Tag Archives: イギリス

さあ黄金の10年がやってきた、何をしよう?

2組の親子の物語を始めよう。
—–
アラフォー、働き盛りのビジネスマンAには妻と子どもがいる。 大学ではエンジニアリングの学位を取ったが、25歳の時にMBA留学をし、その後は一環してコンサルティングファームで顧客企業の戦略立案や買収案件のビジネスDD(デューデリ)などを行ってきた。 インドネシア・キルギスタンからコンゴまで出張で訪れた国は数えきれない。 30歳で結婚してから10年間、彼の最大の悩みはキャリアと家庭の両立だった。 彼がキャリアの悩みを相談する相手はMBA同級生だった妻ではない。 妻は「家族を最優先にした上で、あなたがハッピーになれる仕事であれば何でもいい」という非常にざっくりしたガイダンスしか示さないので、あまり細かい相談はしないのだ。 ブラック上司にパワハラを受けた時の上手な会社の辞め方から転職時の給与・待遇の交渉まで、とりわけ人間関係を中心とした現実的な相談はいつも70歳になった父にする。 地球の裏側に住む父とは、唯一話せる時間帯、朝の通勤のわずかな時間を縫って、何もない時は月1回ほど、転職活動中など相談がある時は週3回ほど電話する。 時によっては妻よりたくさん話しているかもしれない。
Continue reading


2017年も終わるというのに今年何を成し遂げただろう?と悩むママたちへ

2017年が終わる。

今年は9年ぶりに妊娠も授乳もしなかったのでお酒が飲めるようになった。
8年ぶりに家の中からオムツが消えた。
8年ぶりに家の中に赤ちゃんがいなくなった。

いつの間にか私のあごの下まで背が伸びた長男以下の3人(7歳、5歳、3歳)を見ながら、「キミたちは成長したけど、私は今年何をしたのだろうか?」と思う。

そんな時いつも思い出すのは、子ども3人が誰ひとりとして怪我をせずに1日を乗り切るだけで精一杯だった日々のこと。 子どもたちが5歳、3歳、1歳だった頃は3人3方向に走り始める子どもを交通事故に合わせないこと、が1日の最大にして最重要な目標だった(→『「最近の親」が誇るべき1つの事実』)。
幹線道路の真ん中に飛び出したり、バス停に入ってくるバスに触ろうとしたり、出発し始めた電車に触ろうとしたり、2階の窓枠に座ってオモチャの車を窓枠に沿って遊ばせていたり・・・「これは危険かも」という概念が一切なく危ないことを次から次へしでかした次男が5歳になり、ようやく「この子は私が一瞬目を離した隙に死んでしまうのではないか?」という絶え間ない恐怖からは少し開放された。 今のところ体に残るような傷は、今年夏に金属柱に激突した時につくった目の上の傷だけに留まっている。

同じように「私は今年何を成し遂げたのだろうか?」と思ってしまう時につぶやくと良い言葉がこれ。

Continue reading


築150年の自宅を全面改築しました。

今年3月末に2軒目の自宅改装を終え、ロンドンに来てから7回目の引っ越しをしたのですが、ようやく写真をウェブサイト上で公開しました。 1870年頃建てられた築150年のヴィクトリア時代の家を50%ほど増築し中も全面改築したものです。

イギリスは景観保護のための建築規制が厳しく(*1)不動産売買のほとんどを中古物件が占めます。 ロンドンは早くから発展した都市なのでいまだに建築物の半分以上が第二次大戦前に建てられたものです。 特に大英帝国が絶頂期を迎え、人口が急増したヴィクトリア時代にはロンドンの中心部にはもう土地がなかったので郊外が住宅地として開発されました。 私たちが住む南西ロンドン、テムズ河沿いのエリアもその頃に開発されたエリアで、古い資料をあたるとどういう順番でエリアが開発され、それぞれの種類の住宅にどんな人たちが住んでいたのか、いろいろ発見できます(*2)。 そんな風に古い建築物を箱として守り続け、中を現代仕様にアップデートしていくのが、こちらの人の住み方です。
*1・・・参照:『ロンドンと摩天楼』
*2・・・下が私たちのエリアの1896年の地図。 まだまばらにしか家が建っていないことがわかります。 右下コーナーを切るように走っているのが鉄道で鉄道の伸張と共に周辺に町ができていきました。

Continue reading


イギリスにJAPANブームがきてる件

「ヨウコ!!! いったい何が起こってるの? 教えて!」
仕事関係の知人、サステイナビリティーの専門家アンに半年ぶりに、最近あるパーティーで再会した時の最初の言葉がこれ。

