Tag Archives: イギリス

古い家を改修しながら住み続けるということ – 1

『工事が始まりました。』を書いてから2ヵ月経ってしまいましたが、家の改築は着々と進んでいます(写真はFacebookに逐次公開しているので興味ある方はフォローできます)。

ちょうどその頃読んだ日経ビジネスオンラインの『築百年の京町家、ネットで売ってます』の記事がとても面白かったです。 ロンドンでリノベーションの経験を積んだら愛する京都でやってみたいなー、と漠然と夢を描いているので、「町家をリノベーション」と聞くだけで垂涎ものの私は、記事中の八清さんの次期社長である西村さんにコンタクトを取ってしまいました。

お忙しい中すぐにお返事頂いた中で次の部分がとても興味深かったので、イギリスの例を紹介してみようと思います。

イギリスは増築は比較的し易いのですね。弊社の扱うような伝統工法の物件は、日本の建築基準法ではすごく難しい扱いになります。
改装は法律上の建築行為ではないので、申請して許可を取るということができません。主要構造部分を半分取り替えたら、申請が必要という難しく微妙な基準です。戦前から新築基準の建築ルールを引き継いでいることが原因です。

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工事が始まりました。

『築120年の家を買いました。』の家の改築工事がようやく始まりました。 ヴィクトリア時代築(推定1890年)の2階建てのテラスハウス(Workers’ cottageと呼ばれる種類で貴族の館ではなく小さな労働者階級の家)です。
大がかりな増築のため、区(カウンシル)の建築計画許可(planning permission)を取得し、ビルダー(施工業者)を決めるための見積もりを取るためのテンダーパッケージ(各種図面と仕様書)を作成、4業者から見積もりを取り価格交渉し、ビルダー決定。 テラスハウス(長屋)で両隣の家と隣接しているため、共有している壁(party wall)に行う工事の詳細に関する合意(party wall award)を取る、この全てのプロセスに7ヵ月かかりました。
ボロ家なので住み辛かったし、夏は『ナメクジ屋敷』と化したので早く出たくてたまりませんでした。 工事が始まっただけで、大きな仕事を成し遂げた感でいっぱいです(笑)。 子どものナーサリーもあるし工事の監督もあるのですぐ近くに引っ越したのですが、今にも崩れそうではない普通の家に移れただけでほっとしています。 やはり住む環境が与える影響は大きい・・・

第一週は解体工事。 あっという間に見る影もなくなりました(写真をクリックすると大きくなります)。
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新セレブな生き方は田舎暮らし

数ヶ月前に病院の待合室で読んだ英女性ファッション誌『Harper’s Bazaar』にとても面白い記事がありました。 女性ファッション誌は病院の待合室か美容院で髪を切ってもらってる最中しか読まないのですが、時代を読む視点で読むとあなどれない。面白かったです。
Nouveau Peasant image board
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新しい家族のカタチ

nuclear_family少し前にThe Economistで面白い記事があったので紹介。
ひと昔前のアメリカ映画に出てくるような核家族、会社員のパパと専業主婦のママに子どもが2人という家族のモデルが崩壊し、このような家族は全世帯の中で少数派になった、と言われて久しいですが、イギリスでもだいぶ前から崩れています。
離婚率は上昇し、婚外子の割合は5割にまで上昇、そして出生率は低下し続けていました、ごく最近までは。

ところが、数十年続いてきたこの傾向に歯止めがかかり、新しい家族のカタチ、それも以前の均質的な核家族の形とは違った3種類のモデルが見えてきた、という記事です(The Economist: The post-nuclear age)。
以前、『カリフォルニアを見よ』というエントリーで

世界を変えるような大きな時流(メタ・トレンド)ってまずアメリカのカリフォルニアで発生して、それがすごいスピードで打たれて叩かれてテストされて、こなれたり改善したりローカライズされて、世界の中でも時流が回ってくるのが早い場所から順にぐるーっと回ってくる

