日本はなぜ成長しないのか?

こちらで書いたとおり、シンガポールが1人あたりGDPで日本を抜き日本がアジアNo.1の座から落ちたことは私にとっては衝撃だったのですが、大前研一さんの『「アジアで最も豊かな国」から転落した日本』というコラムによると、日本ではあまりニュースにならなかったそうで・・・ コラムにはこう書かれてました。

本当ならシンガポールに抜かれたことで、日本全体にショックを受けてほしいところだ。しかし、「あれ、抜かれちゃってた」という感じで、ケロっとしている。これでは日本の未来が危ういというものではないか。

私がシンガポールに来て以来、聞かれて一番答えに悩む質問というのが、「日本はなぜ成長しないのか?」という質問。
この質問が仕事のミーティングの合間に場をつなぐために気軽に発せられた質問ならば(相手も鋭い分析など求めていない)、適当に答えようもあるのですが、これが真剣に内部者の見解を聞きたいと思っている親しい友達からの質問だったりすると、答えに困る。 自分にも解がないから。
なので、いつものごとく本を読みあさっています。
まず最初に読んだのが勝間さんが薦めていた『人間を幸福にしない日本というシステム』。 私は基本的に母国は好きなので、『ひ弱な男の国とフワフワした女の国日本』のような、センセーショナルに煽っただけのようなタイトルの本は読まないのですが、この本は私が知らなかったことも多く(官僚主義の根深さ、など)、納得できる箇所も多かった。 でも、具体的な解決策まで示せていないと思います。


次に最近読んだのが、トフラー氏の『富の未来』。 長編で原書で読んだため、あまりの長さに挫折しそうになったのですが、最後の方の地域・国家別に未来を論じたくだりが一番面白かったかな?
トフラー氏による日本の未来への提言をまとめると(原書で読んだので、日本語訳版と違っているかも)

1. 非製造業の国際競争力を高める
2. ベンチャーをサポートする環境をつくる(社会に柔軟性を)
3. 日本企業の意思決定の遅さは致命的(→グローバル競争に待ったなし、なので迅速に!)
4. 労働力の半分を占める女性の能力を活用する
5. 来るべき高齢化社会に備える

いずれのポイントも、さんざん言われていることですが、まあきれいにまとまっているという感想。
冒頭の大前さんのコラムでは、シンガポールと日本が以下のように比較されていました。

国土が狭い、地下資源に乏しいという点では、シンガポールも日本も同じだ。にもかかわらず、どうしてこのような彼我の差が出てしまったのか。理由は明白だ。シンガポールでは積極的に外資、外国人の誘致策を展開し、世界経済を味方に付けて経済の活性化を図ってきた。それに対して我が日本は、市場開放が後手に回ったことから、経済の成長に大きな差が出てしまったのだ。世界経済の利用の仕方で差が出た、という点をよく認識しなくてはいけない。(中略)
日本が閉鎖経済から抜け出すためには、世界の現状を理解する必要がある。前述したとおりシンガポールは世界から金、人、モノを呼び込むために、積極的に制度変更を行い、政府部門も俊敏に動いている。しかし日本では、税源が不足してきたら消費税率をアップしようといった議論ばかりで、世界の力を借りるような話は一切出てこない。バブル崩壊のあとも金融機関の救済は国民に押しつけた。中国が国有銀行に外資を導入して乗り切ったのとは大きな違いである。外資アレルギーの日本と、ためらわず外資を救済に使う中国。世界経済の利用の仕方では、シンガポールどころか後発の中国にさえ追い越されてしまっているのである。
それは日本が、すべての問題を自分で解決しようとすることに原因がある。解決策を世界に求めるシンガポール(と中国、そして多くの途上国)、国民に求める日本。国民が反対すれば、今度は子孫に求める。少子化で子孫に負担能力があるのかどうか検証もしないで30年(いや道路公団の借金などは50年)先送りしてしまうのである。

全く同感ですが、「なぜ成長しないのか?」という疑問に関しては結局「政治が悪い」という結論に帰結してしまうんでしょうか?
私の「日本はなぜ成長しないのか?」の問いに対する答えを探す旅は続きます・・・


One response to “日本はなぜ成長しないのか?

