効率的な労働市場の会社の運命

とあるブティーク系戦略コンサルティングファームのロンドン・オフィスのお話。 業界特化型で(業界名を出すとどこかわかるので控えます)、その業界では名が知られています。
このファーム(Aとします)は2007年にオペレーション系のコンサルティングファームBと合併しました。 ファームAのクライアントは企業のCEO、CxOなど経営陣であり、サラリー(給与)レベルはBig 3(McKinsey、BCG、Bain)を筆頭とする戦略コンサルや会計系Big 4(KPMG、Deloitte、PWC、E&Y)のコンサル部門と同じサラリーレベルでした。 ファームBのクライアントは(オペレーションの改善が主なプロジェクトであるため)経営者ではなく部のトップなどであり、サラリー(給与)レベルはAより一段階低いものでした。
2社の合併によって給与体系の差を是正する必要があり、Aの社員は年収(ベース)+ボーナスからなる給与体系のうち年収(ベース)部分を若干アップする代り業績連動のボーナス部分が大幅に減りました。 2008年、金融危機の発生を機に世界経済が不況に、この影響でボーナスは2009年はゼロになり、ベースアップも据え置かれました。
またファームBは間接部門(経理・人事など非コンサルタント職)の人員を多く抱えていましたが、リーンな(筋肉質な)組織を保っていたファームAと間接部門同士、合併されました。 間接部門のコスト(overhead)は稼ぎ頭のコンサルタントに重くのしかかり、2009年、2010年になってもベースアップやボーナスの原資が出ない大きな要因となりました。


結果、2007年に同業他社と同レベルだった元ファームA社員の給与レベルは2010年にはだいぶ下方向に差がついたものとなっていました。 それでも2009年にはまだロンドンのコンサル業界の雇用市場が回復していなかったため、目立った動きはありませんでした。
ところが2010年になると1年以上に渡り新規採用を控えていたコンサル業界の各ファームがプロジェクト増により積極的に採用に動き出しました。
まず、物価の高いロンドンで生活にも四苦八苦していたジュニアレベルから順に続々と同業他社へ転職し始めました。 ある者は辞める際にHR(人事)や上司(パートナー)に明からさまに給与の不満を理由に述べるほどでしたが、それでもパートナー(ファームの共同経営者)陣は状況を楽観視していました(元々、ジュニアレベルはターンオーバーが激しい→『セカンドチャンス、あげますか?』)。
合併前、ファームAは同業他社に比べ社員の定着率の高さ・満足度の高さを誇りファミリー的な居心地のいい企業だったのですが、ジュニアレベルの流出によって雇用情勢の急激な好転に気づいたミドルレベル(中長期勤めていた)が次に動き出しました。 そして2010年の夏以降、ミドルレベルが続々と辞表を提出し始めました。 事態は深刻であることに気づいたパートナー陣はHR(人事)に給与体系の見直しを命じ、間接部門のコスト削減にも乗り出しました。
が、一企業のコスト構造を変えるにはどんなに迅速に行っても数ヶ月、抜本的な改革にはそれ以上の時間がかかります。 一方、人は身軽です。 急ごしらえで決定・発表された新給与体系(当然、給与アップ)もむなしく、ファームAでは今も重要な社員の流出が続き、受注したプロジェクトをこなすメンバーを揃えることができないほどの人材難に陥っています。
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私はこの話を聞いて、ロンドンの(コンサル業界という狭い業界ですが)労働市場が柔軟で効率的であることにまずビックリ。 そしてスキルが第3者(同業他社)にも明らかに測れる形になっており、すぐ他社で力を発揮できる、また皆が発揮するチャンスを伺っていることにもビックリ。
「従業員を市場水準以下に扱うと(ファームAの場合は市場競争力のない報酬で雇用していた)、社員は他社へ逃げ出すため自社の競争力低下につながり、自然と業界水準のあたりに落ち着く。 だから企業はもっと別のところ(生産性や革新的な商品・サービスなど)で競争優位を築く必要がある」というのは非常に教科書的ですが、そんなの机上の話、現実にはいったん職を得たらそこにしがみついている人が多いから教科書通りに市場は動いていないのだと思っていました。
でも日本やフランスなど労働市場が硬直的な市場はそうでも効率的な労働市場というのは本当にあるのだなー、と感心。 ロンドンのような巨大でフェア(公正)で効率的な労働市場では、従業員を搾取する(いわゆる)ブラック会社は生き残れないのです。
コンサルティング・ファームでは人材の質が生命線。 一時はとてもフレンドリーで居心地のいい企業文化を誇っていたファームAの経営陣は一瞬の油断で取り返しのつかないことをしてしまったのかもしれません。 まあ労働市場が効率的なだけに「一旦パートナーの数を大幅に削減、間接部門はアウトソース、超スリム化した後に改めて出直し!」が可能なのも柔軟な市場ゆえなのですが。


2 responses to “効率的な労働市場の会社の運命

  • nab

    日本の投資銀行(おもに外資系)でもこれとまったく一緒ですね.国ではなく業界によると思います.ただし人の能力は主に評判と学歴と印象で測るので,あてがはずれることもよくあります.(たいしたことない人を高給で雇ってみたり..)

  • la dolce vita

    >nabさん
    >国ではなく業界によると思います.
    両方でしょうねー

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