『マイケル・ムーアの世界侵略のススメ』を観た

本田直之さんがFacebook上で絶賛されていたので、『マイケル・ムーアの世界侵略のススメ』(原題:”Where to Invade Next”、”オフィシャルサイトはこちら)を観ました。 マイケル・ムーアは結構好きで、このブログでもちょこちょこ書いているのですが(*1)、これは完全に見落としていました。
*1・・・『待ってました!『キャピタリズム』』

この映画は自分の国を世界一だと盲目的に信じていて外国のことに興味のないアメリカ人に対して、「いやいや、他の国から学べることがこんなにあるんだよ。 アメリカン・ドリームとか言ってるのはアメリカだけだから」とわかりやすく教えてあげる映画です。 エッセンスは映画評論家の町山智浩さんのまとめ(→こちら

「国が強くなればいい。国が金持ちになればいい。GDPがいちばんになればいい」って思っているけど、そうじゃなくて、「一人ひとりの国民が幸せかどうか」で国の良し悪しは判断されるべきじゃないか?っていう映画

に集約されますが、さらに詳しい内容は町山さんの評論や吉川圭三さんの『人間を幸せにしないアメリカというシステム。〜『マイケル・ムーアの世界侵略のススメ』を観て〜』を読んでください。

で、これは他のムーアの映画と同じくアメリカ人を対象としたドキュメンタリーなのですが、イギリスに住んでいる私にはイギリスへの(そして、ある側面では日本への)アンチテーゼとしても受け取れました。

ムーアはアメリカにはないもの、アメリカでは失ってしまったものを社会としてしっかり守っている国に飛び、その国で大切にされている(かつてはアメリカでも大切にされていた)信条・価値観を学び、それをアメリカに持ち帰りたいと言います。 この映画で出てくるほとんどの国はヨーロッパなのですが(イタリア・フランス・ドイツ・ノルウェー・フィンランド・ポルトガル・アイスランド・スロベニア、そして非ヨーロッパのチュニジア)、イギリスは完全スルー(笑)。

イギリスとアメリカを両方見た経験からすると、この両国は全然違うように思えるのですが、たしかに、ここに出てくるような大陸ヨーロッパから見るとイギリスはEU離脱を持ち出すまでもなく非ヨーロッパ的、ブレアが「ブッシュのプードル」と呼ばれる遥か前からずっとアメリカ寄り。 番組後半でアイスランドの女性CEOが「アメリカにはお金をもらっても住みたくない」と言うシーンがありますが、こういう感情はイギリスに対してもあるんだろうな、と容易に想像できます。

マイケル・ムーアの他の映画と同様に、彼のスクリプトに沿って展開を組み立てているので、ドキュメンタリーと言えども論理の飛躍は激しいし結論への結びつけ方は強引、ツッコミどころ満載です。
例えば、ムーアが初めに訪ねる国イタリア。 マセラティをつくる工場やドルガバの下請け工場を訪ねて、強固な労働組合に守られている従業員が年に8週間もの有休をしっかり使って外国でのバケーションを楽しみ、ランチは家に帰って家族と一緒に2時間、残業はしない、育休は5ヵ月・・・と人生をエンジョイする様子が映され、それを容認どころか歓迎している経営者の姿が描かれます。 「いやいや、それは既に仕事を持ってる人の話であって、若者の失業率はずっと3割越えてるってば!」、「いくら育休が手厚くても出生率はヨーロッパで最低レベルですけど?」と観ながら突っ込みまくってしまいました。

ムーアが訪ねる個々の国のある一点だけを取り上げ理想郷のように仕立て上げ短絡的な結論になっている、という点は差し引いても、それぞれの国が大事にしている価値観をとても的確についていると感じました。 以前、『国の価値観と個人の価値観』というエントリーを書きましたが、まさにムーアが取り上げたのは、それぞれの国が他のものを犠牲にしてでも大事にしている価値観なのです。 そして、その価値観が生まれた時から染み込んでいて誇りを持って語る一般の人の表情が実にいい。

「お金儲けてどうするの? 仕事のあと友達と語る時間の方が大事でしょ」と語るイタリア人、「労働者を大事にすることが、結局長期的にみんなのためになる」と語るドイツ人、ナチスの犯した過ちに「祖父世代のことだから」と背を背けずに学校教育の内外を通して真剣に向き合うドイツの子どもたち、「私たちの根底にあるのは、人間としての尊厳です」と語るポルトガル人の警察、「Let kids be kids(子ども達に子どもでいさせてあげて)、子どもにはぜひたくさん遊んでほしい」と語るフィンランドの小学校の先生、「周りにものすごく貧乏で困っている人が沢山いて、それでも自分は関係ないからって平気でいられるわけ?」と聞くアイスランド人の女性CEO・・・

まさに『人が自然に生きられる社会』を地でいくヨーロッパ。 キャピタリズムに侵されているロンドンではあまり聞かない言葉、普通の人が言う言葉なのにそれぞれが沁みました。

私が一番刺さったのは、フィンランドの小学校教育。 フィンランドに移住したアメリカ人教師の

アメリカでは子どもたちに常に”あなたは将来何にでもなれるの”と言い続ける。 でもフィンランドの子どもたちはいつも自分の好きなことに集中していて、すでにそれぞれ”何か”を成し遂げているので、”何にでもなれる”なんて言う必要すらないの

という言葉が心臓直撃。 ちょうど教育のことでいろいろ悩んでいるところだったので、映画を見終わった後、一緒に観た夫に「フィンランドに引っ越そうよ」と言ったところ、「寒いよ。 去年の11月に出張でヘルシンキに行ったけど、人生で一番寒かった。」とのこと。

確かにそんなに寒いのは無理だ・・・ 私、SAD(Seasonal Affective Disorder、冬季うつ病)だから冬暗いのもダメだし・・・
やっぱり国の価値観だけでも生活はできなくて、気候も大事なのである・・・

いろいろ思考ができておススメです。


One response to “『マイケル・ムーアの世界侵略のススメ』を観た

  • Tyger Tyger

    ムーアのドキュメンタリーはクサ過ぎて、信頼性無しのプロパガンダの領域だと思う人間としては、彼が褒める国の税率とか失業率、世界平和維持への貢献率とかが気になりますが、時間の無駄になるので一々調べる気は毛頭なし。

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