お金持ちが逃げてしまう国

海部美知さんブログの『金持ちをたくさん働かせる仕組み』には全く同感。
同感な点は2点あったので、今日は1点目(若干、編集して引用)。

金持ちから奪って貧乏人に分けるのを政治でやっちゃうと、金持ちはますます自分の富を隠し、世の中のために流通しなくなるし、「成功しよう」という個人のインセンティブを奪う。

私は常々、日本に住む日本人にとって一番恐ろしいシナリオは、日本という国(の制度)を見捨てた日本企業が外へ出ていってしまうことだと思っていました。
40%という世界最高レベルの法人税をはじめ(参考:世界の法人税率、ちなみにシンガポールは18%)、ビジネス環境における国際競争力がないため。
毎年、世界銀行と国際金融公社(IFC)が発表する”Doing Business”というランキングがまさに国のビジネス環境を比較しており、2009年は以下の通り(The World Bank Group – Doing Business 2009)。

1. シンガポール
2. ニュージーランド
3. 香港
4. アメリカ
5. イギリス
・・・
15. 日本


Pan Asia Partnersの加藤さんのような方が、

日本は世界メジャー企業がアジア拠点を置くには向いていない。
アジアの拠点はシンガポールに移しましょう!(『世界競争力報告とビジネスの環境』より)

と、世界の多国籍企業にとっては至極常識になっていること(でも日本企業があまり気づいていないこと)を叫び、日本企業が啓蒙されるにつれ、どんどん日本から出ていってしまう・・・というのは、かなりあり得るシナリオ。
それに加えて、「子供手当に所得制限」とか高額所得者層を狙いうちにした政策をやると、高所得の個人まで出ていってしまいます。 個人は法人より身軽ですから(一般的に)。
実際、高額所得者に課税しようとして、あっという間にアメリカ人が出ていっている例がイギリス(→Bloomberg : Elle Macpherson Can’t Counter London Gloom as Americans Flee『ウォールストリート日記」で知った)。
年収15万ポンド(約2,300万円)超の個人に50%の税率を適用することを検討していることや、在英期間が7年を超えた外国人に、海外所得に対する課税免除の特別措置を維持する対価として、年3万ポンド(約450万円)の支払いを求めたことで、アメリカ人の帰国が進んでいるそうです。
そりゃ、そうよねー、彼らは、

税制の透明度や税率、教育制度、医療制度、治安、自然環境など、生活とキャリアのために様々な便宜を評価して、永住権や国籍を選ぶ。

んだもの(→『スーパー・シチズンの反旗』)。
ところで、海部さんのように「金持ちから奪って貧乏人に分けるのではなく、金持ちに働くインセンティブを与えよ」(注)というのは、「小さな政府」志向の代表的なものですが、「大きな政府」と「小さな政府」はその名が示す通り根本的に相容れない、「思想」「趣味」の問題だと私は思います(個人的に、「税金が安いだけでは住む理由にならない」とシンガポールに来て思った・・・のは、単に他国で高額納税者じゃないからそう思うのだと思う、笑)。
注:「金持ち」には資産家と高額所得者の2種類があるが、ここでは高額所得者のことでしょう。
世界には、高福祉・高負担の北欧のような国(大きな政府)があって、「努力すれば成功できる」というアメリカン・ドリームが根強く残るアメリカのような国(小さな政府)があっていい。 まあ、お金持ちは「小さな政府」志向なので、「大きな政府」国には流れないと思うけど、「大きな政府」国の人が「税金高いけど平和だし幸福だし、いいわ」と思うのであれば、それはそれでいいと思います。
問題は、両方のシステムのトレードオフ(メリット・デメリット)が認識されないまま、財源など実現方法が公開されて吟味されないまま、何となく知らない間にコトが決まってしまいそうなことなのかと。


