Category Archives: 日本

技術やアイデア単体に価値はない

(このエントリーはスティーブ・ジョブスの訃報を聞く前日に書いたのにサーバー・ダウンでアップできなかったものです。 最後に追記をしています。)

技術とか人っていうのはお金があるところと、実際に実験をして実用化したところに残るんですね。 技術は、あるいはアイディアは、発明したところには残りません。
(中略)
技術というのは「食材」で商品というのは「料理」だ、と。技術を売り物にしたって新鮮な魚をただ売りものにしているようなもので、それを料理して初めて商売になる
『デザイナー奥山清行による「ムーンショット」デザイン幸福論』より)

バツグンに面白かったです、このインタビュー。 上記引用した部分のコンテクスト(アブダビでのスマートシティ実証実験の話)は長くなるので、インタビュー読んでみてください。
「技術やアイデア単体に価値はない」例はいろいろ思いつくのですが、現在、勉強中の建築・インテリアの分野からあげてみます。 私はこの分野、勉強を始めたばかりなのでもっと詳しい方、間違いなどあればぜひご指摘ください。
産業革命以降の家具デザイン史(初期は建築家が家具デザインをしていたケースが多いので建築もちょっとだけ)を俯瞰してみると、日本のデザインにインスピレーションを受けたと言われる家具・建築があちらにも、こちらにも登場します。
印象派の画家たちが日本の浮世絵に多大な影響を受けた、というのはよく知られてるけど、デザインの世界もすごい。

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コカ・コーラCMにみる戦後文化

面白そうだったので日本からわざわざ取り寄せてジャーナリスト佐々木俊尚さんの『キュレーションの時代』を読みました。 書籍代より郵送料の方が高かったのに電子書籍版が出ていたことに後で気づいた私。 はー、もうそういう時代になったのね・・・
ソーシャルメディア関連本の中でいち早く出た『Groundswell: Winning in a World Transformed by Social Technologies』(邦題:『グランズウェル ソーシャルテクノロジーによる企業戦略 』)もそうだったけど、こういう本はネット上の事例が多いので、本の中の事例をWebで見ながら読むとより面白いですね。
中でも「コカ・コーラのCMに見る戦後文化」が面白かったので、YouTube画像と佐々木さんの解説を並べてみます。

62年から70年代初頭までは、登場するのはほとんど日本人です。 (中略)
どのCMにも熱烈なアメリカ文化への憧れがあふれていて、その真面目すぎるほどの無条件な純真さは、いま鑑賞してもまぶしくて直視できないほどです。

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モノが溢れる日本の家(?)

ロンドンのイーストにあるThe Geffrye – Museum of the Homeという美術館でAt Home in Japan – Beyond the Minimal Houseという日本の一般家庭の家の中を再現した特別展が開かれていたので見に行ってきました。
オックスフォード大学の民俗学教授が、1年間に渡り関西(神戸・京都・奈良・大阪)の一般家庭を訪れてリサーチした結果をまとめ展示したもので、五感で体験できるようになっており、一般のイギリス人が熱心に見ていました。
この特別展の紹介文冒頭に、

In the West the Japanese house has reached iconic status in its architecture, decoration and style. However, is this neat, carefully constructed version of Japanese life in fact a myth?
欧米では、日本の家の建築・装飾・スタイルはアイコンにまで達したが、その整然と綿密に構成された日本式の生活というのは、実のところは神話なの?

とありますが(副題も”Beyond the Minimal House”となっています)、彼のイギリス的婉曲話法(→『Very interesting = I don’t agree.』)を解釈すると、

日本の家ってもんのすごーーーーくモノが多い

ということを言いたかったようでした(笑)。
こんな写真と共に、家具・小物などで日本の家が再現されていました(写真はこちらより拝借)。

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海外在住日本人による震災チャリティー活動

『遠く離れた私たちができること』

海外にいる人が震災チャリティーを立ち上げていることを初めて知った

とコメント頂いたので、いくつかご紹介します。
まずは、このプロジェクト(*)にも参加してくれるSOAS(ロンドン大学のThe School of Oriental and African Studies)交換留学中の舟越さんが作成したSOASからのメッセージビデオ”We are with Japan”。
*プロジェクトの仮名が決まりました! 「プロジェクトPhoenix」です。 The Economistの記事の中にあった”Phoenix in the east”という表現が気に入ったので。
The Economist : Nature strikes back

