言語・文化アービトラージャー

「アービトラージ」という言葉は「サンクコスト」と同じく日本語で言われても(「アービトラージ」の日本語訳は「裁定取引」)うまく意味が伝わらないなー、と思っていたのですが、最近そのままカタカナで使う例をよく見かける気がするので(例:「国際的制度アービトラージ」)、そのまま使います。
元々は「同じ価値を持つ商品の価格差を利用して、利鞘を稼ぐ取引のこと」ですが、広義には「国内と海外、現在と未来、既知と未知、需要と供給、欲求と充足、価値と無価値、過剰と不足などのギャップを埋める行為」でほとんどの経済活動はアービトラージから生まれたとも言えます。
今日はそのうち言語・文化のギャップを埋める言語・文化アービトラージャー(アービトラージする人)に絞ります。
よく「英語屋なんて英語だけで仕事ができないからダメだ」とか「海外で働く日本人のほとんどは日本企業か日本人相手の仕事をしている」と言語・文化アービトラージャーをバカにする人がいるのですが、「一側面しか見てないし、批判のポイントずれてるなー」というのが率直な印象。
まず、言語・文化アービトラージャーの需要は相互依存を強める世界経済の中で加速度的に増していると思います。 いわゆる「仕事」(技術開発・セールス・マーケティング・経営、etc.何でもいいけど)にプラスαで対象市場の言語・文化を理解しギャップを埋められる人は業界問わず求められています。


言語に関しては、ヨーロッパのセールス・マーケティング職では、英語+複数のヨーロッパ言語がほとんどマストですし、東南アジアもそうです(マストではなくとも優遇される)。 言語アービトラージャーの最高峰に位置するプロの同時通訳はEUでは慢性的に足りてないとの噂。 今後、アジア通貨同盟とか(実現されるか未知数ですが)できたらアジアでも同様のことが起りそう。
文化・宗教に関しては、戒律の厳しいムスリムや、(アジアにはあんまりいないけど)ユダヤ教徒への配慮は当たり前、できない人は軽蔑されます。 市場戦略を描く上でも対象市場の文化が理解できていないとお話にならない。
多国籍企業のトップともなればなおさら「多様な文化・価値観を理解し、多様な人々をまとめられる」究極アービトラージャーが資質として求められているようで、シティグループのトップはインド人、マッキンゼーのトップもインド人(と書いてwebsiteチェックしてみたらまた変わったかも)、とアメリカ企業でも外国人が多くなっています。 元々多様なヨーロッパはなおさら。
思えば、私も日本企業にいた10年間は言語・文化アービトラージャーでした。
海外市場の事業開発・投資をしていたのですが、やはり大変だったなー、と思い出すのは投資の実務(デューデリ・バリュエーションetc.)そのものよりも、
– まだ交渉まとまってもいない交渉先を「表敬訪問したい」という上司を、「表敬訪問という概念はなくて、決断権限を持つトップが最終条件を持って交渉に来たと思われます!」と止めることだったり(日本企業は稟議による合議制なので「決断権限を持つ」人なんて社内に1人もいないが、欧米企業は権限を持つトップ自ら交渉して決めてしまう)、
– オーナー企業への投資に日本式に個人保証を求める上司に「会社の財産と個人の財産は別物で、それが出資という意味です」と説得することだったり(個人保証なんか求められてたら、シリコンバレーの起業家たち全員個人破産してますね・・・)、
– 日本の技術企業同士お得意の「すり合わせ」のノリでアメリカ企業に行き、軽くあしらわれたり(こちらに書いてます)、
企業文化アービトラージャーの役割が一番大変でした。
今も世界中でいろいろな人たちが悪戦苦闘しているんだろうなー、と思う – タイ人がタイ人上司に「タイではこうですが、他では違うんです!」と説得していたり、イギリス人がアラブ式ビジネスの痛い洗礼を受けていたり。
そんなわけで、言語・文化アービトラージャーって今後マストのスキルでは?と思うのですが、私、シンガポールでは豪系の会社で同僚もクライアントもほぼ全員オーストラリア人 or イギリス人、というめちゃくちゃモノカルチャーな環境にいます。
まさに「ひとりアウェー試合」状態。
日本との言語・文化アービトラージャーの方が自分の経験を活かせることはわかっているのですが、「日本の力」が落ちている現在(→『海外就職における「日本の力」』)、まだ柔軟性がある今のうちに(?)「ひとりアウェー試合」を経験しておくのも悪くなかろうかと。
ひとりアウェー試合については、そのうち落ち着いたら書きます。 ひとつ言えることは、若いうちに経験しておいた方がいいってことかな・・・


7 responses to “言語・文化アービトラージャー

  • lat37n

    サンクコスト=「埋没原価」で私にはよくわかるんだけどそれって日本の会計士だけ?って昔もコメントした記憶がありますが(笑)アービトラージを裁定取引とはいわないです、さすがに。制度アービトラージって、私が監査してた時は、企業が「制度の穴を利用して」会計操作をする行動のことを言っていたんだけど、知ってるかしらないかのアービトラージではなく、制度の「差」でアービトラージするんだったらそっちの意味なんだろうな。
    投資の実務より企業文化アービトラージャーの役割が一番大変だったって壮絶。。。後者のストレスは現状ミニマムなので実務に特化できてすが、まあ、やっぱたまに出てきますね。社内でその手の調整が要らないのはありがたいですが。
    わたしも一人アウェイをやってたくちなので(まあ、シリコンバレーはアウェーというには混沌なんだけど)、楽しみにしています。ほんと、若いうちがいいですね。今もう一回っていわれたらくじけそう。。。

