廃墟に2万人が並んだ日

9月のデザイン・フェスティバルを例年通りバタバタと駆け抜け(→『ロンドンのデザイン・フェスティバル』)、そのままイングランド西部デヴォンにホリデーに行き、帰ってきてたまった仕事に追われています。

デザイン・フェスティバルの記憶も遠くなり始めていますが、今年印象的だったのはこれでしょう、旧バタシー発電所(Battersea Power Station)に市民2万人が並んだニュース。
Animals Battesea Power Station普段は一般公開されていないロンドン中の800もの建築が一斉に無料で一般公開される素晴らしいイベントOpen House Londonのことは『現代建築の都ロンドン』というエントリーで書きましたが、今年の目玉は再開発が決まっているテムズ河沿いにある旧バタシー発電所(グレードII指定建造物)でした。

1933年に建てられたヨーロッパ最大のレンガ築建造物(アールデコ様式)であり1977年のピンクフロイドのアルバム『アニマルズ』のカバー(左写真)を飾ったことで世界中に有名になりました。 1983年に発電所としての役目を終えたバタシー発電所、30年以上に渡り何度も再開発計画が生まれては頓挫します。 その間、手入れされず廃墟となった巨大な姿はギリシャ神殿のようにも見え、ロンドン市民が毎日のようにテムズ河越しに拝むものの中に入ることはできないミステリアスなランドマークでした。 ようやくマレーシアのディベロッパーによる再開発計画の許可が下り、今年末から工事が始まる予定。 廃墟のままの姿が見られる最後のチャンスとあって公開日の初日には2万人もの人が並んだとのこと。

Battersea Power Station11:00 – 16:00の公開時間だったため私たちは(他の建築を回った後)午後1時に行ったのですが、見通しが甘かった・・・ 長蛇の列で入ることは無理だとすぐに追い返されました。
FNNニュース:廃虚だったロンドンの旧発電所、複合施設に生まれ変わることに
The Evening Standard : Not happy: thousands queue to see inside Battersea Power Station – and many are turned away

イギリス人は古い建物を現代用途に合うように修復(restoration)したり(→『The Restoration Man』)、長い間荒れ果てた地域を再生(regeneration)するのが大好きで(→『ロンドン2012から東京2020へ』)、このカルチャーに触れたことが私のキャリアチェンジのきっかけとなりました。 それにしても普通の一般人が、天井は抜け落ち窓ガラスも割れた廃墟に2万人並ぶとは、本当にみんな好きなんだなー、と改めて感心(入れなかったのはとても残念ですが・・・)。

Battersea Post Developmentちなみにここまで市民に愛されている廃墟の再開発の青写真がこれ、かなりイケていません。 建物自体は保護指定がかかっているので大掛かりな改築は不可能、テムズ河畔のプライム・ロケーションという立地を活かして、広大な跡地に隙間なく高級コンドミニアムを建てる(外からはほとんど旧発電所が見えない)というつまんない計画(最上階のペントハウスは£6mil.=約9億円というお値段)。 今までサッカースタジアムやコンサート会場に転用する計画が頓挫したことからもわかるように、発電所の修復にコストがかかり過ぎるため高級住宅にする以外、採算が取れないのでしょう。 同じテムズ河畔の旧バンクサイド発電所がテート・モダンという世界有数の現代美術館に生まれ変わったのとどうしても比較してしまうため、残念感は否めません。
参考:建築マップ  イギリス:テート・モダン

ふと横浜みなとみらいを思い出しました。 あそこは三菱重工の横浜造船所の跡地だったんですよね、再開発の経緯はよく知りませんが在りし日の姿を想像するのは難しい・・・。 イギリスも1960、70年代は新しいものがいいという社会通念が通っており、多くの建造物の内装が破壊されたそうです。 失ったものは取り返せないので難しいもんです。
今、ランドマークタワーのすぐ横のドッグヤードガーデン(国の重要文化財)でプロジェクション・マッピングをやっていると知りました。 最近、流行ってますよね、建造物へのプロジェクション。 ミラノの光の祭典、思い出しました(行ってないけど→『JDN/ミラノ360° LED -光の国際フェスティバル-』)。 ドックヤードガーデンのを見られた方、どんなのだったか教えてください。


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