Samsungに見る黒船の効果と限界

そろそろ時効かな、ということで書きますが、以下の内容は非常に個人的な体験のヒアリングに基づくので、あくまで一つの例による所感ということで。
私がINSEADを卒業した2004年、韓国Samsungが熱心にキャンパスにリクルーティング(採用活動)に来ていました。 通常、キャンパスにまで来てMBAのリクルーティングを行うのは、戦略コンサルと投資銀行が主。 「インダストリー」と呼ばれるいわゆる「実業」は、L’Oreal、Johnson & JohnsonのようなFMCG(*1)業界が多かったので、Samsungのようなエレクトロニクス企業(しかもアジア企業)は異色中の異色でした。
*1 FMCG・・・Fast moving consumer goods、変化の早い日用消費材のこと。
私たちの代では、10人にオファーを出し、そのうち2人が就職しました。 ベルギー人男性Fとイタリア人女性G。 彼らの職務はソウル本社のGlobal Strategy Groupでのストラテジスト。
このSamsungの人事戦略は去年の日経エレクトロニクスに特集されていたようです。
以下、『独創的な人材の確保がグローバルな競争力の源泉に–韓国Samsung編(最終回)』より

韓国ソウル市の江南駅の近くに建てられた,韓国Samsungグループの超高層ビル群─。このビル群の一角に「未来戦略グループ(Global Strategy Group)」という極めて優秀な人たちで構成される組織がある。メンバーのほとんどが「S(Super)」クラスと呼ばれる外国人である。
世界のMBAトップ10に入る大学の出身者や博士号を持つ人ばかりで,誰もが知る世界屈指の大企業で5年以上の実績を持つ人たちだ。


このGlobal Strategy Groupはwebsiteを見ればわかるのですが、外国人だけで占められています。 そして一時期はグループ中核企業であるSamsung Electronicsを初めとする傘下子会社の重要戦略の決定権40%を握っていました(残り40%が当該子会社社長で20%がグループ会長、『Sony Vs Samsung: The Inside Story of the Electronics’ Giants Battle for Global Supremacy』より)。
この話を聞いたとき心底驚いたものです、というのも私はINSEAD前はSamsungのライバル企業と目されていた日本のコンシューマーエレクトロニクス企業にいたので(Samsungのブランド価値がその企業より大きかったのにも驚きました、2008年もあんまり順位は変わっていません・・・)。
Interbrand : Best Global Brand List 2008
日本の大企業が選りすぐりの外国人だけを集めた戦略オフィスを作り重要事項の決定権の40%を委ねるなんて考えられないですよね。
「いやー、Samsung、本気だなー」と思ったものです。
この話には続きがあります。
魅力的な報酬パッケージとやりがいのある仕事場を得て意気揚々とソウル本社に乗り込んだ友人FとG。 この後、正反対の末路をたどります。
まず、Global Strategy Groupがなぜ外国人だけで占められているのか、というと、「韓国は厳しい年功序列社会であり、グループ戦略のような重大な議題を若い韓国人が年上の韓国人に提言しても受け入れられないから。 外国人は韓国人ではないので許される」のだそうです。
これを聞いたとき、「なーんだ、黒船( = 外圧)と同じ発想じゃないか」と思いました。 日本人も外資(or 外国人)に対し「黒船襲来」と過剰に防衛的になりつつ、それでも「あうんの呼吸が通じないガイジンだからしょうがない」と変に納得するところ、ありますよね。
ところが、黒船を受け入れた韓国人。
男性の黒船(=ベルギー人F)の意見は受け入れても、女性の黒船(=イタリア人G)は全く受け入れなかったそうです。
前職では米企業でのフェアな扱いに慣れていたGはこの女性蔑視のカルチャーに嫌気がさし、1年経たずに退職。 一方Fはやりがいのある仕事に恵まれ、美人の韓国人女性と結婚し、3年後、また意気揚々とヨーロッパに帰りました。
この話には、日本企業だったらどうなるか? いろいろ考えさせられました。
皆さんはどう思われるでしょうか?
またSamsungのGlobal Strategy Groupは解体したという噂もあるのですが、ご存知の方がいれば教えてください。


