一昨日に続き、夫のサウジアラビア・レポート第2弾、『宗教警察』です。
宗教警察とは、通称ムタワ(正式名称は英訳では”Commission for the Promotion of Virtue and Prevention of Vice”、邦訳では「勧善懲悪委員会」)と呼ばれ、街を巡回しイスラム教の教義を社会に浸透させることを目的としている組織。
Wikipedia : ムタワ
『宗教警察』
サウジアラビアは建国の歴史を辿ればわかるように支配者である王族はその支配の正当性をイスラム教を拠り所にしている。 そのため、時には政府の(少なくとも陰の)目的のひとつは人々がイスラム教での天国に行けるように手助けすることであるかのように思える。 この任務を遂行するのがムタワ(宗教警察)である。 彼らの役割は、十分にイスラム教徒的でない人々(ほとんどの場合、女性)を見つけ、咎め、叱り、時には逮捕したりすること。 よくお咎めの対象となるのが、女性が「適切な」服装をしていなかったり、親族ではない異性と同席したりすること。 ムタワはかつては強大な権力を持っており、その権力を濫用した結果として最も悪名高い事件は2002年にメッカの女子校で起こった事件(*1 )。 800人の女子学生が通う女子校で火災が起きた時、ムタワはAbaya(頭からすっぽり体を覆い隠すベール)をかぶっていない女子学生が建物から出るのを妨げたため、15人が焼死し、50人が大怪我をした。
内外の非難を受け、ムタワの役割が変わっていることについては他にももっと見識がある人が書いているのでここでは書かないとして、ひとつだけボクが観察した結果気づいたこと。 どうやらお金持ち(UAEやカタールなど他の湾岸諸国と異なり、多くの現地人は非常に貧しい生活を送っており、富は少数のアラブ人に集中している)はムタワの嫌がらせを受けにくいらしい。 リヤドに高級レストランは少ないが、首都の2つの高層ビルの最上階に超高級レストランがあり、その両方に仕事で行ったことがある。 どちらの高級レストランも明らかにデート中とわかる若者で溢れている。 女性はベールを脱いでおり宗教警察を恐れている様子はない。 うちひとつのレストランにはシガーバーが併設されており、デート中の女性が男性と一緒にシガーを楽しんでいるのを見かけることも珍しくはない(通常であれば厳禁、非常にリスキーな行動である)。 仕事相手の弁護士に聞いてみたところ、宗教警察はこういうレストランには入ってこないのだと言う。 まあ、このうちひとつは現国王の甥にあたる王子が所有しているしね・・・
*1・・・BBC : Saudi police ‘stopped’ fire rescue
私はこのレポートを読んで、「お金を持っていれば見逃してもらえるところは、ロシアと一緒じゃん・・・」と思ったりして・・・(→『ロシア – 警察と司法の闇』)。
絶対権力とはそういうものなのかもしれません。
こちら(↓)はサウジの変わりつつある男女隔離政策についての最近のThe Economistの記事。
The Economist : Are women on their way at last?
May 23rd, 2010 at 8:17 am
興味深い記事、引き続き楽しみに拝見しております。またまた私の学生時代の経験からお話しすることをお許し下さい。「宗教警察」という今回のお題からは若干それるかもしれませんが、類似の話をちょっとだけ書き込んでみます。
前回もお話しした、26年前に行ったリヤドでは、私は1ヶ月間ホテルに滞在していました。私の父の取引先に勤める30才代ぐらいのエジプト人のにいちゃん2人(当時10代だった私からみると、ヒゲはたっぷりたくわえてるわお腹はメタボ状態だわで、明らかにオッサンにしか見えませんでしたが)が朝9時頃に車で迎えに来てもらい、彼らの得意先回りにつき合ったのち、夕方5時ごろにまたホテルまで送ってもらう、という生活を送っておりました。
そのエジプト人の一人から言われていたことが「パスポートは常に携帯しておけ」ということでした。「何でなんやろ?めんどくさいなぁ」などと当時の私は思っておりましたが、ある日そのにいちゃんと町を歩いていた時の出来事で、その理由が判明したのです。
リヤド市街を歩いていると、よく警察官が2人一組でパトロールしていたり、街角にたっていたりするのを見ました。それが日本の町で見るのとは違って、結構な頻度なのであります。まるで、近くで事件でも起こったのかな?と疑うくらいの頻度でした。
そんな折、そのエジプト人従業員の一人とたまたま街を歩いていると、街角に立っていた警官らしき男がすっと近寄ってきて、アラビア語で話しかけてきたのです。それは、日常会話的な雰囲気ではもちろんなく、ある意味威圧を感じる物の言い方でした。
エジプト人はその警官の言うことを聞くと私の方に向き直り「パスポートをこの人に見せるように」と言ってきたのです。とても小心者だった私は一瞬で総毛立ち「もし捕まったらどうしよう?」などという思いが頭をかけめぐって、大げさですが生きた心地がしませんでした。
結局、その警官はちらっとパスポートを確認しただけで、すんなり私たちを解放してくれましたが、今から思い返してみれば、街角にいたあの警官たちが、旦那さんのおっしゃるところの「宗教警察」だったのではないかとしみじみ感じるのですが、いかがでしょうか。
May 24th, 2010 at 12:21 pm
>臥竜さん
ムタワで検索すると「警察と組んで街を巡回する」と出てきたので、2人のうち1人がムタワでもう1人が警察だったのかもしれませんよ。
あと、YouTubeで”Saudi Arabia religious police”と検索すると、宗教警察に連行されている様子を隠し撮りした映像が出てきますので、お試しください!