The Restoration Man

普段「テレビは見ない」と言っている私ですが、最近密かにはまってしまった番組があります。 それが民放Channel 4の”The Restoration Man”。 イギリス各地にある歴史的建造物(多くは長年見放されていて朽ち果てている)を修復してマイホームにしようとする人々を建築家のGeorgeが訪ねて修復プロジェクト一部始終を記録するドキュメンタリー X エンターテイメント番組。
Reeds Windmill Before例えばこの建物。 19世紀初頭に建てられたケント州の風車、19世紀を通じて小麦粉の生産に使われていましたが1915年の大嵐で羽が破損、それ以来使われていませんでした。 一家に代々伝わるこの風車を継いだ若いPeteと妻のNikkiが修復に乗り出します。 癌に冒されたNikkiが病の進行と闘いながら進むエモーショナルなこのプロジェクトの一部始終は、英国内ではChannel 4のサイトから、国外ではYouTubeで見られます(修復完成後の2人の家はContinue readingをクリック)。
Chennel 4 : “The Restoration Man – Reeds Windmill, Kent”
YouTube : “The Restoration Man – Reeds Windmill, Kent”

イギリスでは古い建物が登録建造物(Listed Building)、歴史的建造物からなる街並みが保存地区(Conservation Area)と指定されていて、景観が文化財として保護されています。 現在、登録建造物は374,081件、保存地区が9,080地区あるそうです(“English Heritage: Listed Buildings”より)。
対して日本は登録有形文化財(建造物)が9,124件、重要伝統的建造物群保護地区が102地区(『文化庁:文化財指定などの件数』より)。 イギリスは登録建造物の数が日本の40倍、保護地区の数は90倍もあるんですね。 調べてちょっとビックリ。

どこの国でもそうですが、古い建造物を修復するのは新築を建てるよりずっとコストがかかります。 歴史的建造物や保護地区に指定されると概観のみならず内装まで細かい規制があるし、建築当時の方法で再現しようとしても建築材が手に入らなかったり、施工業者がいなかったり、膨大な人力(=コスト)がかかったりするから。 そのため古い建築物は国が経済成長する過程でどんどん壊されるのが常です。 イギリスでは歴史的建造物を取り壊すことはできないので誰も手を加えないまま廃墟となります(登録建造物の3%が倒壊などの危機(Heritage at Risk)にあるそう→English Heritage)。

それでも近年、コストと労力に関わらず、「古い建物にこそ魅力がある」と考え、古い建物を修復して住もうとする一般人が増えていて、冒頭のテレビ番組の人気もそれを反映しているのでしょう。 危機的状況にある遺産(Heritage at Risk)の数は10年前の半分に減少したのだそう。
私はシンガポールからロンドンにくる3年前に『成熟国からの視点』というエントリーで次のように書きました。

私はシンガポールという成長期からそろそろ成熟期に差しかかろうかという若い国(青年国)にいて、「そうそう、若い頃は私もそうだったよ」とまるで老人のような心境になることがありました。
例えば、経済成長のための開発を優先させて歴史的建造物を壊してしまうところとか(→詳しくは『無知な外国人の赤っ恥』)。
実際は、日本の高度経済成長期はリアルタイムで生きていないし、バブルの記憶すらほとんどないのですが、やっぱりこの「成長・成熟期を終えてしまい老いを迎えた人」のような心境って育ってきた環境により体にすり込まれているのかもしれません。

そういう意味で、ロンドンに住んで興味があること、ひとつめ。
産業革命により19世紀に繁栄を謳歌したイギリスが20世紀に入りアメリカに覇権を譲って徐々に衰退していく。 1970年代には「英国病」と呼ばれたが、サッチャー政権時代に改革を断行し、金融ビッグバンで息を吹き返した。 一時期シティ(ロンドン金融街)はウォール街を抜いたと言われるほど活況を呈するが、金融危機で手痛い打撃を受け、いまだ復活の兆しが見えない。
日本にとっては「成熟国の先輩」であるイギリスから見ると世界はどう見えるのか、成熟国として衰退を免れる(遅らせる、ソフトランディングさせるため)にどういう戦略があるのか、という点に興味あり。

こう書いていただけに、この古い物を直して使うカルチャーが一般人のレベルで根付いてるのを目にあたりにして「これだ!」と思いました。 『そこにしかないもの』に書いたように、瞬時に物や情報が世界中を駆け巡る時代に他者と差別化するには、物や情報の移動が今のように簡単でなかった時代に積み上げられた固有のものにインスピレーションを求めるのが有効だから。 歴史を徹底的に利用するヨーロッパが得意とするところ、それもお上からの補助金頼りではなく、チャリティー団体含めた民間で回すサイクルが根付いているところが成熟社会になりえる所以。

Reeds Windmill After冒頭の番組の19世紀の風車は横にアネックスが建てられ右のような家になりました。 私もいずれはこういう改築を日英両方で手がけてみたい。

イギリスでこういう変わった不動産を探している人はこちら→Unusual Property for sale
買えないけど泊まってみたいなー、という人はこちら→English Heritage: Holiday Cottages
こんな素敵な場所で結婚式をあげてみたい!という人はこちら→English Heritage: Venue Hire


Leave a comment