8 responses to “Samsungに見る黒船の効果と限界

  • Kei

    あけましておめでとうございます!今年もよろしくお願いします。
    日本企業と比べたらサムソンは革新的ですが、それでも年功序列男尊女卑な風潮は残ってるんですね~。
    私は韓国企業に勤めてた経験ありますが、そこでは女性チーフや管理職もいましたけど・・・ベンチャーだから自由なのかもしれませんね。同様の韓国ネットベンチャーにはやり手の女性社長とか珍しくないですし。
    それにヨーロッパの歴史ある大企業等では、いくらランキング上位のMBA卒日本人(やアジア人)でも現地語が出来なかったりすると、重要ポジションに採用するってほとんどありえないでしょうしね・・・男尊女卑以前に人種・国籍と言語差別ですな。
    イギリスのような英語圏かつ国際的にオープンな国なら別でしょうが・・・。
    まぁそんな心配よりも、自分自身はまずGMATをがんばらなければ(笑)。

  • 岩田 弘志

    ご無沙汰しています。
    女性蔑視についてはきっと日本の方が韓国よりもマイルドでしょうね。
    SonyのCEOも日産の会長もいずれも外国人ですよね。
    日系多国籍企業のトップに外国人女性が立ったらどうなるか、興味が出てきました。

  • gonchan

    ご無沙汰しています。
    日本板硝子(買収した英国企業がNGSの社長他重要ポストを占める)の事例などはひょっとして戦略スタッフが多国籍軍かもしれません。同社の英国人社長は一番信頼するブラジル人生産管理幹部を京都の舞鶴工場に派遣して技術交流を図っています。
    この事例は住友系でずっとやってきたものの、真のグローバル化を図るにはグローバルを知っている人が経営するのが一番という日本人会長の英断で実現した事例です。
    ただし、女性が介在するかまでは存じ上げません。
    女性の登用は世界中見ても政治の方が経済界よりも進んでいますね(選挙という透明な選抜法があるからかもしれませんが、党首や大臣になったりするには人望と実力・政治力が必要だと思います。これらは企業社会でも共通するスキルの様な気がします)。
    釈迦に説法ですが、経済界はあのカーリー・フィオリーナさんでさえ相当苦労したようですね(自叙伝を読む限り)。豪州のウエストパック銀行のCEOも女性ですが、かなりの実力者であると拝察いたします。「他を圧倒する」実力が必要であるという時点ですでに不公平なことは認めざるを得ないかもしれません(この「実力」の要素が日本とあちらで違う可能性もありますが、フィオリーナ氏は「女性であることは、男性相手との交渉では対等ではなくマイナススタートになる」(彼女の自叙伝の主旨)という徹底した分析と自己管理があったのもすごいものです)。
    http://plaza.rakuten.co.jp/gonchan02/diary/200806010000/
    一方、外国人だ、女性だと悠長なことを言っている余裕もないのが現実なので、成功事例が出てくれば(日産なんてあるのになあ)、右に倣えのお国柄ですから、一気にブームになったりするかもしれません。

  • la dolce vita

    >Keiさん
    こちらこそよろしくお願いします!
    >同様の韓国ネットベンチャーにはやり手の女性社長とか珍しくないですし。
    へー、私、韓国企業って全くお付き合いしたことないんですよ、皆無。 またいろいろ教えてください。
    >ヨーロッパの歴史ある大企業等では、いくらランキング上位のMBA卒日本人(やアジア人)でも現地語が出来なかったりすると、重要ポジションに採用するってほとんどありえないでしょうしね・・・
    Philipsなんかは日本人の友達いますよ。 EUの場合、Non-EUの人が厳しいというビザの問題が大きいですねー 言語はある程度しょうがないのでは? ヨーロッパ現地語ができないと就職できないのはイギリス人にとっても一緒だし。
    >岩田弘志さん
    >SonyのCEOも日産の会長もいずれも外国人ですよね。
    >日系多国籍企業のトップに外国人女性が立ったらどうなるか、興味が出てきました。
    トップだけっていうのはありうると思うのですが、戦略チーム全員っていうのはすごいですよね。
    >gonchanさん
    ご見識の深いご意見ありがとうございます。 日本板硝子の例は有名ですね、全くの門外漢なので、メディアでわかる情報以外持ち合わせていませんが、私も興味を持っております。
    >経済界はあのカーリー・フィオリーナさんでさえ相当苦労したようですね
    自伝はまだ読んでいませんが、「ヒラリーより強い、世界一強い鉄の女」との呼び声が高いフィオリーナさんなので「どんだけ強いんだ?」と興味を持っていました。 自伝読んでみます。
    女性の場合「大企業のトップなんてそんなしんどい仕事やりたくない」っていう人が多い(たぶんほとんど)だと思うんですが、やりたくない人は別にやらなくていいと思うんですよね。 やりたい人にチャンスがあればよい。

