有事のロンドン買い

有事のロンドン買いが続いています。

2008年にはじけた世界的な住宅バブル、イギリスでもはじけたはず、でした。
ところが下右の表を見るとわかるように、イングランド北部は住宅価格が下げ止まらないのに対し、ロンドンでは上がり続けバブルのピークをすでに大幅に上回っています。 収入に対する住宅ローンや家賃の比率も上がり続けています(The Economist: The rubber bubble)。
UK house price
住宅価格の高騰はロンドン中心部で顕著で2012年7月からの1年間で9.7%も上昇しました。 まだユーロ危機も続き、景気回復の足取りも鈍いイギリスの首都で年間10%の上昇です。 これにはロンドン市民の可処分所得・失業率・住宅ローン税率など通常の住宅購入を決める要素だけではない、別の力学が働いています。 それが「国際的な安全資産」としてのロンドンです。

House buyer by nationalityロンドンの「プライムロケーション」と呼ばれるのがハイドパークを囲むエリア、ケンジントン・メイフェア・ナイツブリッジのあたりです。 高級物件を扱う不動産Knight Frankによると、このエリアのバイヤーは実に半分49%が非イギリス人(右の表は内訳、The Telegraph: Half of central London’s £1m-plus homes go to non-UK buyersより)。 ロシアのニューリッチが買い漁っていたのはバブル前からですが、ユーロ危機でギリシャ人・イタリア人・フランス人が買い、アラブの春でアラブ人が買い、子供を英国内の大学に留学させたい中国人・インド人・シンガポール人が買い・・・と世界中の富裕層から買われているロンドン。

世界情勢が不安定になると買われるあたり「有事のドル買い・金買い」ならぬ「有事のロンドン買い」といったところでしょう。 固定資産税も転売規制もなく年率10%で上がり続けるロンドン不動産は、他の魅力的な資産運用先がない富裕層の格好の投資(投機)先となりました。 とりわけ地下からお金が沸いて来る産油国の超富裕層(*1)、彼らは気温が50℃を超える夏の間だけ避暑に訪れ普段は留守にしているため、彼らが好むベルグラーヴィアやチェルシーは数十億のきれいに手入れされた豪邸が立ち並ぶゴーストタウンのようで、少し異様な雰囲気です。
*1・・・産油国の実態は橘玲さんのコラムが面白い→ほとんど問題にされない巨大な経済格差、”法外な幸運”を享受する産油国の実態

当然、中心部の住宅価格の異常な高騰は周囲に波状的に影響を及ぼし、ロンドンはいまや普通の人には家が買えない街になりつつあります。 実態経済そのものがよくなっているわけではなく若年失業率は依然として高いまま(平均8.3%に対し16 – 24歳の失業率は21.9%)。 美しい歴史的街並みの中心部がマネーゲームの対象となった結果、空き屋で、普通の若者が家を買えないといういびつな状況(なお住宅不足の根本的な原因は新築住宅建設の規制が厳しいため供給が増えないためですが、また別の機会に触れます)。

2002年にリチャード・フロリダ教授は”The Rise of the Creative Class”『クリエイティブ資本論』でクリエイティブ・クラスと呼ばれる新しい知識労働者層が集まる地域とそうでない地域の格差が拡大すると論じました。 ロンドンは『ロンドン栄光の時代?』にも書いたようにクリエイティブ都市の代表だと思っていたのですが、ここまでいびつな構造に急速になるとは想定外だったんじゃないかなー?

かろうじて小さな家を買ったはいいものの、最近のロンドン不動産のブラック・スワンぶりについていけない私です(参考:2011年に書いた『世界はブラック・スワン』)。


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