Google幹部の子どもが通う学校

シリコンバレーにeBayのCTOやGoogle、Apple、Yahoo、HP etc. テクノロジー企業の社員の子どもが通う私立小学校があります。
さぞかし最新鋭のコンピューターが揃っているのでは?と思いきや、この小学校では授業中にコンピューターを使うことは皆無、家での使用も控えるように指導されています。 使う道具は先生は黒板にチョーク、生徒は鉛筆とペン。 毛糸を使って編み物をすることもあれば、割り算の授業ではりんごやケーキをナイフで1/2・1/4・1/8・・・と切り分ける。
全米の学校が授業にコンピューターを導入する中で時代に逆らうかのような、Waldorf School of the Peninsulaという私立学校(全米に160校ある)の話がThe New York Timesに載っていました。
NY Times : A Silicon Valley School That Doesn’t Compute
テクノロジーの可能性や利点を知リ尽くしてるトップ0.1%に属するであろう人たちが、あえて自分の子どもには使用を禁止するには次の理由があります(私が『iPhone中毒症』で書いたように息子にiPhoneを一切見せないようにした理由でもある。  また我が家にはテレビはありません)。


1. 子どもは年齢に応じて成長課題があり、順を追って育むもの
人格形成(*1)もそうですが、土台をしっかりつくってはじめて、その上に壁や柱を建て床を張り、屋根や外装工事を行い、内装に取りかかれるもの。 後の工程ほどやり直しがきくが、初めの土台づくり(基礎工事)や壁・柱・床などはやり直しがきかない。
*1・・・以前ブログ読者の方に教えてもらった乳幼児期の重要性を説いた本『子どもへのまなざし』、10年以上前の本ですが良書です。 iPhone中毒事件で反省し久しぶりに読み返しましたが、本当にしみじみと考えさせられます。
小学校での成長課題は授業では、読み書き・そろばん・クリティカル・シンキングであり、探究心や創造力・自発性は先生や友だちとの直の交流の中で育つのだそう。
後からやり直すことがほぼ不可能な大事なの時期に、テクノロジーの必要性は以下のGoogle幹部の言葉がまさにその通り!

At Google and all these places, we make technology as brain-dead easy to use as possible. There’s no reason why kids can’t figure it out when they get older.
Googleや他の会社ではテクノロジーをばかみたいに簡単に使えるようにしてるんだ。 子どもが大きくなってから使おうとして使いこなせないわけないじゃないか。

2. テクノロジーは学習の邪魔になる
「邪魔」の種類にもふたつあり、ひとつめがテクノロジーに没頭している間、より重要な学びの機会を奪われる、という機会損失。
Baa_Baa_Black_Sheep.pngこれは息子が2ヵ月くらいはまっていたiPhoneアプリ。 画面を移動し冒険しながら、画面下にある影の物体(ここではプレゼント・りんご・あひる)を探し、見つけたら指で影までドラッグ。 全部集めると”great!”、”fantastic!”など誉め方がどんどん大げさになる。 物体をタップすると英語で発音してくれるので、単語も覚えられる、という代物。
幼児の時期に大事なのは小さな画面上の物体をドラッグできることではなくて、本物のりんごを五感で感じながら、赤・黄・緑などいろいろな色のりんごがあること、すりおろしたり煮つぶしたりすると色も形も味も変わること、などを学ぶこと。
物体とアルファベット”d u c k”とを結びつけることではなく、近所の公園にはあひるとがちょうがいること、あひるにエサをあげると鳴きながら寄ってくること、赤ちゃんあひるはいつもママあひるについて回ること、などを学ぶこと。
こういう機会を与える方が遥かに大事だということです(うちは教育目的ではなく、静かに遊ぶから助かっていたので完全に親の都合だったのですが)。
ふたつめの「邪魔」が実際に害がある可能性があるというもの。
こちらは『iPhone中毒症』に書いたようにAttention-Deficit Disorder(注意欠陥障害)との相関が指摘されています。
私が今年の夏受けたドローイングのクラスに17歳のADDの女の子がいたのですが、彼女は17歳にもなるというのに全くじっと座っていることができませんでした。 ちょっと描いては、すぐ立ち上がり教室をうろうろ、クラスメイトをちらちら。 デザインは”God is in the details.(神は細部に宿る)”と言われる分野なのに、こんなに集中できなくてどうするんだろうなー、と将来が心配になりました。
(訂正/補足:ADD/ADHDは脳の病気で原因には諸説ありテレビなどのせいとは決まっていないと指摘を頂きました。 上記、17歳の女の子のADDが育ち方によって防げたかは不明ですし、「害がある」というほど直接の因果関係はまだわからないそうです。)
インターネットもそうだけどInstant gratificationが得られるんですよねー(息子も、だから絵本に見向きもしなくなった)。
冒頭の私立学校は年間$17,750だそう。 Rejecting technology doesn’t come cheap!


