「一身にして二生を経る」時代に生まれて

長らく私の「読みたい本リスト」に載っていた梅田望夫さんの『ウェブ時代をゆく – いかに働きいかに学ぶか』をようやく読みました。
書評としては遅すぎる気もしますが、better late than neverということで。
本の中で何度も出てくる「一身にして二生を経る」はウェブ時代という時代の大変革の最中にある現代を幕末から明治に生きた福沢諭吉になぞらえた言葉(下記、本より引用)。

福沢諭吉は、『文明論之概略』の緒言の中で、幕末から明治への変化について、「恰(あたか)も一身にして二生を経るが如く、一人にして両身あるが如し」と表現した。福沢は、その六十六年の生涯の「最初の半分」(三十三年)を封建制の江戸時代に、「あとの半分」(三十三年)を明治維新の時代に、まさに「一身にして二生を」生きた。
ウェブ進化という大変化に直面している同時代の私たちの生涯は、「一身にして二生を経るが如し」だと思う。

その大変革であるウェブ時代とはどういう時代かは、今までブログで紹介した『ウェブ進化論 本当の大変化はこれから始まる』『フラット化する世界』『富の未来』あたりを読んでほしいのですが、その変化が目に見え始める時期とその変化の影響を受ける世代について次のように評しています。

私は、本書で述べてきたような変化がかなり進行し、日本社会もずいぶん大きく変わったと過半数の人が感じる時期を「2015年から2020年あたり」とイメージしている。(中略)
2015年には、1975年生まれが40歳、2020年には45歳になる。人生80年とすれば、1975年から80年代あたりの世代が、福澤諭吉のように「一身に二生」と感じるだろう。

うーん、まさに私たち世代ではないか・・・
私は今まで「私たち逃げ切り世代だから」と平然と言う人たちやメディアにかなりの違和感を感じていたのですが、この箇所を読んで、自分たちが逃げ切れない世代であることを薄々と(いや、はっきりと、かな?)感じていたからこそ、その発言の裏にある責任感・当事者感のなさに感じた違和感だったのかな、と思いました。
さて、「一身に二生」の私たち世代。 私はどうも「自由」に見えるらしく、よくキャリア相談も受けるのですが、30過ぎて「転職に親が反対する」「妻も子供もいるし・・・」という人が多いのに驚きます。
親が反対って・・・ 親の人生じゃなくてアナタの人生の話なんですが・・・ 「大企業に入って一生安泰」は親世代の成功モデルであり、たかだか戦後50年くらいの話(別に転職バンザイという意味ではなく、親に言われるからではなく自分の頭で考えよう、という話)。 『ウェブ時代をゆく』では「第6章 大組織 vs 小組織」でキャリアを考える指標も提示しています。
私は人生の重要な局面での選択に関しては、極端な話、配偶者の同意さえ得られれば他の人の言うことは参考程度でいいと思っていますが、配偶者の同意が得られない、という人も多い。 人生の方向性、価値観みたいなものって結婚する時、まず初めに合意すべきものなんじゃあ? ここを合意せずしていったい何を合意したんだろうか?
私は社会に出た途端、荒波だったので(→コチラ)、結婚したらめでたしめでたし(おとぎ話的には、they lived happily ever after…)と思ったことは一度もなく、むしろ世間の荒波を一緒に乗り越えられる人、というのが最重要条件でした。
考えようによっては、「一身に二生」の世代って一生で二度お得、ひと粒で二度おいしい、ラッキー世代だと思うのですが?
自分たちがおじいちゃん、おばあちゃんになった時に、孫に「おばあちゃんのお父さんの時代はね、大学を卒業して会社に入ったら35年間定年になるまで同じ会社にいることが普通だったんだよ」と言ったら「エーッ! シンジラレナーイ!」とか言われたりして。


7 responses to “「一身にして二生を経る」時代に生まれて

  • デレク

    私は74年生まれですので、「一身にして二生を経るが如し」を感じる世代入ってますかね(笑)
    薄学なので、タイトルを拝読し、「1粒で2度おいしい」かと勘違いしてしまいました。
    > 私は人生の重要な局面での選択に関しては、極端な話、配偶者の同意さえ得られれば他の人の言うことは参考程度でいいと思っていますが

    同感です!
    私は転職したことがないので、分かりませんが、自分の人生は自分で決めるしかないなと思っています。
    配偶者が自分の決定事項にさえ、同意してくれれば、それでいいと思っています。
    会社がずっと続いているとは到底思えず、40過ぎの転職もありえるなと思っています。
    (今のところ、特に会社に不満はありませんので、辞めるつもりはありませんが…)

  • la dolce vita

    >デレクさん
    ありがとうございます。
    「一身にして二生を経るが如し」とは文字通り「ひとつの体で2回人生を送るがごとし」という意味だと思いますが、「1粒で2度おいしい」と言えるかもしれませんね!

