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「ハレ」と「ケ」の建築シリーズ最終回。
前回はオフィシャルな「ハレ」の建築物かプライベートの「ケ」の建築物かに関わらず、ロンドンでは建物が古いということ、建築及び景観を保護する規制についてご紹介しました。
イギリスらしいデザインを形容するキーワードにエクレクティック(eclectic、折衷的な)という言葉があります。 ロンドンの街並みはまさにいろいろな年代の建物がミックスされていて、パリのような統一感がないところが特徴です。 イギリス人の「古い物と新しい物のミックス」、「マスキュリンとフェミニンのミックス」など全体を同じテイストの物でまとめない絶妙なセンスは街並みにもよく現れています。
この真髄を発揮するのがまさにビクトリア王朝時代(1837 – 1901年)、今回はロンドンに数多く残るビクトリア時代の建物から現代までです。
4. ビクトリアン様式(1837 – 1901年)
「ケ」
ジュード・ロウやケイト・モスなどスターやメディア業界の人が多く住む北西ロンドンのプリムローズ・ヒルにあるパステルカラーに彩られた家並みのシャルコット・クレシェント。

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前回の続きです。
イギリスには都市計画法の一環で景観保護のために厳しい法規制があります。 このうち一般住宅に関連するのは①登録建造物(Listed Building)制度と②保全地区(Conservation Area)です。
①登録建造物の選択基準は、1. オリジナルな状態を保っている1700年以前の全ての建造物、2. 1700年から1840年の間に建てられた大半の建造物、3. 1840年以降に建てられた建造物は個別の歴史的な価値、社会的な利益、都市景観などを鑑み個別に判断、となっています(参照:Historic England)。
ただ、登録建造物制度はリストに登録されなければ保存対象にならないため、登録建造物と非登録建造物が混在している場合に、たとえ登録建造物が保存されても地区としての景観が損なわれるという不都合が生じるようになりました。 都市の景観保存には個別の建築物(点)だけではなく地区(面)の保存が求められるようになって生まれたのが②保全地区(Conservation Area)制度です。
②保全地区は地方自治体によって定められ、歴史的な市街地や漁村・鉱業村、18・19世紀に建設された郊外などです。
また、例え登録建造物や保存地区制度の対象でなくても建築物の外観の変更には自治体の許可が必要です。
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前回に続いて建築の話。
ヨーロッパに住んでいて日本に帰国した時にまず初めにショックを受けるのは、街並みの汚さです。 成田から東京都心に向かう途中や関空から大阪市内に向かう途中の車窓から見える住宅街の街並み ー 建物に全く統一感がなく隙間なく電線が張り巡らされ、ケバケバしい巨大看板やネオンで溢れる街並み ー を見ながら「これが本当に世界中のデザイナーが憧れる日本かー」(注1)とギャップに愕然とします。
注1・・・以前、IDEOロンドン事務所のデザイナーと話した時に「デザイナーはみんな日本に行きたがるよね」と言われたことがあります。
京都の伏見稲荷の鳥居や嵯峨野の竹林の道、桂離宮や龍安寺の石庭など日本のイメージを代表する美しいシンプリシティ(注2)と、雑然とした街並みのギャップが、日本はヨーロッパに比べて大きすぎるように思います。 人間の脳は「見たいものしか見ない」ようにできているらしいですが、日本に長年住むと眼孔を開いていても目の前の煩雑さには何も感じずに素通りできる特殊能力(一種の麻痺状態)が身に付くのでしょうか。 日本を離れてしばらくするとこの特殊能力が鈍ってくるところが不思議です。
注2・・・外国人から見るとこういうイメージ→“Our Japan from Marc Ambuehl”、“In Japan from Vincent Urban”
日本の景観があまりにも配慮なく醜悪化している件はアレックス・カー氏の『ニッポン景観論』
に詳しいです。 本のエッセンスは日経ビジネスオンラインのコラム『これでいいの?日本の景観』でも読めます。
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今年もOpen House Londonを皮切りにロンドン・デザイン・フェスティバル(LDF)が始まりました(→LDFのオフィシャルサイト)。 デザイン・フェスティバルについては以前『ロンドンのデザイン・エコシステム』というエントリーで紹介していますが、9月に市内各所で行われるデザインの祭典です。 著名デザイナーによる実験的なアートの巨大インスタレーション、各種展示会(*1)は恒例ですが、近年ではデザインディストリクト(*2)と呼ばれるデザインオフィスや工房が数多く集まる地区がオフィスやショップを一般に開放しストリートパーティーを催したりしています。
