フランスの自殺率はなぜ高いのか?

France_suicide.gif先月のThe Economistの記事で私の周りで話題になった記事がありました。 フランスの自殺率がヨーロッパの中で飛び抜けて高い、というこの記事(下記にリンクを貼っていますが、the economistはこちらで書いたようにサイトは一部有料化の流れなので、後で読みたい人はコピペするなどしてください)。
The Economist : Bonjour tristesse
右のグラフでもわかるように、国民100,000人あたりの自殺数がイタリアやイギリスの2倍以上、ドイツより40%高い(もちろん日本の自殺率はフランスより高いのですが・・・)。
私の周り(非フランス人)の反応は「おいおい、フランスといえば週35時間労働制で(*1)私たちの半分の時間しか働かず、夏は2ヵ月のバカンス。 失業しても2年間は前給料の70%の失業手当で暮らせて、出生率は2.0を回復する少子化先進国のお手本。 アムールでjoie de vivreな国の人が自殺してたら、いったいボクたちはどうなるんだ?」というツッコミ。 私も似たようなことを思いました。
*1・・・サルコジ大統領は35時間労働規制見直しの方針。
当のフランス人に聞かずに判断するのはフェアではないので、親友のフランス人J(こちらに登場)に聞いてみました(「マッキンゼーでワーカホリック」以外に彼のバックグラウンドを付け加えると、フランスのエリート養成コースであるグランゼコールではなく、3ヵ国の大学との交換留学ができる大学を選び卒業後はロンドンへ。 INSEAD MBA後はパリに戻ったものの、閉鎖的なフランス人社会と合わず、アジアに来たかったのでシンガポールへ。 フランスを冷静に外から見られるフランス人です)。


以下、「なぜ他のヨーロッパ各国と比べてフランスの自殺率が高いのか?」という私の質問に対する彼の意見ですが、聞けば聞くほど・・・ある国と・・・似てないか???
注:私が言った言葉ではなくJが言った言葉であり、多少誇張もされているだろうし、フランス好きな方、怒らないでください・・・

  • そもそも、普通のフランス人は「変化」に対する恐怖心を抱いている。 フランス革命は大変化であったものの、革命以降、さしたる社会変革はなく、順調に豊かになり(植民地時代の)旧宗主国、(二度の大戦の)戦勝国、(大戦後の世界の枠組みでの)西側先進国として富を享受していた。 ところが、昨今になって「グローバリズム」だの「国際競争力」だの「移民流入」だの意識改革を迫られ、そんな現実についていけないし、拒否感を持っている人が多い。
  • 自殺率の高いグループはまず「農民」(農業従事者)である。 フランスは農業国としての伝統を守るため手厚い農業保護政策が取られているが、国際競争力はない。 農村地帯は仕事がないので子供は都市へ出ていき、老人ばかり。 農地所有者は耕作義務があるので止めたくても止められないが、未来はない。 南仏プロヴァンスのような(今年行きました→『la vie en rose』)観光客を呼び込める「スター田舎」はわずかでフランスの農村地帯の90%は未来のない墓場である。
  • unemployment_rate.gif

  • 翻って他国からは「パラダイス」と思われている企業勤務者の労働環境。 解雇規制が強い硬直した労働市場で失業率は10%(*2)。 職のある人は一度職を失うと二度と再就職できないという恐怖心により、どんなに嫌いな仕事でも辞めずにしがみついている。 割を食っているのが若年層(25歳以下の若年層の失業率は23%と突出して高い)。 自分の親の層が仕事にしがみついているおかげで仕事がなく、親が子供の食い扶持を食っている状況。 職のない人は生活保護などのwelfare(福祉)にしがみつくほかない。 仕事にしがみつくか生活保護にしがみつくかの二択の社会である。
    *2・・・右図。 The Economist : Has Europe got the answer?より

どうでしょう??? 聞けば聞くほど似ている・・・
以前、このブログでも『幸せって何だろう?』というエントリーで幸せを定義しようとする試みを紹介したり、『「幸福度」をGDP算出に』で国民の幸福度をGDPに反映させようというサルコジ大統領の提案を紹介したりしました(こういう提案を行っている国の自殺率がGDP世界一のアメリカより高いところが皮肉なところ)。
「幸せ度」を示す定義や指標はかなり意見が分かれるところですが、自殺率は「不幸せ度」を示す指標のひとつとして使えそうなことにあまり異論はないのでは?(もちろん戦争や飢餓・病気で自殺どころではない国や自殺者の数どころか国の人口さえ把握されていない国がたくさんあるので、あくまで平和な先進国同士の比較になります)
国にとっての「幸せ」を探すのではなく「不幸せな人を減らす」という国の方向性もありで、フランスの例はなかなか参考になるなー、と思ったのでした。


11 responses to “フランスの自殺率はなぜ高いのか?