彼女がその次の言葉を継がなくても何を意味しているのかわかった私。
「私の方こそ教えて欲しいわよ、わからない!」

ちなみに、都議選で都民ファーストが圧勝したのはなぜか、とか九州の豪雨のことについて聞かれたのではない。 彼女と私の共通の話題は唯ひとつ・・・デザイン。

これは、数年前から兆候が見えていたが、今年の春から目立って現れるようになった、デザイン界におけるJAPANブームのことである。

フード業界でのJAPANブームはもはやブームの域を超えて(少なくとも)ロンドンでは定着した。 寿司はサンドイッチと並び手軽に食べるランチのオプションとなりコーヒーショップのチェーン店でもパック寿司が買える。 私の子どもたちが通う小学校で毎年恒例の夏祭りではハンバーガーやホットドックと並んで寿司の路面店が出る。 NYなどアメリカの大都市からはだいぶ遅れてやってきたラーメンブームも定着の兆しを見せており、私たちが来英した7年の間に雨後の筍のようにラーメン店ができた。
Continue reading


誰もあなたを見ていなかった

長い不妊治療を経て先月男の子を産み、新生児と毎日格闘しているアメリカに住む友人に送ったら「泣いた」という返事が返ってきたのをこちらに紹介します。
イギリスのママ向け掲示板Mumsnetのブロガー・オブ・ザ・イヤー候補になっている記事“Like Real Life: Nobody saw you”。 日本語に訳するに当たって絵本やテレビ番組の名前など日本風に脚色しているので、原文で読みたい方はこちら
Let’s get pissed together, shall we?

誰もあなたを見ていなかった
誰もね

朝の3時に
子どもたちがまた起きたとき。

誰も見ていなかった
床に落ちた豆を拾って
机についた汚れを拭いて
洗濯かごを片付けて
ゴミ出ししたところを

何度も
そして何度も。

Continue reading


子供の創造性を育む仕掛け

ロンドンも格段に日が長くなり、ようやく待ちこがれた春がやってきました。
以前、『「イギリス天気が悪い」をデータで見る』で書きましたが、ロンドンにはざっくり言って「からっと気持ちよくて日が長い季節」と「暗くて雨ばかり降る季節」の2種類の天気しかありません。
「めちゃくちゃ気持ちいい、サイコー」か「めちゃくちゃ暗くて惨め」の2種類しかないので、1年の中で大幅にアクティビティーも性格も変わります。 我が家は前者の休日はひたすら外で遊び、後者の休日は博物館に行くことが多いです。
今年の博物館遊びの季節も終わりに差し掛かっているので、親として、クリエイターの端くれとして、学んだことをまとめておきます。

イギリス政府は知識経済の移行と共に90年代から創造性を高める政策を打ち出しており、クリエイティブ産業はイギリス経済を支える屋台骨に成長しています(→『クリエイティブ産業が支える英国経済』)。 一朝一夕で育まれるものではない「創造性」、幼少期に重要な学習現場となっているのが美術館・博物館を含む「体験の場」です。 美術館・博物館については以前『クリエイティブ教育のための博物館』『Tiger Mum on a Budget』というエントリーを書いたのでそちらもどうぞ。

これら子どもの体験の場で提供されるさまざまなプログラムには、以下の重要な共通点があります。

1. 直接体験、本物を使った体験であること
2. その分野の一線のプロ・専門家が行うこと
3. 無料(もしくは小額)で誰でも参加できること
4. 興味や好奇心を刺激することが目的であること

Continue reading


ゆりかごからクリエイティブ

イギリスが「ゆりかごから墓場まで(cradle to grave)」行うクリエイティブ人材育成を紹介するエントリー、クリエイティビティーシリーズの続編です。
過去のエントリーはこちら。
『クリエイティブ産業が支える英国経済』
『21世紀の英国デザイン』
『クリエイティブ教育のための博物館』
『Tiger Mum on a Budget』

我が家の子どもは3人とも家の近所の民間ナーサリー(保育園)に通っています(長男の場合はもう小学生なので「通っていました」)。 「家から一番近いこと」というのが選択基準なので普通の保育園です(モンテソーリとかシュタイナーとかいろいろ早期教育メソッドがありますが、そういうのではなくロンドンではごく一般的な、という意味です)。
長男は3歳頃から長期休暇など通える時だけですが、ロンドン西部にある日本の幼稚園のホリデーコースにも行っています。 この2ヵ所から持ち帰ってくるアート・工作を見て違いが面白かったので写真を撮りました。
Continue reading