  • しん

    「一身に二生」、確かに2度美味しいかと^^
    福沢さんの時代は時の流れの進むスピードと情報量との比較で一生を二生と捉えていたかと思いますが、
    もし福沢さんがこの時代に生まれていたら二生以上に感じておられたかも。
    今の時代、時の流れで二生は生きて、情報量では何生で生きているのやらと思います。
    かなりマルチタスクで情報量をこなしていると思います。テレビ、ラジオ、携帯、メール、インターネットなどの媒体から得る情報量。それとストックできるビデオ、CD,DVD,HDDなど。それらを検索できるツール。意思決定ツール(ビジネス戦略、戦術など含む)まであるこの時代。掛け算するとすごいですよね。これらを使いこなしている人ほど、何生過ごすことになることやら。
    お得でお徳な人生を送りたいものだと思いました^^ 
    このエントリーを見て、この時代に生まれて良かったと思いました^^

  • la dolce vita

    >しんさん
    >このエントリーを見て、この時代に生まれて良かったと思いました^^
    ありがとうございます。 そう言って頂けると嬉しいです。
    確かにすごい情報量ですよね。 ゴミな情報も多いので、あまり情報の洪水に振り回されないようにしたいものですね!

  • Jiro (from Alpha Leaders)

    梅田さんと言えば、私の場合「ウェブ進化論」で進化が止まってしまい、「ウェブ時代をゆく―いかに働き、いかに学ぶか」までは全然行き着いておりませんでしたが、近いうちにぜひ読んでみたいと。
    梅田さんが、そのウェブ進化論の「脱エスタブリッシュメントへの旅立ち」で「日本と言う国は「いったん属した組織を一度も辞めたことのない人たち」ばかりの発想で支配されている国であると言う再発見をした」と書いていたのが印象的でしたが、まさにその延長線上の話なのでしょう。
    実はここのところの議論って、ウェブをきっかけにはしていますが、中根千枝のタテ社会の人間関係以来の古くからある「日本にいる日本人」の社会的精神構造の議論と同じなのではと思っていました。まあ、それはそれとして、彼が9.11に対する日本の有識者に失望し、それ以降新しい自分を構築することに賭けた潔さは素晴らしいと思うし、それが多分、ここで言うところの彼の二度目の生なのかなと思う次第です。

  • la dolce vita

    >Jiro (from Alpha Leaders)さん
    >「ウェブ進化論」で進化が止まってしまい、「ウェブ時代をゆく―いかに働き、いかに学ぶか」までは全然行き着いておりませんでしたが、近いうちにぜひ読んでみたいと。
    「ウェブ進化論」とは全く趣きが異なり、「ウェブ時代をゆく」は若者向け生き方指南本です。
    ネット上の書評は結構辛辣なものも多いのですが、20-30代と40代以上の反応が大きく異なるのかな?、と感じました。
    >「日本と言う国は「いったん属した組織を一度も辞めたことのない人たち」ばかりの発想で支配されている国であると言う再発見をした」
    その通りですね。 今の私の周りには「組織を辞めたことのない人」がほとんどいないので、そういう人たちばかりでできた社会がどんなだったか忘れかけています、つい最近までいたのに。

  • Jiro

    la dolce vitoさん
    >「ウェブ進化論」とは全く趣きが異なり、「ウェブ時代をゆく」は若者向け生き方指南本です。
    そうですか、梅田さんは新しい自分を構築しつつある?と言うことでしょうか。私も同世代なのですが、喝采を送りたいと思います。読んで確かめてみる必要がありますね。
    >今の私の周りには「組織を辞めたことのない人」がほとんどいないので
    はっはっ!私もそうなんです。でも、シンガポールと違って日本での外資系企業のその環境は異様で、はじめて会社を辞めた人やせいぜい3社目なので、最初の会社を引きずっている人が多いですね。価値観そのものを最初に入った会社に依存しているようで、ちょっと異様です。でも、日本はシンガポールや他の国のようには当分はならないでしょうね。

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