と書きましたが、技術のトレンドではなくDemographics(人口動態)であれば、世界の先進都市では同時的に同じような傾向が出てきます。 このThe Economistの記事はイギリスの家族の形の変化として書かれていますが、先進国はどこもこういう傾向が出てきているのでは、という点でとても面白かったです。
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The Restoration Man

普段「テレビは見ない」と言っている私ですが、最近密かにはまってしまった番組があります。 それが民放Channel 4の”The Restoration Man”。 イギリス各地にある歴史的建造物(多くは長年見放されていて朽ち果てている)を修復してマイホームにしようとする人々を建築家のGeorgeが訪ねて修復プロジェクト一部始終を記録するドキュメンタリー X エンターテイメント番組。
Reeds Windmill Before例えばこの建物。 19世紀初頭に建てられたケント州の風車、19世紀を通じて小麦粉の生産に使われていましたが1915年の大嵐で羽が破損、それ以来使われていませんでした。 一家に代々伝わるこの風車を継いだ若いPeteと妻のNikkiが修復に乗り出します。 癌に冒されたNikkiが病の進行と闘いながら進むエモーショナルなこのプロジェクトの一部始終は、英国内ではChannel 4のサイトから、国外ではYouTubeで見られます(修復完成後の2人の家はContinue readingをクリック)。
Chennel 4 : “The Restoration Man – Reeds Windmill, Kent”
YouTube : “The Restoration Man – Reeds Windmill, Kent”
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あなただけの家 – 2

昨日の続き。 全く同じ家を取材した日英のインテリア雑誌を比べることにより、インテリアに対する姿勢を探るお話です(日本の「モダンリビング」記事はこちら、イギリスの「Living etc」記事はこちら)。

雑誌はタイトルやサブタイトルで読者の注意を惹くのでタイトル・サブタイトルを比べると、雑誌の編集者(すなわち読者)が何を重視しているか一目瞭然です。
まずは、特集のタイトル(以下、拙訳)。
モダンリビング(日)は

イギリスのインテリアデザイナー、ジョアナさんの家で見つけた、インテリア・テクニック

ふむ、なるほど・・・ 日本人は「外国から学ぶ」ことが大好きなので、ありがちなタイトル。
一方、Living etc.(英)は

Lots of love – Edgy British design and feminine glamour may seem unlikely partners but, in Jo Berryman’s lovingly styled home, they’re perfectly matched
エッジーな英国デザインとフェミニンかつグラマラスは一見合わなさそうだ、でもJo Berrymanが美しくスタイリングした家では、この2つは完璧にマッチしている

おっ、いきなり出ました、インテリアのコンセプト説明(コンセプト重視の話は『芸術家は努力でなれる?』をどうぞ)。
サブタイトルに続きます。
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あなただけの家 – 1

『そこにしかないもの』はヨーロッパでは築数百年の建造物が昔と変わらぬ概観を保ち「都市の顔」である街並みにアイデンティティーを与えているという話でした。 今日は建物の「外」の話ではなく「中」の話。
『古いほど人気のマイホーム』に書いたようにロンドンの住居の半数以上は第二次世界大戦以前に建てられており、古ければ古いほど”Period Property”(時代もの不動産)と呼ばれ人気です。 全住宅流通量(既存流通+新規着工)に対する既存住宅(中古物件)のシェアは日本が13.5%に対し、イギリスは88.8%だそう(アメリカ77.6%、フランス66.4%。 国土交通省『中古住宅流通、リフォーム市場の現状』より)。 
建物の外側は街並みという「公共」に属しているものなので個人で勝手に変えることはできません。 ところが、築100年以上の建築物でも中は現代人の生活に合うようにモダンに変えてある、ばかりではなく、イギリス人は自分に合うように内装を変え、時には増築・改築をしながら「自分だけの個性ある家」に何年もかけて仕上げます。 インテリアにおいて重要なことは「住む人の個性を反映していること」であり、特定のスタイルであることではなく、もちろん広さや最新ファシリティーではありません。
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赤ちゃん連れの飛行機 – イギリス編

