無知な外国人の赤っ恥

今週月曜に、Toastmastersで3回目のスピーチを行いました(Toastmastersについてはコチラコチラをどうぞ)。
3回目のスピーチの目的は”Get to the point”(核心をつく)。
私の行っているクラブは、国籍も職種もバラエティ豊かで、皆が共通に理解するトピックを選ぶのが難しいのです。 最近、環境保護系のトピックを話す人が多くて、内容かぶっててつまんないな、と思っていたので、皆の興味をそそり、なおかつcontroversialな(論争を呼ぶ)トピックにしようと思って、普段から思っていたことを話すことにしました。
タイトルは”Uniquely Singapore”(シンガポール政府観光局の標語を皮肉っている→参考:『また来たくなる、日本』
普段思っていたことというのは、こちらのエントリーに書いた下記のようなこと。

私がもっともシンガポールの気にいらないところは、どこを見渡しても似たようなコンドミニアム、ショッピングモールが何十と立ち並び、沖にはカジノリゾート・・・ 全くcharacter(日本語では個性、特徴?)がないところ。
古都出身で古い街並みをこよなく愛する人間にとっては、薄っぺらく見えてしまいます。
そこで私たちはシンガポールの歴史的建造物であるショップハウス(1Fが店舗、2Fが住居)を改装したアパートに住んでいます。 対して、シンガポール人が好むのは(ほとんどのシンガポール人は公団に住んでいるので「憧れる」が正しいか)、プール・ジム付きの施設が整ったコンドミニアム。
「ショップハウスに住んでいる」と言うと相手がシンガポール人か外国人かによって反応は真っ二つに分かれます。 シンガポール人は無言、「(心の中で)へー、そんなとこ住めるんだー」という反応。 外国人は「うらやましい!!!」と羨望の眼差し。
シンガポール人には「町家を改装した住居に住んでいる物好きガイジン」くらいに見られています、たぶん。


もちろんスピーチでは単なるシンガポール批判にはせず、下記のように組み立てました。

shophouses.jpg– ショップハウスを改装したアパートに住み、ショップハウスを改装したオフィスで働いているが、周りは西洋人だらけである。 シンガポール人は自分たちの歴史的建造物より近代的な高層ビルを好むのだろうか?
– 私は日本の経験から心配している。 1970 – 80年代の高度経済成長期に伝統的な家屋を壊し、酷似したビルを国中に建てた日本は、今では全国どこ見渡しても似たような街並みになってしまった。 今や昔のままの農家・屋敷は希少になり、人々は高いお金を払って改装された宿に泊まり美術館を訪れる。
– 古い建築物を保存・改築することは努力が必要だし、コストもかかるが、何百年かけて培ってきた文化の結晶である歴史的建造物を経済性だけを理由にいとも簡単に壊してしまってよいのだろうか?
– これはシンガポールの話だけではない、アジア全体に言えること。 アジアの街並みがアメリカ中西部の郊外と変わらない風景になってもよいのか?
– 自分の国の歴史的エリアを歩き、往年の空気を感じ、歴史的建造物を保存するプロジェクトをサポートしてほしい。 20年後、国の大切な遺産になるのはカジノやショッピングモールではなく、あなたたちの歴史的建造物である。

単純に相手を批判するだけでなく、自分の国の経験に基づくことも示し、シンガポールだけでなくアジア全体の課題だとし、よいスピーチ構成だわ〜、とひとり悦に入る私。
夫の前でリハーサルをしてみると、「ボクはいいスピーチだと思うけど、えらい政権批判だね」とのコメント(シンガポールは実質独裁政権なので、政権の批判はタブーなのです)。
「まあいいや、一か八かやってみよう」と思い、上記の内容でスピーチ決行。
暗記したのを全部すらすら話せたし、危機感を喚起するようなトーンもうまくいったわ〜、とスピーチを終えながら思ったのに、拍手はたくさんもらったけどコメントはなし。 「あれ??? 私、やっぱり全然空気読めてなかったかしら???」と思っていたら、休憩時間中にメンターになってくれている50歳前後のシンガポール人女性が話しかけてくれました。