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住むように旅する京都

私が今まで「日本に(主に)ヨーロッパ人が喜ぶような滞在型ツーリズムがない」とこういうエントリー(→『インドに学ぶ田舎滞在型ツーリズム』『日本の田舎の魅力を世界に – 1』『 – 2』)を書いている理由は、日本政府がビジットジャパン・キャンペーンをしているから・・・では全くない。
よく日本旅行に行く友人からお勧めの宿を聞かれるのですが、彼ら(特にヨーロッパのツーリスト)は長期旅行(最低1週間、2週間以上も多い)なのでお勧めできる宿がないのですよ・・・(知らないだけかもしれないので、ご存知の方は教えてください)
東京は「オーセンティック(本物志向な)な日本旅館はあきらめて、交通の便を重視して都心のホテルにした方がいい」とアドバイスしているのですが、京都はやはり「日本旅館に泊まりたい」という人が多い。
でも俵屋などの老舗旅館は連泊するには高すぎる、グルメ度の高い京都で2食付きはいらない、かといってバックパッカー向け素泊まり宿やゲストハウスよりは高いクオリティが欲しい・・・という要望なので、本当に希望の宿を見つけるのに苦労していました。 ここ数年は「町家の自宅を改装した宿で集客は紹介のみ。 Webにもどこにも電話番号も載せない」という宿(というよりご自宅)を見つけたので、特別に親しい人だけに紹介していたのですが、ようやくお勧めできる長期滞在用の宿(バケーションハウス)が見つかりました。
オーナーはフランス在住、フランス人と日本人のご夫婦(& 昨日登場したtomokoleaさんの家の大家さん)、やはり『外国人だからわかる良さ』なのですねー

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FeliCaがガラパゴス化した3つの理由 – 2

昨日の続き。
2. 複雑な料金体系を瞬時に暗号処理
もうひとつのFeliCaの強みは複雑な料金体系を瞬時に暗号処理できるカードOSでした。 首都圏の電車・地下鉄は相互に複雑に路線乗り入れしており、複数の鉄道会社の乗車料金清算(営団と都営を30分以内に乗り継げば割引清算など)が必要です。 また乗車距離(キロ数)に基づく料金体系に加え、数多くの例外があります(基本は乗車距離によって料金が上がるが、首都圏だけは例えば東京駅から新宿駅へ行くのに中央線に乗っても山手線に乗っても同料金)。 各種割引もあります。 ところが、これはおそらく世界一複雑な料金体系。
ロンドン地下鉄はゾーン制で遥かにシンプルですし、NYやパリ地下鉄に至っては均一料金です。 ここでも日本や他アジア国で評価された強みは欧米ではオーバースペックでした。
3. 顧客の理解力と求めるもの
上記のように世界一ハイエンドな公共交通システムを持つ日本において交通事業者は優秀な技術系学生の就職先でもあります。 2010年にはJR東日本が理系男子学生の就職先人気企業9位にランクインしています(→『大学生が選んだ就職先人気企業ランキング2010』)。 交通事業者が人気就職先ということは欧米各国ではおそらくありえない、多くは政府や自治体が運営するインフラ事業者でさまざまな規制の対象で、JR東日本のようにインハウスで最先端の技術開発ができるような部隊はいません、日本独特のメーカーからの出向もない。

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FeliCaがガラパゴス化した3つの理由 – 1

先週以来、寒波に襲われているヨーロッパ、雪のパリに遊びに行ってました。
パリ話はさておき、日経ビジネスオンラインの連載『異文化市場で売るためのモノづくりガイド「ローカリゼーションマップ」』のコラム『「腑に落ちなくても従う」、パナソニックの欧州白物家電戦略』にデジャブ(既視感)すら感じました。

ヨーロッパで白物家電(冷蔵庫と洗濯機)を売ろうとしたとき、日本やアジアで評価されたコンセプトが、全く評価されなかった。 日本で最先端である「ななめドラム洗濯機」や「多ドア冷蔵庫」といった商品を持ち込めば、イノベーションとなることを想定していたが、大きな文化的・生活習慣面でのバリアがあった。
冷蔵庫は家電ではなく「冷えるキャビネット」でインテリアの一部。 一方、洗濯機は機能品質重視でおばあちゃんの時代からの信頼性がモノを言う・・・

