3カ月ほど前の渡辺千賀さんの「海外で勉強して働こう」エントリーの後起こった数々の議論の中に、「日本の英語教育が役に立たないのは、日本人が海外に逃げないようにするための政府の陰謀だ」というコメントを読んだのですが、その真偽はともかく、それと全く反対のことが起こっている国がありました。
以下、シンガポール政府上級官僚がある高校で行ったスピーチ(いつも記事を送ってくれるYさんが送ってくれました、ありがとう!)
1996年から1999年までの4年間にAレベルをとったトップクラスのシンガポール人生徒5人に1人は、10年後の現在シンガポールにはおらず海外で働いている。 また、奨学金ではなく自前で留学したシンガポール人学生の3人に1人はシンガポールで就労していない。 こうした人材の海外流出問題は軽視できないまでになっている。
人材が不足しては経済発展・繁栄は望めない。 シンガポールのように出生率が低く、人口の小さな小国はなおさらである。
だが、今の若者はグローバル時代に生きている。 政府も海外留学・飛躍を奨励し新しい知識を吸収し経験を積むよう激励している。 だが、優秀な学生が仕事や結婚などを理由に帰国する者が減り続けたら、シンガポールはどうなるのか?
だからこそ、シンガポールへの帰属感を養い、シンガポールの国家社会に貢献するよう幼少から教えこむ必要があるのだ。 子供たちに、誰が育ていつくしんだのかをよく理解させ、持てる力を国家社会に還元するよう教えるべきである。(星日報より)
『個人が国家を選ぶ時代』に書いたように、シンガポール政府の教育政策の柱は「国際競争力のある国民を育てること」なので、ある程度こういう事態は避けられないんですよねー 必要悪っていうか。
英語と中国語ができてある程度グローバルプロトコルがわかる/できるシンガポール人が海外にオポチュニティーを見出して帰ってこない、という気持ちはわかります。
流出人数が圧倒的に流入人数を上回るというならまだしも、こういう政策を取るかぎり、ある程度許容すべきなんじゃないでしょうか?(こちらの下の方に各国の大卒以上流出者・流入者の比率グラフを載せています、残念ながらシンガポールのデータはありませんが)
若い国家なので国民の帰属意識が希薄という問題はわかるけど、帰属意識があっても国を魅力的にしないと人は残らないと思いますけどね、縛りつけるわけにはいかないし(『シンガポール大学生の人気業界』に書いたように実際に留学のための奨学金の条件として、その後シンガポール企業・政府に7年間勤務義務ありという形で縛りつけているのだが、それを嫌う人は多い)。
流出者・流入者の比率グラフで見るとアイルランドなんかは非常に長い歴史を持ち、国民アイデンティティーも強いのに流出者が非常に多いです(おそらくその多くは隣国イギリスへ)。
その反対がオーストラリア。 大学を卒業すると世界を見聞しに旅に出る若者が多く、そのまま(もしくは数年後)ロンドンなどで働く人が非常に多いのだが(よってロンドンは20代オーストラリア人で溢れかえっている)、もちろんそのまま居つく人もいるけど子供ができると「やっぱりオーストラリアがいい」と帰ってくる人が多いです。 その様子はさながら渡り鳥のよう。
まあ気象条件や国土の肥沃さで恵まれない国(e.g. アイルランド)もあるので「魅力的な国」と言えどそもそも不利な国もあるのですが、トロピカルなシンガポールはまだマシな方なので(人によっては天国)、「誰が育てたと思ってるんだー?」というエゴイストな親的なアプローチではなく、国の魅力を高めるという王道で勝負したらいいのではないかと思います・・・
July 26th, 2009 at 3:35 am
シンプルに考えて「海外で武者修行」、そして現実的に「メジャーリーグやヨーロッパサッカーリーグで活躍するアスリート」という結果を良い例として捉えると良いかも知れませんね。
実際少し前は「日本プロ野球選手がメジャーリーグばかり行くようになると、日本プロ野球はつまらなくなる」という危惧を表してる人がいたようですが、実際にそんなことは無いですよね〜。
違う分野ではポピュラーミュージックを参考事例にすれば、テクノミュージックアーチストのケンイシイとブンブンサテライツは共に日本デビューする前にベルギーの名物テクノレーベルからデビューして(蛇足ですがケンイシイの経歴はスゴいです…)、世界で先に認められて逆輸入という形です。
それにしても、日本人の海外流出を恐れて公共教育としての英語教育を改善しないのでは、という意見には笑いましたがあながち外れてなかったりして…教育業界に近い新聞記者の友人に聞いてみますw
July 26th, 2009 at 7:04 am
こんにちは!
