃から永観堂での昼寝 – 本物の醸し出す圧倒的なやすらぎ – を懐かしく思い出し始めます。
3. 〜シンガポール時代
フランス・モスクワ・シンガポールと住むにつれて好みがさらに明確になってきました。 以下、『ロンドンに引っ越します。』に書いた、私が理想とする街です。

– 文化度が高い落ち着いた街並み(低いビル)( → ランドスケープ)
– 公共交通(& 自転車)が発達していて車のいらない生活 (→ 都市計画)
– 街中に路地が多く、シャレたカフェ、隠れ家レストラン、個性的なセレクトショップ、ギャラリーなど街歩きが楽しい (→ 都市計画・建築・インテリア)
– 食料品の買い物は商店街やファーマーズマーケットで新鮮な野菜を調達 (→ 食文化)
– はっきりとした四季のある気候 (→ 気候)
– 食べ物が美味しい (→ 食文化)
– 国宝級展示物が並ぶ美術館からストリートアートやアングラ演劇まで文化が育つ街の空気 (→ アート・カルチャー)
– 大きすぎず小さすぎない手ごろなサイズの街 (→ 都市計画)
・・・・・

Wired(著名デザイン雑誌)で”Disneyland with the death penalty”(死刑制度のあるディズニーランド)と揶揄された(*1)シンガポールでは、続々と建てられる個性なきショッピングモール・話題性優先で魂のない奇抜なデザイン・美的調和を無視した外観で雨後の筍のように建つコンドミニアム、etc.がとても苦手で(ランドスケープ・建築・インテリア含めた)空間が自分に大きな影響を与えていることに気づきました。 また、こちらで書いたようにシンガポールでわざわざ古い伝統建築を改装した住居に住んでいるのはヨーロッパ人ばかりでした。
*1・・・Wikipedia参照。
4. ロンドン時代
そして移ってきたロンドン。 『国の価値観と個人の価値観』にアメリカ・日本・シンガポールの国の価値観(バリュー)を挙げましたが、ロンドンのバリューは「伝統と革新の融合」だとつくづく思います。
街全体に重厚な歴史建造物と世界が誇る建築家によるモダン建築が百花繚乱。 一般にデザインへの関心が高く、世界最高峰の美術館がこれを支えています(*2)。
*2・・・国立美術館は無料。 まるで公園で昼寝をするのと同じ感覚でピカソやマティスが鑑賞できる、何度でも。 子どもを連れて気軽に行けるところも公園とそっくり。 アート・デザイン界に及ぼすこの無料制度の恩恵は甚大。
myoushinji_daihouin.jpgこの街で過ごせば過ごすほどインスピレーションを刺激されていたところ、今年の4月に日本に帰りました。
子どもを親に預けて夫と京都に散歩に行ったときに、たまたま入った妙心寺。 普段は非公開の大法院が特別に一般公開されていました(写真はこちらから)。
他に拝観客はほとんどなく、静かに日本庭園を前に抹茶をいただきながら、その場の静謐さに自分が溶けてしまうような感覚を久しぶりに感じていました。
あんなにも心が落ち着いたのは記憶にないほど久しぶりで、30分ほど夫と2人、黙って座っていたでしょうか。 立ち上がる頃には、「こんな風に空間の持つパワーを引き出す仕事をしよう」と決心をしていました。


4 responses to “空間が持つパワー

  • 岩崎

    こちらの写真息を飲むほどのパワーを感じます。言葉では上手く説明でしませんかど

  • Siemprebien

    私は大阪出身ですが、実家が京都に引越したので、京都が「故郷」になってしまいました。
    夏は猛暑で冬は恐ろしく寒い場所での、昔からある「季節を楽しむ」インテリアや道具、知恵が美しさを
    もたらしていますね。
    理想の街、全てに共感しますが、やはりはずせないのは「四季があること」ですね。
    四季があるから、食べ物も色々あり、季節によって文化行事や町並みや風景が変わるのだと思います。
    常夏のブラジル・マナウスでの生活で、最も受け付けなかったのが、服装も料理も町並みもいつも一緒なことでした。
    細やかさがなくなるのでは?と思ってしまいます・・・。
    家はパワーの源であり、外で少々の問題があっても、心地よい家に帰れると思うだけで心が休まりますよね。
    インテリアデザインは、これからの不景気、不穏な雰囲気が立ち込める世の中に生きていくうえで、さらに重要になっていくでしょうね。頑張ってください。

  • yumi

    こんばんは、またコメントさせていただきます。
    建築インテリアデザイナーを志すことにした理由、葉子さんが書かれていたように
    まとめてくださった以外にも沢山あるのでしょうけれども、
    今日のエントリーもとても興味深く拝見しました。
    葉子さんが理想とする街のポイント、公共交通については考えていませんでしたが、
    その他はすべて心から同意です!!!
    私は東京のホームタウンであること以外にあまり特徴のない街で育ちましたが、
    物心ついて以来?どうも自分の街を好きになれずにきたのは、
    自分が惹かれる街にあるものがあそこには全然ないからだと、
    街について考えるようになって改めて気づきました。
    大学時代にイギリスに留学したのですが、アメリカを選ばなかったのも
    上記の理由からヨーロッパに惹かれる気持ちが強かったからでした。
    今住んでいるのはソウルなのですが、韓国の方々は新しいもの好きが多くて、
    伝統的な建造物を大事にするという価値観があまりないようで、
    惜しげもなく昔からある街並を更地にしてしまい、新しい高層マンションやショッピングセンターを
    急スピードで作っていく傾向にあると聞いています。
    (実際にはそうでない人も沢山いるのでしょうが、個人的にはそう感じることが多くあります)
    ソウルはとても暮らしやすい街ですが、街並という点ではちょっと残念に思うことが
    多々あるのが正直なところです。。。
    また長くなってしまいすみません。
    幼いお子さんがいらっしゃる中お忙しいでしょうけれども、
    お身体に気をつけつつ、学校生活を楽しんでくださいね。
    今後のエントリーも楽しみにしています。

  • la dolce vita

    >岩崎さん
    >こちらの写真息を飲むほどのパワーを感じます。
    春と秋は特別に一般公開されているのでぜひ訪問してみてください。 俗化されていない素敵なお寺です。
    >Siemprebienさん
    >やはりはずせないのは「四季があること」ですね。
    私も四季は必要ですねー イギリスは日本より遥かにマイルドですが(冬は同じくらいの寒さで、夏ははるかに涼しい)。
    シンガポールも四季がないので、めりはりがないというか「今年ももう終わるのね!」っていう焦りが全くうまれませんでした。
    >yumiさん
    >今住んでいるのはソウルなのですが、韓国の方々は新しいもの好きが多くて、伝統的な建造物を大事にするという価値観があまりないようで、惜しげもなく昔からある街並を更地にしてしまい、新しい高層マンションやショッピングセンターを急スピードで作っていく傾向にあると聞いています。
    中国もそうですよ、北京の伝統家屋はがんがん壊されてましたねー
    日本も新築信仰が強くてすぐ更地にして建て替えますよね。
    壊したものは二度と戻らないのにもったいないですよねー

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