これからのモノづくりに必要な思考法を学ぶ授業

なにこれ? 私がこの授業受けたい。

というのが、まず頭に浮かんできた偽らざる感想でした。
次に、浮かんできたのが、

私が授業受けられないなら、子どもに受けさせたい。

こんな授業の選択肢がある東工大の学生が羨ましかったし、こんな教育を受けた若い世代が社会に出て何をつくるのかが本当に楽しみになりました。

『エンジニアのためのデザイン思考入門』で知った東京工業大学の「エンジニアリングデザインプロジェクト(以下、EDP)」という名のプロジェクト型学習の話です(Kindle版はこちら)。 共著者の坂本啓氏(東工大准教授)は高校時代の同級生(献本御礼)。 「エンジニアのための〜」という題が付いているのでエンジニアではない私はすぐ食指が動かなかったのですが、読むのにエンジニアである必要は全くありません。 むしろ営業でも企画でも生産管理でもデザイナーでも職種を問わず「モノが売れなくなったと言われている時代のモノづくり」に少しでも思いを馳せたことがある人は楽しく読めて、仕事に使えるヒントが得られるのではないかと思います。

本著は東工大の准教授である齋藤氏がスタンフォード大のかの有名なd.schoolとMechanical Engineering学科が提供しているME310と両方にどっぷり1年間浸かった経験から両方をモデルにして一から作り上げたプロジェクト型の授業EDPを、空間としての場のつくり方から教授陣・学生の多様性をどうやって確保するか、美大生と工大生のリアルなぶつかり合いエピソードまで、実にあったことそのまま、成功も失敗も含めてありのままに書かれています。

東工大の先生方が苦労しながら、大事にしていること、あきらめたこと、学生の反応、企業からの参加者の反応、など現在の姿まで築き上げていくありのままの過程を描いて、そこで得た知見を惜しみなく公開することにより、このまま他大学や企業内の部署横断組織などで仕組みとして取り入れられそうな内容になっています。
なんだか楽しそうなプログラムの様子。 左奥で立って学生を見ているチェックのシャツの人が坂本啓氏です。

なにこれ、15年前に私がこの授業受けたかった。

というのも私、15年前は日本のモノづくりを代表するような技術FeliCa(後におさいふケータイ)とi-modeの海外展開の最前線にいて海外出張ばかりしていました。 FeliCaもi-modeもなぜ海外展開できなかったのか、私の見解は過去にこちらに書いています→『FeliCaがガラパゴス化した3つの理由 – 1』『i-modeはなぜ海外展開に失敗したのか』

FeliCaもi-modeも当時日本という非常にハイコンテクストな特殊な市場において消費者に受け入れられ大成功した素晴らしいイノベーションだったと思います。 ところが、余りにも日本というコンテクストに最適化していたため、欧米のまた別のコンテクストには馴染まないものでした(いわゆる「ガラパゴス化」)。
その頃、海外の事業者(FeliCaの場合は鉄道事業者、i-modeの場合は通信事業者)の生の声を現場の私たちが届けても「良い技術であれば伝わるはず」というのが社内ムードでした。

これをメーカー・商社でゴリゴリ何年もやって疲弊してしまい、「もう自分がそうだと心から信じていないことはやりたくない」と思ったのが、この輸出型キャリア(*1)を下りた理由のひとつです。
*1・・・参照・・・『キャリアの下り方 – 1』

ところが、次世代のエンジニアを育てる場である東工大では技術発とは逆の、実践で使える世の中に現存しない製品を生み出すクリエイティブ思考を
共感→問題定義→発想→プロトタイプ→テスト
の5つのステップを高速で回し、参加する人の思考方法や常識まで変えていくような試みがすでに行われているだなんて! 隔世の感があります。 上記の通り、ソニーで苦労した私は最後のソニー社内における自発的チャレンジ応援プログラムの項も感慨深く読みました。

また、高等教育前の子どもを持つ親としては、本著の中に端々に見え隠れする受験のための初等・中等教育の弊害(教授陣の多様性も保たれているため「先生によって言うことが違うから困る」とクレームする学生がいるところ、など)にも身をつまされます。 自分自身がそういう教育を受けてきただけに、「では東工大のEDPを受けて素地を十分に伸ばせるような子に育てるには今から何ができるだろう?」と考えるきっかけにもなるのです。

私がもたもたしている間に今年の最終発表会が終わってしまいましたが、この東工大のプログラム、非常に外に開かれているのが特徴です。 一般の人も参加可能なイベントもあるので、ぜひサイトも覗いてみてください。
東京工業大学エンジニアリングデザインプロジェクト
『エンジニアのためのデザイン思考入門』Kindle版


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