  • Y.S

    こんばんわ。
    エントリー更新されていたんですね。
    RSSリーダー動いてくれない。。。。
    似てますねえ・・・・
    WELFAREがあるだけまだマシかもしれないですが。。

  • la dolce vita

    >Y.S.さん
    >WELFAREがあるだけまだマシかもしれないですが。。
    まあwelfareも、welfareだけで一家全員暮らしている人が他の人の生活を逼迫しているわけで、バランスですよね。 どのバランスがいいかは人によって異なるわけですが。

  • デレク

    このデータびっくりですね。
    まるで、どこぞの国ですね…
    無知な私の想像するフランスといえば、まさにこれでした↓
    > 「おいおい、フランスといえば週35時間労働制で(*1)私たちの半分の時間しか働かず、夏は2ヵ月のバカンス。 失業しても2年間は前給料の70%の失業手当で暮らせて、出生率は2.0を回復する少子化先進国のお手本。
    それにサルコジ大統領の「幸福度をGDP算出に」などなど、お手本にしたいなと思っていました。
    ですので、このデータかなりビックリしました。
    ただ、考えてみると、職業柄、日本国内の飲食店(チェーン店)との付き合いがあり、仕入担当者と話すと、ワインはフランス離れ激しいです。フランス産からイタリア産、チリ産、南アフリカ産などに大きくシフトしています。
    その要因はやはり価格差。
    一つの例ですが、確かに国際競争力は弱まっているかもしれないと思いました。
    私もその価格差に苦しむ立場だけに、他人ごとじゃないな~と。
    先日の「幸せって何だろう?」のエントリーではありませんが、「幸せ」の定義が難しい中、不幸せの指標に「自殺率」は、賛成です。
    これからどうやって「不幸せな人を減らす」という施策をするのか、とても気になります。

  • 櫻庭

    >ワインはフランス離れ激しいです
    安いのもあるんですけどねえ。クレマンの泡なんてコストパフォーマンスすごくいいと思いますけど。(赤ほとんど飲まないですがw)
    >「不幸せな人を減らす」
    まず仕事ですね。ほんとにうちの某県はないですよ。
    おかげで自殺率も高い。
    有効求人倍率なんて0.24位かな。
    もうアスファルトに使うよりその原油代人に回せよって思いますよ。

  • la dolce vita

    >デレクさん
    >無知な私の想像するフランスといえば、まさにこれでした↓
    フランス人以外の反応は「びっくり」でしたよ、フランス人は既知の事実なのかもしれませんが。
    >ワインはフランス離れ激しいです。フランス産からイタリア産、チリ産、南アフリカ産などに大きくシフトしています。
    >その要因はやはり価格差。
    私はフランスで大のワイン好きになったので、話し出すと長くなるんですが、フランス国内では安いです、ジュースより安いです(って前も書いてますが ↓)。 
    http://www.ladolcevita.jp/blog/global/2009/06/la-vie-en-rose.php
    ところが、安くて美味しいワインはほとんど国内で消費され国外には出ていきません(隣国にさえ出ていかない)。 輸出用のは高いです。
    これは、輸出ワインはAC(=Appellation contrôlée 原産地名統制呼称) がついてないとダメとか何とか、規制が強いか、もしくは流通業者がマージン取ってるかだと推測していますが、理由はわかりません。
    また、フランスのワインは木樽じゃなきゃダメ(カリフォルニア産、オーストラリア産など新世界ワインはスチール樽も多いはず)、コルクはこうでなきゃダメ、とか伝統を頑なに守ってコスト高になってる側面もあります。
    そして価格だけが理由じゃなく、フランス・ワインは消費者にとって「わかりにくい」んですよ。 ボトルに産地名(ドメーヌ名)しか書いてないので、どんな味がするワインかわかりにくい。 一般消費者はブドウの品種名を見て初めてわかる人が多いので、消費者志向の「わかりやすい」新世界ワインが好まれてるってのはあります(こちらのリンク↓に詳しくあります)。
    http://www.nttpub.co.jp/webnttpub/contents/wine/006.html
    フランスのワインは日本の家電や携帯(そんなに高機能なのを望んでるのは日本国内だけ、ひとりよがり?)に似てるなー、と思ったり思わなかったり。 
    フランス・ワインは最高に美味しいと思いますが、こちらで飲むのはオーストラリア産が多いですね。
    >櫻庭さん
    >まず仕事ですね。ほんとにうちの某県はないですよ。
    >おかげで自殺率も高い。
    >有効求人倍率なんて0.24位かな。
    仕事ですね・・・ 0.24ってすごいですねー・・・ 絶句・・・

