大変遅ればせながら、明けましておめでとうございます。
毎冬恒例のSeasonal Affective Disorder(SAD、日本語だと「冬季うつ病」)っぽくなりながら、南国へ脱出したりしていました。
今日のタイトルの「赤いオープンカーに乗った太った禿げオヤジ」。 休暇中に私版「赤いオープンカーに乗った太った禿げオヤジ」に出会ってしまいました。
このオヤジとは以前『アメリカ人ビジネスマンとメキシコ人漁師の話』と『Interrupting Interruption』でご紹介したTim Ferris著『The 4-Hour Workweek』(邦訳:『なぜ、週4時間働くだけでお金持ちになれるのか?』
)の中の”the bald fat man in the red BMW convertible”に由来しています。
何のことかわからないと思うので少し解説。
著者Timは米名門プリンストン大学を出て、ある会社でセールスディレクターとして1日12時間労働の毎日。 同級生も米ビジネス界で花形職業につきファストトラックキャリアを邁進中。 そんなある日、このまま10 – 15年同じキャリアを続けた場合にどうなるのか?自分の将来の姿のような人を見てしまいましした。 大企業の管理職か同業種で起業して小金持ちになったが、長年の長時間労働と不摂生で太った、赤いBMWのオープンカーを乗り回す、ミッドライフクライシス真っ只中のハゲたオヤジ・・・(オープンカーはミッドライフクライシスの代名詞ですね、笑)
長時間労働で家族や友人と過ごす時間を犠牲にし競争社会のラットレースで働き続けた末の姿がこれなのか・・・? と愕然としたTimはそのラットレースを下ります。
その後も自分を見失いそうになったり「現実を許容」しそうになったりするたびに、「将来ああなりたいのか?」と親友と確かめ合い、そうなりたくない恐怖から自分のやるべきことに戻れた、という話。
よく「ロールモデルを持とう」と言われますが、「赤いオープンカーに乗った太った禿げオヤジ」のような「アンチロールモデル」も効果的ということでしょう。
解説が随分長くなりましたが、私にとってのこのオヤジに当たる人たちに会ってしまいました、というよりどこにでもいるので「気づいた」という方が正しい。
正月明け、オーストラリアから来た義父母と総勢家族6人でランサローテ島(カナリア諸島のひとつ)へ1週間行ってきました。
小さい子どもがいて移動が大変なので(長男の車酔いがひどい)、冬は暖かくて移動が便利なところ(ロンドンから格安航空で直行便が飛んでおり、空港から30分以内)を選んでいるのですが、クリスマスや年末年始のピークシーズンを外すともろにある集団とぶつかります。 それがベビーブーマーたち(いわゆる「団塊の世代」)。 リタイヤした西ヨーロッパのベビーブーマーたちは自国の天気が悪い冬にポルトガルやスペイン・カナリア諸島など海沿いで暖かい気候の地域にロングステイをします(イギリス人が圧倒的に多い、ドイツ人も多い)。 日本のコンテクストに置き換えると、マレーシアとかロングステイで人気の滞在先を思い浮かべてください。
空港至近という便利な土地の沿岸にはディベロッパーが建てたコンドミニアムが数十立ち並び、観光客向けレストランが軒を連ねます。 1日中イングリッシュブレックファーストを提供し、フィッシュアンドチップス・サンデーローストなど完全に当地の気候・食材を無視したメニュー、テレビはイングランドプレミアリーグ戦中継を流しっぱなし・・・ 彼らはそんな場所でラガー片手にしなびたチップスを食べながらぼーっと海を見て過ごします(シーフード王国で!)。
帰りの空港でチェックイン待ちの時に義父が一緒に並んでいたベビーブーマー夫婦に「いいホリデーだった?」と聞いたところ、「20年間、だいたい毎年来てるけど今回は天気が悪かった。 家に帰って暖炉の火をつけるのが楽しみだよ」って・・・
なんだかねー
特定の個人がどうだとか、リタイアして南国でゆっくりするのが悪いとか、旅先まで行ってフィッシュアンドチップス食べるなとか、そういう話ではありません。 ものすごーーーく魅力を感じなかった、あの生活。 Timが禿げオヤジに自分の将来を重ねてみてしまった恐怖と似ている。
日本でもそうですが、イギリスでも世代間格差が大きな問題となっています(→『イギリスの世代間格差』)。 若年世代は大学を出ても数年前に比べまともな定職につくことがはるかに困難で若年失業率は高いまま。 特にロンドンでは不動産が高騰し(→『有事のロンドン買い』)、家を借りることも買うことも難しくなっています。 従来の基準で言うところの「普通の仕事」に魅力を感じず、自らの問題意識で社会的な仕事をつくり出そうとする若い人が増えているのはイギリスにも日本にも共通したムーブメント。
先進国のベビーブーマー世代は歴史的に見ても稀な「ラッキーな世代」です。 世界のトップ5%には入るであろう裕福でラッキーな彼らが、その余剰資産(お金・時間・知識・体力)をあんな形でしか使えないのかなー、と思ってしまうのです。 同時に、私の30年後の姿がああなっていないとも限らないとも思います、私も先進国のものすごく恵まれた一部のひとりだし。 自分と自分の子どもが幸せだったらそれでいいのか?
私版「赤いオープンカーに乗った太った禿げオヤジ」は新年早々、いろいろなことを考えさせてくれました。
私のなりたくないと思っている言葉は”complacent”(現状満足)です。 日々の生活をこなすのに精一杯、でも2人の子どもがいて幸せな毎日に”complacent”になりがちだったので、今年は”アンチcomplacent”をテーマにがんばりたいと思います。
本年もよろしくお願い致します。
January 25th, 2014 at 3:04 am
すごいタイトル(笑)でも気持ちはめちゃ分かります。そうはなりたくないから。まだかわいいオヤジであるようにラットレース抜けます(笑) ランサローテ島、知らなかったです。去年にマルタに行ったので今度どこ行こうかなと思っていたのですが、ちょっとランサローテ島、興味出てきました(^^)良い情報有り難うございます!
January 28th, 2014 at 12:00 pm
しんさん、私がお会いした頃からラットレース抜けてませんでしたっけ?
ランサローテ、今回は義母が全部アレンジしてくれたので、何の下調べもしてませんでしたが、溶岩が台地を支配する絶景でした。 ちょっと月面に降り立ったみたいな感じ。 でも絶景以外何もないので、退屈になっちゃうかもしれませんねー
カナリア諸島は冬ヨーロッパから行くのにピッタリなので他の島も行ってみたいと思っています。