安倍マリオが拓いた新境地

もうたくさん記事も出ていますが、素晴らしかったですね、リオ五輪の閉会式でのTOKYO2020プロモーション。
安倍マリオにすっかり持っていかれた感はありますが、映像・音楽・ダンス・グラフィックスの融合で「未来都市 TOKYO」感が溢れ出ていて素晴らしかったです、Teaser(予告編)としては最高レベル、海外メディアでも総じて「2020年東京オリンピックに期待が持てる」とポジティブな評価だったようです。
ドラえもん・キティちゃんを初め、うちの2歳でも知ってる世界的知名度のキャラクターのオンパレードで「そうそう、これが見たかったんだよ」と、もげるくらい首を振ってしまいました。 あの後、「ポケモンがいない」、「ゴジラは?」などネット上が大いに賑わいましたが、本番に何が出てくるか興味を掻き立てるのがTeaserですからね、大成功だったと思います。

さて、話題をさらった安倍マリオですが、真面目を国是とする一国の現役首相にこの役をやらせるシナリオを書いたプロデューサー陣、稟議(?)を通した事務方、振り付けの指示に首を縦に振った安倍首相も皆素晴らしいと思います。 BBCの中継ではアナウンサーが一瞬絶句した後、「派手なパフォーマンスで知られている訳ではない首相がマリオになって登場しました」というようなコメントをしていました(←記憶あやふやですが)。 

国のトップが自らを笑いのネタにするというのは高度なテクですが、コミュニケーション効果はバツグンです。 人間味を感じさせるし、話題性があってPR効果は大。

今年に入ってからアメリカのオバマ大統領もイギリスのキャメロン首相もやっているので紹介します。

1. オバマのホワイトハウス記者会晩餐会
今年5月、大統領がジョークを披露する伝統があるホワイトハウスの記者晩餐会で流されたビデオ。 今年で8年の任期満了のため最後となるこの晩餐会で「引退して暇を持て余している自分」をオバマ大統領が自演したビデオがすごく話題になりました。 見ていない人は日本語字幕版があるのでどうぞ。
BBC – 大統領でなくなったら何をすれば……オバマ氏の自虐ビデオ
(ここからネタバレ)
「引退してから妻にも世間にも相手にされない自分」という筋書きでさまざまなネタを駆使して自分をおちょくっていますが、最後が秀逸。 当時、オバマ大統領はゴルフ好きで本業はそこそこにゴルフばかりしているとメディアで批判されていました。 ビデオの中では、引退後の生活を相談した共和党議員に「自分の好きなことやりなよ」とアドバイスされたオバマが向かった先が・・・

もちろんゴルフ。 引退後は誰にも文句言われることなく、ゴルフしちゃうもんねー、いうオチ。
(ネタバレ終了)

これを現役大統領をつかって作ってしまうホワイトハウスもノリノリで演じるオバマもすごいなー、と思ったもんです。

私はこれを見て、舛添元都知事も「都知事を引退後、ポケットマネーで豪遊するボク」とか逆に「改心して山奥に籠って晴耕雨読の清貧生活を送るボク」とかビデオつくってみればウケたかもー、と思いました(んな、わけないか・・・)

2. キャメロン前首相の最後の国会
EU離脱を問う国民投票で残留派を主導したキャメロン首相が辞任したのは記憶に新しいですが、Brexitの結果が出て辞任表明した後のキャメロンは吹っ切れたのか自虐ギャグが炸裂していました。
とりわけすごかったのが、辞任当日の国会中のPrime Minister’s Questions(首相への質問会)。 普段は首相と議員が質疑応答をする下院本会議の場なのですが、辞任当日ということで与野党議員から首相へのエール・ねぎらいの言葉が次々とかけられた後のキャメロンの最後の言葉です。

その前に、このネタのオリジナルはこちらです(1:35あたり)。

Cameron v Blair in first PMQs ‘He was the future once’ – 2005
キャメロンが保守党党首になったばかりの11年前に(若い!)、当時のブレア首相(労働党党首)に対して、”He was the future, once”(彼もかつては未来だった)と辛辣なひとことを放ったシーンです。

そして時は過ぎ、首相を6年務めた後、11年後の今年、自身にとって最後となる国会で。

David Cameron: I was the future once
最後の締めくくりの言葉で感謝の言葉を述べた後、

“I was the future once.” かつて私は(イギリスの)未来だった。

この頃、イギリスはBrexitの結果を受けて国内政治は与野党共に大混乱で、国民投票にかけたキャメロンは戦犯呼ばわりされ、けちょんけちょんに言われていました。 その状況下でのすごい自虐です・・・ これに対し、議会は満場総立ちのスタンディングオーベーションで見送っています。

オバマもキャメロンも上手でしたが、自虐ギャグは自らを客観的に見て分析できる冷静な観察眼と、自分以外の誰も傷つけないマチュア(成熟した)な精神、ある程度の愛されキャラでないとできない高度なテクで国のトップの誰もが向いているわけではありまえせん。 違った手法としてはカナダのイケメン首相やプーチン大統領みたいに肉体美を魅せるのもありと思います(効果的なのは男性政治家だけになりますが)。

日本の首相はころころ変わるので名前も顔も覚えられないというのが過去30年くらいの日本のトップに対する(評価にもなっていない)評価です。
「政治家はちゃんと国内の仕事しろ」というのももっともですが(実際、イギリスもそういう声は大きく真面目な実務家が首相になりました)、ソーシャルメディアでニュースが瞬時に拡散される世界の中で、オーディエンスの想定を上回るものを魅せるというコミュニケーション力・エンタメ力も必要であり、国益にもかなっていると思います。

近年の「クール・ジャパン」や「おもてなし」が「そうじゃない!」感が強かったのは、プロダクトアウト(作り手がいいと思うものを売る)の手法を取っていたからで、それに対し、安倍マリオ含め閉会式でのプロモーションはマーケットイン(顧客が欲しいと思うものを売る)で新たな境地を開拓したと感じました。

ホワイトハウスにもダウニング街にも優秀なコミュニケーションスタッフがいるそうです。 今後、安倍マリオの成功に味をしめた霞ヶ関にもマーケットインの発想で攻めたコミュニケーションを行って欲しいと思います。

余談その1
キャメロン首相は辞任を首相官邸前で発表した後、マイクがまだついているのを忘れてハミングしながら戻るところもキャッチされています(笑)。

David Cameron CAUGHT HUMMING A TUNE after announcing resignation & Theresa May as new Prime Minister

余談その2
以前、『爆走するイギリス・ユーモア』というエントリーを書きましたが、今でこそ自虐ギャグ(ブラックユーモア)のセンスがすっかり根付いているイギリスですが、ヴィクトリア時代(100年以上前)のイギリス人は全然面白くなかったらしい。 20世紀後半の「イギリスは終わった」と言われていた斜陽の時代に培われたセンスだそうです。 音楽にせよビジネスにせよユーモアにせよ不況の時代に生まれるんですねー


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