シンガポール大学生の人気業界

先週のThe Straits Timesにシンガポールの大学生の就職志望業界ランキングが載っていました。
シンガポールという国をよく現している気がします。

1. 銀行・金融
2. 政府・公務員
3. 航空・旅行
4. エンジニアリング
5. 監査・会計・税務

不況はほとんどこの順位に影響を与えていないそう(また、A-levelと呼ばれる成績上位の学生によるランキングも上記と同じ)。
金融がトップにくるのは、アジアの金融センターとしてあらゆる金融機関(銀行・保険・ファンド)が集まり仕事の数自体が多いことと、給料が多いことの相乗効果。
政府が2位にくるのは、シンガポールのトップレベルの学生は政府が青田狩りをすること(後述)、給与レベルも高く若手の抜擢もありやりがいもある(らしい)こと。
あらゆる多国籍企業のアジア・太平洋本社が集まるハブなのですが、「業界」というくくりでは目立ったものがないので、上記のような結果になるのかー
比較として、リクルートが毎年発表する日本の大学生就職志望企業ランキング(志望業界ランキングがないので)。(NIKKEI NETより)

1. JR東海
2. JR東日本
3. 全日本空輸(ANA)
4. みずほFG
5. 三菱UFJ信託銀行
6. 三菱東京UFJ銀行
7. 東京海上日動火災保険
8. NTT DoCoMo
9. 三井住友銀行
10. ベネッセコーポレーション

今は旅客運輸と金融が人気があるようですね。


続いて、シンガポールの高校生の志望学部分野ランキング。

1. 経営(Business Administration)
2. 工学(Engineering)
3. 会計(Accounting)
4. 経済(Economics)
5. 理学(Sciences)

リー・シェンロン首相が「国の教育の目的は国際競争力のある国民を育てること」と何かのインタビューに答えていましたが、まさに実践的な知識・スキル取得志向が強く、首相がデザインする通りになっているのがすごい。
ただ、『「中国人・インド人は起業家魂がある」の嘘』というエントリーに書きましたが、世界中の企業が「雇用しやすい」スキルのある人材を育てることを教育の目標にしていると、イノベーションやEntrepreneurship(起業家魂)が生まれません。 これからは、この点がシンガポールの最大の問題となってくるでしょう。
また、The Straits Timesの記事で面白かったのが、成績が良い高校生の間で海外の大学を志望する生徒が減少し、シンガポール国内の大学を志望する人が増えているという点。
『個人が国家を選ぶ時代』に書きましたが、トップ数%の成績の高校生は政府から海外の大学に留学するためのフル・スカラシップ(奨学金)が出ます。 準トップ数%にはGLCと呼ばれる政府系企業から奨学金が出ます。 この制度を利用して、欧米トップ大学に留学した学生は帰国後、7年間、シンガポール政府機関(もしくは政府系企業)に勤める義務があります。
これが前述の青田狩りであり、優秀な生徒を政府機関や政府系企業に囲い込むパイプとなっているのですが、「奨学金義務に縛られたくない」、「シンガポールの大学も欧米トップ大学と遜色ないレベルになってきた(*1)」という2つの理由からシンガポール国内の大学を志望する人が増えている、という解説がされていました。
*1・・・National University of Singapore(シンガポール国立大学)はQSグローバル大学ランキングでは30位。
本来あるべき姿なんだろうなー、こっちの方が。


6 responses to “シンガポール大学生の人気業界

  • NTU-W2010

    渡辺千賀さまの所からさまよってきて、以前から拝読しておりました。今年(といいますか来月から)、NTUのMBAに進学予定のものです。NTUに決めたのは、
    1. 日本以外のパスポートが欲しい。NTU MBA卒の日本国籍だと卒業と同時に送りつけられる噂もあり。
    2. 欧米よりアジアの方が成長シアターだし、日本人も溶け込みやすい。アジアビジネス興味あり。
    3. 早稲田とのダブルディグリープログラムで保険効果も期待できるし、最近NTUのMBA自身がFT等で高評価
    4. 学費が安価。生活費も寮完備で安価。シンガポールなら食事もずっと口に合う!
    などなどです。
    MBAなのでシンガポール人が圧倒的マジョリティではなく、クラスメートにもまだ会っていないことから本記事の雰囲気は伝わってこないのですが、学生⇒政府機関での進路の逆として、現在政府機関に勤務している方がNTU MBAに国費派遣で来ているという話を聞きます。
    卒業後進路はいわゆるMBA生好みの業界を希望していますが、ジョブマーケットの停滞と、シンガポールだとINSEAD生が全部かっさらって行きそうで、今から戦々恐々です。(笑)
    今後ともよろしくお願いいたします。

  • わっきー

    たしかに。
    妙に最後のヒトコト「本来あるべき姿はこっちなんだろうなー」がしっくりです。
    うまくいえませんが、国内大学に進学or海外に留学という傾向も含めて、
    意外と若い人の方が、「シンガポールという国にすむシンガポール人」なんですよね。
    ある意味保守的ともいえるほど・・・。
    常に外側から入ってきた華僑なりインド人なりが、あくまでシンガポールを「通じて」何かを営んでいたのが、
    (だから別に勉強するために外に行くくらい、或いは外でステータスを得るくらいなんでもなかった)
    いつのまにか、華僑もインド系もシンガポール人という意識になり、共同体の中で心地よく生きられるようになって、
    シンガポールという企業が、シンガポールという国家になりつつあるよーな。
    まー大前提として、小さい国なんで、外と関わらずには生きていけないし、
    どーなるのかな、この国は、と傍観してます。

