昨夜トルコで起きたこと

昨日の晩、子どもたちを寝かしつけた後、前日に起きたニース・テロのニュースをBBCサイトで読んでいた。 近頃、世界中で不穏な事件が続いていて心がいつもざわざわしている。 多くの子どもが犠牲になったという痛ましいニュースを読んでいた最中に飛び込んできたのが「イスタンブールのボスフォラス海峡を渡る橋が2つとも軍部によって通行止めになっている。 首都アンカラで通常の指揮命令系統に従っていない軍部が異常な低空飛行を行っている」というBBC速報。

私はビジネススクール(MBA)時代に特に親しくなった友人の中にトルコ人が多い。 みなトルコ外での国際経験豊かだがトルコに戻った友人もいる。 MBA卒業旅行にトルコに行き、お互いの結婚式にも出席し、彼らがロンドンに来るたびに会って、去年は夏はボドルム、冬はイスタンブールに遊びに行き家族ぐるみで付き合っている。
ところが夏のボドルム旅行から帰ってきた直後、ボドルム海岸に溺死したシリア難民の3歳の男の子が打ち上げられ世界に衝撃を与えた。 そして冬のイスタンブール旅行から帰ってきた直後にイスタンブールの観光名所で自爆テロ、その後も2回の自爆テロが起きており、首都アンカラでも自爆テロが起きている。 その度に、「なぜこんなことが・・・」と悲しむ友人たちに「無事でよかった」という言葉しかかけられなかった。

昨日も背中に冷たいものが走るのを感じながらFacebookにログインすると現地時間では真夜中を過ぎていたが、イスタンブールに住む友人Jが現地テレビで得られる情報をリアルタイムで投稿していた。 彼はアメリカ人とトルコ人のハーフ、スタンフォード大学を出てアメリカ暮しが長いが、10年ほど前にトルコに戻り、今は弟と一緒にインターネットサービスプロバイダー事業を経営している。 トルコ人の奥さんと3歳の男の子と一緒にイスタンブールの閑静な住宅街に暮している。

ここからは彼がFacebookタイムラインに行っていた投稿。
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J: 狂ってる・・・ 国営テレビTRTが軍部に乗っ取られ「軍部が全権を掌握している」と言ってる・・・
(世界中の友人たちが彼のタイムラインに次々に「無事でいてね」と投稿)
J: キャスターは同じ文句を繰り返すだけで何が起こっているのか全然わからない・・・戒厳令が敷かれたと言っている。
(数分後)
J: CNN Turkで大統領がキャスターの携帯にFacetime(ビデオ通話)で映っている。 あ、携帯画面が大映しになった。 国民に「戒厳令は無視して、路上へ出ろ」って言ってる。
J: 信じられん、軍部が戦車で重装備して街中にいるのに素手でケンカ売れって言ってんの???
(この後、彼のログインが消える。 そしてTechCrunchで「トルコ内でFacebookやTwitterなどSNSへのアクセスがブロックされている模様」というニュースが流れる)
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Jの実況中継が途絶えた後も、私の頭の中は信じられない思いでいっぱいだった。
普通、軍の一部が反乱を起こし、国民を恐怖とパニックが襲っていたら「外に出ろ」って言う? 「平静を保ち家の中にいてください」ってまず落ち着くことを呼びかけない? そして「(自分の権力の掌握内にある)軍隊と警察に任せて、国民の皆さんは安心してください」って言わない?
丸腰の一般市民に対し、武装した軍隊に立ち向かえって、国民の命を守るのが仕事の大統領が言うこと?
それって、自衛隊の一部が安倍政権に対して蜂起して、NHK・国会・成田空港など権力やメディアの要所を乗っ取り、首都高速を装甲車で遮っているのがメディアで生放送されている中で、安倍首相が一般市民に「外に出て裏切り者(武装した自衛隊)に立ち向かえ」って言ってるようなもんでは・・・?