  • la dolce vita

    >lat37nさん
    >アービトラージを裁定取引とはいわないです、さすがに。
    あ、やっぱり? 英語で覚えたものは日本語でどう言うのかわかんないことが多いです。
    >投資の実務より企業文化アービトラージャーの役割が一番大変だったって壮絶。。。
    壮絶なのかー・・・日常だったんだけど。
    この手の社内調整に膨大な手間と時間がかかります(社内資料をせっせと作る)。 だから「日本企業は労働生産性が低い」とか言われちゃうんだろうなー(当然の結果として意思決定が遅い)
    >ほんと、若いうちがいいですね。今もう一回っていわれたらくじけそう。。。
    20代で経験するに限ります(断言)。 あと会計士とか弁護士とか(↓この人みたいに)、資格&ハードスキルで攻めるに限る。
    http://www.pasonatech.co.jp/hatarake_sv/rep22-1.jsp
    コンサルみたいな半分(以上)ソフトスキルの世界は疲れます。 10年前に気づいていれば・・・(苦笑)

  • lat37n

    ↑の方はよーく知ってます。そもそもは高校の同級生なんですが、サンフランシスコでばったり?再会したの。彼女の留学以降のストーリーはよくしってたので、この千賀さんのコラム見たときはほんっとほろりときました。すごくすごく努力して、望む生活を手に入れたひとなので、そのことをすごく尊敬する。
    シリコンバレーの日本人、ピュアにビジネスサイドで成功しているひと(企業のビジネスサイド、戦略コンサルとか)、理系やわたしたちみたいな資格業に比べて圧倒的に少ないです。わたしも会計士+ビジネス方面の展開をアメリカでするのは無理だって思いましたから。。。シンガポールであっても状況は同じだろうからla dolce vitaさん、すごいとおもいます。がんばってー。

  • la dolce vita

    >lat37nさん
    >↑の方はよーく知ってます。
    やっぱり世界は狭いですねー この方と次の回の元マッキンゼーの人、私とキャリアは全然違うんですが共感しまくりで、現在ツボになっています。
    >シリコンバレーの日本人、ピュアにビジネスサイドで成功しているひと(企業のビジネスサイド、戦略コンサルとか)、理系やわたしたちみたいな資格業に比べて圧倒的に少ないです。
    そうでしょうね。 私はあと数年は背水の陣が続くので(いや、ずっとか?)、Steve Jobsの”You are already naked. There is no reason not to follow your heart.”を頼りにがんばります。

  • Maria

    >>いわゆる「仕事」(技術開発・セールス・マーケティング・経営、etc.何でもいいけど)にプラスαで対象市場の言語・文化を理解しギャップを埋められる人は業界問わず求められています。
    大変興味深く拝見させて頂きました。Globalな環境で働きたいと思い、今はアメリカの資格や英語を勉強中ですが、英語にせよ中国語にせよ語学力は大切と言われるものの、私自身も本当に大切なのは+αの部分だと実務の経験からも痛感しています。
    ただ、語学ブームでTOEIC対策などの試験対策の勉強方法は巷にあふれているものの、この+αのスキルについてはあまり知られていない、注目されていないのが現状なのではないか思います。子供の頃から多国籍の環境に居た人などは自然と身につくものなのでしょうが、私自身は残念ながらそうではないので、対症療法的にネットで調べたり本を読んだりするくらいしか出来ていません。la dolce vitaさんはどのように身に付けられましたか?宜しければ是非教えてください。

  • la dolce vita

    >Mariaさん
    >la dolce vitaさんはどのように身に付けられましたか?
    私がプラスαって書いたのは言語と文化の両方の意味だったんだけど、文化の方を質問しているということでいいでしょうか?
    これは実践しかないです、ネットや本じゃ無理。
    まず、学生時代はバックパッカーでした(↓)。 この時、ひとり旅じゃなくて現地発着ツアーに入るといろいろな国の人がいます。 旅好きならお薦め。 1週間以上の長期ツアーになると日本人がいる確率がグンと減る。
    http://www.ladolcevita.jp/blog/global/2008/11/post-78.php
    後は仕事がずっと海外だったので仕事と留学で自然と。
    東京で外国人って出会いにくいんだけど(私、コテコテ日本企業だったので)、外国人同士は固まってるから。 フランス人ならアリアンスフランセーズの催し物行くとたくさんいる。
    外国人が集まるスポーツ系のクラブも結構あるし、東京はたくさんいることはいるんだから出没場所を探せばいいと思います(六本木以外の、笑)。 ひらがなタイムズとかに載ってそう。

  • tygertyger

    マルチリンガルでも+a無い人もいるし、モノでもしっかりした+a持っている人もいる。この場合後者の方が強いのでは?+aの内容としては、論理的思考と専門知識でしょうね。同時通訳をやってると、中身の濃い人とそうでない人はすぐ分かります。

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