フロー体験 – 喜びの現象学

大変遅ればせながら明けましておめでとうございます。

年末年始は夫の実家メルボルンで過ごしました。 子ども3人のあり余るエネルギーを何とかしつつ(*1)、普段まとめて時間が取れずに読めないような本を2冊完読できました! 本当はもっと読みたかったけど、さすがに夫婦2人揃って読書に没頭し、子ども3人を義母に任せっぱなしなのも申し訳ない状況になったので2冊であきらめました。
*1・・・子どもが小さい頃は旅行は暖かいところに限ります、いや、ほんと。 参照:『子連れバカンスを劇的にラクにするTips』

そのうち1冊が『Flow: The Psychology of Optimal Experience』(邦訳:『フロー体験 喜びの現象学』)です。 我が家は子どもにスマホもiPadも触らせず、家にはテレビもありません(*2)。 家ではそれが当たり前なのでいいのですが、ドア to ドア30時間以上のロンドン ⇄ メルボルンの旅路は、なかなか大変でした。
*2・・・参照:『Google幹部の子どもが通う学校』『完全ローテク育児 – 1』『- 2』
私がこの方針を貫いているのは、ひと言で言って、子どもに何かひとつのことに没頭できる、集中できる人間になって欲しいからです。 その現象を心理学用語で「フロー体験」と呼ぶことは知っていました。 その原著は未読でずっと気になっていましたが、ようやく読むことができました。 初版が1990年代でもはや古典の領域ですが、スマホやタブレットなどテクノロジーによる絶え間ない中断が入る現代にこそ読むべき名著でした。

ぜひ原著を読んで欲しいですが、私がメモした箇所を下記しておきます。 原著で読んだので邦訳版と使用されている言葉が異なるかもしれません。
著者は、人間が幸せになるためには、お金や容姿など自分の外部にある事象ではなく、自分に内在している心理状態をコントロールすることによって可能だと解きます。 そして膨大なインタビューの分析の結果、人間が最良の心理状態にあったと言うとき、プロアマを問わず、それが単独で大西洋横断を行う冒険家だろうとチェスプレーヤーであろうとヨガ修行僧だろうと子育てに没頭している母親であろうと、ある共通点があることに気づきます。

最良の心理状態は、心理エネルギー(注意の向く先)が現実的なゴールに向けられ、スキル(技量)がチャンス(機会)に合致する時に起こるということ。 自分のスキルが達しようとするゴールに対し高すぎることも低すぎることもないため、自分の今成すべきことに集中でき一時的に他の全てを忘れゴールに集中するため、自意識に秩序がもたらせれること。 このチャレンジを克服しようともがく時間こそが、人間が「人生の中で最も楽しい時間だった」と答えること。 心理エネルギーをコントロールし、意識的に自分が選んだゴールにエネルギーを投資した人は、その結果、より人として成長するということ。 技量をストレッチし、より難易度の高いチャレンジに向かうことによって、その人はより素晴らしい個人になるということ。

なぜ、フロー体験に結びつきやすい物事とそうでない物事があるかという問いに対して、著者は「フロー体験が起こる条件」に目を向けます。

全てのフロー体験は、それが競争(例:あらゆる競技スポーツ)であれ、偶然の産物(例:ギャンブル)であれ、擬態(例:演劇)であれ、共通点がある。 それは新しい自分の発見、新しい現実に向かって自分を変革したという創造的な感覚である。 より高度なことを成し遂げ、以前は想像だにしなかった心理領域にたどりつく。 フロー体験の根底には、自身の成長がある。
シンプルな図で説明してみる(図はこちらからお借りしました)。
flow experiences
テニスを例にあげてみよう。 X軸がスキル(技量)でY軸がチャレンジ(難易度)で、この2つが体験の質に影響すると論理上仮定する。 Aはテニスを始めたばかりの男の子アレックスの状態。 アレックスはテニスを始めた頃(A)、ほとんどスキルがないので、ネットを越えるようにボールを打とうとする。 あまり難しいことではないのでアレックスはテニスが楽しくなる、難易度が彼の初歩的な技量にマッチしているからだ。 そして、練習を重ねるにつれ、技量が上達し、やがてボールをネットを越えるように打つだけの練習に飽きてくる(B)。 もしくは、もっと上手な相手と練習するようになり、この場合ただボールを打つだけよりずっと難易度が高いので、自分の技量の未熟度を気にして不安になる(C)。
退屈も不安もあまりポジティブな体験ではない。 アレックスはフロー体験に戻ろうとする。 どうすればいいのだろうか? 選択はひとつしかない、もっと練習して自分が面しているチャレンジにスキルをマッチさせようとするのだ。 自分よりほんの少しだけ上手なプレーヤーに勝つというゴールを設定してそのゴールに向かい、フロー体験に戻るのだ(D)。
図上では、AもDもアレックスがフロー状態にあることを示している。 双方とも楽しい体験であるものの、2つの状態は全く異なる。 DはAよりも、チャレンジが大きい分、プレーヤーのスキルを必要として、より複雑な体験なのだ。
Dは複雑で楽しい体験であるものの静的な状態ではない。 アレックスがテニスを続ける限り、そのレベルに退屈するか、相対的に自分のスキルが低いことに不安になるかのどちらかが起こる。 そして、自分をさらに高みにあげることで、またフロー状態に戻ろうとする。
フロー体験のこの動的な特徴こそが、フロー体験が人を成長させ新しい自己の発見に導く原因だ。

著書では、最良の心理状態の対極にあるものを心理的エントロピー(自己の意識が混乱して内的に無秩序な状態)として、エントロピーに結びつきやすいものとして頻繁にテレビをあげています。 本著が書かれたのは90年代なので、現代に再編されるとしたら間違いなくスマホ・タブレットも挙げられるでしょう。

非常にシンプルで明快な理論でしたが、個人的には自分の日々の生活を「フロー体験に入れるかどうか」という視点で組み立てようと思えるほどツボに入った切り口でした。 続編もまた書きます。


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