6 responses to “Google幹部の子どもが通う学校

  • tygertyger

    以前にシアトルのWaldorf School見学に行ったことがあります。小学校低学年までは本当に素晴らしいプログラムだと感心しましたが、小4から中学にかけてのカリキュラムがあまりに古風で旧式なので、見送ってしまいました。この年代でぐっと馬力が上がりだすGifted programといわれるものと比べると、あまりに学力差がついてしまうのではないかと心配したわけです。

  • Mikaka

    1年以上ブログを読ませていただいていましたが、今回初めてコメントします。
    うちには5歳と1歳の子供がいますが、現時点ではなるべくテクノロジーに触れる時間を少なくするように心がけています。うちにもテレビはありません。(ハコはあるけど、つながっていない)
    ちょうど昨晩、長女の学校で開かれた保護者会でもメディア・テクノロジーとどのように付き合うかをテーマにディスカッションがありました。色々な意見があるし、決めるのはそれぞれの家庭だけれども、先生からの助言は「3歳以下には、可能であれば全てのメディア・テクノロジー(テレビ、コンピューター、ビデオ、ラジオ、Iphoneなど)に触れさせないようにする。3歳以上の幼児には、1日20-30分が妥当です」と。
    ディスカッションで、Yokoさんが紹介しているようなアプリを子供にさせているというお父さんの意見もありました。いやー、よくできてますよね、知育アプリ。でも、私の方針は、やはりYokoさんがおっしゃるように「幼児期はなるべく五感を使って本物で学ぶ」です。とくに芸術的・美的センスは幼児期までに五感で触れたものに培われていると思っています。「ピンク」一色をとっても、色合い、質感、陰影などによってさまざまなピンクがありますよね。私は将来娘に「ピンク=プラスチックの上にペンキでべっとり塗った深みの無いピンク」を想像してほしくないのです。
    Waldorfの学校出身者、芸術の道に進む生徒も多いようです。

  • SatokoWatanabe

    ようこさんのTwitterとブログいつも楽しく読んでいます。
    今回の記事もなるほどと深く納得しましたが一点だけとても気になりました。
    テレビやコンピューターを多用する子供にADD/ADHDが多い、またその逆が言われている論文も確かに出ていますが
    しかしだからといって、ADD/ADHDの方が皆さんテレビやiphoneのせいでなるわけではないので二つ目の理由は少し留保が必要かと。ADD/ADHDは脳の病気でありなる理由にはご存知のように諸説あります。クラスの17歳の女の子がADDで症状に苦しんでいるとしても、テレビやiphoneのせいであると決まっていないですし、彼女のADDが育て方によって防げたのではと思わせる表現は、mental healthの関係者として気になりました。

  • la dolce vita

    >tygertygerさん
    >小4から中学にかけてのカリキュラムがあまりに古風で旧式なので、見送ってしまいました。
    なるほど〜 低学年と高学年では必要な教育も違うんでしょうねー
    たしかにWaldorf Schoolからは、こういう子(↓)は出てこなさそうです。
    http://on.ted.com/9y7L
    >Mikakaさん
    >3歳以下には、可能であれば全てのメディア・テクノロジー(テレビ、コンピューター、ビデオ、ラジオ、Iphoneなど)に触れさせないようにする。
    育児書にはテレビは最小限に(できれば見せない)とは書いてあるんですが、iPhoneはカバーされてなかったなー 小さい画面だから余計目は悪くなるかな、とはちらっと思ったんですが。
    いずれにせよ割と極端な形で発見できたのでよかったです。
    >Satoko Watanabeさん
    ご指摘ありがとうございます。 上記、訂正と補足を追加しました。 ADDのことは17歳の女の子に会うまでほとんど知らなかったし、指摘してもらえてよかったです。

  • sunshine

    「子どもへのまなざし」を推奨した本人です
    この良書を覚えていてくださって嬉しいです。
    子育てには王道はないと思います
    親はいろいろ迷いながら親になっていくのでしょうね。
    私も自分より大きくなった息子の子育てをまだまだ楽しんでおります。

  • la dolce vita

    >sunshineさん
    紹介ありがとうございます。 1年に1回くらい読み返したい本です。
    >子育てには王道はないと思います
    >親はいろいろ迷いながら親になっていくのでしょうね。
    その過程が楽しいんでしょうね。 今はすごいスピードで言葉を吸収している時期で、2人でお風呂の中で話せる日が待ち遠しくてたまりません。

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