7 responses to “お金持ちが逃げてしまう国

  • lat37n

    法人税率については、研究開発減税とか優遇措置があって、日本の製造業系の大企業で40%まるまる払っているところは稀(自動車関連・通信とかは実効税率30%切ってるくらいじゃないかな)なのだけど、にしても世界的に高いことは違いないですね。でも、本気で日本を出ていく気概のある日本の大企業ってどのくらいあるだろう。。。か。
    おっしゃるようになんとなくことが決まりそうなのが気持ち悪い。で、それって、政治家のリーダーシップの問題だけでなく、国民も、どっち(小さな政府で個人努力の世の中になるか、大きな政府で税金がすごく高いか)がいいか決められなくて、「税金が上がるのはいやだけど社会保障は厚くあって欲しい」と無理なことを皆が思っているから、でもある気がする。そんなことない?笑 だから、政治家も無理目なバラマキ策を口にし続けないといけないような。
    アメリカ人は、パブリックサポートへの期待が薄くって、国民も「自分たちは小さな政府の国に住んでる」ことを意識してると思うんですよね。子どもを育てるのにとんでもなくお金がかかるベイエリアで、「公共が子育てを(金銭面とか、設備面で)サポートすべき」という意見は聞いたことがない。日本の子ども手当ての話をしたら「子どもを育てるのは大事なミッションだけれど、それは、子どもを持たない国民にも負担させること?私は違うと思う」と、3人の子供をもつアメリカ人ワーキングマザーにいわれました。社会として子どもを育てることを奨励しているのは日本よりはアメリカだと思うんだけど、金銭面は自分でなんとかするもんでしょう、そのために頑張ってはたらく、っていう意識かな。
    かの国の制度は、医療を筆頭に決して素晴らしいとおもってませんが、すくなくとも方向性が明確であるのは明らかで、さて、日本はどこに行く?と思うわけです。。。

  • Blondy

    la dolce vita さんへ
    >問題は、両方のシステムのトレードオフ(メリット・デメリット)が認識されないまま、財源など実現方法が公開されて吟味されないまま、何となく知らない間にコトが決まってしまいそうなことなのかと。
    う~ん、もはやほとんどの国の政府はそんな悠長なことはいってられないという状況ではないかとおもいますよw
    サブプライム危機、リーマンショック以降、金融危機対応および不況対策で、先進国は否応なしにほとんど全て大きな政府になってしまいました。
    歴史的転換であり、英米日なんかあと20年は小さな政府には戻れない感じがする。もはやサイはなげられちゃった。
    The Inconvenient Debt (clip from Fox News Glenn Beck)



    金融危機対応および不況対策で今後も政府はどんどんお金が必要、でも不況で税収は激減してしまう。(赤字の企業や失業者からは税金は入らないし、企業利益もぐっと減少。) 米国の場合、連邦政府もアウトですが、CAをはじめ多くの州が軒並み破産状況。
    アメリカが金持ちから取る国に変わりそうな予兆はすでにいろいろ出ています。
    どこの国の政府でも、政府支出を大幅リストラしつつ、増税して取れるところからできるだけ取りたいが、民主主義だからマスにはある程度バラマキしてでも人気を保っておかないといけないし、消費税は低所得者層ほど負担がきついのであまり上げると政権が揺らぐからできれば自分が政権担当時は避けたいというバイアスが働く。
    すると必然的に、儲かっている企業や個人については世界の果てまで追っかけてでも課税するという選択肢が選ばれる可能性が大。まあ、そうしなければ役人は給料が減ったり失業したりするかもしれないから必死に取り組むでしょう。
    仮にTNCが税金の安い小国に本社を移して利益をいっぱい出しても、どのみちAnti-Deferralとか各国の支社で高い移転価格税制を負担することになるのではないでしょうか。
    (参考) 専門家のためのアメリカ・タックス(米国税務)
    http://ustax-by-max.blogspot.com/2009/07/5.html
    とにかく政府にお金がないときにはなんでもありに急変すると思ったほうがよいでしょう。
    でもそんな程度で足りるはずないから、何年後かには、結局、インフレか、インフレ+財産税のダブルで全員にツケを廻すことになるのでは。。。
    するとあら不思議、いままで巨大な借金を抱えていた政府と生き残った大企業等は借金がチャラでリスタートできるようになります。
     

