ノマドのアイデンティティー

今週はプロジェクトの締め切りで追われていましたが、先週ある1人の若者が私を訪ねてきてくれました。 早稲田大学5年生の成瀬くん、世界一周ノマドプロジェクトと題して世界中の起業家やノマドに会って話を聞きながら旅しているそうです。 シンガポールにいたときもNORIさんが来てくれたなー(→こちら)。
2時間くらいいろいろ話して記事にもしてもらいました(→こちら)。 今日は記事には載ってないのですが印象的だった質問で、インタビューが終わってからも考えたことを。
成瀬くんは旅に出る前にいろいろな人に旅の趣旨を説明したときに「ノマドという生き方(*1)にはアイデンティティーの問題がついてまわるから聞いてくるといい」とアドバイスされたそう。
*1・・・『未来の歴史とノマドの時代』参照
このアドバイスをされた方がどういう意味を込めたのかその場にいなかったのでわからないのですが、おそらく「日本人としてのアイデンティティーをどう保つのか?」「ノマド生活をするとアイデンティティーのない人間になってしまうのでは?」あたりの懸念じゃないかと思います(→成瀬くん、違ってたら教えてください)。
で、ちょっと考えたのですが、懸念のポイントが私の実感とズレてるような気がするのでそのことについて。


1. 歴史はstatic(静的)ではなくdynamic(動的)なものである
人生80年生きるとしたら、それなりの歴史の変化の中を生き、人間のアイデンティティーもその歴史的文脈の中でつくられるものだと思います。
私がすごいなーと思うのがアメリカ。
アメリカっていう国は235年前までなかったんですよ、主にイギリスから渡った移民たちの集まり。 誰かが「Freedom(自由), Justice(正義), Opportunity(機会), Equality(平等)の精神を根幹に据えた国をつくろう」と言い出し、本当に実現し、今では非常に強い愛国精神を持つアメリカ人を大量に抱えるだけでなく、『誰でもアメリカ人になれるアメリカ』となり外から人を吸収しどんどんアメリカ人に変換するというすごい戦略を持った国。
最近の例ではEU。
ヨーロッパでは第一・二世界大戦を経て、民族が国家主権を持つ民族国家が多く樹立した結果、争いが絶えなかった。 民族の居住地域で線を引くなんて旧ユーゴの例を見ればわかるように無理な話。
この延々と続く戦争を止めるという悲願達成のため、EUという国家を超えた支配機構(超国家)を新たに設置した。 すると、ベネルクス三国では所属する国家より「自分はヨーロッパ人だ」と答える若者が生まれ、支配民族・宗教の枠組みに入れられたためテロを繰り返していたバスクや北アイルランドの過激派が停戦するようになった(*2)。
*2・・・ユーロ危機で明らかになったようにユーロ圏は経済運命共同体なので、民族性などへの依存度が減った。 2週間前のバスクETAによる武装活動停止は象徴的(守られるかどうかという疑問はあるが)。
こう見てみると、「日本人のアイデンティティーとは何ぞや?」と思います。
2. 人は複数の帰属意識を持つ
以前から「国籍よりも性別、社会階級、職業の方が行動を予測できる要因」と書いてますが(→『ブラックスワンとレバノン』)、人間は複数の帰属意識のレイヤーを持っています。
例えばエンジニア。
彼らはC++とかRuby、Pythonといった凡人には理解不能の言語を操り、シリコンバレーではパーティーでも嬉々として彼らの独自言語で話に没頭するのだそう。 「ポーランド人である前にiPhoneアプリエンジニア」みたいな人は世の中めちゃくちゃいるのではないかと思います(知りませんが・・・)。 同じような人種としてはデザイナーもそうかな。
『ブラック・スワン』でナシーム・タレブもレバノン人について書いてたけど、「日本人であること」が唯一のアイデンティティーでもなければ最重要でもないし、あんまり「アイデンティティーを失う」とかいう感覚はないです。
3. ニュー・アイデンティティーの誕生?
「キミはずいぶん年くってから日本出たからいいけど、子どもは?」という声もありそうなので、子どものことについて。
ロンドンでの私の友人たちはこういう人たち(→『移民X世代』)。 同じ国籍同士の結婚より、国際結婚の方がはるかに多いです。 私の周りが特別というわけでもなく、息子の通うナーサリーも息子の友だちの両親は、ロシア人とブルガリア人、イギリス人と南アフリカ人などなど、さすがロンドン。
息子の環境など珍しくも何ともなく、こういう子どもたちが一緒に育つとmixedであること、多様であること、が当たり前な人間に育つのではないか、この子たちは私たち世代とは異なるニュー・アイデンティティーを自然と育むんだろう、と私はいたって楽観的です。 もちろん、そういう環境を選んで住んでいるのですが・・・
以上が私の実感。 何となく通じたでしょうか?