コンシューマーエレクトロニクスの世界で現地ユーザーの使い方や文化的コンテクストにフィットしない商品を持ちこんで、日本でアピールする機能を謳っても売れないことは容易に想像ができます。 が、これはコンシューマー製品だけではなくB2B製品でも同じなのです。
以前、こちらで私が昔ソニーに勤務していたことを書きましたが、ソニーでは花形のコンシューマーエレクトロニクスではなく、(今は”Suica”などで日本の欠かせない生活インフラとなった技術)FeliCaの部署にいました。 FeliCaを海外展開させるのがミッション。
野村総研が「日本のガラパゴス化現象の例」として非接触ICカード(FeliCa)をあげ、「ガラパゴス化」という言葉を生み出した時より5年以上前の話です。

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なぜ家庭教師ならOKで家事代行はNGなのか?

東京に住む友達が家事代行サービスを使い始めたというのでその会社のサイトを見てみました→ミッシェル
ふーむ・・・週1回2時間で6,600円(+交通費900円)、1ヵ月30,000円かー 高いですねー
1時間あたり3,300円。
でも一般的にこういう風にエージェントが組織するとエージェントの人件費や広告費もろもろの経費がかかるから掃除スタッフ(クリーナーさん)はこの1/3くらいの時給で働いているのでしょう(と思って、ググると求人募集が出てきた(笑)→こちら。 時給1,200円。)。 「子育てが落ち着いてそろそろ働きたい」と思っている主婦が「自分の経験を活かせる」という求人PR。
ロンドンではクリーナーさんを雇うのは一般的です(シンガポールのメイドほどではないが)。 例えば私のところに来ているブルガリア人のS。 ブルガリアにもう大学生の娘さんがいるので「子育てが落ち着いた主婦」。 ロンドンで午前中は英語学校に通い午後はクリーナーの仕事をしています。
彼女の時給は£7.50/時間(=約1,000円)。 今はポンド安なのでロンドンのクリーナーさんの時給は日本と同レベルと言えるでしょう。 違うのは雇う側が払っている料金。 私は彼女と直接契約なので払っているのは£7.50/時間、対して日本ではこの3倍の3,300円。
ロンドンにもクリーナー派遣エージェントがおり、エージェントに頼むと相場は£10/時間(= 約1,300円)くらいです(実際、クリーナーが受け取るのは£6 – 7/時間。 残りはエージェントの手数料)。 日本との違いは、依頼主はクリーナーとエージェントに別々に支払い、クリーナーは個人事業主として税金申告など自分でしなければならないのに対し、日本ではエージェントに一括して払うことでしょうか。

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文化の壁を超えるCM

イギリスにJohn Lewisという人気デパートがあります。
日本でも有名なハロッズセルフリッジら高級デパートより手が届きやすく、そのわりに品質も雰囲気もいいのでミドルクラスの心をがっちりとはさんで離さない店(LBS留学中のTWKさんいわく「伊勢丹とヨーカ堂を足して2で割った店」)。 オンラインショップも使いやすいので私もロイヤル・カスタマー。
そのJohn LewisのCMがとてもシャレているのでご紹介。

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トヨタ危機に思う。

日を経るごとに「まずいなー、まずいなー」とハラハラしていたトヨタ問題、結局米下院での公聴会までBBCで生中継で観てしまいました、全部は観なかったけど。
豊田章男社長が自ら(猛獣のごとし、海千山千の)下院議員の前に出て真摯な対応を見せたことでバッシングの嵐はひとまず過ぎた感がありますが(これからは損害賠償訴訟の嵐か?)、今回の件はすべての(日本国外でビジネスをする/しようとしている)日本企業は魂の底から震え上がり、即刻、自社の研修システム・人事制度などもろもろを改革するきっかけになるほどのインパクトを持っていたのと思うのですが、日本ではそういう機運や報道になっているんでしょうか?
1. 日本企業全体が不審の目で見られた
最もまずかったのは欠陥車の製造により事故を起こしたことではなく、それが判明した後の初動の遅さと対応の悪さだったのだが、トヨタに限ったことではなく日本企業全体のコーポレート・ガバナンスの欠陥と認識されてしまったのが、まずかった。
この点に関してはThe Economistが簡潔・明快にまとめているので以下に要約(The Economist : Accelerating into trouble)。

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