統計を参考に個人のキャリアを決めてはいけない

昨日の続きですが、ちょっと横に逸れて、「統計を参考に個人のキャリアを決めてはいけない」「すべての価値を金銭価値に換算できない」というお話。
1. よく就職・転職情報誌に出てくる生涯賃金ランキング年収高額企業ランキングといった類の統計を参考に自分の進路を決めてはいけない。
これらのランキングは「現存する企業が現業態を保ったまま、現賃金体系を維持したなら」というあり得ない仮定に基づいた数字です。 企業の平均寿命が30年を切り人間の労働寿命より短くなっている世の中で(引退という概念すらなくなるかもしれない→『「老後」がなくなる日』)、今から就職して生涯賃金ランキングの数字通り受け取る人が果たしているのでしょうか?
年収高額企業ランキングの上位企業はひょっとして労働生産性に見合わない高年収の従業員、高額年金を約束したOBばかりを抱え、高コスト体質のために破綻したJALのような会社かもしれない。
この不況で希望就職先も「安定志向」が強まっているらしいですが(→就職希望企業人気ランキング)、「安定しているがスキルが身につかない」企業に就職して、その後の仕事人生、つぶれないこと・給料が減らないことをひたすら祈って暮らすのでしょうか?
この手のランキングは「ふーん」と眺めるか、むしろ「人のいない裏道をいこう」くらいに使うべきで、個人のキャリア選択に当てはめるのはほとんど意味ないです。


2. すべての価値を金銭価値(= monetary value)に換算できない。
よく「自費でMBA留学するべきか」という議論の中で、「2年分の学費・生活費+2年働けないために減る生涯年収という多大なコストを取り返すほどの価値があるのか?」という計算をする人がいます(例:『アメリカのMBA、終わりだよね』)。
私も昔この計算したけど、振り返ってみるとこれもほとんど意味ない、留学することの価値を金銭的な価値(= その後上がる年収)でしか考えてないから。 昨日書いた「トップレベルの大学院留学」の本当の価値は「生涯年収」などという上っ面の数字では計れない、(クレジットカードのCMではないが)まさに「プライスレス」な部分にあります。
私にとってINSEAD留学がプライスレスだった理由は、主に、
(i) ネットワーク
(ii) 自信
の2つ。
(i) ネットワーク
「世界一国際色豊かなMBA」という触れ込み通り(→こちら)、文字通り世界中に友達ができました。
「いろいろな文化の結婚式が見られて楽しい」(→『異宗教間の結婚式』)、「どこに出張・旅行しても誰かが泊めてくれる/地元のレストランに連れていってくれる」という単純な楽しさもさることながら、「イスラエルのパレスチナ問題はイスラエル人に聞けばいい、中国の少数民族問題は中国人に聞けばいい」とどんな国際問題も当事者に近い人に聞ける知的好奇心を満たす楽しさ、卒業生ネットワークを使えば仕事だって見つかっちゃうという実利、卒業後このネットワークのありがたみを感じる機会は枚挙に暇がありません。 もちろんロンドン引越しにあたっても徹底的に友達から情報収集しました。
(ii) 自信
「他人が敷いたレールから外れても怖くない」、「こんなにすごい同級生と張り合えたのだから日本国外でも何とかなるはず」という自信は何ものにも換えがたい。
例えば、楽天の社長三木谷さん(HBS)、グロービス社長の堀さん(HBS)、DeNA社長の南場さん(HBS)など起業して成功している実業家にMBAホルダーが多いのは、MBAで何やらすごいことを学んで帰ってきたという要素より、起業という道なき道を歩む自信がついたという要素が大きいのでは、と思います(起業が珍しくもないアメリカでは全起業家に占めるMBAホルダーの比率は日本より少ないのではないかと想像)。
あ、忘れそうになっていた、夫が見つかったというのももちろんプライスレスです。
価値の捉え方は人それぞれ。 金銭価値だけを扱ったデータを基に決める人生というのもむなしいような。


6 responses to “統計を参考に個人のキャリアを決めてはいけない

  • Isao

    過去と現在のデータを詳細に見ているのなら、将来にわたってどのような成長(あるいは下降)をたどるのか、も推定できそうな感じがしますけど、それはたぶん経済や社会の大きな情勢と掛け合わせて見ないと見えないのかもしれない、と思います。データに首っ引きになるのと大局をつかむのは矛盾しているけど、それを両立できた任天堂の岩田社長などはすんごい結果を残しているので、ランキング作る人たちもそれをやったらどうなのだろう、と思ったりします。そんなことはそもそも不可能だ、の可能性も含めて、そんなデータがあれば読みたいです。シェルの試みが近いかな?ちょっと実用に向かないけど。http://ow.ly/149RJ

  • hori

    初めてコメントさせていただきます。
    就職活動をしている学生です。正直、安定しているとされる企業に惹かれるのは理解できます。
    できることなら変化なく過ごしたいのが普通の人の考えではないでしょうか。ただそんなことを言いながら、気づけば時代の流れから置いて行かれたような人間にはなりたくないので、なんとかもがいて自分が成長して活躍できる分野を探していきたいと思います。
    そんな就職活動の参考にブログの更新を楽しみに待っています。

