郵便番号で差別される社会

話題になっていたNHKクローズアップ現代の『”独立”する富裕層 – アメリカ 深まる社会の分断』をYouTubeで見ました(→こちら、すぐ消されると思うのでお早めに)。 アメリカで富裕層が自分たちだけの自治体作りに動き出しているというドキュメンタリー。
出版当時大きな話題となったチャールズ・マレーの『Coming Apart: The State of White America, 1960-2010』(邦訳:『階級「断絶」社会アメリカ: 新上流と新下流の出現』)をまさに地でいく内容。 この本の内容をご存知ない方は橘玲さんの『アメリカ社会は人種ではなく“知能”によって分断されている』とGen Shibayamaさんの『頭がよくないと、まともな暮らしができないのか?』をどうぞ。

自分たちのための自治体をつくるという立法・行政・司法まで踏み込んでいるのが、さすが世界でいち早く変化が起こる国アメリカだなー、と思いましたが、知能・経済力による居住地域の分断・コミュニティ化というのはすでに世界各地で起こっています。 ロンドンは独特の都市政策の結果、ストリート(通り)レベルで住民が異なり、コミュニティー化しています(→『都市内部での(自発的)コミュニティ化』『家探しでわかる都市政策』

イギリスで頻繁に耳にするのが”Postcode Lottery”という言葉。 直訳すると「郵便番号によるくじ引き」ですが、住む場所(ポストコード、郵便番号)によって受けられる公共サービスが全く違うという意味です。 警察の数・学校の質・救急車の待ち時間・病院/医者の質etc. 民間保険のプレミアムまで違うそうです。

当然「良い」郵便番号の地域の家賃は高いので、実態はくじ引きではなく経済力によって受けられる公共サービスに格差があるという意味です。

『1人で育児は出来ません』にロンドンでの育児に孤独感がないと書いたら、

イギリスのコミュニティーはかなり進んでいるんですね。

というコメントを頂きましたが、ミドルクラス(中流階級)の住人からなる「良い」地域に住むと例え外国人でも、引っ越してきたばかりでも溶け込み、近所同士でお互いに助け合う成熟したコミュニティーに属せます。 一方、貧困層の住む地域では犯罪・暴力が蔓延しています(最近では、公共福祉を受給する人たちを描いたチャネル4の”Benefit Street”という覗き見志向のドキュメンタリーが大きな反響を呼びました、YouTubeにたくさんあります)。

知能・経済力による居住地域の分断がどのようなプロセスで起こるのか、例をあげて説明します。

イギリスの公立小学校は準備クラス(Reception class)が4歳の誕生日の次の9月から始まります。 公立小学校の間に大きな教育レベルの差が存在し、そのレベルは通学する生徒のバックグラウンドの差、すなわち貧富の差と直結しています。 イギリスは都市政策として貧困層が住む公営住宅(カウンシルフラット)が全ての行政区に散らばっているおり、近くに公営住宅など貧困層が住む地区がある学校は貧困層の子どもが通います(小学校は学区制ではなく、それぞれ定員があり学校からの距離で入学が決まるため)。 そのため、ミドルクラス(中流階級)の家庭は貧困層の子どもが通わない、レベルの高い学校に子弟を入れるため苦心します。 特に2000年以降のベビーブームで公立小学校の定員数が足りないため、近年その競争は激化しています。

王道手段は、レベルの高い公立小学校に近い場所に家を買う/借りること。 私たちはこの手段で無事に4歳の長男が9月から通う小学校を確保しました。 「近い」というのが半端なく、例えば私の家の近くの小学校では300m以内に住まなければ入れません(参考:東京駅丸の内中央口から丸ビルの直線距離が400m)。 実際入るためには学校から3ストリートくらいの間に住む必要があります。 というのも入学の優先権が、1. 障害児など特別補助を必要とする子ども、2. 在校生の兄弟、3. 学校からの距離、で決まるため、ベビーブームで子どもの数が多いロンドンでは兄弟だけで半分以上定員が埋まってしまい、後りの半分の枠を学校からの距離で競うことになるからです。

よって、良い小学校の近くの物件は(もともと治安のいいエリアである)周辺の同等物件に比べて10 – 20%程度高くなる、という異常な現象が発生しています。 長男(女)が入れると2番目からは自動的に入れる制度なので、確保するとさっさと引っ越す人も多いです。

また1月時点に居住している住所で9月の入学が決まるため、一時的にそのエリアに引っ越す人、祖父母の住所を借りる人など制度の裏をかこうとさまざま人が出てきます。 近年は入学を統括するカウンシルの目が非常に厳しくなって、これらは全部無効となりました。

ストリートごとに郵便番号があるので、”Postcode Lottery”と呼ばれる理由がお分かり頂けたでしょうか?(格差は公教育だけではありませんが、一例として) もちろん良い小学校に行った子どもは良い中学に行くことが常識という環境で過ごし、良い大学→良い就職へ、とつながります。

子どもを「公立小学校」に入れるのさえひと苦労、お金がかかる、さすが世界有数のグローバル都市(!)です(←もちろん嫌み)。 『12年後の教育オプションを買う』というエントリーで、子どもが産まれた時点で12年後の私立中学校に登録している夫の友人の話を書きましたが、地方の公立育ち→東大・京大へ、が普通に可能だった私たちの育った時代は何と良い時代であったのー、と思います。


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