  • Tanner from Texas

    はじめまして。いつも楽しく拝見しております。
    『国家は成熟すると内向きになる』というエントリーをどこかのブログで読みましたが(そこでは日本のことを言及していたのですが)。
    シンガポールも、そのような傾向が出始めているということなのでしょうか?
    将来の移住先として、シンガポールやマレーシアを考えているので、これからも興味深いシンガポール情報を楽しみにしております。

  • la dolce vita

    >NTU-W2010さん
    コメントありがとうございます! 来月からですか、楽しみですね!
    >日本以外のパスポートが欲しい。
    パスポート(= 市民権)ではなく、永住権では? シンガポールも日本も二重国籍を認めていないので、シンガポール市民権を取得したら、日本の国籍を離脱するはめになります・・・。
    永住権は、比較的簡単に取れます(INSEADもシンガポールキャンパスを卒業したら取れるし、シンガポールキャンパスを卒業した夫と結婚した私もすぐ取れました)。
    >ジョブマーケットの停滞と、シンガポールだとINSEAD生が全部かっさらって行きそうで、今から戦々恐々です。(笑)
    日本人はどこの国でも売れ筋ではないので(↓)、ポジショニングが難しいですが、
    http://www.ladolcevita.jp/blog/global/2009/04/post-171.php
    永住権が取れると国を追い出される心配がないので、じっくり探せば何か見つかりますよ。
    ぜひ入ったら、生情報教えてください〜♪
    >わっきーさん
    >いつのまにか、華僑もインド系もシンガポール人という意識になり、共同体の中で心地よく生きられるようになって、シンガポールという企業が、シンガポールという国家になりつつあるよーな。
    若い国なので、「国民というアイデンティティがどうやって形成されていくのか?」を間近に見ることができて興味深いですよね。 個人的にはNational Dayの熱狂ぶりも興味深いです(ちょっと気味も悪いけど)。
    >Tanner from Texasさん
    >『国家は成熟すると内向きになる』というエントリーをどこかのブログで読みましたが、シンガポールも、そのような傾向が出始めているということなのでしょうか?
    そのような傾向はどこの国でもあると思いますが、シンガポールは小さな国なので国家創設の初期から内向きでは生きていけないと気づいていて、一環して外向きの政策を取ってますね。
    今回の大学の話は、今まで外にしか「良い大学」の選択肢がなかったのが、中の大学も良くなってきた、と選択肢が増えたということで、シンガポール人にとって良いことなんだと思います。

  • NTU-W2010

    言葉足らずでかっこ悪かったので、連投します。すいません。
    送られてくるのは、ご指摘のように永住権と聞いています。(まずはシンガポール永住権を手に入れ)次にシンガポールも含めどこかの市民権狙いです。二重国籍は、摘発もほぼ不可能な上に、ペナルティが無いこともあり、以前からも日本の実質的な運用は黙認だと見ています。また、ノーベル物理学賞の南部陽一郎先生の件以来、日本では正規に改正の動きが出てきているのに期待です。市民権は徴兵などの国民の義務が生じるので、どこにするかは慎重な検討が必要ですね。日本に加え、取得先の国の状況を含め考えます。
    INSEADは前の半年にフランス、後の半年にシンガポールにいても永住権入手できるのでしょうか?だとすれば、NTU(やNUS)でも相当お手軽だと思っていましたが、最強はINSEADになりますね。確かに、INSEADを卒業する学生にシンガポール政府がインビテーションを送らないわけが無さそうです。また、シンガポールでは、特に大学院卒を経なくとも、日本国籍ならそう付加価値の高い仕事でなくても、二年ほど仕事して税金を払うと永住権が出ると聞いています。最も永住権への障壁が低い先進国ではないでしょうか。
    仕事についてリンク有難うございました。以前に拝読しておりました(la dolce vita様のブログは参考先をこまめにリンクしているのでついつい読みこんでしまいます)。色々と希望はあるのですが、日本人はグローバルに使われない現実も理解しています。なので、[(シンガポール*日本) × (MBA生好みの仕事先*元いたインダストリー)]の全組み合わせで考えています。今働いているインダストリーでのスタートアップ企業の、APACシアターや日本のカントリーマネージャー直下技術責任者とかも面白そうだなと。

  • la dolce vita

    >NTU-W2010さん
    連投歓迎ですよ!
    >二重国籍は、摘発もほぼ不可能な上に、ペナルティが無いこともあり、以前からも日本の実質的な運用は黙認だと見ています。
    そうですね、パスポート2つ持ってる人は結構いますね。 この前、パスポート2つ持ってる人の実際の使用方法について夫とブレストしてたんですが解答が見つからなかった。 例えば、A国とB国のパスポート持っててA国に入るときはA国の、B国に入るときはB国のパスポートを使うとすると、それぞれのパスポートには自国の出入国記録ばかり残って相手国のスタンプが残らないからどこ行ってんの?って疑われるんじゃないか、とか。 ぜひ実際の使用方法を聞いてみたいもんです。
    >INSEADは前の半年にフランス、後の半年にシンガポールにいても永住権入手できるのでしょうか?
    2カ月 x 5 periods(=10カ月)からなっているので、合計3 periods(= 6カ月)以上シンガポールキャンパスで過ごし、かつ最終periodをシンガポールで過ごせば、永住権申請資格があります(5年前の話)。
    >最も永住権への障壁が低い先進国ではないでしょうか。
    高学歴・高給与所得者にとってはそうでしょうね。 アメリカのように、「来るな」と言っても人が押し寄せる国もあるので、障壁低くしないと人が来ないことの裏返しでもあると思いますが(←言い過ぎ?)。
    >今働いているインダストリーでのスタートアップ企業の、APACシアターや日本のカントリーマネージャー直下技術責任者とかも面白そうだなと。
    現地来るともっと様子がわかりますよ〜。 がんばってください!

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