  • Blondy

    最近アメリカはタックスヘブンにはうるさいし、UBSにも圧力かけてるので気にしてる方もおられると思いますが、下記のようなルールもありますよ。
    実は、お金持ちを簡単に逃がさない国なんですよね。
    永住権放棄者・国籍離脱者の税務
    http://www.usfl.com/article.asp?id=39948
    ちょっとお金がある人は米国籍やPRを捨てて世界のどこに移住しようと10年間はアメリカに納税しなければならない。怠れば罰金だって。(怖~) 

  • 八木@株式投資必勝法

    日本の法人税は高すぎますね~^^;
    国民みんなにとって夢のある国になってほしいものです。

  • la dolce vita

    >lat37nさん
    >法人税率については、研究開発減税とか優遇措置があって、日本の製造業系の大企業で40%まるまる払っているところは稀
    会計士っぽいコメントありがとう! こっちには、「日本の税金やってられない」と移ってきた日系ファンドが山のようにいるので、そういう環境に引きずられていました。
    >本気で日本を出ていく気概のある日本の大企業ってどのくらいあるだろう。。。か。
    えっ??? いない??? 国際競争力のある製造業(つまり上の方)から出てくだろうと思ってたんだけど。
    >「税金が上がるのはいやだけど社会保障は厚くあって欲しい」と無理なことを皆が思っているから、でもある気がする。
    おっしゃる通り。 以前、このエントリーでのコメントで(↓)、lat37nさんに
    http://www.ladolcevita.jp/blog/global/2009/07/post-220.php
    >社会としては日本はもうすでに、アメリカの方が近いんじゃないかって思ってました。
    と言われて、「いやー、アメリカに全然近くないんじゃないかなー?」って思ってたんですが、今回の民主党の圧勝でやっぱりそう思いました(まあ、民主党が勝ったのは単に非自民党票が流れた方が大きいんでしょうが)。
    その割には、税率70%みたいな世界に耐える覚悟はないと思う。
    >Blondyさん
    >儲かっている企業や個人については世界の果てまで追っかけてでも課税するという選択肢が選ばれる可能性が大。
    アメリカ人なら世界のどこに住んでいても、全世界所得を対象にアメリカで所得税申告しなければいけない制度なのは、たしか今のとこアメリカだけでは? 今回、先進国がいっせいにそういう方向に舵をきると、単にシンガポール他タックス・ヘイブンと呼ばれている国に逃げる人が増えるだけ、って感じがしますが。
    >八木@株式投資必勝法さん
    >国民みんなにとって夢のある国になってほしいものです。
    「夢」の定義がみんなバラバラなのかと・・・

  • ドイツ特派員

    la dolce vitaさん、
    >アメリカ人なら世界のどこに住んでいても、全世界所得を対象にアメリカで所得税申告しなければいけない制度なのは、たしか今のとこアメリカだけでは?
    確かフィリピンがそうではなかったか?と思って橘玲の「世界に一つしかない『黄金の人生設計』」を見直すと、やはりアメリカと同じ属人主義課税なのだそうです。ただ同時に、「フィリピンの税務当局にアメリカのIRSのような調査能力があるとは思えないので、特に実際には問題が無いという話もある」ということが書かれています(但し2007年発行文庫版なので、そのあと変わっているかもしれません)。

  • la dolce vita

    >ドイツ特派員さん
    ありがとうございます。
    フィリピンは海外居住者による海外送金がGNPの10%を占めるくらいですから、海外居住者による所得は相当な金額ですよね。 ただ、指摘されている通り、海外所得(銀行口座を持たず、キャッシュの受け渡しも多いと思う)をフィリピン税務当局がどうやってトレースできるかは疑問ではあります。

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