個人が国家を選ぶ時代

先週のエントリー『どうせ痛い思いをするなら早めにしよう』のタネとなった渡辺千賀さんのエントリーが呼んだ論議は何とYahooニュースにも出ていました。
私のエントリーははミクロに日本だけ取り上げたのでわかりにくかったような気がするので、世界の中の人の流れというマクロな視点からトライ。
以下、私の周りでよく見る事象。
1. シンガポール
シンガポールの中でトップ成績の高校生は欧米のトップ大学へ行く。 シンガポール政府の教育政策の柱は「国際競争力のある国民を育てること」なので、その政策の柱に沿って初等・中等教育を受けた学生が欧米トップ大学に行ける学力があるのは自然だし、政府もこのトップ層には奨学金を出している(企業奨学金もあり)。 私の周りもスタンフォード、オックスフォード、インペリアルカレッジ、LSE、etc. etc… 京都大学って人もいます。
ところが、このように国際競争力をつけたシンガポール人は海外にオポチュニティーを見いだして帰ってこないことがある。 それでは投資損なので、奨学金には卒業したらシンガポール政府機関で7年働くことなどの条件がついている場合が多い。
自国で人材を育てているだけでは間に合わないので、世界中から頭脳を誘致していることは『頭脳流出→還流』『絶滅寸前? 駐在員手当』に書きました。


2. アジア ⇆ ヨーロッパ
「ヨーロッパはもう終わった、これからはアジアの時代だ」といってシンガポールに来るヨーロッパ人はうじゃうじゃいます。 そこまで行かなくても「やっぱりアジアは1回見ておかないとねー」と「とりあえず3年」来る人はもっといる。 週末もそう言ってロンドンから引っ越してくるイギリス人とフランス人のカップルとランチをしました(「私はシンガポール大使か?!」ってくらい友達から「ちょっと今度シンガポールに引っ越す友達がいるから会っていろいろ教えてあげて」と頼まれることが多い、月2回はある、のですが、それだけ人の移動が多い国だってことなんでしょう・・・ あ、もちろんウェルカムです)。
一方、高度教育・治安・住環境を求めて先進国に引っ越すアジア人はさらに多い。 インド人がロンドン郊外の閑静な住宅地で子供を育てる一方、イギリス人が大きな成長可能性を秘めたインド流通市場に切り込む、なんてのが当たり前になった世界。
これに類することは、西欧 ⇄ 東欧、北米 ⇄ 南米、あらゆるところで起っています。
個人の趣味・志向に合わせて世界中から自分に合った場所に自ら移動していく時代になって面白いな、という話は『シリコンバレー向きでない人にとっての天国』という話に書きましたが、グローバリゼーションが進み、ある程度仕事のやり方が世界共通になってきたことによる自然な姿であり(居住・移転の自由は日本国憲法にもある人間の基本的人権であり本質的欲求)、「日本を見捨てる気か?」と大げさに騒ぐことでもない気が。
渡辺千賀さんがフォローアップエントリーに書いているとおり、 

いずれにせよどこの国も飛行機でひとっとび、Skypeでただで話せる昨今、「永住」とか「移住」という表現は、なんか実態に合わない感じが。実感的には「引越し」くらいの感じですが。

引っ越しです、引っ越し。 私もシンガポール永住権取ってますが、これは”Permanent Resident”という元々の行政用語の直訳で永住する気はないし、たまたま夫が住んでたので「じゃあ、私が引っ越しましょうか(あなたが東京来ても仕事ないし)」くらいの感覚です。
このグローバリゼーションの動きと、たまたま日本の長期衰退期(停滞期でもいいけど)が一致しただけで、他の先進国(というのはヨーロッパのことだが)でも起ってると思います。 個人が国家を選べる時代になってきたという非常に喜ばしい事態だと私は思っています(国家側から見ると選んでもらうために必死である、シンガポール政府なんてよくよくわかっていて必死です)。
じゃあ、住みたいところに住むにはどうしたらいいの?ってことで、「ある程度仕事のやり方が世界共通になってきた」とはいえ、日本の中では磨きにくいので、留学して実際、海外で仕事を始めてみるのがもっとも手っ取り早い方法ですよ、とようやくミクロの実現方法に話は戻ってくるのでした。
週末会ったイギリス人はお医者さんなのですが、シンガポールで医療業務に従事するためにはシンガポール国立のポリテクニックで1年働くことが条件で、そのポリテクニックで働くのは半分以上が外国人、10%がイギリス人だそうな。 なかなか興味深いお話でした。
下は直感的な示唆を与えるグラフ(社会実情データ図録より)。
大卒以上のそれぞれの国への流入比率が真ん中の線から上、流出比率が下。 日本はどちらも小さすぎて見えない〜、って感じですが、上(流入比率)がより少ないですね。
global_immigrants.jpg
最後に。
以前、『「世界級ライフスタイルのススメ」ではありません』に書きましたが、ちっともこういうライフスタイルを勧めているわけではありません。 このブログは「おっ、こんなところに似たようなことを考えている人がいる!」と価値観をシェアする人が集うためのファインダーです。


2 responses to “個人が国家を選ぶ時代

  • Kei

    自由に住む場所と仕事を選べるなんて幸せだと思いますけどね〜それに反対する連中って何なのかしら?
    ただ大卒者にフォーカスばかりして分析するのもどうかと思いますが…
    日本料理ブームを受けて板さんや特殊技能をもった人(ヒヨコ鑑定士)が海外で沢山働いててそのまま現地で永住権得たり結婚して住む人も多いですしね。
    かわりどころでは自分のマイミクさんに、フランス外人部隊を満了して永住権を得た方もいます…この方の日記の内容は生々しくて面白いです(笑)。

  • la dolce vita

    >Keiさん
    >ただ大卒者にフォーカスばかりして分析するのもどうかと思いますが…
    このグラフの話でしょうか? 学歴は各国移民局がデータとして持っているので集めやすいが、特殊技能を持った人の移住人口という定性的なデータは国を越えて集めにくいのだと思います。
    日本人は料理系は多いですねー、私の友達もフランスでパティシエやってます(大卒)。 単純にデータの集めにくさの問題だと思います。

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