  • la dolce vita

    (過去のコメントは以下)
    T September 17, 2008 9:18 PM
    島国根性(島国で完結)と語学力の問題でないかと個人的には思っています。
    日本でのみ教育を受けた人が大企業、霞が関、永田町を実質支配してますし。
    特に、語学の壁が高すぎます。
    1、2年の留学程度じゃ、英語、たいして使いこなせないですし。
    一流大学出た社会人が、英会話学校通いで満足してたりするレベルの国ですし。
    英語わからない=世界が見えない、こうしてどんどん取り残されるような気が。
    いっそのこと、国語の授業は残しつつ、小学校から大学まで、公立も私立も全て授業は英語で行い、英語を第二公用語として確立するしかないんじゃないかなあと。日本語をおろそかにする気か!と頭の固い人がわめきそうですが、日本語を守って国が滅びたんじゃ意味ないと思うんですよねー。ま、こんな明治維新に匹敵するほどの大改革、今の日本人にはできっこないですが。でも、頭の良い国民だと思うので、ツール(英語)さえ与えれば、面白いことになるんじゃないかなあとも思うんですが。
    la dolce vita September 17, 2008 11:27 PM
    >Tさん
    コメントありがとうございます。
    >特に、語学の壁が高すぎます。
    >1、2年の留学程度じゃ、英語、たいして使いこなせないですし。
    最近思うのですが、日本人は「語学の壁」をスケープゴートにしすぎじゃないかなー、と。
    確かに習得は大変ですが、東南アジアも(タイもベトナムも)エリート層はみんなしゃべれますし、シェムリアプ(アンコールワット近くのカンボジア第2の都市)では大人も子どもも猫も杓子もみんな英語をしゃべってました。 それも”You are beautiful! One dollar for 10″とかそういう土産物屋のレベルではなく、本当に普通の会話を。
    彼らは生活かかっているので当然必死で英語を学んでいるはずですが、みみずみたいな文字とカロンポロンという語感のカンボジア語(わかんないですよね?)と日本語では英語に対するadvantageの差があるとはとても思えず。
    そうすると「生活かかってるかどうか」という危機感の問題なんでしょうか?
    >日本語をおろそかにする気か!と頭の固い人がわめきそうですが、日本語を守って国が滅びたんじゃ意味ないと思うんですよねー。
    ははは、そういう人たちは「自分が死ぬ前に国が滅びなければそれでいい」という逃げ切り作戦なんでしょうかね?
    頂いたコメントで思い出しましたが、私の友達のトルコ人はイスタンブールの大学卒(現在ロンドン勤務)ですが、授業は全部英語だったそうです。
    junko September 18, 2008 7:47 AM
    ん~あくまで一つの側面でしかないのだけど、日本人の精神構造の変化も大きいのかも、と思います。
    「最も成功した社会主義国」と揶揄されることの多い日本だけど、昔の高度経済成長を支えたのは、古き良き日本人の特質「真面目・几帳面・我慢強い・協調の精神・社会のために努力向上おしまない」によるところが大きいと思います。日本国としてのミッションステートメントがしっかりしていて、国民に浸透していた気がする(あくまで推測)。
    それが、自由を謳歌(→規律を無視)、権利を主張(→義務を放棄)するようになって、「無気力・無感動・無目的」になってきているというか、なんというか。もちろん、人によって違うだろうし、社会主義国が良いと思っているわけでもないけれど。
    そういう意味で「自由には責任が伴う」という附属の教育はなかなか良かったのではないかなぁ?政治も大切だろうけど、やっぱり、教育が一番大切だと思うよ。
    日向清人 September 18, 2008 8:54 AM