  • CREA

    la dolce vitaさん、
    仰る通り、現時点での統計の数字はそれがフローの情報であるという点において、将来を考える上では重要度はそれほど高くないな、と感じました。
    先月、とある人材コンサルの方とお話しを伺う機会があったのですが、就職活動や職業選択において「なるほどね」と思ったことがございます。
    (1)自分のライフプランを大まかに描いたうえで、人生のピークを定めろ!(人生のピークとは最も仕事量をこなす時期だとか。)
    (2)その企業の現場で働く入社5、10年後の先輩から直接話を聞いたり、企業の過去(20、30年前)から現在までの動きをみること。
    (3)イチローはオリックスにドラフト4位で入った。その後の人生どうなるかは本人次第。
    就職という点においては、自分を取り巻く環境の変化(企業・産業の盛衰のサイクル)を見極めて「波に乗る」ことができると、個人のキャリアもやりがいを感じるものになるのかな、と学生目線で思います。(現時点で、その企業が業界何位の実力であるかどうかは別にして。)
    こちらは「高給ビジネスマンは、学生人気の高い企業を奨めない」というこれまた違った角度から就職アドバイスをいただいた気がしました。↓↓↓↓↓↓
    http://www.toyokeizai.net/business/management_business/detail/AC/5be5b96453487f41934f65356f848de2/
    CREA

  • la dolce vita

    >Isaoさん
    >ランキング作る人たちもそれをやったらどうなのだろう、と思ったりします。
    ランキングは単に数字を入れて抽出するだけなので期待しすぎだと思いますが・・・ どういうパラメーターにどういうウェイトをかけて算入するかは、統計ではなくアートの世界(個人の価値評価が強く入る)のような。
    シェルのリンクありがとうございます。
    >horiさん
    >できることなら変化なく過ごしたいのが普通の人の考えではないでしょうか。
    周りが変化しているのに自分だけ止まっていたらそれは退化なんですよね・・・
    >CREAさん
    >自分のライフプランを大まかに描いたうえで、人生のピークを定めろ!
    人生のピークなんて決めなくてもいいのでは?(笑)
    後に出てくる「波が出たらそれに乗る」、そのために足腰を鍛える、ことの方が大事だと思います。
    >「高給ビジネスマンは、学生人気の高い企業を奨めない」
    これ、1位三菱商事ってとこだけ見ました。 こういう内容の記事だったんですね。

  • ドイツ特派員

    la dolce vitaさん、最近会社と個人の関係についての記事を良く見るので気になっていました。来年大学受験のガキンチョ抱えているもんで…。
    さっき「過去三十年の人気企業推移」というのを見ていました。
    http://rank.in.coocan.jp/shu30year.html
    本当は、「過去二十年での生涯年収ランキング推移」と言う奴を見たかったんですが、まあ日本の企業の顔ぶれの変わっていないこといないこと。目立つのは理系のシャープが出てきた程度で、実は殆ど基本的な顔ぶれって同じだなあ、ということ。それは意識の問題なのか日本という問題なのか(両方だな)。結局日本の場合、大企業に入って安泰に行くのが一番安全だったということですね。
    自分がこの年(四捨五入でもう50ですよ)で転職して良く分かりますが、日本的な大企業でずっといて一番奪われるのは「勇気」でしょう。周りの人からも、「お前は勇気があるよな」というのが一番の反応でしたし、社内でも事なかれで済ませられるのが一番安全、という環境になれば、そりゃ勇気など無意味になりますよね。ましてやこの年だと失敗なんぞしたら一家離散の危機にもなりかねないわけで。後は家族の抵抗はあるみたいです。私の知った人、とあるアメリカの会社に転職が決まりかけたんですが、奥さんが「何その会社?名前も知らない会社なんか嫌よ。今は誰でも知っている会社なのに止めてよ!」と抵抗に遭い、遭えなく頓挫したというのもあります。少しだけそういう人たちの弁護をすれば、必死で家族を守るために勇気を押し殺しているところもあるわけで、そういう人から言えば、「スキル?伸びない?寝言言ってんじゃねえよ」ということで、それは分かるところはある。あるけれど、私はそれは嫌だったということですね。
    アメリカでも、製造業というのは比較的寿命の長い会社であったり、転職が少なかったりという連中が結構多いんですが(DuPont、Dow、IBMの製造側、3M、Intelなど)、それにしても同じランキングがあったとして、もうちょっと顔ぶれは変わるだろうなあ、というのが感想。ちなみに私が今勤めている会社、なんと150年以上の歴史があるアメリカの会社です。終身で定年までいるマネージャーやディレクター(社長や副社長もみんな生え抜き)がごろごろ。
    生涯年収についていえば、このランクの中に某電子部品会社が入っているんですが、そこは平均勤続年数が短い事でも有名で、「誰が生涯年収を受け取れるんだよ?その頃は過労死だろ」と一人突っ込んでいました。
    で、さっき自分で思ったのは、「いきのびる」という事を「生き延びる」とするか「生き伸びる」とするかだな、と思った次第。我ながら良いひらめきで今日は少し幸せだったりして(笑)。

  • la dolce vita

    >ドイツ特派員さん
    >目立つのは理系のシャープが出てきた程度で、実は殆ど基本的な顔ぶれって同じだなあ、ということ。
    30年一緒って恐ろしいですねー どうしてそうなっちゃうんでしょうねー・・・
    >このランクの中に某電子部品会社が入っているんですが、そこは平均勤続年数が短い事でも有名
    その会社に新卒で就職した同級生は、辞めた後、年俸出来高制の証券セールスマンに転進し、出来高制セールスというのが性に合ってるのか、めちゃくちゃ稼いでました。

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