一夜明けて再びニュースを見るともっと信じられない光景が待っていた(以下、トルコ時間7月16日20:30現在、ソース:BBC)。
– 民間人を含む260人以上死亡、1,400人以上負傷
– クーデターに関与したとされる兵士2,800人以上逮捕
– ボスフォラス海峡橋を遮断していた兵士らが投降する様子が生中継され、激昂した市民が兵士に殴り掛かるする様子も映っている
– 2,700人以上の裁判官が解任

信じられない光景を前に、無力感とともに「ああ、また典型的なブラック・スワンが起きたなー」と思う。 ナシーム・タレブの2007年の名著『ブラック・スワン』に関しては以前ブログにも書いているが(*1)、以下の3つの特徴を持つ現象のことを言う。

一つは予測できないこと。
二つ目は非常に強いインパクトをもたらすこと。
そして三つ目は、いったん起きてしまうと、いかにもそれらしい説明がなされ、実際よりも偶然には見えなくなったり、最初からわかっていたような気にさせられたりすること。

*1・・・参照:『「果ての国 」に生きる – 1』『「果ての国」に生きる – 2』
タレブがレバノン内戦を振り返り、

人は過去を振り返り後付けの原因をつけるのは得意だが、最中にいる人はこれからどうなるかなど誰もわからない。(*2)

と言うとおり、中にいる人は混乱していた。 一番、多く見た単語は”surreal”(非現実的)だった。 今、私のFacebookタイムラインにはトルコ語のニュースシェアが飛び交っている。 とても高級メディアには出てこないようなグロテスクな写真もあれば(*3)、エルドアン大統領による自作自演説(*4)もある。 トルコ人の友人の多くは、今回の事件前、フランスのテロには世界中が同情しFacebookのアイコンを変えるのに、トルコで起きる連続テロには無関心だと「同情(empathy)格差」に怒っていた。 そして今は「(大統領が)支持者を利用して多大の民間の犠牲者を出し、この機に乗じて反対派を粛正し完全独裁に持ち込む汚いやり口だ。 選挙で選ばれた政権だから、と現政権を支持している西側諸国は何もわかっていない」と怒っている。 そして私はただただ彼らの怒りや悲しみを呆然と眺めている。
*2・・・参照:『ブラック・スワンとレバノン』
*3・・・例えばこれ。閲覧注意。
*4・・・大統領がクーデターの噂を利用して独裁体制を権力を拡大しようとしているという4月のWashington Timesの記事:Turkey’s Erdogan uses military coup buzz to expand powers, curb dissent

一方、欧米メディアは識者にインタビューしまくり、突如起こったこの予測のつかなかった事態にもっともらしい説明を求めようとしていた。 今日のBBCの記事(*5)では、エルドアン大統領の自作自演説も、大統領がクーデター首謀者だと主張するようなギュレン教団犯人説も、疑うべき点が多すぎて「よくわからん」だった。
*5・・・BBC: Turkey coup: Who was behind Turkey coup attempt?
明日からも今回のクーデター未遂の原因探しは続くのだろう。

今は何が何だかわからないけど、とてつもないことが起きたということはわかる。 今回、良かったことは「(今のところ)一気に内戦突入とはならなかったこと」だけしかない気がする。 現政権が狂ったように逮捕者を出し、死刑制度の復活のために憲法改正すると息巻いている現状を見ると”The worst is yet to come.(最悪の事態はまだこれから)”という予感しかしない(*6)。
*6・・・The Telegraph: You thought Erdogan was bad before? The worst of Turkey’s leader is yet to come

もしトルコが今後より強権制を強め少数民族・反政府派などの粛正に乗り出したら、人口7,800万人の大国から多数の政治難民が出るのだろうか? 現実とは思えない暗いシナリオと、平和な日常のギャップに苦しみつつ、「大変な時代になってしまった」という思いしかない。


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