i-modeはなぜ海外展開に失敗したのか

以前『ルール作り上手なフランス – 2』

私は野村総研が「日本のガラパゴス化現象の例」としてあげた4つの分野(携帯電話・非接触ICカード・建設業・デジタル放送)、2つも海外進出を現場でやったことがある(4つのうち2つ経験した人はなかなかいないと思う)

と書いてそのひとつが非接触ICカード(FeliCa)であったことはこちらに書きましたが、もうひとつがi-modeです、2004 – 2005年頃の話。
孫さんが日経ビジネスオンラインのインタビュー

いわゆるiモードというのはインターネットじゃないんですよ。 一般のインターネットがさくさくとブラウジングできるようなものでなく、囲い込まれた特殊な画面サイズの特殊なアプリの世界です。

と答えたのに対し、夏野さんがTwitter上で悲しむ

インターネット業界からドコモに行き、さんざん苦労して世界でも例のないインターネット型携帯サービスを立ち上げたのに、尊敬する方から否定発言されると言うのは本当に悲しい。 少なくとも2000年代前半にiPhoneは作れなかった。 GoogleもAppleもさんざん日本を研究して作った。

という事件がありました。

 これに対して、池田信夫さん(『iモードの成功と失敗』)と海部美知さん(『iモードの評価と「馬跳び現象」』)がブログに書かれています。 池田さんの

iモードは、世界のビジネススクールでも「オープン・イノベーション」の成功例として教えられる、数少ない日本のイノベーションである。

や、海部さんの

「なまじiモードが成功したからスマホ移行が遅れた」日本を、アメリカの業界仲間は「フランス病」とよぶ。

には全面同意。 2004年に私が留学していたビジネススクールINSEADではi-modeのケーススタディがあり、他先進国キャリアが下がる一方の音声(ボイス)収入に悩んでいたのに、ドコモはi-modeで莫大なデータ通信料を売り上げ、イノベーションとして賞賛を浴びていました。
前置きが長くなりましたが、「i-modeはなぜ海外展開に失敗したのか」について私の思うところを。
池田さんのブログには

この原因は夏野氏によれば、海外のキャリアを買収してiモードのサービスを行なう決断が、当時の経営陣にできなかったためだという。 私は逆に無料でライセンスして拡大すべきだったと思う

とありますが、私は海外キャリア買収でも無料ライセンスでもどちらの方法でもシェア30%以上は取れなかったと思います(成功の定義があいまいなのでシェア30%と定義)。 理由は日本市場と世界市場はキャリアと携帯端末メーカーの力学が全く異なり、ビジネスモデルも異なったこと。 細かい理由は他にもあるけど、ここに尽きると思う。
2004年当時、日本はPDCという日本独自規格から3Gへの移行期でしたが、世界ではまだまだGSMが主流(北米ではGSMとcdmaOne)。
PDCは日本独自規格であったため、携帯端末メーカーは全社日本メーカー。 携帯キャリア(No.1は50%以上のシェアを持つドコモ)が定める仕様に従って、ひいこら言いながら次々と高機能化する端末をつくり(当然高コスト)、店頭では(キャリアが端末補助金をつけ)低価格で売られ、キャリアは携帯の通信料金から補助金を回収というビジネスモデル。
一方、世界標準のGSMではバリューを握っていたのは端末メーカー。 ノキア・モトローラ・サムスンを初めとするメーカーは全世界が市場。 一方、各国に3社以上いる各国キャリアは人気端末をメーカーからExclutivity(限定販売)付きで確保するのが精一杯。 こういう状況で端末の仕様は当然メーカーがリード、キャリアは主にSIMのみをコントロールしてました。
さてi-mode、いわゆる「エコシステム」ではコンパクトHTML(簡略化したHTML)を利用した簡単なサイト作成、コンテンツ料金の大部分(91%)がコンテンツメーカーの取り分、などなど、ユーザーの利便性やコンテンツメーカーとのWIN-WINを考慮した工夫がたくさんあったのですが、そのひとつが端末上の「i-modeボタン」。 メニューから何クリックも押してたどりつく取扱説明書を読まないとわからないような操作だと誰も使わないから、というユーザー本位の設計だったのですが、これって端末の仕様なのです、そう、世界の他のキャリアがあまり口を出せない部分。
最終的にi-modeは十数ヵ国のキャリアにライセンスしました。 嫌がる世界有数端末メーカーを説き伏せながらがんばって、1機種、また1機種、と作ってもらう地道な毎日。
携帯端末の旬は短いので次々と機種投入が必要、今から始めようというサービス(コンテンツもまだしょぼい)、いくら売れるかわからない、特別設計端末なのでコストがかかる、でもドコモのように高額の端末補助金を出せるのはユーザーが払う通信料が高い日本のキャリアだけ・・・
ドコモはi-modeライセンス先のキャリアにサービスのユーザビリティーで売ってもらおうとし、各キャリアもがんばったのですが、まだ知られていないサービス、市場にはわずかな数の端末、しかも同機種非i-mode端末より遅れて出てくる、おまけに高い・・・
この罠からはとうとう抜け出せませんでした。
端末メーカーに対する交渉力を強化するため、規模を追求するために、(夏野さんが言う)海外キャリア買収という戦略もあるわけですが、資金力のあるVodafoneが一生懸命やってたけどうまくいきませんでした。
今のiPhoneって携帯キャリアはほとんど中抜きされてるし(データ通信はWifi使うか固定料金の3Gデータ)、通信キャリアという立場で考えたらiPhoneのビジネスモデルは出てこなかったと思います。
端末メーカーだって数年前の王者ノキアが捨て身の戦略に出て、モトローラはGoogleに買収されて、RIMはリストラの嵐で・・・(参照:『「ポスト・ジョブズ」のシリコンバレー新秩序』
栄枯盛衰だなー、という感慨はあるものの、あの時代の日本というマーケットにおいてi-modeは大成功だったし、たしかにイノベーションだったことを否定するようなものでもないと思う。


