古い家を改修しながら住み続けるということ – 2

昨日の続き。
建築物の敷地・設備・構造・用途など基準を定めた建築基準法は時代の要請に応じ変わっていくものです。 私たちの家(→『築120年の家を買いました。』『工事が始まりました。』)のように120年も前に建てられた家(+1970年代の増築付き)を増改築する際には現代の建築基準に照らし合わせ直さなければなりません。
WSJに『サムライが住みそうな伝統的日本家屋を改装した米国人モーアさん』という面白い記事がありました。 記事中に

1450万円で買った家の修復に2000万円以上費やしている

とありますが、よくあることですね・・・ こちらでも私の家のように内装がシンプルな家でも古い家(ヴィクトリア時代)の改築は新築の3 – 5割は余計にかかると言われていますし(時間も)、登録建造物(Listed Building)や保存地区(Conservation Area)ならもっとかかります。 イギリス人は「古い建物にこそ価値がある」と考えるので、手を入れたら入れただけ家の価値が上がるという経済合理性があるからこそする人が多いのですが(→『The Restoration Man』)。

我が家でもいろいろありました。 写真でご紹介します(写真をクリックすると拡大します)。

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工事が始まる前に家の敷地内で下水管の位置や栓が確認できず、Thames Water(公共の下水道を管理する水道局)に聞いても地図上で下水道管が途中で切れていて確認できず(すべてが古いこの国ではよくあること)、「最悪、家の下に埋まってるんだね」と言われていましたが、その「最悪」が当たりました。
(左) 「あったよ、下水管」とビルダー(施工業者)が指している。 見事に隣の家(見えている壁は隣の家)は下水管の上に建ってるし・・・
(中) 1970年代に建てられた増築部分(この写真のキッチンがあったところ)が下水管の上に建っているので解体(家の敷地内に下水道の栓がないのは現代では違法。 誤ってトイレに物を流してしまってもアクセスしようがない)。 ついでに基礎部分のコンクリートの厚みが建築基準に合わないのでこれもやり直し。
(右) コンクリート壊して土が剥き出しになり、ヴィクトリア時代の下水道(粘土製)があらわになったところ(2階から庭方面を見たところ)。 この粘土製の下水道はテラスハウス(長屋)の後ろを流れ共有であるため数十軒からブツが流れてくるもの。 常時使用中のこの下水管を割らないように切り、新しい管を差し込むという技を数秒でやってのける。 さらに現代では敷地内の下水道栓は家の外(つまり庭)に置かなければならないため、庭まで掘るはめに。
・・・というわけで、最初の2週間は掘ってばかりいました。 この「最悪」なケースが発見されただけで100万円は余分に飛んでいきました(涙)。
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(左) イギリスの家はレンガ造りだが、改築の際には強度を補強するため(今後さらに数百年はもつように)、鉄筋をガンガン入れる。 これは一番大きい屋台骨となる鉄筋を入れたところ(庭側から元の家を見たところ)。 前部はようやく上下水道の配管が終わりきれいな更地に。
(中) 増築する部分の基礎工事。 セメントを流し込んでいるところ。
(右) 鉄筋を製造する現場に連れていってもらった。 サイズを注文すると2時間ほどで出来上がり。
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他にも古い家ならではの発見はたくさんあります。
(左) 2階の外壁を壊したところ。 「モルタルが劣化していてボロボロ、交互に重なるように積むレンガ積みの構造だけで建ってる」と言われる。 この国に地震がきたら一瞬で廃墟と化すなー、と背中が寒くなる。
(中) 嫌な発見ばかりではない。 壁を剥がすと昔の壁紙(ピンクの花柄)が出てくるなど楽しい発見も(楽しい発見はほとんどないが)。
(右) レンガ積みの強度が鉄筋を支えるに不十分だったため、2階でビルダーがレンガを積み直しているところ。 これでまた数万円飛んだ(涙)。
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(左) ようやく増築部分のレンガ積みが始まる楽しいステージに。
(中) それでも家の中では天井の梁が劣化しているのでやり直し、と言われる。 ああ、また数万円〜
(右) 2階から見た増築部分。 新しいところにはがんがん鉄筋が入る。 こんなに複雑に鉄筋が入っているのは、隣家の日照権の規制があるため2階増築部が複雑な形状をしているため。 ここでも数十万円・・・

他にも山のようにありますが、このへんで。
これが古い家に住み続けるために住人が払っているコストです。 何度も書いているようにイギリスの場合、新しい家に住むという選択肢が極めて限られているのですが、すべて「数百年の景観を守るため」という不屈の情熱と精神に基づいています。

ここまでコストを支払う価値があるのか?については、都市計画という観点からはあると感じます。 世界中、これほどまで移動が自由になった時代はありませんが、「都市としての顔」、魅力度を高めないと都市として生き残れないから(→『「そこにしかないもの」』)。

そんなイギリスも新しいものが持てはやされ、古いものが次々に壊された時期があります、1960 – 70年代です。 安価で大量の住宅供給が必要とされたためです。 が、今では、(私の家の1970年代の増築部もそうですが)この時代に建てられたものは大量生産でとにかく質が低いと忌み嫌われています。 特に人体に有害のアスベストが発見されると改築コストは軽く2倍になるそうです。

日本で最近若い人を中心に中古住宅をリノベーションすることが人気だという記事を読みますが、「もういい加減、そういうの(戦後の大量住宅供給を背景とした新築信仰)やめようぜ」と言うことだと思うので、早く行政側が追いつけばいいですね。


5 responses to “古い家を改修しながら住み続けるということ – 2

  • オレンジ

    お久しぶりです。オレンジです。覚えていますか?
    家は大変でしたね。イギリスでは古い家が重宝されるんですね。初めて知りました。
    ところで、葉子さんはサイマルアカデミーに2年間通ったそうですが、やっぱりそれくらいしないと、英語は習得できないものでしょうか?僕も4月からサイマルアカデミーに通おうと思っているので、教えていただけないでしょうか?

  • オレンジ

    ちょっと曖昧な部分がありましたね。すみません。それくないしないとっていうのは、それくらいの期間英語の勉強しないとという意味です。

    • la dolce vita

      期間については人それぞれだと思いますが、語学の習得は、あるレベルまではぐいっと一気に上れてしばらく停滞期がきて、またぐいっと上がって、といったイメージなので、若いうちに集中的に勉強してある程度のレベルまで一気に上げておかないと、同じところを低迷するかずるずる落ちてしまうと思います。

  • オレンジ

    お勧めの本2冊買いました。でも、熊谷さんの本は渡辺さんの本になるってましたよ。これでちゃんと葉子さんの方に振込まれるのですかね?届くの楽しみです。

  • オレンジ

    お返事ありがとうございます!まさか、返事をもらえると思ってなかったので、とても嬉しいです。語学の上級の人ってそんな感じなんですね。とにかく通ってみます。語学上達するといいな。

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