ロンドンのデザイン・エコシステム

悪いな、ミラノ・東京。 残念だったね、ストックホルム・パリ。 アインドホーベン・ベルリン・バルセロナ・・・そして特にニューヨークよ、許しておくれ。
だけどロンドンこそが世界のデザインの首都だ。

去年のロンドン・デザイン・フェスティバルを評したThe New York Timesの記事の冒頭です(→“NYTimes: In Praise of British Design”)。

こう言わしめるロンドンのデザイン都市としてのパワーが、数十万人のクリエイティブ人口を惹き付けています。 そしてそのハイライトを楽しめるのが毎年9月(今年は9月14日〜22日)に市内約300ヵ所で行われるロンドン・デザイン・フェスティバルです(London Design Festival)。

ヨーロッパの3大デザイン都市といえばミラノ・パリ・そしてロンドン。 各都市は巨大なインテリア・デザイン祭りを擁しており、春のイースターの時期にミラノで開かれるサローネ(Salone Internazionale del Mobile)、冬と秋の年2回開かれるパリのメゾン・オブジェ(Maison & Objet)に比べると規模(訪問者数)は小さいロンドン・デザイン・フェスティバルですが、近年急速に存在感を増し、国外からの来場者数・出展者数ともに伸びています。

「シリコンバレーには世界を変えるテクノロジー企業が生まれるエコシステムがある」とシリコンバレーを模倣したがる都市は数多くありますが(→『シリコンバレーのWannabeたち』)、この好循環はデザイン界においてロンドンに当てはまり、綺羅星のようなデザイナーが次々に生まれるエコシステムができています。 そこでロンドン・デザイン・フェスティバルの会場をエコシステムに沿ってご紹介します。

学校・・・ロンドンには有名なデザイン・アートの大学・教育機関が多くあり、世界中からアート・デザイン志望の若者を惹き付け、毎年デザイン界に多くの人材を供給しています。 これら教育機関は産業界と密接にリンクしており、卒業展の作品が大手ブランドの目に止まりデビューという話も常に聞かれます。 学校のウェブサイトでは在校生・卒業生のフェスティバル期間中の展示の案内情報が得られます(例:Royal College of ArtChelsea College of Art and Design)。

若手・・・卒業したばかりの若手がデビューする場所として選ぶことが多いのがイーストのブリック・レーンが会場のTENT LONDON。 ほとんど試作品のような荒削りなものもあり玉石混合ですが、数年後のスターが現れるのもここです。 私はまだデザイン・フェスティバルに行き始めて今年で3年目ですが、TENT出展を機に雑誌に載り、著名ブランド(LIBERTYHEAL’Sなど)からコミッションを得て、スターダムを駆け上がるデザイナーを目のあたりにしています。

実力派・・・アールズコートの100% Designではモダンデザイン、今年からケンジントン・パレスに会場を移したDecorexでは高級インテリア商材、Design Junctionでは巨大な会場でエスタブリッシュされたブランドの最新作が見られます。 どの会場にも特徴があり棲み分けされているのでウェブサイトの事前チェックは必須。 余りの数の多さに圧倒されますが、この多様性こそがデザイン都市の底力。 展示会場で開催されるセミナーにはスターデザイナーが次々と登場し、人気セミナーは参加者で溢れ返ります。

建築・・・フェスティバル期間中に開催されるOpen House Londonでは普段見られない建築の内部が公開されます(→『現代建築の都ロンドン』)。 今年は何と”10 Downing Street”(首相官邸)が公開されます(抽選)。

美術館・・・ロンドンのデザイン・エコシステムに欠かせないのが「無料」の世界最高峰の美術館。 子どもたちは小さい頃から公園ではなく美術館に写生に行き、物を見る目を養います。 フェスティバルのメイン会場となるVictoria & Albert Museumでは特設インスタレーションをかしこに見ることができます(去年は佐藤オオキさん率いるNendoの白い椅子でした→Mimicry Chair)。 また去年まではV&A入口に設置されていた巨大インスタレーションは今年はTate Modern入口に場所が変更になったようです。 美術館とは同じ美術館に何度も何度も行ってようやく少しずつ見方がわかってくるものだということが、ロンドンに住んで初めてわかりました。 美術館巡りをするだけで人生終わってしまいそうなほど数も量もありますが、上記2つは美術館のキングとクイーンです。

お金持ち・・・ミラノ・パリとロンドンの一番の違いは、市場(=世界のお金持ち)がすぐそこにあることでしょう。 ロンドンの不動産は手堅い投資と考えられており、金融恐慌とユーロ危機以降、高級不動産の値上がりが止まりません(→The Economist: The rubber bubble)。 アート・建築・インテリアの分野はお金持ち市場に牽引されている側面が強く、ハイエンドの需要が数多くのデザイン事務所を支えています。 高級住宅街は数多くありますが、ナイツブリッジ(Knightsbridge)、ベルグラーヴィア(Belgravia)、チェルシー(Chelsea)を結んだ三角形内は”黄金の三角形(golden triangle)”と呼ばれ外国人富裕層に大人気のブランド地なので、行ってみると散歩中の富裕層に出会えるかも(?)。

メディア・・・私はこれらのイベントには仕事でプレス(記者)用バッジで入れるのですが、プレスルームに行くと実に多くの国からプレスが来ています。 知識経済(Knowledge Economy)の到来が言われ出し、政府やメディアのクリエイティブ産業への注目度が上がっているためでしょう。 去年の100% Designは韓国デザインが非常に存在感があり、韓国からテレビ局が来ていました。 イギリスでのインテリア雑誌発行数は日本の10倍くらいあった記憶ですが、メディアの審美眼・分析力・注目度共に桁違いです。

その他・・・サザビー・クリスティーズなどオークションハウス、IACF開催の国際アンティークマーケットなど世界中から良いアンティークやアートが集まります。 (時期はフェスティバル期間中ではありませんが)Affordable Art Fairや市内に数多あるギャラリーなど、日常的にアートを買える土壌もあります。

ざっと書きましたが、とても短期間の滞在で回れるものではありませんし、3年半住んでいる私も「あの特別展行きたい」と思いつつ思い出した時にはもう終わってた、を延々と繰り返しているのが現実です。
ロンドン・デザイン・フェスティバルが1ヵ月後に迫っているので会場をメインに紹介しましたが、エコシステムは「大きな国際見本市で集客すればよい」という単純な施策で生み出せるものではなく生態系にいる生き物すべてが活き活きと独自性を発揮できる土壌にできます(面白いレポート見つけました→三菱UFJリサーチ:英国の「クリエイティブ産業」政策に関する研究)。

私もエコシステムの一員として、この深く楽しいジャングルの中で発見を綴っていきたいと思います。 このネタでのブログ・リクエスト歓迎です、コメントかContactからお寄せください。


2 responses to “ロンドンのデザイン・エコシステム

  • Snowbird

    Design Festival! 渡英後でバタバタしている頃ですが、可能であれば一つでも二つでも行ってみようと思います。建築/インテリア系が興味の中心です。TENT Londonやセミナー等のレポートお待ちしております!

    • la dolce vita

      ぜひ行ってください! V&Aのインスタレーションなんかは比較的長くやっていると思います。
      仕事でデザインフェスティバルのレポートを書いているのでブログにどこまで書けるか不明ですが、何か書く予定です。

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