>その反対がオーストラリア。
私今豪州で英語の勉強していて、そのままmasterに進むの予定ですが、それは知りませんでした。なかなか現地人と友達になるのは難しくて。大学の寮の食堂も留学生と現地人がテーブルを共にする光景はまず見られません。まあ、お互い気楽な方を選んでしまうのでしょう。
イギリス人が同じように高校だか大学だかを卒業したら海外に1年ぐらい滞在するというのは何処かで読んだことがあります。
>日本の英語教育が役に立たないのは・・
英語教育を強化するべきか否かは置いといて、アメリカ、イギリス、カナダ、豪州の教育産業のお得意様になってしまっていて、英語が必要で勉強したい者にとってはコストと時間、労力が掛かりすぎます。勉強するべき時期に効果的に習得する方法は無いものかと考えてしまいます。どれだけお金と時間を掛けて来たことか知れません。4,5歳から英語のラボに通って、かれこれ云十年は英語と否応無く関わってきましたが、自分の努力不足と能力不足でこの有様です・・。
トピずれで恐縮ですが、ご存知かもしれませんが、こちらではオーストラリア人によるインド人学生への暴力事件をきっかけにインドのみならず中国政府も動き出したようです。差別では無く犯罪だと主張する向きもあるようですが、やはり差別だと捉えます。教育産業は豪州にとって重要ですので割とホットな話題になってます。この記事とは別の記事に(確かに読んだのに検索できませんでした。)今後は東南アジアや中国の学生が自国内で高等教育を受けるようになるのではないかと心配する向きもあるようです。これについては議論があるようですが。http://www.smh.com.au/news/national/china-speaks-out-on-student-attacks/2009/06/03/1243708507962.html(The Sydney Morning Herald)
一昨日、バス停でバスを待っていたら向こうからやってきた車から若い男性の奇声が聞こえてきて、すれ違いざまに女性が「Excuse me」と言ってきたんです。どうやら私をからかっているようなので携帯画面に集中している振りをして目を合わせませんでした。中指を立てられるのがオチですからね。日本人をからかいたいのなら15年以上前のマツダなんて乗るなよ、と思いつつ(笑)。
これまた関係ないThe Sydney Morning Heraldのクリップで恐縮すが、日本のスーパーで働いている日本人女性のレジ係の方のコンテストの模様です。報じられるくらいですから、豪州の方々にはもの珍しく映るのでしょうね。http://media.smh.com.au/outer-net/weird-week/japans-supermarket-superheroes-648663.html
July 26th, 2009 at 12:12 pm
>Keiさん
>シンプルに考えて「海外で武者修行」、そして現実的に「メジャーリーグやヨーロッパサッカーリーグで活躍するアスリート」という結果を良い例として捉えると良いかも知れませんね。
そう、逆に国内も刺激を受けて活性化するからよいとポジティブな面に焦点を当ててほしいですよね。
>日本人の海外流出を恐れて公共教育としての英語教育を改善しないのでは、という意見には笑いましたがあながち外れてなかったりして…教育業界に近い新聞記者の友人に聞いてみますw
聞いてみてください〜。 大前研一さんなんかは外国人の英語教師を正職員にしないのは「英語ができない英語教師の職を守るため」って言ってますけどね。
>JA1さん
>私今豪州で英語の勉強していて、そのままmasterに進むの予定ですが、それは知りませんでした。
うちの夫はメルボルン出身ですが、高校の友達の半分くらいがロンドンに住んでるみたいですよ。 私の高校の友達の半分くらいが東京に住んでるのと同じ感覚でしょうね、オーストラリア人はイギリスの滞在ビザが簡単に取れるので。
>こちらではオーストラリア人によるインド人学生への暴力事件をきっかけにインドのみならず中国政府も動き出したようです。
知ってますよー、オーストラリアはいつか住むと思うので非常に興味もあります。 こういうのって、ひとつ事件があるとどんどん類似事件が起きて関係産業に影響も出てきて残念ですよね。 実際、どういう差別があるのかとかは住んだことないのでわかりませんが。
July 26th, 2009 at 2:04 pm
la dolce vitaさんこんにちは~
オーストラリア人の友達が
『オーストラリアでは頑張って働くとすぐ税金で半分もってかれるから優秀な人はみんな出て行くんだよ~』
と言ってました。
これも人材の海外流出問題の一因ですかね?
July 27th, 2009 at 4:55 am
連続投稿にて恐縮です・・。
英語教育に関してなのですが、クラスのタイ人たちは結構「聞く」ほうは得意なような気がしたので、
寮の同じユニットのタイ人にその事について聞いたら「英語の授業は全て英語でやるからじゃないかな。」と言ってました。
統計も科学的根拠も提供しないで申し訳ないですが、日本でもこの点は議論になっていた記憶があります。今後近い将来そうなるのではないでしょうか。
差別問題について昨日、同じ寮のインド人たちと昼飯を食べながら話したのですが、やはりアジア人に対する暴力事件は連続して起きているようです。同じ大学付属の英語コースで学んでいる日本の方の場合、先日生卵を投げつけられたそうです。社会的背景については、すみません、調べておきます。ただ、インド人は「ほんの一握りのローカルの仕業だよ。ここは外国、僕らは外人、僕らの国ではない。夜道の一人歩きを気をつけたり、怪しい連中に話しかれられても無視すれば安全だよ。」と言ってたので、注意さえしていれば安心して暮らせる国だとは思ってます。事件の新聞記事を読む前はコース開始まで暇だったので毎晩のように単独でクラブに踊りに行ってたのですが雰囲気はフレンドリーで、いきなり強引にローカルの女性が私の頬にご褒美くれたりしたので、「この国に来て良かった」と思っていたのですが、「あそこのクラブはローカルばかりだから危ないぞ」と後から聞いてゾッとした次第です。差別問題はディープだけどそれは一面でしかないとインド人の話しを聞いて考えを修正しました。
July 27th, 2009 at 9:37 am
>white tigerさん
こんにちは!
>『オーストラリアでは頑張って働くとすぐ税金で半分もってかれるから優秀な人はみんな出て行くんだよ~』
>と言ってました。
半分もってかれるのはオーストラリアだけじゃないですよ、アメリカもヨーロッパも半分もってかれます。
シンガポールは税金安いので、そういう人がいっぱいいますが、それ「だけ」ではずっと住む理由にはならないですねー やっぱりその国が好きじゃないとずっとは住めない。
そうやって出て行くオーストラリア人も数年後は「やっぱりオーストラリアがいい」と言って帰る人多いです。
>JA1さん
>寮の同じユニットのタイ人にその事について聞いたら「英語の授業は全て英語でやるからじゃないかな。」と言ってました。
こちら(↓)に書いてますが、
http://www.ladolcevita.jp/blog/global/2009/02/post-128.php
私は数学と理科と世界史と世界地理の授業を英語でやればいいんじゃないかと思ってます、英語という科目を勉強の対象にすることはないんじゃないかと(もちろん学問としての英語が好きな人はやればいいですが)。
>インド人は「ほんの一握りのローカルの仕業だよ。ここは外国、僕らは外人、僕らの国ではない。夜道の一人歩きを気をつけたり、怪しい連中に話しかれられても無視すれば安全だよ。」と言ってた
場所はどちらですか? 都市や地域によってだいぶ違うと思いますよ。 ヨーロッパにもアメリカにも、もちろん日本にも外国人排斥的な動きはどこでもありますからねー。
July 27th, 2009 at 9:54 am
少し 話の趣旨からは外れるかもしれませんが・・・メルボルン在住なのですが、オーストラリアは地元意識が強い人が多い気がしますね。 海外だけでなく 国内でも 自分の生まれ育った町から 離れられない人が結構います。
以前主人の会社で ブリスベンから メルボルンに転勤になった人が 奥さんが メルボルンには馴染めないので ブリスベンに戻る為に 会社を辞めたことがありました。 逆に メルボルンからシドニーに移った家族が ホームシックのため 数年で戻ってきた等、他にも似たような話を何度か聞いた事もあり、 若いうちは海外で過ごしても ある程度落ち着いたら 戻ってくるという オーストラリア人の習性は とても 納得できますね。
July 27th, 2009 at 6:59 pm
>場所はどちらですか? 都市や地域によってだいぶ違うと思いますよ。
よく地域、都市で区分けする人が居ますけど(例えばイギリスだったらバーミンガムやマンチャスターの何処何処の地域は危ないとか)、私はそれよりも、少数の可笑しな人がたまたま何処かの地域に居て外国人を
ぶん殴ったり、いきなり生卵を投げつけたりしていることが多発していることに注視しています。何か社会的背景があるのだろうか、と。シドニー、クイーンズランド、ウーロンゴン他(今まで新聞やこちらの学生の伝聞だけで)。全ての新聞記事をチェックしている訳ではないですし、当局の犯罪に関する統計(取っているのならの話しですが)も見たことがありませんが、何処でも起きうる訳です。「まさか、こんな閑静な住宅地で…」とかありますからね。犯罪多発地域については、それは不用意に近づく方もどうかしているとしか言えませんよね、当然のことながら。ただ、政府が動き出すほどの事が起きているという事実は見逃せません。特定の地域に限った問題では決して無いです。
日本で特定の地域の日本人がオーストラリア人をターゲットに暴力振るったり、卵を投げつける事件が連続的に多発したというのは聞きません…よね?
こちらでは外国人が永住権を取得するために真面目にレストランで働いていても、雇い主が規定の労働時間をカウントしていなかったり、規定の給与を支払わないという問題も起きています(日本の外国人研修生問題と同じように)。イギリスや数年前の日本で問題になった、充分な授業を提供しない教育機関の問題も起きています。
>私は数学と理科と世界史と世界地理の授業を英語でやればいいんじゃないかと思ってます
興味深いですねぇ。大学で英語での授業というのはどうでしょう。
July 28th, 2009 at 9:19 am
>ゴーダチーズさん
>オーストラリアは地元意識が強い人が多い気がしますね。
首都をシドニーにするかメルボルンにするかで全然決められないから、何もないとこ(= キャンベラ)にしたってくらいなので筋金入りですよね。
夫の地元がメルボルンですが、メルボニアンはメルボルンに愛着を持つのは当然として自分の生まれたneighborhoodへの愛着がすごく生活はそことCityだけで完結するので、違うsuburbには行ったこともない人が多いようです・・・
世界からこんなに遠く離れちゃうとそんなに閉鎖された思考になるのかな?と思いつつ、海外にいるオーストラリア人はそんな対抗意識も薄れてマイルドになっていってますね。