  • デレク

    la dolce vitaさん
    色々ありがとうございます。
    確かに、仕入担当者もフランスは色々うるさいから、高くなっちゃってるんだよな~という話はしていました。
    酔っ払って聞いていたので、忘れてしまいましたが…(汗)
    > フランスのワインは日本の家電や携帯(そんなに高機能なのを望んでるのは日本国内だけ、ひとりよがり?)に似てるなー、と思ったり思わなかったり。 
    同感です(笑)
    日本の食品産業も似たり寄ったりです。
    以前ご紹介いただいた「ガラパゴス化する日本の製造業」思い出しました。

  • la dolce vita

    >デレクさん
    >日本の食品産業も似たり寄ったりです。
    すごいこだわりが発揮されてますよね。 夫が驚愕していたのが食パン。 「超熟」とか何とかすごいジャンルがあるじゃないですか? そもそも「スーパーで売っている食パンはまずいに決まっている」国から来ている大部分の人にとって「なんで食パンがこんなに美味しいんだ!!!(そして高い!)」と驚くそうです。

  • mkk

    フランスに住んで、フランス人とかかわっていると、フランスの自殺率が世界のトップレベルでも、あまり驚きません。なぜなら・・・一般的に「被害者意識」が大変強いのです。何かうまくいかないことがあると、すべて誰か自分以外の人のせい。悪者は主に政府、大企業、グローバリゼーション等。「わたしもあなたもカワイソーな被害者」、これが仏国民の基調、主なメディア報道、公立学校教育の基調と言えます。
    リスクをとっても自分の人生は自分で切り開く!という気合を持つ人は少数派ではないでしょうか。目の前の安定と既得権にガチガチしがみついている人が大半です。さらに、前向きな人生観、ポジティブ・シンキング、アングロサクソン文化系成功哲学などは、幼稚なものととらえ、人生シニカルに斜めに構え、悲観的でいることが知性の証明とでも信じているような人、特にインテリ層が多いです(これにあてはまらない高学歴フランス人は、グランゼコール出身者、特にビジネス系くらい?ご友人にも聞いてみてください!)。硬直と被害者意識、これがなければホントいい国なんですが・・・。

  • la dolce vita

    >mkkさん
    >「わたしもあなたもカワイソーな被害者」、これが仏国民の基調、主なメディア報道、公立学校教育の基調と言えます。
    へー、でもこれって今の日本のマスコミの論調と似てるかも(派遣切りに対する報道とか)。
    >前向きな人生観、ポジティブ・シンキング、アングロサクソン文化系成功哲学などは、幼稚なものととらえ、人生シニカルに斜めに構え、悲観的でいることが知性の証明とでも信じているような人
    これは面白いですねー 私は普通のフランス人はよく知りませんが(INSEADのフランス人しか知らない)、フランス映画ってまさにこんな感じですよね?(ジェラール・ドパルデュー、レオン・カラックス、ミシェル・ブラン、誰のでも)
    登場人物が少なく、永遠と登場人物同士のダイアローグが続いて、ささいなこと(←に私には見える)落ち込んだり嘆いたり怒ったり狂ったり(自殺したり)、「あー、なんか感情の起伏が激しいって大変そうだなー」と思いながらよく見てました。 この自殺率の記事を読んで真っ先に思い出したのがフランス映画で、実際には見たことないけど映画に出てくるような人多いのかな?と思ったり。

  • まつーら

    今更ですが・・・このエントリーを読んで、昔、何かの本に書いてあったことを思い出しました。
    その本には、
     「フランス語独特の響きは、日本人が聞くと脳にある種の危険な刺激をおくり
      自殺しやすい傾向にあるため、日本人留学生で一番自殺が多い国がフランスである」
    みたいなのを読んだ記憶があるのですが、ネットで検索しても全くでてきませんでした。。。
    どこで読んだんだろう?
    もしかしたら音(言語?)にも自殺が起因している可能性もあったりして。
    なーんて思ったのでした。

  • la dolce vita

    >まつーらさん
    >フランス語独特の響きは、日本人が聞くと脳にある種の危険な刺激をおくり
    >自殺しやすい傾向にあるため、日本人留学生で一番自殺が多い国がフランスである
    すごい説ですね・・・
    フランスの日本人留学生といえば「パリ症候群」って言葉がありますよ(↓)。
    http://blog.tatsuru.com/archives/000739.php

Leave a Reply

Fill in your details below or click an icon to log in:

WordPress.com Logo

You are commenting using your WordPress.com account. Log Out /  Change )

Facebook photo

You are commenting using your Facebook account. Log Out /  Change )

Connecting to %s

%d bloggers like this: