21世紀の英国デザイン

前回のエントリーではクリエイティブ産業が英国経済の柱に育ったことを紹介しましたが、今回は現代のクリエイティブ産業を率いるスター達の話。
『ロンドンのデザイン・エコシステム』というエントリーで、あるThe New York Timesの記事冒頭を引用しました。

悪いな、ミラノ・東京。 残念だったね、ストックホルム・パリ。 アインドホーベン・ベルリン・バルセロナ・・・そして特にニューヨークよ、許しておくれ。
だけどロンドンこそが世界のデザインの首都だ。

ところで、「デザインの首都」とまで言われる英国デザインのイメージってこんな感じじゃないでしょうか?
British design in 20C
このイメージは20世紀のもの、時代遅れです。 私はこういうロンドンが好きだった口ですが、21世紀に海外で稼ぎまくっている英国デザインはこういうの。

British design in 21C
一見するとイギリスっぽくないですが、以下、それぞれのクリエイターの名前・出身地と渡英時期・理由を記しました。
上段左から。
安積伸さん安積朋子さんのデザインユニットAZUMI。 1994年に英国王立美術大学(RCA)修士課程を修了後、ロンドンを拠点に活躍(現在はユニット解消し、個別に事務所経営)。
② イスラエル出身の工業デザイナー・建築家Ron Arad。 1974年AAスクール(Architectural Association)卒業後、建築・デザイン事務所設立。
③ チュニジア出身のプロダクトデザイナーTom Dixon。 幼少期に渡英、独学でデザインを学ぶ。
下段左から。
④ イラク出身の建築家Zaha Hadid。 1977年AAスクール卒業後、設計会社勤務を経て独立。
⑤ スペイン出身のインテリアデザイナーEduardo Cardenes。 スペインで建築を学んだ後、ロンドンにデザイン事務所設立。
全員、イギリス国外出身、渡英理由は留学が多いですね。 世界最高峰のデザイン・アート・建築の教育機関を備えて世界各地から金の卵を集め、卒業後は滞在ビザを与え、若いデザイナーのための賞や展示会で登竜門となる機会が豊富にあり、メーカーやブランドは次のアレキサンダー・マックイーン(注1)を青田刈りしようと目を光らせ、若い才能を大胆に抜擢し、世界市場にアクセスさせる。
注1:言わずとしれたファッションデザインの奇才、セントラル・セント・マーチンズの卒業展で雑誌VOGUEエディターの目に留まったのがデビューのきっかけ。
まさに「ノーベル賞、4人に1人が移民」のアメリカと同じ、「自前で育てなくても外から集めればいいじゃん」方式です。 ただ「ウィンブルドン」と違うのは、きちんとイギリス人デザイナーも育って大活躍している点です。

次世代のザハ・ハディドは「セックスピストルズが好きだから」ではなく、自国にいては掴めないオポテュニティーを求めてイギリス(ほとんどがロンドン)にやってきます。 実家の親に「あんた、いい年してそんなことしてずに早く公務員とでも結婚しなさい」とか言われず、志を同じくする同志と切磋琢磨しながら思う存分、道を追求できるからやってくるのです。 雇う側も世界中の市場が対象なので、外国からやってくる人材は市場・クライアントとつないでくれる貴重な存在なのです。
次のFinancial Timesの記事「ロンドンはいかにして世界のデザインスタジオになったか」は安積伸さん(神戸出身、京都市立芸術大学デザイン科卒、NECデザインセンター勤務後、留学のため渡英)が「日本にいると機会が限られるから」と語るところから始まります。
Financial Times: How London became a global design studio
日本ではすぐに「いや、AZUMIは英国デザインじゃなくて日本人だろ」と民族性に焦点が当たるのですが、イギリス人は実利的、『ロンドン名物2階建てバスが外資経営でも誰も気にしてない』に書いたように雇用を生んでくれれば何人だっていいのです。

日本で経済政策として「クールジャパン」と言われ出してから久しく経ちます。 ところが、イギリスでも1990年代に”Cool Britannia”(クール・ブリタニア)と言われていて、21世紀に入ってからは「あんなこと言っちゃって恥ずかしい言葉」扱いをされているのはご存知でしょうか?
それは、近年の英国デザインの魅力である多様な才能を発掘・インキュベートし成功へと導くエコシステムが「ブリタニア」という一地域(に付随する文化)を指して「クール」と言ってしまう陳腐さとが合わなくなったからです。 まあ確かに「クール・ブリタニア」という言葉がユニオンジャックのドレスを着たスパイス・ガールズ(→こちら)を連想させるのであれば恥ずかしくなるのはわからなくもないですが。

テクノロジーにおけるシリコンバレーがデザインにおけるロンドン。
「クールジャパン」が何か違うなー、と思うのは出発点が「日本ブーム創り」(= 私を見て、私を好きになって)だからです(経済産業省:「クールジャパン政策について」)。 
人間は自分にとってベネフィット(例:最高峰の教育が受けられる、刺激的な環境がある、魅力的な人が集まる、大きな市場がある)があるから集まるのです。 もっと集まってもらえるようなベネフィットを提供しないとね。


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