    こんにちは。ご承知のとおり経済成長をもたらすのは土地や資本といった生産要素プラス、それをどう組み合わせるかというレシピ、そして、その結果としての生産性ですが、私はそのレシピを生み出す要因の一つである教育の体質が「先進国に追いつけ」という時代とあまり変わっていないのが今の停滞の大きな原因だと思います。先進国並みの読み書きそろばん能力とリテラシーを目指しているうちは元からの出発点が低いですから順調に成長できても、追いついたら、今度は先進国の知識を吸収しているやり方では駄目で、みずから考え、新たな、画期的なレシピをひねり出さなきゃいけないのに、教育のやり方が知識移転型で他と協力しながら自分の中に新たな知の体系を作りあげ、それを活用するという発想になっていません。そのいい例が英語教育で、今なお英語という言語体系を知識として伝えるスタイルで、到達度を測定する試験も知っているか知らないかを問う格好が主流です。英語を使って何か書けというスタイルはきわめて例外的です。一方、シンガポールとの対比で言えば、日本人にとっての国家は、領土と国民と政府からなっている静的な、そこにあるだけという共同体であるのに対して、シンガポールのような国は、そういった静的要素に加え、文化や経済力が違う人種をまとめる必要があるため、みんなでどっちに行くのか、どんな国にしたいのかという方向感が意識されており、それが政府と国民、そして経済を結びつけている動的要素として日本にはない大きな強みとなっているのではないでしょうか。
    la dolce vita September 18, 2008 1:44 PM
    >junko
    コメントありがとう!
    面識ない方からの洞察に富んだコメントも嬉しいけど、よく知っている友人からの真面目なコメントは嬉しいわ♪(→他の附高のみんなもよろしく)
    なるほど。
    「真面目・几帳面・我慢強い・協調の精神・社会のために努力向上おしまない」→「無気力・無感動・無目的」への精神構造の変化はバブル崩壊後の長期不況がもたらしたものだと思うんだけど、そもそも「真面目・几帳面・我慢強い・協調の精神・社会のために努力向上おしまない」だけではなく、プラスα(下で日向さんがおっしゃっている「新たな、画期的なレシピをひねり出さす」ための何か)が必要だという環境の変化についていけていない、っていう感じだと思うんだけど、どう?
    >そういう意味で「自由には責任が伴う」という附属の教育はなかなか良かったのではないかなぁ?
    附高はいい学校だったけど、そんな教育方針だったっんだ?(笑) たしかに同級生はみんな元気だよね?(特に女性)
    >政治も大切だろうけど、やっぱり、教育が一番大切だと思うよ。
    同感だけど、教育が変わるにはどうすればいいかっていうと、やっぱり今の文部科学省が決める学習指導要領が変わらんと、っていう気がするんだけど。 鶏と卵か。
    >日向さん
    うなづく点ばかりで、このまま訳して友達に伝えたい気もするのですが何点か。
    >そのいい例が英語教育で、今なお英語という言語体系を知識として伝えるスタイルで、到達度を測定する試験も知っているか知らないかを問う格好が主流です。
    私が学校の英語教育を受けてから10年以上経っているので全く現状を把握していないのですが、小学校の英語教育導入どうこうが議論されていてもやはり根幹は変わっていないのでしょうか?
    シンガポールに関しては若い国なので、とにかく「どんな国にしたいのかという方向感」をまとめることや国民の帰属意識を高めるための施策を政府が必死でしているのはその通りだと思います。
    私のような外国人は「国家ってこうやって形成されていくのねー」と興味を持って眺めています。
    また、「元からの出発点が低い」点はシンガポールも同じで、先進国に追いついてしまった今ではやはり「新たな、画期的なレシピをひねり出さす」ことがこれからの課題となる点も日本と同じです。 シンガポールも相当の学歴偏重社会であり、ある程度繁栄してからはその後の伸びに苦労するかもしれません。
    ぴ September 21, 2008 9:11 PM
    なるほど~。私も語学の問題だと思います。
    日本がシンガポールや他国のように外国人労働者を受け入れる体制を整えたとしても、結局
    日本人が英語ができないので「日本語の使える外国人」でないと、活躍してもらえないですもんね。。。
    少子化対策のコラムに関連しますが、
    ベビーシッターを日本が外国から受け入れるとしても、「日本語のできるベビーシッター」。
    となってしまいますね う~ん、先は明るくないですね。。
    la dolce vita September 22, 2008 9:34 AM
    >「ぴ」さん
    コメントありがとうございます。
    >結局日本人が英語ができないので「日本語の使える外国人」でないと、活躍してもらえないですもんね。。。