私は小さい頃、古い朽ちたショップハウスに住んでいて、お湯もなく水を汲んで浴びるような生活をしていたので、すごくノスタルジックになった(その頃はみんなそうだった)。
チャイナタウンやタンジョン・パガー(私がスピーチで言及したエリア)のショップハウスは、昔から続くファミリービジネスがたくさんあって人がたくさん住んでいたのに、政府があのエリアの再開発を行う際に、エリアを綺麗にして外国人をたくさん呼び込むために、家賃を人々が手に届かないような値段にして、昔から住んでいた人を追い出してしまったのよ。
私たちもショップハウスに住みたくないわけじゃないの。 でも、もう家賃がとても手に届かないの。

私の無知なスピーチ内容に怒るでもなく、昔ながらのショップハウスと住人がかろうじて残っているエリアや歴史などいろいろ教えてくれました。
あーーーーーーー、恥ずかし。
みんな実は住みたいのに住めないのかー(シンガポールは人口の80%が政府が建てた公団に住んでいて、もちろん民間アパートに比べると家賃は格安)。
一応、スピーチの前にググッたんだけどあまり資料が見つからなかったので話してしまったのですが、外国人が歴史を知らないまま安易に知ったふりして言うもんじゃないなー、と思いました。
でも「政府が元の住人を(間接的に)追い出した」ってことは、結局、私のスピーチは政権批判になってしまったので、それでみんなシーーーン・・・としてたのかしら?


4 responses to “無知な外国人の赤っ恥

  • cpainvestor

    la dolce vita様
    読んでいて、とても考えさせられました。
    「配慮したつもりが、配慮になっていない」こういうことって確かにありますよね。「赤っ恥」経験を共有させて頂き、感謝です。メンターの方の指摘、ありがたいですね。
    私も自戒したいと思います。

  • わっきー

    このメンターになってくれている方のお話を読んで、
    まっさきに浮かんでしまったのが、北京の「胡同(フートン)」
    ふと50年後に、誰かがそんなことを北京で言うのかな、
    などと思って勝手に悲しくなってしまいました。
    (もちろんフートンの場合保存も進んでいるようですが、どこまであの風情が「保存」できるのか・・・)

  • haustin

    スピーチおつかれさまでした。
    なるほど、シンガポールは住むところまで政府が操作してるのですね。私はまったく事情をしらなくて、ワインの税金の高さなどにもびっくりしましたが・・・そういえば、つばを吐いたら何十万か罰金っていうのはまだそうなんでしたっけ?中学のときに習ったような気がする。。。
    旦那が、シンガポールだけは絶対すまない、といってたのはそういうことか。。。でも金融関係の方とか多いし、医療は充実してるんですよね?歴史をさかのぼるよしあしはどこの国にもあるのですね。

  • la dolce vita

    >cpainvestorさん
    >「配慮したつもりが、配慮になっていない」こういうことって確かにありますよね。
    いやー、恥ずかしかったです。 事実関係の誤認がなければいいってもんじゃないんですね。
    >メンターの方の指摘、ありがたいですね。
    本当に感謝ですね。 チャイナタウンの歴史のミュージアムも教えてくれて、全然怒ってなくて、本当に昔を思い出して懐かしそうにしてました。
    >わっきーさん
    >まっさきに浮かんでしまったのが、北京の「胡同(フートン)」
    鋭い! 私は「これはシンガポールの話だけではない、アジア全体に言えること。」の部分は胡同を指していたつもりでした。 「胡同はせめて今残ってる部分を残そう!」というつもりでした。
    >ふと50年後に、誰かがそんなことを北京で言うのかな、などと思って勝手に悲しくなってしまいました。
    50年後どころか10年後に言ってると思いますよ、今でも現在進行形で壊されてますしね。
    >haustinさん
    この世に天国はない(↓)と思います。
    http://www.ladolcevita.jp/blog/global/2008/11/post-84.php
    人口400万人の小さな国にイギリス人が4.5万人、オーストラリア人が3.5万人、と(アジア人だけじゃない)外国人がうじゃうじゃ住んでいるのだから魅力もあります。

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