6 responses to “i-modeはなぜ海外展開に失敗したのか

  • 櫻庭

    うーん。単純に洗脳力が足りなかったのかな?
    フェリカ?でいいんですか?は電車乗ってる人には
    もう無くてはならないものですし、海外の人に一回日本で使ってもらえば分かると思う。
    ガラケーなんてもう一体化してるしね。電話も出来る切符ですね。
    電車も飛行機も携帯だけで乗れる。
    ヨーコ様のだんな様は日本の切符買わなくていいシステムはどう思ってるのだろうか?
    単純に海外の人の意見聞きたいだけです。
    無駄だと思ってたりして。

  • 太陽低い

    ビジネスモデルの差異もさることながら、
    もし仮にビジネスモデルが同じならば、受け入れられたのか? という視点からの考察も必要な気がします。
    広い意味で、彼我の「情報」の取り込み方・扱い方の違いが大きいのでは?(そこのローカライゼイション・チューニングが成功したとはいい難い?) と個人的には思っています。
    SMS(Text)文化-会話・対話中心-音楽・ゲーム等メディアもある意味そのお供(iphoneスマホは決してSMSを駆逐していない点に留意)
    i-mode文化-流行入手中心-会話・対話よりも異同化にフォーカス
    世界はローカルの集合体ですから、「世界級=マルチローカル+最大公約数的普遍解」に尽きる気がします。
    SMS文化とi-mode文化の「普遍解」を見つけられていれば、よりシェアを重ねることが出来たかもしれませんね。
    テレコム業界は、コミュニケーションツールの担い手ですが、まだそういったところまで成熟した分析の目を持てていないのが実情ではないか、と思います。これはVodafoneしかり。

  • la dolce vita

    >櫻庭さん
    >海外の人に一回日本で使ってもらえば分かると思う。
    「1回使ってもらえばわかる」は、売りたい側の論理ですね。 実際、導入してもらうまでには、インフラ系は競合との政治的な戦いやら規制やらそれはそれは数え切れないほどのハードルがあるのです。
    >日本の切符買わなくていいシステムはどう思ってるのだろうか?
    ロンドンにもありますよ、大都市にもある。 世界で初めて使えるものをつくったのはソニーだけど、世界のメーカーは数年後にはマネしてつくってきます。
    >太陽低いさん
    >彼我の「情報」の取り込み方・扱い方の違いが大きいのでは?
    「文化の違い」は欧米キャリアが常用していた言い訳でした。 iPhoneの登場でそれが言い訳だったことがある程度証明されたと思います。

  • アメリカの時代は終わった

    何その発言は?アメリカ人ごときが生意気じゃない?

    ガラケーは欧米ごときに売り出す必要はない。
    欧米の没落白人たちが自分たちこそがガラパゴスだったと気づいて
    「iモードを導入させてください。」
    と言ってきてはじめて
    「まあそこまで言うなら売ってやらなくもないよ。没落しすぎて哀れだし。」
    と言えばいい。

    世界の盟主たるアジア人として、奴隷階級である没落欧米人に対しての温情は必要だよ
    しかしわざわざ売ってあげる必要はない

  • アメリカの時代は終わった

    世界の盟主たるアジアの日本人がわざわざ落ちぶれ欧米ごときに売ってあげる必要はない

    これからはアジアの時代です。

    スマホとそれをゴリ推ししているアメリカの時代は終わりました。

    だいたいなんで世界の中心であるアジアの日本様のケータイが落ち目のアメリカごときの世界標準とやらに合わせなきゃいけないの?

    世界の覇権国である中国にあわせるなら分かるけど

    今の落ちぶれたアメリカごときに世界標準を名乗る資格がある?

    あと3年で中国に抜かれ、5年後にはインドにすら抜かれる

    一発屋のアメリカは

    いまどき世界標準=欧米っていつの時代の話?

    80年代の若者?

    20年前のアメリカ全盛期じゃあるまいし。

    今や世界の中心はアジア

    と言うか人類史上ほとんどの時代の覇権国はアジアだったし
    そのトップクラスのひとつである日本で通用すればもはやそれは世界標準。
    今や奴隷階級でしかなくなった欧米人ごときがどうこう言うのはおかしい

    今の世代はアメリカなんて一発屋の落ちぶれ国家は眼中にないよ
    ヨーロッパなんて名前すら知らないでしょ

    スマホゴリ推しから五年経った今でもガラケー使用者の方が8割と言うんだから、日本完全勝利。

    一発屋のアメリカごときが、世界の中心である目上の日本人に向かって生意気な

    アメリカこそがガラパゴスになりつつある事に早く気づきなさい

  • i-modeがどうしてあっさりとiPhone, Androidにやられてしまったかを考える | バイオの買物.com 制作者の頭の中

    […] i-modeがiPhone, Androidに駆逐された原因はいろいろ議論されています。議論の状況はクローデン葉子氏が良くまとめています。また小飼弾氏は良く言われるガラパゴス化の影響について、非常にわかりやすく否定しています。 […]

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