*1・・・コンテンポラリーであればDesign Junctionや100% design、ラグジュアリー・インテリアのDecorex、若手デザイナーのお披露目場であるTentなど。
*2・・・今年はBankside、Brompton、Clerkenwell、Chelsea、Islington、Shoreditch、Queens Parkの7地区が参加。
近年、国外からの訪問者が増えているようで、観光客の利便性を重視してか密な日程で行うようになったので、毎年消化不良を起こしてしまいます。
そのデザインの祭典の幕開けは我が家はいつもOpen House Londonです。 正確にはLDFのイベントではないのですが、いつもフェスティバル初日の週末2日間に開催されるOpen House、あまりにも素晴らしいコンセプトなので、以前も紹介しています(→『現代建築の都ロンドン』、『廃墟に2万人が並んだ日』)。
建築を理解する最良の方法は体験すること
というコンセプトのもと、普段は一般公開されていないロンドン中の800近くの建築物が一般に無料公開されるのです。 その中身の幅広いことと言ったら・・・
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ずっと読みたかった本をようやく読み終えました、『Triumph of the City: How Our Greatest Invention Makes Us Richer, Smarter, Greener, Healthier and Happier』
(邦訳:『都市は人類最高の発明である』
)。
この本を読みながら、5、6年前に夫と住みたい都市の条件を書き出していた頃を懐かしく思い出しました。 理想的なクオリティ・オブ・ライフ(文化度が高い落ち着いた街並み、街歩きが楽しく車がいらない生活etc.)と現実(英語圏で仕事のオポチュニティーが多い場所)が交差し、インフラ(医療・交通など)が整ったところ・・・といくつか世界中の都市をあげ、Pros & Consを検討した上でロンドンに引っ越してきました(→『ロンドンに引っ越します』)。 本著の原題は『Triumph of the City』、ズバリ「都市の勝利」ですが、本著で定義されている「成功」の定義は明確です。 工業社会を脱し、知識経済に移行した21世紀で成功する都市とは「アイデアを持ち新しいものをつくり出せる高学歴・高スキル人材を磁石のように惹き付ける力を持った都市」のこと。 また「このような都市は仕事の機会で溢れているので農村から貧困層も惹き付ける、それも都市の魅力のひとつだ」という主張。
具体的に成功している都市としてニューヨーク、ロンドン、パリ、シンガポールなどグローバル都市ランキングのトップを占めるような都市を挙げていますが、ムンバイ、デトロイト、バンガロール、リオ・デジャネイロ、リバプールなどさまざまな都市の栄枯盛衰も検証していて実に面白かったです(グローバル都市ランキング→『ロンドン栄光の時代?』)。
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私が建築インテリアデザイナーとして一から十まで自分で手がけている初のプロジェクト、すでに内装工事に入りました。 写真を中心に簡単にFacebookでアップデートしていますが、ブログではイギリスの家の住まい方も含め詳しく解説しています。
今までのブログ記事はこちら。
『築120年の家を買いました。』
『工事が始まりました。』
『古い家を改修しながら住み続けるということ – 1』
『古い家を改修しながら住み続けるということ – 2』
今回は現代の生活様式に合わなくなった古い家をどのように変えたのか、という点を中心に写真で解説。
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『築120年の家を買いました。』の家の改築工事がようやく始まりました。 ヴィクトリア時代築(推定1890年)の2階建てのテラスハウス(Workers’ cottageと呼ばれる種類で貴族の館ではなく小さな労働者階級の家)です。
大がかりな増築のため、区(カウンシル)の建築計画許可(planning permission)を取得し、ビルダー(施工業者)を決めるための見積もりを取るためのテンダーパッケージ(各種図面と仕様書)を作成、4業者から見積もりを取り価格交渉し、ビルダー決定。 テラスハウス(長屋)で両隣の家と隣接しているため、共有している壁(party wall)に行う工事の詳細に関する合意(party wall award)を取る、この全てのプロセスに7ヵ月かかりました。