    徐々に外国企業に買われて、英語ができないと仕事ができない環境になる企業は増えると思いますけどね。 外国企業といっても欧米企業ではなくインドや中国の企業に買われたりしそう。
    snowbees September 22, 2008 8:03 PM
    <日本:次の基盤産業は?>寺島実朗氏によれば、日本の07年の食糧とエネルギーの輸入額は26兆円にのぼる。これは、輸出御三家(自動車、電子部品、鉄鋼)の輸出額とほぼ同じである。心配なことに、食糧とエネルギーの輸入価格が上がる一方で、国内では次の基盤産業をつくれていない。ところで、ご質問の「日本はなぜ成長できないか」について考えたい。政治、官僚、企業それぞれのレベルで問題があるが、象徴的なケースとして、半導体(エルピーダ)における「大企業病」である。
    http://www.google.co.jp/search?q=%E3%82%A8%E3%83%AB%E3%83%94%E3%83%BC%E3%83%80+%E5%9D%82%E6%9C%AC&hl=ja&rls=GFRC,GFRC:2007-01,GFRC:ja&start=0&sa=N
    次に、話は変わって、日本からQLDへの再生水を輸出?
    <日本から豪州QLDへ水輸出?> 時には明るい話を:
    http://4350water.blogspot.com/2008/08/japan-may-export-recycled-water-to.html
    1)ブルムバーグ通信の「誤報」として、関係者(野村総研、JFE)は否定しているが、水面下で商談中か?(状況証拠として、大いにありうる話である。
    2)年間売り上げを試算すると、¥60@m3x100億m3=¥6,000億となる。(英国Times誌)
    3)豪州QLDでは、リサイクル水の問題は、既に政争の具であり、したがい日本からの輸入は、暫く非公式扱いでは?
    la dolce vita September 23, 2008 8:58 AM
    >snowbeesさん
    大変参考になるコメントありがとうございます。
    たしかに「大企業病」は重症ですね。 日本の大企業に限らず、世界中、大企業であればかかりうる病気だと思うのですが、なぜ日本の大企業だけ症状が進みすぎているように思えるのでしょうね?
    水の輸出は面白い話でした。 オーストラリアでは水の問題は国の死活問題で(本当にこのまま雨が降らないと数十年後オーストラリアには人が住めなくなってしまう)、日本に来ると水でたっぷり潤った水田を見て驚愕します。
    なんだか輸送コストがものすごく高そうなんですが、オーストラリアはコストを払ってもpayするんでしょうかね?
    snowbees September 23, 2008 3:04 PM
    管理人さん、ご返事サンクス。
    1)エルピーダ・坂本社長による大企業病との闘いは、下記で:
    http://yujioga.exblog.jp/6875122
    2)QLDへの再生水を海上輸送する運賃は、無料に近い。とゆうのは、添付ウエブによれば、豪州からの鉄鉱石輸入用の専用船は、帰りが空荷なのでそれで運ぶと。
    3)シンガポールは、セミ独裁政権ですが、地政学上、やむ得ないのでは。隣接するマレーシアやインドネシア大国との緊張関係や、生活用水など安全保障がある。その苦労は、日米軍事同盟に安住する日本の自民党政権と比べて、同情する。
    la dolce vita September 23, 2008 10:41 PM
    >snowbeesさん
    1) 2) →ありがとうございます。
    3) そうなんですよね、シンガポールはアジアで唯一イスラム圏に包囲された弱小国家として安全保障は国家の重要課題です(たしかGDPに占める防衛費は非常に高かったし、成人男子は2年も徴兵義務がある。 街を歩いている兵隊たちは「ほんとに守れる?」って疑いたくなるくらいお坊ちゃんっぽかったりするけど)。
    外国プレスは「言論の自由」がないことに憤りを感じるらしいです。
    snowbees September 25, 2008 10:01 AM
    >外国プレスは「言論の自由」がないことに憤りを感じるらしいです。
    +強硬派の週刊誌「Far Eastern Economic Review」を、80-90年代に私は愛読していたが、その当時から同誌はSP政府と対立していた。

Leave a comment