日英リノベーション業界比較

最近立て続けに友人がFacebookでリノベーションに触れていたので、日本のリノベーション現状についてリサーチしてみました。 私は日本にいた時は居住目的で不動産購入を考えたことがなく、イギリスに来てから建築インテリアデザインに目覚めたので、日本よりイギリスの状況の方をよく知っています。

イギリスはリノベーション大国ですが(注1)、だいぶ日本と前提条件、環境が違うのだということがわかりました。 また、欧米で言うところの’interior designer’(インテリアデザイナー)という職業は日本にはほとんど存在しないため、合わせてまとめておきます。
注1:英語では’renovation’や’reform’という言葉を日本と同じような用法で使いません。 ’refurbishment’、’remodeling’、’modernisation’、’updating’など内容に応じていろいろな言葉が使われますが、ここでは日本語で伝わるようにリノベーションという言葉を使っています。

1. 新築志向の日本と中古が基本の英国
ヨーロッパに旅行すると築数百年の建物からなる街並が続き、まるでタイムスリップしたような感覚になります。 逆にヨーロッパ人が東京に行くと「未来都市だ!」と感嘆します。 『あなただけの家 – 1』に書いたように、イギリスは全住宅流通量(既存流通+新規着工)に対する既存住宅(中古物件)のシェアは日本が13.5%に対し、イギリスは88.8%です(アメリカ77.6%、フランス66.4%。 国土交通省『中古住宅流通、リフォーム市場の現状』より)。 つまり、9割が中古(中古が常識なので「家を買った」と言えば中古のこと。 新築は’new-build’と言います)。
建物の外観は公共に属するものなので、建物の中を現代の生活様式に合うように変えたり(’modernise’や’update’)、改築(’conversion’)や増築(’extension’)を行って自分たちのニーズに合った空間にするのが一般的です。 リフォーム市場(改築・増築など大掛かりな工事から水回りのリフォームなど小さなもの含めてこう呼びます)の規模は大きく、住宅投資に占めるリフォーム市場の割合は日本の27.3%に比べ、イギリスでは54.5%にのぼります(2007年、上記国交省資料より)。

2. ワンストップショップの日本と完全オーダーメイドの英国
日本でもイギリスでも住宅・マンションのリノベーションには工事業者が必要ですが、ここで全く異なるのが業者の種類です。 日本は長い間、新築志向だったこともあり、新築住宅を扱う工事業者(地域の工務店・大手ディベロッパーなど)がリノベーションも行うことが多いようです。 最近はリノベーション専門の業者も増えているようですが(リビタリノベるなど)、いずれにしてもディベロッパーが中心です。

イギリスでは住宅の改築・増築を頼むのは’Builder’(ビルダー)と呼ぶのですが、彼らの多くは自営の零細業者(社員は自分1人か奥さんと2人)。 基本的に住宅の工事というのは専門業者(大工・電気・配管・屋根工事・内装など)をチームとしてマネージするプロジェクトマネジメントなので、何らか専門知識を持ちその道の経験を何十年と積んで元請けビルダーになった「おじさん」個人に頼みます(女性のビルダーは聞いたことがありません)。 『ストック先進国イギリスから学ぶストックビジネスの難しさ』というブリストル近辺のリフォーム市場の調査によるとビルダー(元請け)の従業員は2人が37%、1人が29%でほとんどが自営業者とのこと。

この業者の違いは何を意味するのでしょうか?
住宅リノベーションには、上記の工事関係の各種専門業者以外に建築家・インテリアデザイナー・照明デザイナー・設計者・構造計算エンジニア・建築/インテリア材のメーカー(ディーラー)など何十人もの各種専門家が必要です。 イギリスでは更に場合によっては工事の前に改築・増築に役所の許可(Planning application)、隣家との書面での合意(Party Wall agreement)、工事が始まってから建築基準法を満たしているか役所のチェック・承認(Building Control inspection, approval)が必要です。 日本ではディベロッパーが窓口となりワンストップショップ型で全て取り仕切ってくれます。 イギリスでは素人である個人がこれら専門事項にひとつずつ対処する必要があります。

それぞれに一長一短ですが、ワンストップ型の利点は窓口がひとつで煩雑にならないこと・工期が短いこと、欠点はディベロッパーに経済合理性がないことはできないこと – つまりデザイン・素材などのオプションの幅が狭いため画一的なできあがりになりがちなこと。 完全オーダーメイド型の利点は自分のこだわり通りにできること、欠点は素人がやるためトラブルが多いこと・工期が長いこと。

そこで全てを理解したリードコンサルタントが雇われます、それが建築家やインテリアデザイナーです(注2)。
注2:予算の関係で多くの人は自分でやるので、工事期間も含めたリードコンサルタントを雇うのはざっくり1億円以上の家でしょうか(もちろん個人の判断なのでケースバイケース)。 建築家を雇うかインテリアデザイナーを雇うか(もしくは両方か)はリノベーションの種類と予算、クライアントの志向(嗜好)によります。 インテリアデザイナーがデザインする範囲は建築家より細部に渡るので予算が大きいプロジェクトでないと経済合理性はありませんが、小さくてもインテリアにこだわりたいという人もいます。

3. インハウスデザイナーの日本と独立デザイナーの英国
日本では上記の通りディベロッパー中心の市場なのでデザイナーのキャリアとしてはインハウスを目指すことが多くなります。 一方、イギリスではデザイナーの成功は独立してデザイン事務所を構えること。 そのためには建築デザイン・プロジェクト運営・アートやアンティークを含めた審美眼・人間工学・建材/インテリア材の知識を駆使し、独自の世界観を表現するという職業で、一般に認知されている「カーテンの生地を選ぶ」レベルとは全く異なります。 必要とされる知識・技能の範囲が広いので、違う分野からのキャリアチェンジ組が大半を占めるのも特徴です。

2012年3月に国交省が「中古住宅・リフォームトータルプラン」を発表しました(→こちら)。 その中に、「2020年までに中古住宅流通とリノベーション市場を20兆円に倍増する」という、具体的な数値目標が盛り込まれているので、さまざまな施策が打たれるのでしょう。 数値目標も重要ですが、「人々の住環境を豊かにする」「変わる住環境ニーズに応える」「文化遺産でもあるすでにあるストックを活かす」という目的に近づくために、すでにリノベーションがスタンダードであるイギリスの例を紹介しました。

もっといろいろありますが、長くなったのでこのへんで。


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