変わる・変わる・ロンドン

ロンドンに住んで面白いなー、と思ったのが”gentrification”という言葉(動詞はgentrify)。 イギリスだけじゃなくアメリカにもあると思うけど、日本ではあまり聞いたことがない概念のような気がします。

gentrification・・・高級化、中産階級化。 劣悪化している区域に中流階級あるいは裕福な階級の人口が流入していくのを伴った区域再開発・再建プロジェクトのことで、通常それまでの貧困層の住民が住む場所を失う(アルクより)

田舎が都市化するのはgentrificationとは呼ばず、あくまで都市中心部の荒れた地域が中産階級が好んで住む住宅街に変わるプロセスを指します。
以下、過去15年くらいにgentrificationを経た、代表的なエリア。
Notting Hill・・・1999年公開された映画『ノッティングヒルの恋人』(大好きなラブコメ!)で一躍世界的に有名になった街。 90年代以前はカウンシル・フラット(→『家探しでわかる都市政策』)が立ち並び、カリビアン系黒人が多く住む地域だった(有名なカーニバルはその頃からの伝統)。 大規模なgentrificationの結果、今では有数の高級住宅街に。 ポートベロー・マーケットも私が学生時代好きだった頃のエッジーな面影はなくなり、週末は観光客で溢れ返って歩くこともままならない昨今。


Clerkenwell・・・伝統的に出版・印刷業界があったこのエリアも70年代には不況の影響を受け荒廃していた。 80年代以降gentrificationが進み、以前のインダストリアルな建物はロフト物件として再生。 現在はクリエイティブ系のオフィスやデザイン・ショールーム、おシャレなインディペンデント系ショップやカフェが並ぶヒップな界隈。 毎年5月恒例となった“Clerkenwell Design Week”はロンドンを代表するデザイン・フェスティバルとなった。
Islington・・・お隣のAngelと並ぶロンドン北部の地区、『アバウト・ア・ボーイ』(2002年、またしてもヒュー・グラント!)の主人公ヤッピーが住むシックなアパートはここが舞台。 ノッティングヒルと同様、アンティーク・マーケットが有名。 現在はチェーン店も進出し尽くし、高級住宅街に。
graffiti_shoreditch.jpgここまでがgentrificationも完了した地域で、ここからが今もアツいエリア。
Shoreditch・・・お隣のHoxtonと並び、セレクトショップ・ギャラリー・古着屋・ストリートマーケットなどがひしめく旬のEast End。 絶えずデザイン系学生の卒業制作発表などイベントも行われている。 まだ荒れたままのビル・壁のグラフィティも多く(*1)、本気でオシャレした(50sスタイルのコスチュームなど)若者が闊歩し、活気が溢れまだまだエッジーな雰囲気が残る。 私たちもよく出没する。
*1・・・右の写真はShoreditch近くのアパートの壁に描かれたグラフィティ。 上の階の人がおしっこし、下の階の人の傘に・・・
Dalston・・・Shoreditchより北のさらにディープなDalstonが最近とみに注目されているトレンディ・エリア。 ここはまだ発展途上、カフェやショップも手作り感溢れるところが多いし、コミュニティで屋上に農園をつくったり実験的な試みが行われている。 今年8月号のFIGAROロンドン特集には出てた。 早い、FIGARO!
*2・・・右下はDalston Eastern Curve Garden横のグラフィティ。 ここまでくるとアートですねー。
そして次にくると言われているのが、さらに東のオリンピックのメイン会場が行われる再開発エリア。 2ヵ月ほど前ですが、Open City Londonという建築家団体が開催しているツアー“East End and the Olympic Transformation”に参加してきました。
graffiti_dalston.jpg
現役建築家がガイドを務めるこのツアーは本当にお勧め。 都市計画がどうやって作られ、荒れた地域がどうやって再生するのか、行政の果たす役割は、民間は、などガイドを質問攻めにすると驚くほど多くの知見が得られます。
個人的には、こんなにシティに近いロケーションにこんなに巨大な開発余地のある場所が残っていたことにまず驚いた。 とにかくデカい! そして、この地域はロンドンでももっとも治安が悪い地域だったのだが(gentrificationの定義の性質上「かつては治安が悪かった」というのは枕詞です)、たしかに生まれ変わろうとしていて、アジアのように二桁成長が望めない都市でもこんなにダイナミックに変わろうとしていることにもビックリ。
ロンドンのgentrificationの重要なポイントはほぼ必ず、
まずアーティストやクリエイターたちが安い家賃と広いスペースを求めて移り住む → 彼らがクリエイティブで先進的なエリアの雰囲気をつくり出す → オシャレな雰囲気に憧れてヤッピーたちが移り住む → 家賃がつり上がる → 治安や行政サービスが改善する → ミドルクラスの町になりファミリーが移り住む
という過程をたどること。 元の住人であるワーキングクラスの人たちやアーティストやクリエイターたちは家賃が上がると住めなくなり他のエリアを求めて出ていくのですが・・・(持ち家があるとProperty Ladderを上れます→『Property Ladderを昇る人々』)。

「中心都市」に「クリエイター階級」が集まる

と言ったのはジャック・アタリでしたが(→『未来の歴史とノマドの時代』)、中心都市の中でもアーティストやクリエイターたちを追ってくるくると中心エリアは移り変わっているのです。
私たちは「治安」とか「公立学校の質」とかおおよそクリエイターらしくない条件が家探しのクライテリアなので、up and comingなエリアに住めないのが、いやはや残念。


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