  • Kei

    なるほど…フィリップスはオランダの企業でしたよね。オランダやベルギー、ドイツはイギリスほどではないけど国際的で外国人雇用も前向きと聞いたことあります。
    ただ他のヨーロッパの国は非EU国籍を採用しないのは、ビザ(国籍)差別で拡大解釈したら外国人・人種差別ですよね〜。某スペインのトップビジネススクールの説明会でアジア系の方が、卒業後に現地就職したいが可能か?との質問にアドミ責任者がキッパリと「ほとんど無理!」みたいに断言してたのには若干引きましたが…笑
    INSEAD卒業生といえどもフランスやスペイン、イタリアで非EU出身者が就職は難しいと聞いたことあるような気がしますね…。
    それを考えるとフィリップスやサムソンも、現地語話せなかったり(ですよね?)現地国籍無い外国人を良いポジションに採用するのは国際性という点で一定の評価できるかもしれませんね。

  • la dolce vita

    >Keiさん
    >INSEAD卒業生といえどもフランスやスペイン、イタリアで非EU出身者が就職は難しいと聞いたことあるような気がしますね…。
    南ヨーロッパの会社は社内の言語の問題でしょうね。 Philipsは仕事は英語で足りるみたいでしたよ。
    身近な例では、INSEAD友達のニュージーランド人がスペインの会社に就職(スペイン語ペラペラ)、HEC卒の日本人がフランスの会社に就職(フランス語ペラペラ)しています。 彼らはVISAなしで、会社にVISAスポンサーしてもらっているので、「絶対この国」という不屈の精神と言語と経験の3点が揃えばNon-EUでも可能ですねー。 私は3点セット全部なかったので無理でしたが(笑)。
    あと、南ヨーロッパはやはり給料が低いので、このへんも割り切れないと無理だと思います。
    不屈の精神でがんばってください!

  • Taka

    初めまして。ブログでお話になったGlobal Strategy Groupに現在所属する南と申します。 (http://sgsg.samsung.com/02_members/members_01.asp?step=2&left_step=1)
    Google AlertsにGlobal Strategy Groupというキーワードを登録しますと、色々なところでヒットするので、Fujimotoさんのブログもそこに掲載されていました。(ベルギーのFさんは、私のメンターでした)
    さて、二つの点だけ、現場で働いているものとして、意見させていただければと思います。
    1.Global Strategy Groupは、構造調整本部解体後の今現在も存在し、20-30人ほどのストラタジストが所属しており、サムスングループ各社にアドバイザリーサービスを提供しております。
    2.韓国企業内、特にサムスン社内でも、女性幹部の数は、アメリカ企業と比べると低いですし、ケースバイケースで、女性の意見が尊重されなかったという話も耳にはします。ただ、決して社風的なものだとは断言できません。残念なケースももちろんありますが、私の今現在の上司は40代で海外マーケ戦略の事業本部部長、70+名の組織の長です。グローバル化の波が韓国にも押し寄せ、サムスン自体もグローバル企業として生まれ変わろうとしている途上なので、女性幹部採用には必死で取り組んでおり、急激なペースで女性の地位が向上し続けている現状があることもここの場を借りてお伝えできればと思います。

  • la dolce vita

    >Takaさん
    はじめまして。 Global Strategy Groupの現場にいる方にコメント頂いて、しばらく開いた口がふさがりませんでした。 ご説明ありがとうございます。
    >ベルギーのFさんは、私のメンターでした
    そうでしたか、彼は私のクラスメイトでした。 結婚式にも招待されたのですが、残念ながら出席できず。
    >グローバル化の波が韓国にも押し寄せ、サムスン自体もグローバル企業として生まれ変わろうとしている途上なので、女性幹部採用には必死で取り組んでおり、急激なペースで女性の地位が向上し続けている現状があることもここの場を借りてお伝えできればと思います。
    生の情報をありがとうございます。 非常にドラスティックな戦略が取れる会社だという印象を持っていましたが、近い将来その効果が出てくるかもしれませんね。

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