2週間くらい前に全国の赤ちゃん連れを震え上がらせたこの記事(→『再生JALの心意気』)、「飛行機に乗ったら赤ちゃんの泣き声がひどくてブチ切れたのでJALにクレームを入れた」という漫画家さかもと未明さんの記事です。
2周くらい周回遅れだけど気になっていたのでイギリスの話。

なぜイギリスの話を出すかというと、別にイギリス賛美をしているわけではなく、社会が非常にロジカルに構成されているから。 社会が阿吽の呼吸で動いているのではなくロジック(論理)で動いているため納得感があるし説明がしやすいのです(ロー・コンテクスト文化については以前もこちらに書いています)。
Public Choice Matrix『当事者性と専門性』に引き続き2 x 2マトリックス登場。
社会はこのような場によって形成されていると思います。 縦軸はその場がパブリックであるかプライベートであるか。 横軸は赤ちゃん(or 幼児)連れにとって、その場に行かない(もしくは人に預けて出かける)という選択肢があるかないか。

①はパブリックな場であるが、赤ちゃん連れにとって他の選択肢がある場合。
②はパブリックな場で、かつ他の選択肢がない場合。
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犬と子どもとイギリス人

イギリス人に話しかけたかったら、飼い犬と子どもに話しかけたらいい

と言ったのは義母だが、たしかに・・・ (南ヨーロッパ人と比べると)決してフレンドリーとは言えないイギリス人。 ところが、犬と子どもは別らしい。
息子と一緒にいると本当によく話しかけられる。 一説によると、イギリス人は感情を表に出さないようにしつけられて育っているが、その対象の例外が犬と子どもなのかも(さすがに『子ども好きなスペイン人』みたいにチューしてきたりはしない)。
話しかける言葉はだいたい決まっていて、目を細めながら「私にも3歳の孫(or 子ども)がいるんだよ」。 嬉しそうに話しかけてくるのは子どもや孫がいる人が多いけど、どの年代でも女性は微笑んでくれる。 たまに、「いないいないばあ〜」をして、しばらく遊んでくれる人もいて、そういう人には息子は大喜び。
イギリス人は犬も好き。 こちらの犬はよくしつけられていて、公園ではリーシュをつけず自由に走り回っている。 そのくせ他人の子どもが触りたがるとおとなしく座って触られる。 子どもは小さい頃から犬に思う存分触れ、親に「子犬を買って」とねだるようになる。 またひとり犬好きイギリス人のできあがり。

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オンデマンド医療サービス

イギリスではNHS(National Health Service、国民医療サービス)と言う制度のもと、すべての医療は無料です(例えば日本では保険適用外の出産なども無料)。
ところが、このNHSというのが、経営のまずさ・慢性的な医師不足・制度の欠陥で、すこぶる外国人からは評判が悪い。 特に日本人はケチョンケチョンに言います(日本人小児科医によるサイト「イギリスで病気になってはいけない」とかは、もう本当にケチョンケチョン)。

アメリカは医療費で人を殺す、イギリスは待ち時間で人を殺す

って言われてるらしい。
医療行為の過失が新聞紙上を賑わせるところは日本と一緒ですが、日本は医師不足のしわ寄せが長時間労働という形で医師にいってるのに対し、イギリスでは長い待ち時間(*1)という形で患者にきているのが両国らしい(いや、全然ひとごとじゃない)。
*1・・・A & E (Accident & Emergency)という救急病棟の待ち時間が平均4時間とか笑えない話ばっかり。
ただ、この無料制度は外国人にいいように利用されていて、出産予定日間近に飛行機でやってきて、今にも生まれんばかりの逼迫度に入国管理官も送り返せず、救急病棟に駆け込んで子どもを産んでいくアフリカ人が引きもきらない、etc.
まあNHSに関するホラーストーリーは無限にあるのですが、今日は我が家が頻繁に利用しているサービスを。

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