ボロ家なので住み辛かったし、夏は『ナメクジ屋敷』と化したので早く出たくてたまりませんでした。 工事が始まっただけで、大きな仕事を成し遂げた感でいっぱいです(笑)。 子どものナーサリーもあるし工事の監督もあるのですぐ近くに引っ越したのですが、今にも崩れそうではない普通の家に移れただけでほっとしています。 やはり住む環境が与える影響は大きい・・・
第一週は解体工事。 あっという間に見る影もなくなりました(写真をクリックすると大きくなります)。
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9月のデザイン・フェスティバルを例年通りバタバタと駆け抜け(→『ロンドンのデザイン・フェスティバル』)、そのままイングランド西部デヴォンにホリデーに行き、帰ってきてたまった仕事に追われています。
デザイン・フェスティバルの記憶も遠くなり始めていますが、今年印象的だったのはこれでしょう、旧バタシー発電所(Battersea Power Station)に市民2万人が並んだニュース。
普段は一般公開されていないロンドン中の800もの建築が一斉に無料で一般公開される素晴らしいイベントOpen House Londonのことは『現代建築の都ロンドン』というエントリーで書きましたが、今年の目玉は再開発が決まっているテムズ河沿いにある旧バタシー発電所(グレードII指定建造物)でした。
1933年に建てられたヨーロッパ最大のレンガ築建造物(アールデコ様式)であり1977年のピンクフロイドのアルバム『アニマルズ』のカバー(左写真)を飾ったことで世界中に有名になりました。 1983年に発電所としての役目を終えたバタシー発電所、30年以上に渡り何度も再開発計画が生まれては頓挫します。 その間、手入れされず廃墟となった巨大な姿はギリシャ神殿のようにも見え、ロンドン市民が毎日のようにテムズ河越しに拝むものの中に入ることはできないミステリアスなランドマークでした。 ようやくマレーシアのディベロッパーによる再開発計画の許可が下り、今年末から工事が始まる予定。 廃墟のままの姿が見られる最後のチャンスとあって公開日の初日には2万人もの人が並んだとのこと。
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普段「テレビは見ない」と言っている私ですが、最近密かにはまってしまった番組があります。 それが民放Channel 4の”The Restoration Man”。 イギリス各地にある歴史的建造物(多くは長年見放されていて朽ち果てている)を修復してマイホームにしようとする人々を建築家のGeorgeが訪ねて修復プロジェクト一部始終を記録するドキュメンタリー X エンターテイメント番組。
例えばこの建物。 19世紀初頭に建てられたケント州の風車、19世紀を通じて小麦粉の生産に使われていましたが1915年の大嵐で羽が破損、それ以来使われていませんでした。 一家に代々伝わるこの風車を継いだ若いPeteと妻のNikkiが修復に乗り出します。 癌に冒されたNikkiが病の進行と闘いながら進むエモーショナルなこのプロジェクトの一部始終は、英国内ではChannel 4のサイトから、国外ではYouTubeで見られます(修復完成後の2人の家はContinue readingをクリック)。
Chennel 4 : “The Restoration Man – Reeds Windmill, Kent”
YouTube : “The Restoration Man – Reeds Windmill, Kent”
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『そこにしかないもの』はヨーロッパでは築数百年の建造物が昔と変わらぬ概観を保ち「都市の顔」である街並みにアイデンティティーを与えているという話でした。 今日は建物の「外」の話ではなく「中」の話。
『古いほど人気のマイホーム』に書いたようにロンドンの住居の半数以上は第二次世界大戦以前に建てられており、古ければ古いほど”Period Property”(時代もの不動産)と呼ばれ人気です。 全住宅流通量(既存流通+新規着工)に対する既存住宅(中古物件)のシェアは日本が13.5%に対し、イギリスは88.8%だそう(アメリカ77.6%、フランス66.4%。 国土交通省『中古住宅流通、リフォーム市場の現状』より)。
建物の外側は街並みという「公共」に属しているものなので個人で勝手に変えることはできません。 ところが、築100年以上の建築物でも中は現代人の生活に合うようにモダンに変えてある、ばかりではなく、イギリス人は自分に合うように内装を変え、時には増築・改築をしながら「自分だけの個性ある家」に何年もかけて仕上げます。 インテリアにおいて重要なことは「住む人の個性を反映していること」であり、特定のスタイルであることではなく、もちろん広さや最新ファシリティーではありません。
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