イギリスの小学生の夏休み

イギリスの新学期は9月。 去年9月から小学校に入った長男の初の夏休みが始まって2週間経ちました。 いやあ、覚悟はしていましたが、疲れております。

イギリスでは子どもに親が付添っていなければいけない年齢が法律で決まっているわけではありませんが、The National Society for the Prevention of Cruelty to Children (NSPCC、英国児童虐待防止協会)のガイドラインによると、

– 乳幼児はいかなる時でもひとりにしてはいけない
– 12歳以下は緊急事態に対処できる年齢ではないので長時間ひとりにしてはいけない
– 16歳以下を一晩ひとりにしてはいけない
(出展 – Gov.uk: The law on leaving your child alone、NSPCC: Home Alone

そうで、日本のように夏休みに小学生にひとりで留守番させる選択肢はありません(注)。 どこへ行くにも大人の付き添いが必要で公立の学童のようなところもありません。
注:アクサダイレクト生命の首都圏に住む小学生の母親624人を対象にした調査によると、夏休み期間中の親の不在時に「子どもだけでお留守番」と答えた母親が、小学校低学年が34.3%、高学年が66.3%(→アクサダイレクト生命「小学生の夏休みの過ごし方」調査

そこで共働きの家はどうするかというと、
1. 家族でホリデーに行く
2. ナニー・ベビーシッターを雇う
3. 祖父母を頼る(来てもらう、もしくは子どもを実家に送り込む)
4. 夫婦交代で有休を取って子どもの面倒をみる
5. 民間のサマーコース(ホリデーキャンプ)に入れる
の5種類を組み合わせて恐怖の6週間を乗り切ります。
Continue reading


クリエイティブ教育のための博物館

今日は「ゆりかごから墓場まで(cradle to grave)」クリエイティブ人材育成に力を入れるイギリスの教育のうち重要な役割を担う美術館・博物館の話。

私が初めてヨーロッパの地を踏んだのは20歳の時、40日間でキャンプ場に泊まりながら西欧8ヵ国を駆け足一周する、というものでした。 『地球の歩き方』を片手に新しい都市に行くたびに「訪れるべき」美術館・博物館の(中学の美術の教科書に載っているような)「見るべき」絵・展示物を見て、見たことに満足するスタンプラリーのような旅行。 その余りの意味のなさに、その後は美術館そのものをスキップして徐々に『住むことをシミュレーションする旅』に移行していきました。
美術館・博物館とは、
– 気軽に行くもの
– 何度も行くもの
– 子どもの頃から行くもの
であることを知ったのは、ロンドンに来てからです。
今では冬の間は月2回は子どもと行く雨の休日のアクティビティーとなっています。
実際、スクールホリデー(イギリスの学校はハーフタームといって学期の真ん中に1週間休みがある)中のNatural History Museum(自然史博物館)などはイギリス中で最も子どもの人口密度が高いのではないかと思うほど、博物館は子どもだらけです(美術館は博物館ほどではないが他国に比べると多く、また子ども向けの博物館ではなく一般の博物館の話)。
一方、日本では『育児世代の美術館・博物館の利用実態』(2006年)というレポート(首都圏在住の小・中学生の親対象)によると、「末子が未就学児」の層は約4割が美術館・博物館ともに「最近は行かなくなった」と回答しており、小さい子どもがいると足を運びにくいところのようです。
Continue reading


クリエイティブ産業が支える英国経済

大変遅ればせながら、あけましておめでとうございます。

5年前の1月12日に常夏シンガポールから雪のロンドンにやってきました。 あれから5年、滞在ビザが切れたので家族全員のビザ更新申請をし、許可されたような旨のレターを受け取ったのであと5年はいられるようです。

5年の間に3人子どもを産み、1回大キャリアチェンジをし、4回引っ越して、1回家を買って改装をしました。 家族もキャリアも「創造期」で大きなエネルギーを使い、いっぱいいっぱいだったので、次の5年は家族もキャリアもじっくり育てる「育成期」にしたいと思っています。

妊娠7ヵ月でシンガポールという青年期の国からイギリスという成熟国(日本からみると衰退国の先輩)に移るにあたり、急速に変化する世界勢力図の中で成熟国で子育てしながら続けるキャリアを模索していました(→『成熟国からの視点』『人生とはやりたいことを探し続けるプロセス』)。 そこで決めたことは、大企業の中でのテクノロジー事業開発・投資というそれまでのマッチョなキャリアから、建築インテリアデザイナーというクリエイティブ業への一大キャリアチェンジでした(→『クリエイターになりたい。』)。
Continue reading