5 responses to “ノマドのアイデンティティー

  • Yuji

    面白い考察ですね。でもやはりイングランド人とスコットランド人ではアイデンティティが違いますし(関東人と関西人での違いとどう違うんだろうか?笑)、ベルギー人でもフラマン人とワロン人ではお互い罵り合ってますし。
    いくらEUで統合しても、人間ですから同じアイデンティティを持つのは無理かなと。ギリシャ危機で、ギリシャを嫌う風潮(特にドイツ人)多いですし。
    そういえばアメリカの強みは内部での強力な「アメリカン」としてもポジティブなアイデンティティと、外部から取り込んだ移民(イタリア系アメリカ人も、日系アメリカ人も、ケニヤ系アメリカ人もみんなアメリカ人)で特に優秀な頭脳やバイタリティある人材がアメリカの成長につながってたと思うのですが、最近のアメリカの移民排除は自分で自分の首を絞めてるような。EUもそうですが。(それでも高技能移民はアメリカ、カナダ、オーストラリアに行く割合が多く、EUは低技能移民ばっかり受け入れてるデータがあります)この傾向についてはいかがお考えでしょうか?

  • la dolce vita

    >Yujiさん
    >いくらEUで統合しても、人間ですから同じアイデンティティを持つのは無理かなと。
    同じアイデンティティーを持つ人間なんてひとりもいませんよ。
    EUの例は「新たなアイデンティティーが生まれている」例であり(1. 歴史は動的)、2. に書いているように複数の帰属意識を持ってるのが普通。 特にノマドのアイデンティティーについての質問を受けたので、よく移動する人たちを対象にしてます(スコットランド人がシンガポールで「オレはイギリス人じゃなくてスコットランド人だ!」って叫んでもたいして興味も配慮ももたれないので、そのうちそんなことは言わなくなる)。
    >最近のアメリカの移民排除は自分で自分の首を絞めてるような。EUもそうですが。
    そう思いますが、競争力がなくなるだけなので、そのうち是正されるのでは?

  • YukiNaruse

    葉子さん
    記事有り難うございます!アイデンティティーの話は僕も随分と納得しました。
    お話の上に記事まで有り難うございます。
    その方の意図も含めて書いてみます。
    アイデンティティーには自身の内面、それと外面で2つの見方があると思います。
    ・内面
    心の安らぎ、安心できる場所
    居場所(田舎に帰る感じ)
    ・外面
    相手に対して、外に対して自分自身を示すもの。自己紹介みたいなもの。
    旅の前にその方が僕に言った意図(アドバイス)は、
    「君がどこにいくのであれ、世界で活躍するのであれば、最低でも自分のアイデンティティーをしかと持ち、周りに示す必要がある。」
    葉子さんの仰る通り、それは国かもしれないし、もしかしたら帰属組織かもしれませんね。 そしてこのアイデンティティー自体、世代で変わってくると思います。
    どんなアイデンティティーを持つかというよりは、そのアイデンティティーをしっかり自分の中で落とし込めているかの方が大事ですね。これから特に色んな人達が混ざり合うので、自分を示す自己紹介みたいなもんが大事になるんだろうと思います。

  • la dolce vita

    >YukiNaruseさん
    >最低でも自分のアイデンティティーをしかと持ち、周りに示す必要がある。
    なるほど。
    以下のリンクの最後の方にこういう箇所があります。
    「アイデンティティの形成ということは、生きている人間が、その生涯の最後の最後まで追い続ける虹のようなものだ。」
    http://www.st.rim.or.jp/~success/ident_ye.html
    私はエントリーで書いたように、static(静的)ではなくdynamic(動的)なものだと思ってるので、これから重ねる経験が形作ってくのでは、と思います。

  • こんなブログにしたいなという理想型 – MNML LIFE

    […] 参照:「ノマドのアイデンティティー」 […]

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